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僻地に追放されたうつけ領主、鑑定スキルで最強武将と共に超大国を創る  作者: 瀬戸夏樹


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第117話 ラスク方面の動き

 イアンは暗い面持ちでユーベルの重臣達が顔を揃える会議室に現れた。


 重臣一同は、一斉にイアンに注目する。


 ルドルフが不在の今、代わりに外交業務を担っているのはイアンだった。


「イアン。どうだ? ルドルフとマギア地方の情勢について何か分かったか?」


 アルベルトが一同を代表して聞く。


「思わしくありませんね」


 イアンは重苦しいため息を吐きながら、眼鏡を直した。


「マギア地方の神聖教会関係者を通して情報を集めてみましたが、ルドルフは相当苦しい立場に追いやられているようです。マギア地方の全魔法院を敵に回しているとか」


「ルドルフは? ルドルフは今どこにいる? そもそも生きているのか?」


「それも分かりません。フェッツ村近郊で戦った後、カルディ城に退却したまでは間違いないのですが、それ以降の足取りは掴めません」


「アークロイ公ノアはどうしているんです?」


「連絡が取れません。どうも今、マギア地方を離れているようです。ですが、たとえ帰ってきたとしても我々の味方になってくれるかどうか。どうもルドルフはアークロイ軍とも交戦したようです。ノアもノルンとバーボンを傘下に収める身として、魔法院側につかざるを得ないというのが実情でしょう」


「ルドルフは……そこまで孤立しているのか」


「マギア地方の魔法院は横の繋がりが太いとは聞いていましたが、まさかこれほどとは……」


「くそっ」


 アルベルトは拳で机を叩いた。


「ナイゼルめ。講和を結んでおきながらこの仕打ちとは。初めからルドルフを騙し討ちするつもりだったのか?」


「兄上、まさかルドルフを助けに軍を率いて駆けつけよう、などとは考えていないでしょうね」


 イアンが釘を刺すように言った。


「……」


「今、兄上が軍を率いてマギア地方に向かえば、敵の思う壺ですよ。ナイゼル軍は魔法兵による変幻自在の用兵を駆使してきます。カルディ城を失った今、軍を率いてティエール河を渡るのは危険すぎます」


「分かっている」


 アルベルトは悔しそうにする。


「やれやれ。困ったものですな。ルドルフ殿下にも」


 リベリオ卿が不遜な態度で言った。


 一同ジロリと睨む。


「最初から怪しいと思っていましたよ、あの講和会議は。外交巧者のマギア地方領主があんな簡単に不利な講和を結ぶはずないじゃないですか」


(お前も講和にノリノリだっただろ)


 イアンは心の中で苦言を呈する。


 リベリオ卿はコスモの講和が結ばれた際、ルドルフの手腕を絶賛していた。


 そればかりか自分の手勢もルドルフの遠征軍に加えようと画策していたほどだ。


 リベリオ卿の勢力をこれ以上伸ばしたくないユーベル大公が妨害したため、遠征軍には参加できなかった。


 だが、結果的には幸運だったと言えるだろう。


 勢力を温存し、相対的にユーベル内での実力を伸ばすことに繋がったのだから。


 ユーベル家からすれば、ますます(うと)ましい存在になってしまったが。


 ちなみにここにいる面々は、ルドルフによるマギア地方分割統治案までは関知していなかった。


 なので、カルディの反乱に7万の軍を派遣するという大公の決定にも驚いたが、ナイゼルによって全滅させられたと聞いて、何が何やら状態であった。


「とにかく、今は迂闊に動かず情報収集に努めるべきです。かと言って、弱みを見せてはいけません。こちらからナイゼルに対して講和を申し出るなど大公国の名折れ。ただでさえ、手痛い損害を出しているというのに、ユーベル大公国が公国に過ぎないナイゼルに頭を下げるようなことをすればどうなるか。いよいよ我々はいい笑い者です。諸国の信望を失うことになります。焦って講和を申し出るようなことはしてはいけません。いいですね、兄上」


「ああ。分かっている。ルドルフも三男とはいえ、武人の子。自ら戦場へと赴いた以上、覚悟はできているだろう。弟可愛さにユーベルの国益を損ねるような真似は……」


「ならん!」


 ユーベル大公フリードが会議室の扉を開きながら一喝した。


「父上……」


「もう具合はよろしいのですか?」


「ルドルフを見捨ててはならん。今後、ユーベル大公国はルドルフの生還を最優先に動くのじゃ」


(父上……)


(せっかく兄上が立派な態度を取られたというのに……)


(困ったお人だ)


 会議室の面々は、内心大公の復活を迷惑そうにしながらも従うほかなかった。


 こうしてユーベル大公国は講和の使節をナイゼル公国に送った。


 特使にはイアンが選ばれた。


 いくらマギア地方が魔法文化圏といえども、僧籍にあるイアンが無闇に暴行されるようなことはないだろう。




 アノン、ネーウェル、リマ、エンデ、サリスの5国は、同盟軍を組んでひたすらサブレ城を目指していた。


 彼らは「ルドルフ討つべし」の一念で手を取り合い、高い士気でもって足並みを揃えていたため、ひとかたならぬ熱意と速さで行軍していた。


 だが、タグルト河を遡上して、オフィーリアの軍に合流した彼らが命じられたのは、サブレ城ではなく、ラスク城、ジーフ方面への進軍だった。


 5国の将は一様に首を傾げる。


 ラスク城で一旦補給を受けるのだろうか?


 そんなことを考えながらラスク城へと赴いた。


 彼らに疑う気持ちは微塵もない。


 何せノルン魔法院は今や打倒ルドルフの旗振り役。


 ノルン魔法院の意思はアークロイ公の意思でもある。


 彼らのアークロイ公への信頼は一層揺るぎないものとなっていた。


 だが、ラスク城に到着した彼らに告げられたのは思いも寄らぬ宣告だった。


「これより我々はジーフ公国に侵攻する」


 オフィーリアはそう告げた。


「「「「「………………えっ?」」」」」


 全員頭が真っ白になった。


 何を言っているのか分からない。


 あまりに速すぎる時代の流れについていけない。


「先ほど我が国の外交官から連絡があった。ジーフ公国がノルン城に攻撃してきたとな。ナイゼルの海軍に動きありとの報告も来ている」


 オフィーリアは手紙を見せる。


「「「「「……」」」」」


「奇襲好きのジーフが使ういつもの手だ。ルドルフが暴発して、我々が対応に追われているこの隙にノルンを掠め取ろうというのだろう。我々としてはこれを見過ごすわけにはいかない。ジーフのノルン侵攻を咎めるべく、ラスク城から攻めあがり、痛い目に合わせる必要がある」


「しかし、ルドルフはどうするのです?」


「それについては問題ない。アークロイ公は秘密裏にナイゼルと対ルドルフ共同戦線の協定を結んでいる。ナイゼルが加勢してくれるなら、サブレ城の守りはランバートの率いる1万人で充分だ。目下、我々にとって喫緊の課題はジーフの動きだ」


「しかし、アークロイ公がマギア地方にいないのに……」


「アークロイ公の指令はすでに出ている。ノア様はジーフの奇襲を読んでおられたのだ。ジーフ軍がノルンを攻撃した場合、即座に作戦行動を取れとのことだ」


 オフィーリアはノアのサイン入りの命令書を5国の将に見せる。


「コスモの和約は……」


「当のルドルフによって破られた」


「「「「……」」」」


「ジーフから仕掛けてきたのであれば仕方ありませんな」


 ネーウェルの将軍が言った。


 ネーウェルはノルンとの親交が深い。


 なので、すでにクラウスによって調略されていた。


「我々ネーウェル軍はアークロイ軍と共同してこの事態に当たりましょう」


「う……む」


「やむなし……か」


「当面はアークロイ軍と行動を共にするしか……」


「まっ、待ってください」


 サリスの将軍が慌てて抗議した。


「我々はルドルフ討伐とサブレ城防衛の命を受けて派遣されてきたのです。なのにジーフに攻め入るだなんて。目標を変更するならば、まずは魔法院の承認を得てからでないと……」


「もっともなことだ。では、貴殿らにはレイス城方面に布陣してもらおう」


「レイス城方面?」


「レイス城からはサリス公国への侵攻路がある。サリスを防衛するのはサリス軍にとっても通常任務のはず。魔法院の承認は必要あるまい。貴殿らは一旦レイス城方面で待機し、そこで国許へと使者を出し、魔法院からの指令と承認を待つがよい」


「……」


「レイス城方面の司令官はクラウスに務めてもらう。クラウス、貴殿はアノン、ネーウェル、リマ、エンデ、サリスの5国の兵と共にレイス城方面に布陣して、ジーフの侵攻を押さえるように」


「かしこまりました」


 クラウスは恭しく一礼し、別働隊の指揮権を(さず)かる。


(た、大変なことになった)


 サリスの将軍は青ざめる。


 だが、その場の空気が拒むことを許さなかった。


 クラウスは5国の兵を率いて、レイス城方面へと向かった。

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