表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

108/140

第108話 4聖からの提案

 ルドルフが宣戦布告する少し前、ナイゼル城に4聖が訪れていた。


 ベルナルドは表向き快く歓迎しているフリをする。


「おお、よく来てくれたな。4聖の諸君」


「我々が来たからにはもう安心ですよ。ナイゼル公子」


「あんたの敵はすべて俺達がやってやるよ」


「ふむ。それは大いに助かる。しかし、いったいなぜ我がナイゼル公国に味方してくれるのかな? クロッサル地方はどちらかというと、ユーベル大公国の方が文化的に近いと思うのだが……」


「そうお堅くならないでくださいよ公子。隠し事はなしですぜ」


【剣聖】マクギルが気さくに話しかける。


「隠し事? 何のことだ?」


「あんたの敵はルドルフだけじゃない。そうでしょ?」


 ベルナルドの眉がピクッと神経質に動く。


「アークロイ公ノア。聞きましたぜ。ノルンの姫君を巡って争ってるんでしょ?」


「あの野郎とは俺達も因縁があってな」


【鉄壁】ブリックが強面の顔をニヤつかせながら言った。


「滅多なことは言わないでもらえるかな。彼とはすでにコスモ城において和約済みだ」


「そして、そのコスモの和約はもうすぐ破られる。そうでしょ公子」


【黒魔導師】ゾームが例の不気味な笑みを浮かべながら言った。


「……」


「ユーベルと戦った後、アークロイとも事を構えるとなると、ま、相当な兵力がいるでしょうな」


「ふー。なるほど。確かにそれは将来、起こりそうなことではある。が、いいかね君達。今、マギア地方はルドルフを排除することで一色に染まっている。アークロイ公とも共同戦線を張って、共にルドルフを追い落とす方向で動いているのだ。まるで私がアークロイ公との戦争を準備しているかのような言説を並べ立てられては困るのだよ」


「へいへい。分かってますよ旦那。ここでの会話はオフレコってことで」


「安心しなよ。僕達こう見えて口が堅いんだ」


「あんたを困らせることはしねぇよ」


(ちっ。ゴロツキ共が。クロッサルの4聖。噂通り胡散臭い奴らだな)


 だが、彼らの言う通りであった。


 ルドルフとの戦いが終わればすぐにアークロイ公との係争が待っている。


 ドロシーは調略済みとはいえ、海とスピリッツの土地を巡る軋轢は日に日に激しくなっていた。


 たとえ、ハッタリだとしても兵は一人でも多く欲しいところであった。


「それで? 君達の望みはなんだ?」


「要求は2つです。ナイゼル内の城と我らの城を交換。そしてアークロイ公との戦闘を我々に任せてもらいたい」


「城交換か」


 ベルナルドは少し考えた後、返答する。


「確かにナイゼルのために戦ってもらう以上はナイゼル内に拠点を置いてもらった方がいいか。……よかろう。城交換に応じるよ」


(ふん。どうせこいつらも魔法院を統治しきれんだろ。ルドルフ同様泳がせた後、型に嵌めてくれるわ)


(城さえ手に入れりゃこっちのもん。ククク。助かるぜ世間知らずの貴族の坊ちゃんはよ)


「交渉成立ですね。さて、同盟を結ぶにあたって実は我々公子のためにとっておきの策を用意してきたんですよ」


「策だと?」


「ええ。ホーカー」


 マクギルが合図すると【弓聖】ホーカーが前に進み出る。


 この中では一番チンピラ感の薄い男だった。


「アークロイ公ノアは聖城ゼーテを奪還する任についている途中のはずでしょう? これを利用してアークロイの兵力をゼーテへと向かわせるか、あるいはマギア地方から兵を引かせるよう仕向ければよいのでは?」


「それはすでに私も手を打っている。非難する声明も出した。だが、いかんせんマギア地方の連中は耳を貸さんのだ。アークロイの田舎者共も領主が絶対だと思っているようだし。アークロイの聖女もいまいち影響力が低いのか反応が鈍い」


「では、法王様に掛け合って、ノアの行動を指導してもらうというのはいかがでしょう」


 ベルナルドはハッとする。


「神聖教会としてもゼーテ奪還が一向に進まないのは問題視していると思いますよ。少なくともアークロイ公を聴取にかけることくらいはしてくれるのでは?」


(なるほど。その手があったか)


 言われてみれば、ベルナルドとしてもなぜそこに思い至らなかったのか不思議であった。


 マギア地方では聖女や神聖教会の存在感が薄いから、そこまで頭が回らなかったのかもしれない。


「よし。わかった。この件は私の方で預かろう」


「いや、ここは法王様とも懇意にしている我々の方が話を通しやすいでしょう」


 その後、ベルナルドとホーカーはどちらが法王に掛け合うかで少し揉めたが、ノアにバレた時のことを考えて、4聖が動く方がよいだろうと言うことになり、ベルナルドは渋々引き下がった。


 4聖は部屋から退室した。




「上手くいったな」


「ナイゼルは由緒正しき家柄って話だったけど。相当困ってるようだねぇ。僕ら新参者の手を借りるなんてさ」


「ようやく諸侯会議でコケにされたことの借りを返せるってわけだ」


「いいか。お前ら、オフィーリアは俺がやる。ゾーム、お前にはノアをやらせてやるよ」


「あっ、いや。僕はノアよりもあの弓使いの娘、エルザの方でいいかな」


 ゾームは腹パン保健室送りを思い出して、慌てて言った。


「ん? そうか? お前、あいつのこと気に入らないとか言ってなかったっけ?」


「ははは。なんていうか、あの弓使いの娘を倒した後の方がお楽しみがありそうだなーと」


「そうか? んじゃま、ブリック頼むわ」


「いいぜ。あんな【鑑定士】ごとき、俺が腹パン一撃でのしてやるよ」


【鉄壁】ブリックが拳をがっしと鳴らしながら言った。


(くぅぅー。僕の前で腹パンって単語出すなよ。トラウマ思い出しちゃうだろうが)


 こうしてノアは法王から呼び出しを受けた。


 ノアがマギア地方を離れると聞いて、即座に反応したのはジーフ公国だった。


 ノアが離れた今ならノルンを()れる!


 シャーフはルドルフの暴発と共に再度のノルン侵攻作戦をゴリ押しした。


 ブラムは再三にわたってユーベルとの戦争が終わってから仕掛けるよう主張したにもかかわらず、ジーフは先走ってしまったのである。


 結局のところ、ナイゼルとジーフの秘密同盟は今回も上手く機能しなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ