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ロイド皇太子と危険なパーティー

「ようこそおいで下さいました、ロイド皇太子殿下。わたくし殿下の滞在中のお世話を言いつかっております、アリシア・フォン・ブラッドにございます。」

ロイド皇子がミスト王国に着いて早々、アリシアは滞在先のロイドの部屋にてメイドとして仕事をしていた。

「………随分と幼いメイドが付いたものだ。」

ロイド皇子はノアやアルトと違い、寡黙なタイプと聞いている。

そんな寡黙な皇子の第一声からディスられたのだった。

「殿下。こう見えてもわたくし先日12歳になりました。殿下と3つしか違わない乙女にございますわ!」

「乙女には違いないだろうが、………12歳とは事実なのか?」

表情こそあまり変化しないが、驚いているのだろう。

アリシアは周囲の令嬢と比べても身長が低い。

まだ徐々に伸びていると言っても、130センチ台から脱却できずに2年以上が過ぎている。

対してロイドはアルト程ではないが、ノアよりは身長がありそうだ。

「殿下。女性を身長だけで評価されているわけではありませんわよね?」

目が全く笑っていない笑顔を作りながら、ロイドに紅茶を差し出す。

「気を悪くしたのなら謝罪しよう。」

そう言って紅茶に口をつけて一口飲んだ。

「……随分と香りが良いな。それに砂糖を入れていないのにほのかに甘みを感じる。」

「そちらはアップルティーでございます。殿下がどのような紅茶を好まれるのか分かりませんでしたので、さまざまな紅茶をご用意させていただきました。そちらはわがミスト王国第一王女アリス様のお気に入りにございます。」

「……なるほど。すでに歓迎が始まっているというわけか。滞在中に何種類飲めるのか楽しみにしておこう。」

そういうとロイド皇子は静かに紅茶を楽しんでいる様子であった。



アリシアが王妃殿下から接待を仰せつかってからロイド皇子訪問までの一月の間、紅茶だけではなく部屋の内装や暇なときの読者用の本、さらにお茶菓子に散歩コースにいたるまで徹底してアリシアが計画していた。

護衛も兼ねているとはいえ接待係が主な任務になるため、任された仕事は責任を持って行うのが信条のアリシアは考えうるすべてに配慮したおもてなしを用意している。

これはアリシアが前世から引き継ぐ性格なので自分でも妥協ができない。

自分の着るメイド服まで自身でデザインし、至る所に護衛用の暗器を忍ばせている。

周囲からはやりすぎだと注意をされたりもしたが、自分とロイド皇子、両方の命も護る以上はやり過ぎくらいがちょうど良いのだ。

「ロイド殿下は高身長で寡黙。ノア殿下と同い年の15歳。本当は味覚とか好みがわかれば良いんだけど、さすがに難しいわよね。」

同じ時期に王立学院の入寮式なども控えているのだが、完全に忘れて接待のために奔走していた。

あるときそれを見ていたアルトが心配して声を掛けてきた。

「アリシア、自分の入寮式とかの準備は進んでいるのか?ドレスはもちろんだが、内装も貴族の色が出る大事な部分だぞ。寮長への挨拶もあるし、手を抜いていると後で痛い目に遭うぞ?」

だがアリシアは自身の事よりも他人の事が気になるタイプであるため、結局その忠告を聞いていながらも、ロイド皇子への接待を優先してしまうのであった。

おかげで入寮時に部屋の内装どころか家具なども全く無い状態の部屋に1週間住み続けたのは言うまでもない。

そのときはアルトに言われた事を思い出して後悔するのだが、同じような状況になれば結局また他人のために尽くしてしまうのである。




ロイドは国王夫妻やノア、アルト両王子、さらにアリス王女との面会を済ませて部屋に戻ってくる。

アリシアは護衛も兼ねているため後ろについて歩いていたのだが、ロイドはその事を知らないため疑問に思っているようである。

「侍女として接待係も担っているアリシア嬢が何故一緒に謁見にまで付いてきたんだ?」

紅茶を飲みながら不思議そうに尋ねられた。

表情からはあまり良くわからないが、どうやら単純に疑問に思っただけで怒っている様子は見受けられなかった。

「わたくしを幼い少女と考えている殿下には信じられないかもしれませんが、今回わたくしは殿下の侍女兼護衛も兼ねております。こう見えても3年間ノア王太子殿下の護衛騎士候補を勤めておりました。」

その言葉を聞いた瞬間、今まで一度も崩れなかった表情が驚きのあまり変わったのだ。

そして次の瞬間笑い始めたのである。

「そんなに笑うなど失礼でございますわ!こう見えてもわたくし幼少の頃から第一騎士団長であるわたくしの父に厳しく教えられているのですけれど!」

「…クッ、クク。あぁ〜、いやすまない。君が護衛であるから笑ったのではない。」

笑いを堪えながらロイドは謝罪をしてくる。

「では何故そんなにも笑われていらっしゃるのでしょうか?」

アリシアも不機嫌さを隠さない。

「いやなに、私は自分で言うのも変なのだが、あまり話さず表情にも出ないだろう?だから周囲からは怖がられる事が多いのだ。だが君は言葉遣いこそ丁寧にしているが、私に対しても臆せずに対応するのが面白くてな。もちろんいい意味でだ。」

ロイドが言うには、帝国内でもロイドの侍女に付きたがるメイドはいないらしい。

「そうなのですか?寡黙なところを除けば、顔もスタイルも良い殿下は目の保養にはうってつけでしょうに。」

「そう言ってくれるのも君だけだよ。アリシアと言ったかい?滞在中君がついていてくれることで楽しみが増えたようだよ。」

笑顔で話すその姿からは、自国では寡黙で怖がられている皇子の姿など想像できないのであった。



夜は歓迎のパーティーが王宮にて催されることになっている。

ロイド皇子は少人数でここまでやってきている事もあり、パートナーはもちろんいない。

ノアは一応第一王女のアリスをエスコートすることになっているのだが、アルトはやはり婚約者不在のため1人で参加することになるだろう。

そんな事を考えていると、ロイドが質問してくる。

「アリシアはパーティーには出席しないのかい?」

今は王宮まで馬車での移動中であり、ロイドは正装姿なのに対してアリシアはメイド服のままなのだ。

「わたくしは殿下の侍女です。ですが護衛も兼ねているため、殿下の脇にて控えさせていただきます。それにわたくしは子爵家の五女です。殿下を歓迎するパーティー自体、本来は縁遠い存在ですわ。」

そう話すアリシアに対して、ロイドは不思議そうにしている。

「王国は貴族階級で全てが決まるのか?子爵家の五女では隣国の皇子を歓迎するパーティーに出席する事ができないのか?」

そう言われると困ってしまう。

何故なら参加している子爵家はもちろんあるからである。

しかしブラッド家は父ドーズが警備担当になる事が多く、これまで家族で参加する事などなかったのだ。

「……いえ、そのような事もないのですが、わが家は騎士の家系。貴族が会する場所の警備は父が担当する事が多く、わたくし自身が出席をした事がなかったのでございます。」

アリシアとしては、これまでパーティーに参加するメリットもなかったのだ。

本来の令嬢であれば早い段階で婚約者を見つけると言うメリットがあるのだろうが、家督を継ぐ予定であったアリシアにはどこかの次男、三男を連れてきて婿にするため、わざわざパーティーに参加する意味がなかったのである。

だが今はどうだろうか。

すでに家督は4歳の長男に決定している状態であり、アリシアは嫁に行く側に変わったのだ。

自身の将来を考えるならば、本来メイド服を着て大国の皇子の後ろにいるよりも、誰かの手を取っていなければならないのである。

「君の婚約者はどうするんだい?」

ロイドは心配してくれているようだが、そもそも参加をしなかったからと言って困る婚約者などいない。

「わたくしに婚約者はいません。ですからご安心くださいませ。」

アリシアは涼しい顔でそう答えたのである。

その言葉を聞き、ロイドはある提案をしてきた事で、事態はあらぬ方向に進むことになってしまうのだった。

「ならば是非私にエスコートさせてくれないだろうか?」




「なんでわたしはこんなことに………。」

王城についてからは忙しかった。

ロイドに用意されていた控室で紅茶を入れた後、急いで子爵家から取り寄せたドレスに着替える。

元々メイド服で控えている予定だっただけに髪を結う時間も無く、ドレスと共に駆けつけたマリエルに着付けをお願いする。

「大国の皇子にエスコートしてもらえる人生など大半の御令嬢には訪れない名誉。マリエルはお嬢様を精一杯可愛らしくして晴れの舞台に送り出したいのです!でも時間がなさ過ぎて泣きそうです!でもでもだからと言って妥協なんてしたくないいいいー!!」

珍しく泣き言を言っているマリエルだが、見事な手捌きであっという間に三つ編みが完成していた。

「マリエル本当にありがとう。あなたが来てくれていなかった事を想像すると恐ろしいわ。」

「お嬢様のためならば、今やれる最高の状態にして見せますわ!」

そう言いながらマリエルは、本当にロイドが紅茶を飲み終える前に準備を終えたのであった。


王族は迎える側のため、すでに会場に入っている。

これから呼ばれて紹介されることになるのだが、アリシアはここでとんでもないことに気がついた。

「……ロイド皇子が陛下から紹介されると言うことは、その場の全員に見守られながらわたしは入場しなければならない?……わけ……?」

今更ながらなのだが、アリシアは軽請け合いをしただけであり、そんな大役など考えてもいなかったのである。

(どおりでマリエルが必死に髪を結ってくれたわけだわ。)

嫌な汗が出てくるようである。

「まさかここまで着飾っておいて1人で入れなんて言わないだろうな?」

ロイドがニヤニヤしながら声を掛けてくる。

どこが寡黙な皇子なのか分からなくなってきた。

「大丈夫です。その大役見事にやり遂げて見せましょう。」

ロイドにコケにされたような気がして強がってみせるが、王妃にあとでなんと言われるかを考えると憂鬱であった。


いよいよ入場となりロイドの腕を手で掴み扉の前に立つ。

(すーはーっ、すーはーっ。大丈夫。焦るなアリシア、最悪全てこの男に任せれば大丈夫。)

何があってもロイドに責任を取ってもらおうと腹をくくる。

「わが国の友好国であるジルコニウム帝国第一皇子、ロイド・フィー・ジルコニウム殿下の入場です!」

扉が開くと参加者から盛大な拍手を受けて迎えられる。

参加者の中からは『隣の少女は誰だ!?』と口々に噂しているのが聞こえてくる。

アリシアは騎士団の中では知られた存在だが、貴族の中では無名なため誰も気がつかない。

しかし行き着く先に控えている陛下や王妃には当たり前だが気が付かれている。

王妃から『お前は何をやっているんだ!』と言う心の声が聞こえてきそうな状態なのだ。

陛下から紹介された後、ロイドが陛下と入れ替わり話し始める。

「ジュール陛下から紹介に預かったジルコニウム王国の皇太子ロイドである。このような宴を催してくれて大変感謝している。短い滞在期間ではあるが、さまざまな勉強をさせてもらい国で活かしたいと考えている。」

そう話すと盛大な拍手が鳴り響くのであった。


ロイドの挨拶が終わり、歓談の時間になる。

ロイドの手を取りいざ実食!………とは、もちろんならない。

「ア〜リ〜シ〜ア〜!!あなたはどう言うつもりですか!侍女と護衛は命じましたが、エスコート役までは言っておりません。」

チクチクと王妃から小言を言われていると、ロイドが間に入ってくる。

「ミレーヌ王妃殿下、アリシア嬢にエスコート役をお願いしたのは私の一存です。護衛として近くに控えているなら、いっそ隣にいた方が守りやすいと考えたまでです。アリシア嬢には婚約者もいないと聞いたので、大役をお願いしたまでですよ。」

ロイドはそう王妃に言葉を掛けながら頭を下げつつ、アリシアには目配せをしてくる。

(し、紳士的すぎる……。ジルコニウムの侍女達はロイド皇子の何処を見て怖がっているのかしら?)

ノアという王子には無い、どこか陰湿な雰囲気こそあるものの、アリシアにとってロイドは笑顔が素敵な“策略家”にしか見えないのであった。

何故“策略家”とアリシアが評したかと言えば、ロイド皇子は最初からエスコートする人物はミスト王国に来てから調達しようと考えていた事にある。

大国の皇子が公務として他国へ訪問する以上、婚約者の同伴が原則だからである。

これは歓迎パーティーが催されることが分かっているだけで無く、訪問先の国に対して『次期皇帝夫妻もこの国を大切な友人として考えている』というアピールにもつながるからに他ならない。

実際本国に婚約者がいるかどうかは分からないが、代役すら連れて来なかった事には何か事情があるのかもしれない。

「そうでしたか。もしアリシアが何か粗相をされましたら遠慮なく申しつけてください。わたくしが再度教育し直させていただきます。」

その言葉にアリシアは若干顔が青くなっているが、そう言いながらも過去一度も王妃の期待を裏切ったことなどないのである。

それを聞いたロイドが両陛下に対して確認するように話しかける。

「アリシアには誰も婚約者がいないと聞いているが、それは間違いないのでしょうか?」

実際アリシアが馬車の中で『いない』と言っているのだからいないのである。

にも関わらず、婚約者でもないのに王妃教育を受けていると言う矛盾が発生しているからだ。

一瞬、ガヤガヤと騒がしい会場内でここだけが静まり返ったような錯覚に陥るほどの沈黙が流れた。

王妃はやや俯き加減であり表情までは良く見えなかったが、どこか回答に困っているように見えたのだ。

数秒間の沈黙の後、国王陛下が口を開く。

「アリシア嬢に婚約者は()()()いませんな。アリシアは本来ブラッド子爵家を継ぐようにと、彼女の父親であるドーズから言われていたのですが、数年前に長男が誕生したためにその話がなくなっているのです。そのため幼少期から婚約者はおらずに現在募集中の身です。ミレーヌが淑女教育を買って出たのも、ある事で彼女に救われた事がきっかけとなり、それ以来妻のお気に入りなのです。」

(わたしはミレーヌ王妃殿下に気に入られていたのか……。なんかむず痒いような気がしてくるわ。)

アリシアは聞いていて少し照れてしまう。

厳しく淑女としての振る舞いを叩き込んでくれた王妃殿下も照れているようであった。

「そうですか。それを聞いて安心いたしました。アリシア嬢がミレーヌ王妃殿下から王妃教育を受けていると言うウワサを耳にしまして、ノア王子かアルト王子の婚約者であったならば失礼に当たると思っておりました。先んじてアリシア嬢には確認していたのですが、両陛下の意思をお聞きするまで自信が持てなかったのです。今確認が取れて安心いたしました。淑女教育であって、王妃教育をではなかったと言う事なのですね。」

そのときロイドがワザと少し大きな声で話したように感じた。

まるで誰かに聞かせているかのように……。


「それでは失礼致します。」

ロイドが両陛下に挨拶し、慌ててアリシアもカーテシーを取る。

踵を返すように会場の方に歩いて行くのだが、そのときのロイドの顔が何かをたくらんだような表情に見えたのだ。

「……殿下。何かありましたか?」

不審に思ったアリシアが尋ねる。

それに対しロイドはただ一言だけ返してくる。

「すぐに分かる。」と。


それから会場に降りて軽めに食事を取る。

その間も様々な貴族から声を掛けられ、全く食べた気がしない。

(パーティーってこんなに気を使いながらいなくちゃいけないわけ?せっかく沢山食べ物が並んでいるのにほとんど食べられてないじゃない!)

ロイドの隣で補佐をしている関係上、1人でふらふらと食事をしに行くわけにもいかない。

ため息すらつけない状態が続いていたときである。

「アリシア、……来たぞ!」

小さな声で合図を受けて相手を見る。

そこにいたのはヒューズ公爵夫妻と、エドグレン公爵子息にその婚約者であるクラフト侯爵令嬢であった。

「これはこれはお初にお目にかかります、ロイド殿下。」

ニヤニヤしながら挨拶してくる辺り、ナメられているようにも感じて不快な気分にさせられる。

仮にも王家が招待している隣国の皇太子に対して不敬な対応だと言わざる負えない。

アリシアが注意するために発言をしようとしたとき、ロイドがぎゅっと肩を抱き寄せて遮られてしまった。

「これはヒューズ公爵。お噂はかねがね聞き及んでおりますよ。そちらがご子息ですか?」

ロイドは今までに見せた事がない笑顔を見せている。

その表情にアリシアはゾクっと背筋が凍りついたような感覚に陥ったのだ。

声を掛けられたエドグレンが挨拶をする。

その隣ではクラフト侯爵令嬢も並んで挨拶をする。

何も問題なく、他の貴族と同じようにこれで終わると考えていたそのときであった。

「ときに殿下、隣にいるのはブラッド子爵令嬢ですか?確か殿下の侍女として任を与えられていたと聞いておりましたが、何故殿下がエスコートなどしておるのですかな?」

ニヤニヤした顔がアリシア向けられる。

するとロイドはさらにぎゅっとアリシアを抱き寄せてこう言ったのである。

「この少女の接待に魅せられて気に入ったまでですよ。先ほど両陛下にも確認して、わたしがエスコートする事にも何も異論がないとおっしゃっておりました。アリシア嬢本人に確認してもまだ婚約者がいないと言うので本日隣に並び、補佐役をお願いしているのですよ。わたしも恥ずかしながら婚約者がいないもので。」

そのときのヒューズ公爵の顔は気持ちが悪いほど笑顔になっていた。

(……き、気持ち悪い!)

アリシアはヒトの醜い部分をマジマジと見てしまったようで非常に気分が悪くなってくる。

「殿下、長くお引き止めしてしまいましたかな?まだご挨拶がありますでしょう。私どもはこれにて失礼させていただきます。」

そう言いながらすれ違うように去って行くその瞬間、アリシアにしか聞き取れないような声でボソッと呟いて行ったのだ。

「…………命が惜しくばその手を離さぬ事だ。」

これは忠告ではなく脅しであった。


アリシアはたった数分のやり取りで疲れ果ててしまった。

(今まであんなに露骨な悪意を見た事ないわ……。王族軽視の筆頭とは聞いていたけれど、まるで王国だけでなく帝国すら自分の下に見ているような態度だったわ。)

まだ春先で夜も冷えると言うのに、まるでヘビに睨まれたカエルのように冷や汗が止まらなかった。

「すまなかった。君をあんな眼に晒してしまって。」

隣でロイドが困ったような表情で謝罪してくる。

「いえ、殿下はわたしを守ってくださったのですよね。護衛の身でありながらこのような場には不慣れなせいで、逆に助けていただき感謝申し上げます。」

「いや、むしろキミを利用するような状態になってしまい申し訳なかった。ただ彼らには気を付けておかなければならないな。ウワサ以上に権力に酔っているみたいだった。そしてかなり周到なタイプでもあるようだ。チェックメイトの瞬間まではあまり気を抜かないだろうな。」

アリシアはあまりチェスに詳しくないなぁと思いながらも、先ほど言われた『命が惜しくば〜』のひとことが気になっていた。

(ロイド殿下の手を離せば殺される!?どういうこと??)

政治の世界には疎いアリシアには、その意味がイマイチ分からないのである。

「殿下、一つ質問させていただきます。最後にすれ違いざまに『命が惜しくばその手を離さないことだ』みたいなことを言われたのですが、殿下と手を繋ぎ続けなければわたしは殺されるのでしょうか?もちろんこの首を簡単に渡してやるつもりはありませんが!」

そう言いながらぎゅっと手を繋いだままのアリシアを見て、つい吹き出してしまったロイドであった。

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