第126話 ジーフ公の変節
レイス城では、クラウスがオフィーリアに呼応して、攻勢をとろうとしていた。
それまで頑として陣地から動かなかったクラウスだが、俄かに陣地は慌ただしくなっていた。
それまでニコニコと愛想よくして気遣い上手だったクラウスが、突然、烈火のように厳しくなるのを見て、同盟軍3万は雷に撃たれたように鳴動し始めた。
「ついにレイス城を落とす時がきた。各々部署につけ。遅れた者は問答無用で斬る!」
同盟軍兵士達はクラウスの突然の豹変に恐れ慄き、バタバタと攻囲を開始する。
それを見てスメドリーは頭を抱え込む。
捕虜による兵糧攻め、離間の計、その他色々と謀を巡らせたが、結局、同盟軍に楔を打ち込むことはできなかった。
クラウスがすべて見破り、いなしたためだ。
(なんでこいつひっかからねーんだよ。はっ、待てよ。そう言えば聞いたことがある。ボルダ戦役にて魔軍に対し奇襲を成功させたアークロイ地方出身の策士が一人いたと。確か名は知将クラウス。まさかこいつが……?)
「将軍、ジーフ本国より指令です。ファーウェル城方面の戦線は崩壊。急ぎジーフ城まで戻り救援にくるようにと」
「この状況で戻れって。そんなこと言われたって……」
以前までの頑として陣地を動かなかったクラウスはどこへやら。
今は地上に展開して戦う気満々である。
陣地に押さえを残して退却しようにも、クラウスは先手を打って迅速に城を囲い込もうとしている。
今やレイス城とジーフ城を遮断せんとする勢いだった。
こうなってはもはやスメドリーがジーフ城に戻るには、まず目の前のクラウスを倒さなければならない。
(くっ、やるしかないのか)
このままでは戦うまもなく、城を包囲されてしまう。
スメドリーはいちかばちかレイス城の橋を下ろし、打って出た。
クラウスはあえてスメドリーの軍が橋を渡りきるまで待つ。
クラウスの軍は総勢3万人。
スメドリーの軍は総勢2万5千。
両者陣形を組んで戦闘を開始する。
が、実際に戦闘が始まるとすぐに統率力の差が如実に現れた。
ナイゼル兵1万が露骨にサボタージュを始めたのだ。
元々、ナイゼル兵達はこき使われてスメドリーに反感を持っていた上、武器もろくに配布されていなかった。
おまけにナイゼルの将とクラウスの密通関係はまだ生きていた。
ナイゼルの将は敵と戦って武具を取り返すより、クラウスとの約束を頼りにして武具を返してもらう方が確実と考えた。
クラウスが偽装撤退して敵の陣形を乱すと、即座に騎兵を回り込ませてナイゼル兵を攻撃した。
ナイゼル兵はろくに戦うこともせず敗走する。
脇のガラ空きになったジーフ軍はあえなく数でも士気でも上回るクラウスの軍に撃破されてしまうのであった。
敗走を余儀なくされたジーフ軍は、散々に追い立てられ、スメドリーは捕虜となる。
ナイゼルの将は後ほどクラウスに武具の返却を請求したが、クラウスがそれに応じることはなかった。
ナイゼル兵達も再び捕虜となる。
♢
スメドリーが捕らえられ、レイス城が落ちた。
さらにクラウス率いる連合軍は余勢を駆ってジーフ城に攻め上ってくる。
事ここに及んでジーフ公は降伏を決意した。
講和を飲むからジーフ城内は荒らさないで欲しい。
この申し出に対し、ドロシーはこのあと予定しているナイゼル攻略に手を貸すなら、ジーフ公の存続を認めるようアークロイ公に掛け合ってやってもいい、と持ちかけた。
すると、ジーフ公はあっさりとナイゼルとの同盟を破って、この提案に乗った。
このあまりにも不義理な裏切りには、ナイゼル陣営内では非難轟轟であったが、マギア地方の他の国の人々からすれば、打算的なジーフらしい行動と醒めた目で見る向きもあった。
こうしてジーフ公国はアークロイ公国の属国となる。
7月もだいたい週1投稿になります。
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