第146話 ジーフのスパイ
ブラムはアークロイ大公の御前から下がった後もブラブラと社交を続けていた。
ブラムの後にはマギア地方の貴族令嬢達が続々とアークロイ大公にお目通りして、チャレンジしていたが、いずれもしょんぼりしながら戻ってくる。
アークロイ大公とお近づきになって、マギア・アークロイの最高権力者の恩恵に与ろうとしたものの、側に仕えているオフィーリアとイングリッド、その他諸将の美しさを前にして、すごすごと引き下がるしかなかった。
ブラムがそんな光景を見ながら何ともなしに過ごしていると、ジーフの将校が近づいてきて話しかけてきた。
「その浮かない顔を見るにお前も上手くあしらわれたようだな」
「げっ。シャーフ」
「俺もよく分からん怒られ方をしたよ。権益を主張するなとか、騎兵戦を鍛えておけとか」
(こいつ……普通に話しかけてくるな)
ブラムとしてはアークロイにあんまり睨まれたくないので、ジーフの幹部と過度に接触するのは避けたいところだった。
「どうにもアークロイ大公は一筋縄ではいかない御仁のようだ。お互い苦労しそうだな」
「そんなに俺に親しげに話しかけていいのかよ。謀反を疑われかねないぜ」
「なら、尚更今のうちに話しておかなければならんだろう。今後、アークロイ大公からどんな無理難題をふっかけられるか分からんからな」
「なるほど。それでアークロイ大公の意図もよく分からないこの段階でいったい何を話すんだ?」
「……それは今後のマギアを巡る情勢についてだな……」
(要するに何を話していいか分からないってことか)
ただ、ブラムとしては有益な情報を聞くことができた。
シャーフを評価するということは、アークロイ大公の中にジーフを生かしておくオプションもあるということだ。
何せシャーフの忠誠心の高さはジーフ内外で有名だった。
ただ、それはジーフと手を組んでナイゼルを取り潰すオプションがあるということでもある。
やはりブラムとしては油断できない局面だった。
「今はスメドリーの爺さんが面会しているようだ」
シャーフが誤魔化すように言った。
「あの爺さんか」
「奴は油断ならんからあまり好きじゃないんだがな」
(それは同意だな)
「そもそもジーフが負けたのはあの爺さんのせいなのに。なんで政府高官の地位に就いているんだ」
シャーフが不満気に言った。
(!! あの爺さんが政府高官に!?)
敗残の将は責任を取るのが戦国の世の習いだが、逆に出世したということなら……、アークロイ大公の意向が働いたと見るのが自然だろう。
(アークロイ大公はスメドリーを政治的に利用するつもりなのか? いよいよきな臭いな)
ナイゼルも何らかのパイプを持たなければまずいと思うブラムであった。
「ご機嫌麗しゅうございます。アークロイ大公」
スメドリーはニヤリと不敵な笑みを浮かべてノアに面会した。
(ったく、この爺さんは……)
スメドリー
統率:D
★武略:B
外交:D→C
★内政:B→A
★謀略:A
野戦:D
攻城:D
★築城:B
海戦:F
空戦:F
近接:D
射撃:C
騎戦:E
砲戦:D
開発:C
★野心:A
【↓
抜粋版
武略:B
内政:B→A
謀略:A
築城:B
野心:A】
(もういい歳したジジイだってのに。野心も謀略もAクラス。下剋上起こす気満々かよ)
統率、野戦、近接などが軒並み低く、短期決戦に弱い一方、武略、謀略、築城などが高く、城に籠って長期戦・持久戦に持ち込むのを好む。
根っからの軍師タイプといったところか。
1つネックなのは、この手のタイプとしては外交が中途半端なところだ。
ナイゼルとの連携が最後まで上手くいかなかった原因もそこにあるのだろう。
「あなた様のおかげで私の本国での立場は保たれました。この御恩は決して忘れませんよ」
スメドリーはルドルフと似たような立場だった。
アークロイのスパイとなることを条件にジーフでのポジションを保障され、釈放されていた。
「それで? ジーフ公への工作は上手くいきそうか?」
「ええ。アークロイ大公の望む、ナイゼル・ノルンとの対立路線維持。万事上手くいきますよ。お任せください」
(このまま大人しく従うつもりはない……って顔してるけどな)
ノアがスメドリーの表情からそんなことを読み取っていると、ドロシーの釘を刺すような視線を感じた。
(分かってるって。今は放置だろ)
スメドリーが大人しくノアの傘下に収まるとは限らないが、ジーフ公に従うとも限らない。
機を見て、ジーフを乗っ取るくらいのことは平気でやりそうな爺さんだった。
ノアの立場から見ればジーフ公を牽制し、その動静を探る駒として都合のいい存在でもあった。
こうしてすべての工作を終えたノアはバーボン城に拠点を置き、一先ず腰を落ち着けた。
その後、周辺各国はノアの思惑通りに動いた。
ユーベル大公国のルドルフはナイゼルへの負けを認めず逆にナイゼルに賠償金を求める。
ナイゼルとカルディの魔法院はユーベル大公国およびルドルフに対して非難声明を発し、ブラムに対して対抗措置を求める声明を採択した。
ブラムはこれに従わざるを得なかった。
一方で、ジーフの魔法院とジーフ公はナイゼルに対して領土の割譲と賠償金を求めた。
ノルンに対してもスピリッツの領有を認めるよう訴える。
ノルンはノルンでジーフへの非難声明を発する。
報復措置として、ジーフと繋がりの強い上級騎士を魔法院から除名する動きを見せた。
だが、三国にできるのはこれが限界だった。
ドロシーが三国の動きについて強い懸念を表明したのである。
これで三国は矛を収めるしかなかった。
実際に戦争に踏み切れば、アークロイ大公からどのような処罰が下されるか分かったものではない。
今度こそ滅ぼされかねなかった。
ジーフはスピリッツの土地領有についてノルンと交渉を再開し、ノルンはジーフ寄りの上級騎士除名を取り下げた。
そうしてマギアの三大国が三竦みの状態になる一方で、各国魔法院はバーボン城に代表と使節を送り、アークロイ大公にお伺いを立てる。
これを見てマギア外の各国もいよいよアークロイがマギア全土を手中に収めたことを認めざるを得なくなった。
そしてマギア地方の三大国とほぼすべての魔法院、魔導騎士達がノアに従っているのを見て、衝撃を受ける。
マギア地方の良質な魔石をノアが意のままに動かせるようになったのだ。
マギアと関係の深い各国領主達は対応を迫られることになった。
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