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お忍びデート!?

「お待たせいたしました。それでは参りましょうか!ロイド殿下。」

これから2人で城下へとお忍びで出かけるのである。


昨日の手紙の返事は朝の朝食時に返した。

皇太子殿下からのお誘いを断れる侍女などいないだろう。

その際にロイドから無理はさせていないか?と確認はされたが、アリシアはロイドが自国の侍女たちに距離を置かれていることを思い出し、一緒にいる時間は苦であると感じたことはないし、平和なミスト王国内での護衛は難しい業務だとも思わなかったため『無理はしていない』と返事をしたのである。

よってここに2人の間に見事なまでの悲しい認識の違いが現れたことになる。

【皇太子からデートのお誘い】はもはや強制である。

そのため『行きたくないのに付き合わされている』など無理はしていないか?と質問したのだ。だがアリシアは『無理はしていない』という返事をしたため、“無理はしていない=行きたい”という返事として受け取っていることになる。

これにより、ロイドからのデートのお誘いに喜んでついて来てくれると受け取ってしまったのだ。

対してアリシアは、ロイドが【街に出たいからついてきて欲しい=護衛として】と認識しており、『街中で護衛をする』と言うことは無理ではないと返事をしているのである。

そのため会話は徐々に食い違いながらも、うまく繋がっていったのである。

「服装はどうすれば良いでしょうか?やはり目立たない方が良い(皇太子のお忍びだから)と思うので、メイド服ではない方がよろしいですよね?」

「そうだな。着飾るほどではなくても良い(着飾らなくても十分に魅力的だよ)が、仕事着だとさすがに(デートではないよね)………。」

アリシアのにぶい認識とロイドの言葉足らずのせいで、行動の目的に差が出てしまっているのであった。

「分かりました!では街に溶け込めるように殿下の服もご用意させていただきます。後ほど届けさせますので、着替えましたら1階のロビーにお越しください。」

そう言って着替えて出発したのであった。



ミスト王国の城下町は非常に治安が安定していて騎士たちが見回りをする理由も、困っている人を助ける仕事がほとんどなのである。

「ここは民が皆幸せそうな表情をしている。ジルコニウムは領地によってはまだまだ不安定な地域もあるから見習わなければなるまいな。」

「取り締まるだけが治安を向上させる手段ではありませんわ。そもそも何故治安が悪化しているのかという原因を突き止めて解決しなければ、1人捕まえたとしてもまた別の人が同じことをするため、結局治安の向上など期待できません。民衆が期待するのは衣食住がしっかりしていて安定した生活が送れることなのですから。」

アリシアの考えは、一体どんな思考を巡らせれば出てくるのだろうか?とロイドは不思議に感じている。

前世フィーリアのときにも鋭い切り口で解決していくことはあったのだが、ロイドにはフィーリアよりもアリシアの方がしっかりしている感じがしているのであった。

(中身は同じはずなのに不思議なものだな。まあそれだけ今世の家族が良かったのかもしれないが。)

アリシアもフィーリアも結局はポンコツなのに変わりはないのだが、侍女、そして騎士としての仕事中は立派なのである。


「アリシア、ここで少し休憩していかないか?聞いた話ではあるが、この店には変わった飲み物があるらしいぞ。」

そう声をかけられて、アリシアは『知っている』と言いたげにニヤリとする。

「ふっふっふ〜。殿下こそよくご存知ですね。ここには“しゅわしゅわ”があるんですよ!飲んだら絶対ビックリしますから!!」

そう言って手を引かれてしまった。

事前に調べたのだが、やはり地の利はアリシアにあるようだ。

入店すると店長に声を掛けられる。

「あら〜アリシアちゃんじゃない。この間のアイディアと魔法陣ありがとうね。お陰で大繁盛しちゃったわ〜!………って、まさかお隣のイケメンは彼氏!?いやだわー、スミに置けないんだから。さぁさ、座ってちょうだい。しゅわしゅわでしょ?持ってくるから。」

よく喋る店員だと思いながら聞いていたが、今の会話の流れからひとつわかったことがある。

それはアリシアが良くお忍びで“平民として”遊びに来ていると言うことだ。

でなければ子爵令嬢のアリシアを《ちゃん付け》では呼ばないだろう。

そしてもうひとつ気づいてしまったのだ。

「………アリシア。そもそもそのしゅわしゅわは、お前が考えて魔法陣まで用意して作り方を教えたんだな?」

ギクッとして縮こまっていくアリシアを見てため息が出てしまった。

「何か理由があるんだろうが、その知識を容易く披露するな。お前の有用さに周囲が気付けば悪意にさらされることになる。人を助けたい気持ちも分かるが、助けた結果アリシアが傷付けば、救われた側は辛いと言うことを忘れるなよ。」

ロイドの言葉は叱責しているわけではなく、人を助ける事を止めているわけでもない。

ただ心配してくれているのだ。

それを知ったアリシアはどこか認めてもらえたような気がして嬉しく思うのであった。



「しゅわしゅわとはずいぶん喉に染みる飲み物なんだな……。」

「作るのが大変なので提供できるお店が限られてしまうんですよ。あそこのおかみさんは先日ご主人を亡くしてしまって残されたお店を1人で切り盛りしようとしていたんですけど、元々ご主人の味に惹かれて通っていた常連さんばかりだったので客足が遠のいていたんです。そこで定食屋ではなく喫茶店形式にしてしゅわしゅわを話題の一つとして提供したんですよ。結果は…まあご存知の通りです。今では従業員も雇って人気店になったようで安心しました。」

にこにこしているアリシアを見て、疑問に思うことがあった。

「しゅわしゅわを提供したのはいいが、アリシアには利益はあるのか?そもそもアリシアが人を雇ってあれを作らせて売ればかなり儲かったんじゃないか?」

ただで技術を提供したのであれば損失は計り知れないだろう。

その点をアリシアは考えているのだろうか?とロイドは心配になったのだ。

「そこはちゃんと宣伝として活躍してもらっているんですよ。あのしゅわしゅわはブラッド領の飲食店で提供してもらっているものなのです。だからあそこのお店でも《ブラッド領名産しゅわしゅわ》としてメニューに書いてもらっています!自領に興味を持ってもらって観光に来てもらえれば、我がブラッド領も栄えますから!」

「……じゃあまさか他にも!?」

「もちろんです!あそこの屋台では《ブラッド領名産のたこ焼き》を提供してもらっていますし、あそこの宿屋では《ブラッド牛ステーキ》を提供してもらったりと、名産品を売り込んでますよ。ちなみにこの作戦を王都で2年ほど前からやり始めて、今では観光客が爆増していてウハウハですよ!」

満面の笑みで話しているアリシアの顔は、サザンドラを発展させるときにフィーリアから何度も見られた顔にそっくりでついつい笑ってしまった。

「なんで笑うんですか!?結構大変だったんですよ!そもそも子爵領なんて人が集まらないような場所しか与えられませんから、税収なんて見込めません。だから領地にたこ焼きとかしゅわしゅわを広めたときも話題にはなるんですが、結局外からお金が入ってこないと税収は厳しいんです。だから王都で名産品をアピールするために広めたんですよ。これも経済対策ってやつなんですから!」

これから学校に通って学ぶはずの令嬢からは考えられないような知識が溢れている。

やはりアリシアには前世の記憶が戻って来ているんだと実感してしまうのである。


それから屋台を見てまわるが、至る所に《ブラッド産》の文字が並ぶ。

これも領民の識字率がほぼ100%であるミスト王国ならではなのだろう。

これこそフィーリアのおかげである。

500年前にサザンドラの領民の識字率が著しく低い事を危惧したフィーリアは、学校を創設して読み書き計算を教える事にしたのだ。

それが今では王国中に広がって、平民でも読み書きはもちろん計算もできるのである。

「ジルコニウム帝国には教育機関はないのですか?」

アリシアはロイドが感心しているので気になって質問してみる。

ミスト王国では当たり前だが、ジルコニウム帝国ではどうなっているのか気になったのだ。

「もちろん一部では非常に良いんだ。ジルコニウムでは学校と言うシステムはなく、代わりに教会が周辺の子どもたちへの教育を担ってくれている。だが知っての通り我が国では女神信仰とヴァイス教という2つの宗派があり、女神信仰は教育に力を入れてくれているんだが、ヴァイス教は全くと言っていいほど何もしていないのだ。信者は地域に密着して生活しているため、ヴァイス教の領主がおさめる地域は看板は絵を描いて対応している。領主も領民に知識をつけられる事を必要以上に嫌がっている節があるのだ。」

「それって不正していたりする可能性などあるんじゃないですか?」

「むしろ不正しているからバレないように教育を施さないんだろう。わたしはその事実を知ったため、父である皇帝に進言したのだが、現皇帝陛下はヴァイス教徒という事もあり取り合ってはくださらなかったのだ。だからこそわたしの代では教育を教会頼みにするのではなく、学校を創設しようと考えているのだ。」

500年前にも同じ事を考えていたのだが、自領の政策を行う前に侵略戦争を起こしてしまったためできなかったのである。

「ロイド殿下はきっと革命を起こす皇帝になりますね。将来は語り継がれるような人物になって、そのうち学校で学ばれるようになりますよ!」

「学ばれたくはないが………そうなればいいな。」

目標は高く!そう誓うのであった。


2人でおしゃべりしながら歩いていると、ロイドはある事に気がつく。

「アリシア。気づいているか?」

「はい。つけられていますね。多分しゅわしゅわの後からです。」

誰かは分からないが、2人の後をつけて来ているのだ。

「一応確認しておくが、我々の護衛ということはないか?」

ロイドは2人きりにデートであるために、護衛も遠慮してもらったのだ。

ミスト王国の治安の良さに加え、他国に隣国の皇太子の顔がバレている可能性は無いに等しいだろう。

アリシアも子爵令嬢であり、これまでノアの護衛騎士という立場であれば狙われる理由すら乏しいのである。

ならばミスト側が用意した護衛が気を使ったのかと思ったのだ。

しかしアリシアはロイドのそのひと言で、ジルコニウム側の護衛の可能性が無くなったため、一層警戒を強めたのだった。

「ありません。それに護衛であれば距離とフォーメーションが決まっているので、あんなに不規則な動きをするはずがありません。護衛だとするならば確実に素人ですね。」

妙に的確な分析をしたかと思えば、急にロイドの手を取って歩き出したのだ。。

「まずはこちらが気づいていないように振る舞いながら距離をとりましょう!」



アリシアはロイドの手を引きながらぐんぐん進み、街外れの教会にまでやってきた。

「…ここは?」

「女神アスクレピオス様を祀っている教会です。わが子爵家は騎士の家系のため、癒しの女神様を信仰しています。ジルコニウム帝国では一般的な女神信仰でも、ミスト王国は聖女信仰が強いため少数派の教会になっていて人が少ないのですよ。」

ロイドはミストには聖女フィーリアを神の使いとして崇める聖女信仰しかないと思っていたのだが、そんな事もないらしい。

ここは少数派の女神信仰の教会と言っている割には非常に立派なのである。

ひとつ残念な事は、アリシアが自分の前世フィーリアに祈っていなかったと言う事である。

(せっかく全てをネタバレしたときにはからかってやろうと思っていたのに……。)

こんな状況でもロイドは冷静なのであった。

「さすが自由思想国家ミストと言うべきなんだろうな。同じ状況を我が国に当てはめれば、貴族間で聖教戦争が起こっていても不思議ではないんだが……。」

「ミスト王国も自由思想とまでは言えないと思いますが、信仰は自由ですね。そもそも聖女信仰の教えが平等の精神を謳っているので。それに女神信仰から派生して生まれたのが聖女信仰なので、聖書バイブルは同じなのです。違うとすれば、女神信仰はアスクレピオス様をそのまま信仰し、聖女信仰はアスクレピオス様の落し子フィーリアを祀っていて、聖書バイブルも聖女フィーリアのなした奇跡を書いた福音書がプラスで添えられているにしか過ぎません。」

ロイドはフィーリアについては知っていたが、聖女信仰を学ぶ時間は無かったのである。

そのため、ミスト王国は勝手に聖女信仰しかない単一宗教国家だと勘違いしていたのであった。

それを知ったロイドには、ひとつの懸念がよぎる。

「ではこの国には聖女信仰と女神信仰の2つだけが広まっていると考えても良いのか?」

その質問をしながらも、ロイドの手は徐々に汗ばんでいく。

完全に先程までの余裕が無い。

ロイドは自分でもどの神に対してかは分からない祈りを捧げている。

“どうかあの宗教がアリシアの口から出ませんように……………。”

だがその祈りも虚しく、アリシアはロイドに告げるのであった。

「いいえ……ヴァイス教という大陸由来の神を崇める宗教が先日ミスト王国に教会を設立しました。

その言葉によって、やはり思うのであった。

『この世界に神などいない』と。

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