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いざ王立学院へ

ピーちゃんが話し始めたことで、周囲がギョッとしてロイドの肩の鳥を見つめている。

ロイドも完全に固まってしまった。

「なんや〜?ワイのカッコよさにみんな惚れとんちゃうか?見惚れるんは勝手やけど、その先は金取るでー!」

ロイドは観念したように、肩にいたピーちゃんをムンズと掴むと円卓のテーブルの上に座らせる。

勝手に話し始めたピーちゃんに対して少し怒りも混じり、雑に扱ってしまう。

「ロイド酷いやないかー!ワイの美しい羽が曲がりでもしたらどーすんねん!!」

「お前の羽がそんなに繊細なわけあるかぁ!!」

完全にいつものやり取りを披露してしまう。

周囲はおしゃべりな鳥だけでなく、寡黙と言われるロイドが饒舌に話している姿にも驚いているのであった。

「んんー!ロイド殿下。色々と聞きたい事もあるのだが、その喋る鳥を紹介してはもらえんかね?」

ジュールが間に割るように入って事態を収拾する。

ロイドはハッとして自分の行いを恥じるように説明し始めたのである。

「大変お見苦しい所をお見せいたしました。この鳥…………、いえこの方こそ伝説の鳳凰様にございます。ご紹介が遅れました事もこの場を借りて謝罪致します。」

ロイドのひと言に、部屋全体が静まり返ったのだった。


「このことはアリシア……いや聖女は気がついているのだろうか?それになぜジルコニウムの皇太子である貴殿と共におられるのか。」

目の前の鳥が本当に鳳凰であれば、主人はアリシアということになる。

だが現在はジルコニウムの皇子と行動をともにしているのだ。

鳳凰がアリシアと共にいないとしても、他国の皇子であるロイドといる説明は必要だろう。

なぜなら鳳凰はミスト王国の守り神と言うのが世界の常識なのである。

「ロイドとは言わば古い付き合いの仲や思うてもろて、それ以上は聞かんといてーや。アリシアはもちろん()()ワイのこと思い出しておらんから知らんよ…………。それと500年も経ったからやろうけどな、盟約の内容が少し変わって伝わっているみたいやな。」

『まだ』思い出していないと言うことは、アリシアは全ての記憶を完全には思い出せてはいないと言うことである。

そして伝わっている盟約の内容は、『生まれ変わって戻ってくるフィーリアを王国が見つけ出して保護をする代わりに、鳳凰が魔物や周辺国家の脅威から王国を守護する』と言うものである。

それが違うと言うのだ。

伝え聞いた内容に不備があるとすれば、盟約を破ってしまうことになるだろう。

そう思うとジュールは背中に冷たい汗が流れるようであった。

「そう言えば、ロゴス公爵がサザンドラに伝わる鳳凰との盟約について話してくれたのを思い出しました。」

そう言うとノアが、胸ポケットからメモ帳を取り出して開いて読み始めたのだ。

「『この国に大聖女が再降臨する。それまではこの国を守ろう。聖女がフィーリアの記憶を全て取り戻すとき、我は現れる。それまで必ず、聖女をこの国が守り通せ。』と言う内容です。鳳凰様のことをまだアリシアが思い出していない以上は姿を見せられないと言うことですよね。それと『王国が守る』と言う点については共通点であるため、内容としては合っているのでしょう。」

その言葉にピーちゃんは頷いている。

「であるならば一体何が変わってしまっているのでしょうか?」

ノアは王国に伝わる内容とロゴス領に伝わる内容とを確認したのだが、違う点がイマイチ分からないのである。

するとロイドが話し始めたのである。

「ミスト王国に伝わる内容と、帝国側に伝わる内容が異なるのです。そもそもミスト王国に伝わる内容からは、『鳳凰は帝国からの侵攻という脅威から守る』と考えているようですが、そうではないのです。また同様に『聖女を帝国から守る』と解釈されているようですが、そもそも帝国は500年前にもミスト王国に攻め入ってはいません。つまり、鳳凰との盟約である『聖女を守る』という言葉は、命を狙う全てから守るということになります。そして聖女の命を狙うのはヴァイス教です。」

ジュールはその言葉を聞き愕然とする。

盟約を守るはずが、その真逆にあたるヴァイス教を自国に引き入れてしまったのだ。

鳳凰が解釈の違いを指摘する意味も分かるのだ。

「なんということだ………。盟約をそもそも取り違えていたということなのか。」

頭を抱えるジュールに対し、ピーちゃんはどこか軽く慰める。

「まぁこればかりはしゃーないやろうなぁ。人はそんなに長く生きられへん。伝言ゲームみたいに語り継いできた言い伝えを、どこかの代で解釈を間違えて教えてしまうなんて事があったとしても、今を生きる子孫に責任を押し付けるんは酷っちゅーもんやろ?ただなぁ……気が付いた以上は今後しっかりしてもらわんといかんっちゅー事や。分かるか?ミストの国王さん。」

見た目のかわいい感じからは想像もつかない、ゾクっとするような脅し文句に背筋が凍る感じがする。

「それとな、ワイが守るんはこの国とちゃうぞ?あくまでご主人、アリシアがいる国のことや。アリシアがまたこの国に来ることは()()()()()()()としてワイは知っとったんや。でもな、身分とかは定められてへんから、もしかすれば平民や孤児って可能性もあったわけでな?その状態から守れるんは国っちゅー事で盟約を交わしておったというわけや!アリシアがのぞまん婚姻関係なんてワイがブッチしてやるから覚悟しいや!アリシアが惚れたんなら王子(皇子)だろうが平民だろうが関係あらへん!アリシアの幸せが一番だからや。貴様らが何を考えてアリシアに何をさせるにしても、優先順位はアリシアという事を忘れるなや?『国は再降臨する聖女の幸せを守る』事がワイとミストとの盟約なんやから。」

その言葉を聞いたノアとロイドは顔を見合わせると、お互いにニヤリと笑う。

「つまりはピーちゃんが言いたいのは、アリシアが認めてさえいれば結婚することに反対はないってことだよな?」

「ロイドとわたしでどちらがアリシアに惚れられるか勝負というわけだ。」

お互いに負けないという気持ちで笑顔のまま向き合っている。

それを見てジュールは思うのであった。

(ドーズもとんでもないやつを相手にしなければならんのか………。)



次の日にロイドは自国へと帰って行った。

「ピーちゃんも本当はロイド殿下について行きたかったんじゃないの?」

ロイドは帰国前に散々悩んだ末に、護衛としてピーちゃんをアリシアに託して行ったのである。

メサイアを逃してしまったことにより、アリシアの身の安全性を協議した結果、鳳凰にそばにいてもらう事が一番安全なのではないかということになったのである。

ピーちゃん自身は『アリシアに直接危害が加えられないうちは手出しができない』という制約がある事も訴えていたのだが、サポートはできるためゴリ押しで採用されたのである。

「まぁな〜………。ロイドは向こうの美味いもん食わせてくれる言うてたから惜しい気持ちもあるんやけど…………」

チラリとアリシアを見ると。

「でもやっぱりかわい子ちゃんの近くにおった方が目の保養にもなるし良かったっちゅー事やな!しばらくワイの世話をよろしゅう頼むわ!アリシア。」

「わたしこれから学校に通う事になるんだけど……絶対に喋らないでよ!!!ただでさえ肩に鳥を乗せてる変な子って思われるのに、肩の鳥まで変だって思われたら友達もできなくなっちゃうから!」

アリシアにとっては、いまさら学校に通って学ぶことなど一つもないのである。

では何故にわざわざ学校に通うかといえば、貴族社会での横の繋がりを作る事が目的なのだ。

すでに王族やロゴス公爵とは懇意にしているアリシアだが、歳の近い他家の友人と呼べる存在はいないのである。

今までアリシアの貴族教育を担ってくれていたミレーヌ王妃からも、友人を作れと言及されたのである。

それだけにアリシアは心配しているのだが、ピーちゃんは笑って流している。

「そないなこと気にしてたんか?安心しーや。ワイはアリシアの周囲にはいるけど、ずっと肩に留まってる事はしーひんよ。なんせ授業なんて聞いててもつまらんからなぁ!それに鳥で喋れるだけでも十分頭良いと思われるからこれ以上賢くならんでもええんよ!」

完全に世の中舐めてます!という発言をしながらゲラゲラ笑っているが、常にいるわけではないという一言でアリシアは少し安心する。

「しっかしやなー。アリシアの身分こそ子爵の娘っちゅー微妙ーなところやろうけど、後ろについてるんは王族やろ?その『王族と懇意にしております。』って隠して友達作りとか、そもそもいまさら無理なんちゃうか?」

「だって!王族と知り合いですーとか言ってたら、半分はホラ吹き娘って思うし、信じた半分はわたしを目当てじゃなくて王族と懇意になりたい人が来るだけでしょ!そんなの誰も幸せになれないじゃない。」

あくまでも子爵令嬢のアリシアと仲良くなってくれる人物を探したいのである。


ここでは言及されていないが、もう一つ隠された情報があるのだ。

それはノア王子と隣国ジルコニウム帝国のロイド皇子の両殿下から求婚されているという事である。

こんな情報が国内を駆け巡れば、アリシアは一躍時の人となってしまう。

そのためアリシアが卒業するタイミングまで、ノアとロイドはどちらも抜け駆けはしないという約束をしたのであった。

だが今までの2人の行いのせいでアリシアには良くない噂が立ってしまっているのである。

原因としてはロイドは歓迎パーティーの場でアリシアをエスコートし、ノアはアリシアとお忍びでサザンドラへ出掛けた事がすでに国内の貴族には知れ渡っている内容であり、ノアやロイドと懇意になりたい上級貴族の娘からは酷く嫌われているのだ。

全く事情を知らない人物からも、“魔性の女”や“アバズレ”と言ったひどい噂になっているのだ。

この噂を収拾すべく、王室が経緯を説明する文書を発行して各貴族に配ったのだ。

内容としてはアリシアがノアの護衛騎士としてサザンドラへ訪問したこと、パートナーがいなかったロイドが護衛騎士を務めていたアリシアを仮のパートナーに仕立て上げて参加したということで、アリシアには非がないという事になっている。

事実ではあるが、この説明では到底受け入れられない貴族がたくさん出てくる。

だが王室からの説明を無視にすれば、自ら王室を軽視していると言っているようなものであり、アリシアへの対応に苦慮する貴族が多数出てくる結果につながった上、アリシアと王室の関係性を知らしめる事にもつながってしまったのであった。



王立学院は寮生活が義務になっており、基本的に集団での行動が課せられるのである。

しかし侍女を一人連れて行く事ができて、身の回りの世話をさせることができるため、アリシアもマリエルを連れて行く事になっていた。

「お嬢様。お荷物をまとめてくださったのはありがたいのですが、さすがに少なすぎじゃありませんか?これでは小旅行に出かけるようでございますよ。」

「でも服ってかさばるからそんなに持って行くのも気が引けるし、生活用具なら最悪向こうで買っても良いじゃない!勉強道具は用意されている訳だし、他に要らなくない?」

アリシアの荷物の少なさを見てマリエルが呆れたように頭を抱えていた。

「良いですかお嬢様。お嬢様は良い意味でも悪い意味でも有名なのです。これからお茶会などのお誘いが確実に増えます。目上の方にお誘いされた場合に、一体どのドレスを着て向かわれようと考えているのですか?」

そう言われてしまうとアリシアも困ってしまう。

そもそも前世での学校の記憶は日本の庶民的な学校であり、成績優秀な莉愛は勉強一筋で医学部に現役で合格しているのだ。

そんな人物がお茶会の経験を持っているはずがないのだ。

今世での初めてのお茶会は毒殺未遂事件でてんやわんやしていてまともなものではなく、大聖女時代も気軽なティータイムを楽しむものでしかなかったのである。

「………マリエルにお任せしても……?」

その一言でムフーッとにこやかな顔になり、いそいそと大きなカバンを出してきたのである。

これにより洋服関係は侍女マリエルに全てを委任するのであった。


夕食をとっていた時である。

明日から学院の寮に行く娘に、父母から餞別とばかりに贈り物を渡される。

「何か不安なこととかない?」

母から掛けられる声からは、かなり心配されている事が伝わってきて少し気恥ずかしくもなる。

「そうですね。すでにわたしがロイド殿下の護衛任務にあたっている間に友人関係も構築されていると思われますから、親しくしていただけるかが一番の不安材料です。ですが、ブラッド子爵家の名に恥じぬようにしっかり務め上げて参ります。」

入学式後に入寮せずに任務についていたこともあり、このひと月のうちにすでに交友関係は出来上がっているだろう。

そこに入れてもらえるかが不安ではある。

過去(前世)が大聖女だろうが転生者だろうが、一人の少女であるに変わりはないのだ。

「アリシア。お前は今までにも苦難に立ち向かって努力をしてきた。色々な噂もあったりしてかなり注目もされるだろうが、今回もきっと乗り越えられると思っている。だが、どうしても辛くなったりしたら無理はするな。身体の怪我はそのうち治るが、心の怪我は一生治らないかもしれない。父さんと母さんはお前が幸せになる事を一番に望んでいるんだ。だから逃げることも勉強してほしい。頑張っておいで。」

そう言うと頭の上にポンと手を置いて撫でてくれる。

アリシアは、この父と母の間に生まれてきて良かったと思うのであった。


早朝から荷物を積み込んで出発の準備をする。

子爵家の馬車は家紋があっても正直誰も気が付かないレベルに認知されていない。

御者もヨボヨボのお爺さんなのだが、今までも長い間ブラッド家に使えてくれているベテランなのだ。

(馬車があるだけマシなのよね。)

男爵家辺りでは自前の馬車など持ってはいないだろう。

正直ハコはボロいが整備は行き届いていてしっかりしている作りにはなっている。

馬についてはさすがは軍人と言うべきムキムキな二頭が引いてくれていた。

「御者と馬のギャップがすごいですね……。」

マリエルのその一言で吹き出してしまう。

「お、……思ってても、そんな事言っちゃダメ〜!」

もはや笑いが止まらない。

もう見るたびに笑えるだろう。

そんな賑やかな馬車は学院には向けて出発するのであった。

これにて第一部終了です。

次回は学院生活が始まります。

なかなかに書くスピードが遅いので、溜めてから一気に放出をしていました。

今後も頑張りますので是非応援よろしくお願いします!

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