第134話 サブレ城の解放
各国交渉の裏では、アークロイ軍によるナイゼル攻略が着々と進んでいた。
サブレ城にはクラウス率いるアークロイ第三軍とアノンら五同盟国軍がたどり着いた。
消耗しているブラムの軍勢は、サブレ城の包囲を解いて引き上げる。
サブレ城のアークロイ軍は歓呼の声でもって、クラウス率いる軍勢を迎え入れた。
ランバートとクラウスはすぐに城内で面会した。
クラウスが軽く城内を見回ったところ、激しい攻撃の跡が残っているにもかかわらず、兵士達は秩序をもって自分達の部署を守っており、士気は高く、陰鬱な雰囲気は特になかった。
「よくぞ来てくれたな。クラウス」
「この様子だと狙い通り、高さの勝負に持ち込めたようだな、ランバート」
「そういう貴殿こそ、その様子だとレイス城を上手く押さえたようだな」
二人は互いにフッと頬を綻ばせると、その後は何も言わずにガッと拳を突き合わせた。
同じアークロイ勢として二人ともマギア地方でも通用することを証明できた。
互いに強敵との戦いを経て、高みを知ったからこそ分かり合える将同士の会話だった。
そうしてクラウスは一時、心地よい達成感に浸るものの、すぐに次の任務に切り替える。
「ランバート。籠城をこなして早々で悪いが、ノア様から新たな指令が言い渡された」
「む。まさかナイゼル攻めか」
ランバートは察しよく反応する。
「うむ。流石に話が早いな。まさしくその通りだ。すでに別方面からオフィーリア司令とノルン公がナイゼルに攻め込んでいるはずだ。我々もこのままナイゼルに雪崩れ込み、ブラムを足止めすることになる」
「私は引き続きサブレ城の守りと貴殿の支援をすればいいのか?」
「うむ。まさしくそれがノア様の望みだ」
クラウスはランバートの物分かりのよさに肩の荷が降りるような気分だった。
アノンら同盟国軍の連中との果てしない折衝を繰り返したのを思うと、感動的なほど話が早い。
ランバートであれば、変に自分の新たな役割に不満を覚えてゴネ始めるようなこともないだろう。
信頼できる支援の下、ナイゼル侵攻を進めることができるはずだ。
(自分に期待されている役割をよく分かっている。何とも堅実な男よ)
クラウスはランバートとは簡単な打ち合わせだけ済ませて、すぐに同盟国軍とナイゼル入りの準備を進める。
サブレ城からはすぐに手を引いたブラムだったが、まだ勝利を諦めたわけではなかった。
むしろ形勢が変わった今こそ何かが起きて、思わぬチャンスが巡ってくるかもしれない。
どちらにせよこのままでは終われない。
ブラムはルドルフを仕留めたフェッツの湖近くまでクラウスと同盟国軍を誘き寄せることにした。
クラウスは鋭敏に違和感に気付く。
(誘われているな。何かの罠か?)
クラウスがこの辺りの地形に詳しい者に話を聞くと、この先には大きな湖が脇にある狭い道があるという。
その更に先にも魔法使いが霧を発生させるのに都合のいい森があるという。
(流石はマギアでも随一の将。この劣勢でも勝負を諦めていないとは。ルドルフを破っただけのことはあるな)
今回のクラウスの役割はオフィーリアとイングリッドがナイゼル城に攻め込むまでブラムを押さえることだった。
クラウスは功名心を抑え、ブラムとの決戦を避け、見張れる距離を保つに留めた。
(何だこいつ。引っかからない?)
ブラムは戦場の空気から敵がサブレ城の守りについていた将から別の将に変わったことを察知していた。
それ故にチャンスだと思っていたのだが……。
(こいつはオフィーリアじゃない……よな? だが、それとはまた別の手強さを感じる)
その直感を裏付けるようにすぐにナイゼル城からの伝令がやってくる。
オフィーリアの第一軍とノルン公の海軍が怒涛のように攻め立てて、次々城を落としている。
ブラム率いるナイゼル本軍は急ぎ目の前の敵を片付けて、ナイゼル城に戻ってくるようにとのことだった。
(戻ってこいって言われても……)
目の前の敵も隙がない。
同盟国軍を率いているにもかかわらず、よく統率されており、足並みに乱れはない。
ナイゼルとジーフがどれだけ共同して動こうとしても結局足並みを揃えることができなかったのを思うと、信じられない協調性だった。
アノンら五国の将はすでにクラウスの将器に心から敬服していた。
ブラムは仕方なく殿の軍だけ残してダーミッシュ方面に向かおうとするも、即座にクラウスは追撃する姿勢を見せて圧力を高めてくる。
ブラムは撤退を途中でやめて、敵の追撃への備えに追われる。
するとクラウスはまた持久戦の構えをとる。
(やはりオフィーリアとは違う。くっそぉ。アークロイにはどれだけ人材がいるんだ)




