第121話 水攻め
ノルン艦隊が制海権を握り、アノン、ネーウェル、リマ、エンデの魔法院がアークロイと同盟を結んだ。
その知らせを聞いたオフィーリアはファーウェル城の攻囲を開始した。
制海権を握った以上、補給の心配をする必要はない。
タグルト河に沿っていくらでも補給を受けることができる。
ジーフ公国の奥深くまで攻め込めるだろう。
この知らせはクラウスにももたらされ、クラウスは即座に同盟軍の将軍達に通知する。
それまでクラウスは彼らに情報統制を敷いて、ナイゼル海軍がネーウェル公国に侵攻したこと、ナイゼル軍がネーウェル城を攻囲したこと、ネーウェル以外の4国が動揺してジーフに侵攻した軍勢を呼び戻そうとしていたことをひた隠しにして、レイス城前での布陣を続けていた。
これらの情報統制は功を奏し、今やアノン、ネーウェル、リマ、エンデの同盟軍は何の迷いもなくジーフへの臨戦態勢を整えている。
(残るはサリスだけか)
サリス公国だけはジーフと干潮時に地続きで隣接しているため、どうしても戦後のことを考えると、ジーフと事を構えることに及び腰になってしまうのである。
サリスの魔法院だけはいまだ玉虫色の立場を崩さなかった。
ジーフによるノルン侵攻とナイゼルによるネーウェル侵攻については非難するものの、両国に対して宣戦布告はせずアークロイとの軍事同盟も何かと理由をつけて先延ばしにしておく。
クラウスはサリスの将軍にあまり思い詰めないよう言い渡して、勇気づけておいた。
そうこうしているうちに雨が降り始める。
堰き止められていた河の水はいよいよ溜まり、いつでも水攻めを開始できるようになっていた。
レイス城の将、スメドリーはいまだ動く気配を見せない。
そうこうしているうちにナイゼル軍1万が援軍としてレイス城にやってくる。
ナイゼル軍の将とスメドリーはのっけから方針を巡って対立した。
スメドリーは城に篭って持久戦を主張するが、ナイゼル軍の将は決戦を挑むべきと主張した。
「すでにこの地域は雨季に入った。今日も朝から土砂降りが続いている。敵の補給は相当困難になるはずだ。その時まで、待っていればよい」とスメドリーが言うと、ナイゼルの将軍は「敵の同盟が完成していない今のうちに攻撃するべきだ。敵が完全に結束してからでは手遅れになる」と反論する。
双方、互いに主張を譲らず、結局、喧嘩別れ同然となり、ナイゼル軍は大雨の中、出陣しクラウスの陣地に対して総攻撃をかける準備を行う。
「よいのですか。あんな勝手なことをさせて」
ジーフ軍の将校がスメドリーに尋ねる。
「いいんだよ。どうせナイゼルと連携なんて無理だしな」
「しかし、ナイゼル軍が敗れれば、敵に勢いを与えてしまうことになります」
「辛うじて中立を保っているサリスも完全にアークロイ側に寝返ってしまいますよ」
「むしろナイゼルには負けてもらった方がこっちにとって好都合になるやもしれんぞ」
スメドリーは意味深な笑みを浮かべながらそう言った。
「?」
「まあ、見てろって。ナイゼルの若造が暴走してくれたおかげで面白いもんが見れるかもしれん」
ナイゼル軍は平地に展開して、クラウスに決戦を挑もうとする。
クラウスが陣地から出てこないのを見ると、そのまま陣地に向かって攻め込もうとした。
クラウスは堰を切って、溜め込んだ水を氾濫させる。
ナイゼル軍は押し寄せてくる激流に慌てて、近くにあった高所に登った。
レイス城付近一帯の平野は水浸しとなり、さながら巨大な湖と化した。
ナイゼル軍は小高い丘の上に避難することに成功したものの、レイス城とは分断され、孤立することになった。
洪水から逃げる途中で兵士は水浸しになり、溺れてしまった者もいるし、魔石や弓矢などの武具を流されてしまった者もいる。
雨は依然として降り続けており、ナイゼルの兵士達から士気と体力を容赦なく奪っていく。
病を引き起こす者までいた。
食糧はレイス城に置いてきて、1日分もなかった。
クラウスはあらかじめ用意していた船と筏でもってナイゼル軍を包囲した。
大人しく投降すれば、食糧と部屋は恵んでやると勧告する。
ナイゼル軍は降伏して、クラウスの捕虜となる。
6月は忙しくなりそうなので、少し投稿間隔、間延びしてしまうかもです。
ご了承ください。
最低でも1週間に1回は投稿するつもりです。