第131話 法王の変節
ナイゼル第一公子ベルナルドは、執務室でほくそ笑んでいた。
ユーベル軍7万は壊滅。
ユーベル第三公子ルドルフは捕縛された。
おまけにユーベル第二公子イアンが、講和を求めてナイゼル城に接触を図っているという。
(くっくっく。まさかこうもすべていい方向に転ぶとはな。ありがとうよルドルフ。お前のおかげでピアーゼ侵攻を有耶無耶にできそうだ)
だが、ベルナルドが喜んでいるのも束の間、すぐに急報が駆け込んでくる。
「申し上げます。レイス城が陥落。アークロイ軍はノルド城・レイス城両方面からジーフ城に迫っており、ジーフ公国の命運は風前の灯。急ぎ援軍を求むとのことです」
「何っ!?」
(レイス城が陥落だと!?)
ベルナルドは急いでブラムにサブレ城を落とすよう命じたが、時すでに遅し。
程なくしてジーフ公国はアークロイ公国に降伏。
ノアは新たにナイゼル公国へと宣戦布告した。
海上からはノルン艦隊が、ダーミッシュ方面からはオフィーリア率いるアークロイ主力軍が、サブレ城にはクラウス率いる同盟軍が、スピリッツ方面からは裏切ったジーフ軍がそれぞれ攻め込んでくるという。
今まさに、ナイゼル公国は4方面から攻め込まれていた。
聖都サンクテロリアではアークロイ公ノアへの抗議活動が盛んになっていた。
法王の聴聞を受けたにもかかわらず、アークロイ公による領土拡大の野心は止まることを知らない。
ジーフ領のレイス城、ファーウェル城、ベルク城、ノルド城を次々と落としていき、クロッサルの4聖と同盟を結んでいるナイゼル公国にも侵攻しようとしている。
サンクテロリアではノアの評判は日に日に悪くなり、聖杖の返還とノアの破門を要求する声は日に日に高まっていくばかりだった。
法王の執務室では司教コルネリオが市民からの苦情・陳情を書き記した山のような書簡を法王に提出していた。
「法王様、ご覧ください」
「ふむ」
「これ以上、アークロイ公ノアを庇い続けるのは無理です。どうかご決断を」
「致し方ありませんね」
法王は高級な羊皮紙にアークロイ公ノアの破門を宣告する聖なる文言を書き記していく。
が、そこに伝令が駆け込んできた。
「法王様、大変です」
「なんだ騒々しい!」
「聖城ゼーテが解放されました!」
「何ですって!?」
「魔王軍は全軍撤退しました。聖城の守備兵達は口々に新たな王の名を叫んでいます。ゼーテ王ノアと。アークロイ公ノアは聖城ゼーテ奪還を果たしたのです!」
伝令はふと法王のペンの先にある羊皮紙に目を落とす。
「ん? それは破門状ですか? 破門されるのはアーク……」
法王は先ほど聖なる文字を書いたばかりの羊皮紙を伝令に見られる前にぐしゃぐしゃっと丸めて暖炉に投げ捨てた。
そして手の平をくるっと返し、宣告する。
「神の名において宣します。聖城ゼーテは解放されました。アークロイ公ノアのゼーテ王就任を承認します。何人たりともこれに異を唱えてはなりません」
暖炉に捨てられた羊皮紙は燃え盛り、一瞬で黒い消し炭へと変わった。
8月もだいたい週1投稿になります。
よろしくお願いいたします。
皆様、暑さと台風に気をつけてお過ごしください。