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第101話 コスモ城講和会議

 コスモ城ではルドルフが講和会議の場に乗り込もうとしていた。


(いよいよこの時が来たか)


 この講和会議にユーベル大公領のマギア地方進出がかかっている。


 ルドルフが緊張した面持ちで会場の扉に手をかけようとすると、ドアノブの付近に黄金の羽が1枚現れて(ひるがえ)った。


 ルドルフは思わず黄金の羽をキャッチする。


(これは……天馬の羽か?)


 黄金の羽は少し(またた)いただけで、すぐに砂になって消える。


 ルドルフはふっと口元を綻ばせる。


(これは会議成功の吉兆と見た!)


 ルドルフは肩の緊張が解けたように勢いよく会議室の扉を開ける。




 会議室にはナイゼル公子ベルナルド、ジーフの外交官、そしてドロシーが腰掛けていた。


 ルドルフの席の隣にはヴァーノンとクーニグが掛けている。


 ルドルフは講和会議を始める。


「オホン。マギア地方の諸君、よく来てくれたな。さて、早速だが講和会議を始める」


 ルドルフは手元の資料をパラパラとめくりながら淡々と話していく。


「講和の条件だが、まずバーボンとノルンはアークロイ領として承認する。ナイゼルもジーフもこれに異を唱えてはならない」


「な、ちょっと待ってくれよ」


 ベルナルドが慌てて遮った。


「我がナイゼル公国はノルンの魔法院に対して〜グラもの債務を貸し付けている。これだけの権利があるのにアークロイ公にノルンの領有を横取りされてはたまったものではない。アークロイのノルン領有は承服しかねる」


「ナイゼル公子よ。アークロイ公はノルン公の依頼を受け、姫を帰還させた。そしてその際、ナイゼル海軍を破っている」


「……」


「つまりアークロイ公のノルン領有は正統な権利なのだ。また、貴殿は国際会議の場であるピアーゼを襲撃した。諸侯は貴殿の暴挙に対して(つぐな)いを求めている。それを我らユーベルが庇ってやろうと言っているのだ。アークロイ公国との戦争が劣勢に傾く中、単独で諸侯の批判をかわしながら戦争を継続する余裕がナイゼルにあるとでも言うのか?」


「ぐぬぬ」


「また、ナイゼル公国は今後、監視のためにカルディ城の管轄をユーベルに委ね、ユーベル軍の進駐を許可すること」


「なあ。ルドルフ、俺達友達だよな? 金だって貸してやってるし……」


「ナイゼル公子、ここは公式の場だ。今は私のことをユーベルの代表者として接していただきたい。私情を挟むのは控えるように」


(ぐっ、この口ばかり達者なガキが)


 ベルナルドは拳をワナワナと震わせるもそれ以上強く出ることはできなかった。


 今、ユーベルを敵に回せば一巻の終わりである。


「次にアークロイ公国はもうこれ以上マギア地方に侵攻しないこと。ジーフ軍の捕虜3万人を速やかに解放し、引き渡すこと。アノン、リマ、ネーウェル、エンデ、サリスとの軍事同盟も解消すること」


「ふざけるな!」


 ドロシーが机をドンっと拳で叩いた。


「我々は戦争に勝ったのだ。そして、戦闘は今も有利に推移している。捕虜を返して欲しいならナイゼルとジーフは土地か賠償金を寄越せ!」


「ドロシー、貴殿はそう言うが、アノン、リマ、ネーウェル、エンデ、サリスはこれ以上戦争を継続する意思がないのではないか? 彼らはサブレ城とラスク城を押さえれば、ナイゼル・ジーフを阻むのに十分だと考えている。そのように私は聞いているが?」


 ルドルフはチラリと片目でドロシーの方を見る。


 ここでゴネられたらかなり交渉は難航する。


(クーニグの情報だとアノンら5国との同盟がアークロイ勢の泣き所ということだが。果たして通るか?)


「……」


 ドロシーは黙っている。


 ルドルフは続けた。


「これ以上アークロイ公がマギア地方での戦争を望むというのなら我々にも考えがある。マギア地方の安定のために軍を起こしてナイゼル側として参戦し、アノンら5国にアークロイとの軍事同盟を解消するよう圧力をかけることになる。そうなれば面目を潰されて困るのはアークロイ公なのではないかな?」


「ぐぬぬ……。分かった。その条件でナイゼルとジーフの降伏を受け入れよう」


(と、通ったー。情報通りだ。ヤベェ。これ俺の時代来たんじゃね?)


 ルドルフは確かな手応えを感じた。


 自分の手で外交のテーブルを回している確かな手応えを。


 まるで世界の支配者にでもなったかのようだった。


「最後にジーフ公国は今後、ナイゼルと秘密同盟を結ばないこと。また、ノルン公国に対して奇襲攻撃を行ってはならない。ノルンによるスピリッツの資源開発に協力すること」


 ジーフ公国の使者はルドルフがマギア地方の情勢に詳しいことに驚いた。


 まるで千里眼で過去から今までマギア地方の有り様を見てきたかのようだ。


(ユーベルの第3公子ルドルフ。外交に強いとは聞いていたが、まさかこれほどとは……)


 だが、一方でこうも思った。


(ただ、惜しいな。これでは一時的な平和しか保てない)


 早晩、戦争は再開されるだろう。


 ルドルフの天下は一時的なもので、すぐに面目は潰されることになる。




 その後、細かい調整が行われ、無事コスモの和約が成立した。


 ルドルフ主導によるこの講和成立にマギア地方の人々は感動した。


 戦火の拡大を防ぎ、泥沼の争いを回避した英雄として、ルドルフは大いに讃えられた。


 アノンの魔法院では、ルドルフ感謝の意を表し、彼の銅像を建てる決議がなされたほどだった。


 同時にルドルフの名は一躍ギフティア大陸に響き渡り、複雑な情勢で有名なマギア地方の講和をまとめた稀有な才覚の持ち主として持て囃された。


 コスモ城には外国の賓客がひっきりなしに訪れ、マギア地方の情勢について意見を求めたり、自国の外交問題を調停して欲しいという依頼が絶えることなく持ち込まれた。


 コスモ城は一躍ギフティア大陸随一の国際都市となり、外交の中心地になるかのように思われた。


 早くも来年の諸侯会議はコスモ城にて開かれるのではないかと人々が噂するほどであった。


 だが、マギア地方はそこまで平穏ではなかった。


 コスモ講和会議の場にいた者達が薄々感じていたように平和の破られる気配はそこかしこに見られた。


 海ではアークロイ・ノルン商船とナイゼル商船の間で航路を巡るトラブルが相次ぎ、船の接触に端を発する争いが頻発した。


 スピリッツの土地では開発が再開されるも、ノルンに入ってくるはずの魔石の数が取引額と合わないといった事例が相次いだ。


 ノルンの抗議に対して、ジーフは今のところ耳を貸すつもりはない。


 そしてついに海でアークロイ号がぶつかってきたナイゼル商船に砲撃し、撃沈してしまう事件が発生した。


 すぐさま国際問題に発展したが、両国は互いに主張を譲らず、紛争が解決する目処が立たないまま険悪な雰囲気だけが募っていく。


 ルドルフはカルディ城への派兵を決定し、俄かにマギア地方の緊張は高まっていった。

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― 新着の感想 ―
ルドルフのピークを示す黄金の羽だったんじゃないか。 ここからは、ただ堕ちて行くだけ。
たださ、もしこれが見せかけだったのなら、ルドルフ軍は壊滅的な被害を受けるんじゃないかな? この三国が同盟をしなくても、利害の一致でルドルフ軍に対しての攻撃を行えば、いくらルドルフ軍でも、壊滅的な被害…
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