白い夜と黒い月① 敵対編3
第三章
そう言うと、わたしは仮面とはまた別の所に『出現』し、斧を振り下ろした。不意をつかれた『害獣』は動きが止まるのを利用しようとしたが…。
「へぇ……かなり順応しているよ」
「わかってる、わかってる」
別の声の忠告をテキトーに流した後、受け止めた『身体』を見た。
「まぁ…『自由』の観点から見ればあまり意味は無いかな。」
声にそう返事し、斧を押し返そうとした時、銃声が鳴り響いた。急いで扇を開き、弾を弾き返した。
ーー補足説明ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
斧と扇はこの『二柱』の武器(というか護身用の装備)です。ちなみに扇は鉄扇ではありません。(単に少し改造しただけ。)
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すぐに分析ツールを使い、それぞれの思考や行動から作戦内容を推測する。
「それにしてもさ…」
分析ツールの結果を待っている間に攻撃されないように(あと面白いから)『害獣』と会話を試みる。
「例示を使っただけでそんなに驚く?」
そう聞くと、わたしが興味を持っていると、勝手に察した一人が言った。
「いえ、我々は直前の言動から未来を予測しようとしますので…」
へぇと、テキトーに相槌を打ちながら脳内に送られてきた情報を下に作戦を立てる。
そして、率直に感想を言う。
「実に…愚かだ。」
そう言うと同時に、斧を取り出し、『害獣』に向かって、振り下ろした。もちろん、斧が受け止められることぐらい想定内だ。逆に言えば、それが狙いでもある。しかし、私らの作戦とは、裏腹に事は進んだ。おもわず、舌打ちするぐらいには…。
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この精神は意外と居心地がいい。見渡す限り、緑と青しか見えない平原の中心で僕は思った。取り戻そうとしているあの地獄みたいな世界とは段違いだ。僕がそう願えばこの世界はそれに応じてくれる。しかも、自動攻撃機能まであるのだから。一生涯をここで暮らしたい。だが、作戦を進めなければならない。
「場所を海に変えてくれ。」
そう言うと、急に地面がグラグラと揺れだし、地面が二つに割れだした。
「あれが……バグ?」
進行方向から見るに、僕に向かっているようだ。そのことがわかった途端、疑問が一気に絶望へ変わった。あの中に落ちて、もしどこかに引っかかると、精神体でもひとたまりもない。見たところ、走ればなんとかなりそうなスピードまで落ちている。そうわかった直後、僕は全速力で走り出していた。走りながら、これからのことを忘れないように声に出しながら思い出していた。
「まず、逃げ切る。それから、果実のような精神体だった場合、穴を見つけて、飛び込む。球体のような精神体の場合、バグを……」
ここまで言った時、ハッと気がついた。急いで止まり、すぐそこまで迫っていた地割れを覗いてみると、そこには青々とした海が広がっていた。
「この世界は僕の期待を裏切らない…」
そうつぶやくと、僕は海へ安全に降りられるルートを探すため、辺りを散策し始めた。
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斧をブーメランのように投げる。しかし、矢が大量に当たり、対象へ届かず戻ってくる。これで30回目だ。勿論、うんざりもするがこれほど試すとデータも揃ってくる。一瞬で行われる矢を放つときの手癖から、夢幻界の第二級弓兵だと考えられる。
ーー補足説明ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
『夢幻界』とは元々、数えきれない程の空島で構成されていた世界だったのだが、あることが原因で、『夢幻界』のエネルギーが暴走、無限増殖し、他の世界も飲み込んでしまうほど巨大になり、慌てて神々によって壊された。とある組織が故意に『反復エネルギー』という物をばら撒いた可能性があるらしい。
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それにしても、あの世界で2級になるには数十年の鍛錬と神への強い忠誠が必要だ。だが、数十年の鍛錬が必要な割には言動が浅い。だが、これといって他に気になるものはない。今度こそ葱だと思ったが、また雑草だ。流石に飽きてしまい、始末しようとしたちょうどその時、タイマーがピピッと鳴った。
「もうそんな時間か…。」
「んじゃ、準備しますか」
その場に響く別の声に従い、私は姿を消した。
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なんとか安全に崖を下っていた僕は、ようやく水面の近くに来ていた。目を凝らして見ていると点滅する緑色の光が微かに見えた。
「ふぅ、一泳ぎするか…。」
頬を手で叩き、気合を入れザブンと水の中に飛び込んだ。ここまで来ると少し感慨深い物を感じる。思えば数十年前、あの『災厄』から僕の旅が始まった。ある日、いつものように鍛錬を始めようと外へ出ると少しピリピリした感触を肌に覚えた。すぐに慣れたが、異変はまだ続いた。一つ目の練習は一つの柔らかい金属でできた缶を何本も貫通させることだった。普段なら数十本は余裕で貫通するが、この時は数本しかできなかった。おかしいと思い缶を持ち上げ少し力を加えると何故か破裂した。幸い怪我はしなかったので、次は硬い金属でできた缶を貫通させようとした。いざ矢を放つと、缶に当たる直前に破裂し、破片が近くにあった木を薙ぎ倒した。その時、ある告知がが入った。それをみた瞬間異様な違和感を感じた。まるで世界が我々を拒絶しているようだった。それを感じたときにはもう崩壊は始まっていた。空島は常に爆発する可能性がある危険物となり、次々とそうなっていった。奈落の下には『獄炎界』が広がっている。あの世界はこの世界とは真逆だ。死んでもあそこには行きたくない。幸い他世界ヘ親睦のための使節団の一員として行ったことはある。とりあえず他世界ヘ渡ろう、その一心で気づくと見たこともない景色が広がっていた。そこからは長すぎてあまり覚えていない。そうこうしているうちに緑色の核が見えてきた。あれに寄生さえすればこの身体を人質とし、あの日常を取り戻せる。その嬉しさを噛みしめながら手を伸ばすと、急にバリアのような球状の空間に閉じ込められ、目の前にはあの『神』がいた。
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