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第114話 フェッツの戦い

 フェッツ村に程近い場所で対峙したナイゼル軍とユーベル軍の脇には広大な湖が横たわっている。


 浅い場所でも腰の深さほどの水深があり、とても大部隊を展開する余地はない。


 自然と両軍は湖と森に挟まれたやや狭い平地に布陣することとなる。


 ルドルフはこれに勝機を見出した。


(しめた。これならなんとかなるかもしれない)


「皆の者、ナイゼルの狼は戦術のイロハを知らないと見える。こんな狭い場所にて我が軍を待ち構えるとはな」


 確かに数の多い方はなるべく広い場所で、ワイドに展開し、戦闘に参加する人数を多くするのが定石だった。


 逆に数の少ない方は包囲されたり、側面に回り込まれないように狭い場所に待ち受けて、迎撃するのが基本である。


 この場合、ナイゼル軍の方が多勢なのだから、広い場所で待ち受けた方が得策に思える。


「わざわざ敵の方から狭い場所を選んでくれるとはな。これならば兵の多寡ではなく、個々の戦闘力、勇気、筋力と精神力が鍵となる。皆の者、存分に奮い立て。我がユーベル騎士の強さを示す時が来た。因循姑息なナイゼル軍に恨みを晴らす絶好のチャンスだぞ」


 兵士達は冷めた気持ちでルドルフの演説を聞いていた。


 すでにヴァーノンの率いていた2万の兵士達は、撃滅されたと見られており、ここで僅かばかり敵の損害を増やしたとしても(たか)が知れている。


 すでに戦略的な敗北は決しているのである。


 だが、確かにこのままナイゼルにやられっぱなしで帰るわけにいかないのも事実であった。


 ユーベル兵士達は闘志を振り絞って、あまり敬服できない指揮官のために戦おうとする。


 ブラムは前面に弓兵と銃兵を配置する。


 ルドルフは先鋒に弾除けの捨て駒部隊を置き、第二陣、第三陣に精鋭を配置した。


(とにかくここで勝つことだ。ここで勝てば、情勢と風向きは変わる)


 ルドルフは開戦の合図を出した。


 鬨の声と共にユーベル軍の前衛が突撃してナイゼル軍に迫る。


 ナイゼル軍の前衛は弓矢や銃によって第一陣を凌ぎ切るも、第二、第三とユーベル兵が迫りくるにつれて、接近を防ぎきれなくなり、白兵戦へと移行した。


 ナイゼルの射撃兵と白兵は、流れるように入れ替わるが、勢いをつけて突撃してきたユーベル兵に対し押される形となる。


 ルドルフは目論見が当たってニヤリとほくそ笑む。


 こういう時、広い場所であれば機動部隊が側面に回り込んで突撃の勢いを削げるが、湖と森に挟まれたこの地形に回り込む余地はない。


 火力の展開にも限界があった。


(よし。この勝負もらった)


 ルドルフは全軍突撃を命じようとしたが、そこで敵の後方から魔石が放り投げられるのが見えた。


 ナイゼル後衛の魔法兵が魔石を投擲したのである。


 投擲された魔石は、魔法陣を展開したかと思うと、ユーベル騎兵に火を付けたり、一時的に発生した沼に落とし込んだりする。


 これによりユーベル兵の勢いは削がれ、ナイゼル兵が押し返す。


(ええい。マギアの魔法兵共め。妖しげな兵器を使いやがって)


 しかも魔法兵達はユーベルの騎兵を狙って、魔石を投擲してくる。


 ユーベル軍は騎兵一人に10人の歩兵が付き従う方式を採用しているため、騎兵が負傷すると、どうしても家来の10人は前進を止めて、騎士を(かば)い助ける動きを優先してしまう。


 中には撤退したり、オロオロしたりして役に立たなくなる兵士までいるほどだった。


 一方でナイゼル兵は歩兵100人の単位で1人の騎士が運用しているので、1人や2人負傷しても機能し続ける。


 ルドルフは仕方なく全軍突撃をやめて、押し返されそうな戦線に援軍を送るだけにとどめた。


 敵の魔石が切れるまで辛抱強く待つ。


 しばらくユーベル軍とナイゼル軍は一進一退の攻防を繰り広げたが、昼を過ぎた頃、いよいよナイゼル魔法兵の動きが鈍くなった。


 魔力と魔石が底を付いたのである。


 チャンスと見たルドルフは全軍突撃を命じる。


 ユーベルの騎士達がここぞとばかりに突撃して、ナイゼル軍を押しまくる。


 ナイゼル兵も槍を構えて耐え凌ごうとするが、次々と新手が来ては槍を叩き落として、押しまくってくる。


 そうしてついに均衡が破れたかと思われたその時、湖の方から聞こえるはずのない足音が聞こえてくる。


(なんだ?)


 ルドルフが(かえり)みると、水面を走る馬ケルピーに乗った騎兵が隊列を整えながら物凄いスピードで回り込んでくる。


 水色の馬に乗った騎兵達が突っ込んでくる幻想的な光景にルドルフはただただ呆然とするばかりだった。


 我に返る暇もなく、ケルピー部隊は前がかりになったユーベル軍側面に突撃して蹂躙する。


 槍を前に構えたユーベル歩兵達は、思わぬ方向からの痛撃にただただ、蹴散らされるばかりだった。


 騎兵も脇腹に攻撃を受けて、馬を方向転換する間もなく突き落とされる。


 ケルピー部隊はユーベル軍の縦陣を散々に切り裂いて蹂躙した。


 後方を撹乱されたユーベル軍の前線は、ただただ狼狽えるばかりだった。


 背後で阿鼻叫喚の悲鳴が聞こえてくるのに誰も何が起こっているのかすら分からない。


 すっかり浮き足だったユーベル兵を見て、ナイゼル兵は押し返していく。


 機は熟したと考えたブラムは重装騎兵を投入して、勝負を決めにかかる。


 ナイゼルの重装騎兵が突撃すると、ユーベル兵達はその衝撃に持ち堪えられず、逃げ出した。


 ユーベル軍は壊滅する。


 ルドルフも手勢と共にカルディ城へと一路敗走した。


 ここしばらくアークロイ勢に押されっぱなしだったナイゼル軍にとっては目の覚めるような快勝だった。

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― 新着の感想 ―
そりゃあそうでしょ、元々ケルピーを主体として考えるナイゼル軍は、前線を足止め→後方からケルピー部隊という戦術が得意なんだから。 少数でも勝てる戦いはある、でもそれは、前線が突出しすぎない事が重要。 …
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