第147話 若き大公達
ノアがマギア地方を征服した頃、奇しくも同じタイミングでギフティア大陸の各地では、若き領主達が古き権威を打ち破り、下剋上を果たし大公となる事例が相次いでいた。
クロッサル地方ヴェルド城。
フェルミナス軍が押し寄せる中、城を守る兵士達は懸命に城壁を守っていた。
「頑張れ。ここを凌げば、援軍が来るはずだ!」
「食糧は充分にある。敵は城の堅さに攻めあぐねているぞ!」
そうして城兵達が梯子で登ってくる敵に対して、弓矢や落石で迎撃していると、コウモリの羽音のようなものが上空から聞こえてくる。
(なんだ? こんなところにコウモリ? それにしては音が大きいような)
思わず上を見上げると、コウモリの羽と鋭い牙爪を生やし、鱗に覆われたトカゲ、すなわちドラゴンがいた。
「う、うわあああ」
ドラゴンは炎の息、ブレスを吐いて城壁の上に立つ兵士達を焼いていく。
そうして、ドラゴン達が一通り城壁の上の兵士達を追い散らすと、城郭に舞い降り、背中に乗せたフェルミナス兵と一緒にその一角を占拠する。
やがて梯子を登ってきた突撃兵とも合流し、城壁の内側へと雪崩れ込んだ。
ヴェルド城は陥落した。
遠くから攻城の様子を見ていたレオンハルト・フェルミナスは満足気にする。
「ふ。落ちたか。呆気ないものだな。クロッサル随一の堅城と言われるヴェルド城も我が空軍、竜騎士隊の前には何の役にも立たん」
「おめでとうございます。フェルミナス公、いえ、フェルミナス大公とお呼びすべきでしょうか」
「そうだな。これで我が傘下にある城も十を超えることとなった。法王様も聖女様も私の大公位就任を認めぬわけにはいかないだろう。クロッサルで四聖がデカい面できるのも今日までだ」
「しかし、まだ我が軍には不安要素が残っております」
「分かっている。魔石だろう」
「おお。お気づきでしたか」
「竜騎士の運用には魔石の安定的な供給が不可欠だからな。差し詰め次の目標はマギア地方か。あのうつけには感謝しなければならんな。くだらん揉め事を起こして、ナイゼルと四聖の注意を我々から逸らしてくれたのだから。せいぜい拗れて欲しいものだ。その分、マギア進出において付け入る隙も……」
「大変です。フェルミナス公!」
伝令が息急き切ってやってくる。
「バカ者。呼び方に気をつけろ。すでに私は大公だ」
「失礼しましたフェルミナス大公」
「それでどうしたというのだ?」
「マギア地方がアークロイ公によって併合されました」
「なに!? いったいどの程度併合したというのだあのうつけは?」
「それが十の城を新たに取得したとのことです」
「何だと!?」
「バカな。ナイゼルとジーフは何をしている。蛇のように執念深いあの第一公子は? 狐のように狡猾なジーフ公は? すべてあの成り上がりと僻地の田舎兵にやられたっていうのか?」
「ナイゼル第一公子は弟の狼と共に牙を抜かれたようです。ジーフ公も謀略に嵌まり痛撃を加えられた上で鎖に繋がれました」
「ユーベルは? ユーベルが黙っているはずがないだろう。隣家で火事が起こっているのに指を咥えて見ていたのかあの老ぼれは?」
「ユーベルは第三公子ルドルフと大軍を派遣するも、あえなく壊滅。アークロイと講和を結ぶと見られます」
「ノルンの魔法院は? 借金塗れのくせに、どれだけ金を注いでも靡かない、あの竜よりも気難しいノルンの魔導士どもも手懐けたっていうのか?」
「アークロイと結婚したノルンは、今や海の女王となり、マギアの海を支配しております。国庫の収支もみるみるうちに改善して、健全化しているとのことです」
「ええい。何たることだ。今や我が軍の生命線である魔石があのうつけ一人の手に握られているというのか」
「どうか落ち着いてください我が主人よ。激情に任せて早まった行動に走ってはなりません」
「分かっている。アークロイに使節を送るほかあるまい。友好的な関係を築き、奴の内情を探る。だが、弱味は見せないようにな」
♦︎
アングリンの砦では、内側から火の手が上がっていた。
アングリン兵達は混乱して味方同士で殺し合う。
「ええい。何が起こっているんだ」
「ぐっ。やられた。食物庫が燃えている」
「大変です。ラシュヴァン軍が攻め上がってきました」
「まさか! 奴らの謀略か」
「くそ。これではまともに戦えない」
「降伏するしかないか」
♦︎
白旗が上がるアングリンの砦を見て、エルネスト・ラシュヴァンはほくそ笑む。
「落ちたようですな」
「ああ。これで我が国は聖都サンクテロリアへ繋がる直接のルートを押さえることができた」
「まさかアングリンを支援するフリをして魔導士を紛れこませるとは」
「アングリンも小国だからなユーベルのような大国を相手に少しでも助けが欲しいところだろう。スパイの潜入さえ成功すれば、あとは熱心な神聖教会の信者を扇動するだけだ。聖都への巡礼者を増やすためといえば、裏切りに加担する奴も出てくるだろう」
「ユーベルの悔しがる顔が目に浮かびますな」
「あのうつけには感謝しなければならんな。ユーベルの注意がマギアに向かっている間にアングリンを落とすことができたのだから」
「これであなた様もこれからはラシュヴァン大公と呼ばれますな」
「ふっ。そんなもの。ユーベルに住む神聖教会の信徒を味方につけることに比べれば何でもない」
「そうでしたな」
ユーベルにも信徒はたくさんいる。
聖都への巡礼のためと言えば、内部から切り崩せるだろう。
巡礼の際の手形を発行して一儲けすることもできる。
(この若さでこの深謀遠慮。やはりギフティアを統一するのはこの方を置いていない)
「さて、ルートも固めたし、次は聖都サンクテロリアに直接手を伸ばしてみるかな。確か法王様はゼーテの攻略に手こずっていたな。一つ借りを作ってみるか」
「大変です」
伝令が走り込んでくる。
「どうした? 慌ただしい」
「ゼーテ解放作戦に進展あり」
「ゼーテといえば、あのユーベルの倅、うつけと名高い奴がイキリ散らして聖杖を拝領していたな。どうなんだ? あのうつけは。少しは粘ったのか?」
「それがゼーテが解放されました」
「何だと?」
「バカな。いったいどうやって? あのうつけはナイゼルとも係争を抱えていたんじゃなかったのか? 魔王軍四天王の一人ゼプペスタは? 10万の軍はいったいどうやって撃退した?」
「分かりません。しかし、ゼーテが解放されたのは間違いありません。アークロイ公ノアはゼーテ王を名乗り、マギアでの攻勢を強めています。聖都サンクテロリアの法王もそれを承認しているとのことです」
「くっ。おのれ。先を越されたか」
ラシュヴァンは法王に出す予定だった手紙をグシャリと握りつぶす。
超今更ですが、不評だった第53話、書き直しました!




