第130話 ゼーテ王の指令
サブレ城はナイゼル軍によって完全に包囲された。
アークロイ軍の補給線を断ったブラムは、サブレ城をこのまま一挙に陥落させようと、ゴーレムを城門に向かって進める。
しかし、ゴーレムが塹壕・堡塁を越えたところで、上空から銃弾が飛んできた。
ゴーレム兵は負傷して退却を余儀なくされる。
今度は銃兵に護衛させながら、ゴーレムを進めるも、ランバートは敵からの銃撃にも怯まず的確に脅威を排除していった。
敵からの銃撃は相手にせず、ゴーレム兵に銃撃を集中させる。
高さがある分、わずかながら守り手側の方が射程が長く、しかもゴーレムが塹壕を越える際には必ず守り手側の火線に入るよう周到に設計されていた。
城の直前の堡塁は高くかなり硬い材質が使われているため、工兵で埋めるのには少々時間がかかりそうだ。
ここにきてブラムは、この防御陣地が高さで寄せ手を迎撃できるように工夫されていることに気づいた。
(なるほど。これはよくできてるな)
ブラムは至近距離からの城門砲撃は諦めて、遠くからの砲撃で削ることにした。
ナイゼル製のゴーレムは、遠くから撃つにはやや命中精度に難があるが、城壁のどこかを削れればいい。
敵の反撃が及ばない地点かどうか入念に確認して、ゴーレムを設置し、砲撃を開始した。
やがて城壁の一角を削ることに成功する。
それを見るとブラムは全軍突撃を命じて、攻城櫓、梯子をかけて全方向から攻勢をかける。
削れた一角には精鋭を投入する。
だが、ランバートも精鋭でもって防衛に当たり、跳ね返した。
城壁の各所でもサブレ城側は攻め手を次々と跳ね返して寄せ付けなかった。
無論、ゴーレムが城門に急接近することへの警戒も怠らない。
ブラムは城兵の練度の高さと将の統率力の高さ、よくできた防備に驚く。
結局、その日は寄せ切ることができず、ナイゼル軍は夜が訪れると共に陣地に引き返した。
ランバートは余剰人員でもって、城壁の削れた部分を夜間のうちに補強した。
ブラムはその補修の速さと的確さに驚くばかりだった。
次の日もサブレ城ではナイゼル軍とアークロイ軍による一進一退の攻防が続いていた。
ナイゼル軍の砲弾が城壁を抉れば、アークロイ軍が補修する。
ナイゼル軍も射撃兵と突撃兵の連携、急造土塁と防御小屋によって砲兵を可能な限り城壁に近づけるなど、できるだけのことはやっていたのだが、いかんせん守り側の迎撃の仕組み、連携の方がわずかに巧みで、ナイゼル側は犠牲者の割に城の守りを崩せなかった。
(なんだこいつ。寄せ切れない)
(平面ではあっさりと圧倒されたが、高さでは負けんぞ)
(くっそ。アークロイ陣営にはオフィーリア以外にもこんな奴がいんのかよ)
やがてナイゼル側のゴーレムの砲弾が尽きて、これ以上城壁に打撃を与えるのは困難になった。
ここでブラムは河川の制圧のために砲弾を使いすぎたことに気付いた。
平面で優位に立ったのではなく、立たされたのだ。
初めから砲兵を受け流して、高さで長期戦に持ち込むのが狙いだったのだ。
(くっ、こいつ最初からこれを狙っていたのか?)
ブラムは次の手をどうするか悩んだ。
速さを優先してここまできたので、魔石の補給は念頭になく、砲弾を今すぐに調達するのは難しい。
かといって、サブレ城をパスしてラスク城やタグルト河流域、バーボン領内を荒らしにいく度胸は流石になかった。
サブレ城の包囲に兵を割きながら、敵の勢力圏内でオフィーリアと激突するのは流石に怖すぎた。
サブレ城を守る将にも不気味な手強さを感じる。
ランバートが防御・築城専門の将だとは知る由もない。
ブラムにはサブレ城をパスした瞬間、背後を脅かされるイメージがどうしても拭い切れなかった。
結局、ブラムはサブレ城を包囲したまま新しい砲弾が届くのを待つことにした。
しかし、海軍を失ったナイゼル軍に砲弾を速やかに調達する能力はない。
(くっ、こんなところで手こずってる場合じゃないのに)
ブラムはサブレ城に釘付けにされて、ヤキモキするほかなかった。
そんな中、ジーフ城に入城したノアは、新たな指令を出していた。
「ゼーテ王にして、アークロイ公ノアの名の下に命じる。アークロイ全軍、ノルン海軍、同盟諸国、そしてジーフ軍はナイゼル公国へと侵攻せよ」