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第99話 大波乱!異世界メンズ婚活パーティー(後編)

 シンハッタ大公国君主ムーンオーカー大公から、自分を含めた高齢独身者に出逢いの場を作って欲しいという相談を受けたおれは、アルフォードやバッカウケス、影騎士らを誘い、婚活パーティーに参加してそのノウハウを学ぶことになった。婚活パーティーとはいかなる魔物が潜むのか。はたまた天使が祝福してくれるのか。不安を孕みつつ我々はパーティー会場に臨むのだった。


 スーツを新調した我々は六本木ヒルズから再び“逆召喚”で空間転移し、東池袋にあるとしま区民センターの一室で行われている婚活パーティー会場に移動した。おれと永瀬のオブザーバーという立場を係員に理解させるのに苦労したが、まあ正規料金を払うならということで納得して頂いた。高級スーツ姿の長身の色男3人+1が入っていくと会場が一気に色めき立った。我々がひとつのテーブルにつくと、すぐに4人の女性グループがやってくる。どうやらこうやって各テーブルに移動して10分喋ったら再び移動するシステムらしい。


永瀬「えーと、じゃあちょうど4×4ということで男女揃ったので初めてよろしいでしょうか?」


ミキオ「じゃ男性側から自己紹介お願いします」


美咲「え、そちらの眼鏡の男性は参加されないんですか?」


ミキオ「今回おれとこの永瀬はオブザーバーということで、お気になさらず。お地蔵さんだと思ってくれ」


 女性陣は怪訝な顔つきをしていたが、構わずアルフォードが自己紹介を始めた。


アルフォード「アルフォード・ド・ブルボニア、25歳。オーガ=ナーガ帝国皇位継承順位第3位の皇子だ」


 女子たちがざわつきだした。なんで言っちゃうんだこの男は。やっぱり事前にもっと親しみやすい設定を決めておくべきだった。


ミキオ「というソシャゲにハマっている有田さんだ。職業はコンビニ店長」


渚「ですよね、あーびっくりした」


バッカウケス「えーと私は…」


 バッカウケスがどう自己紹介したものか困っていたみたいなので先におれが言った。


ミキオ「ばつかわ君、24歳。そっちのロン毛は影山君23歳、端っこのおじさんはえーと月岡さん45歳だ」


彩菜「けっこう年齢差あるね」


ルナ「オブザーバーさん以外の皆さんは日本人離れした顔立ちですね」


ミキオ「ああ、全員ハーフだ」


美咲「髪の色すご…」


 影騎士は黒髪だがアルフォードの髪は翡翠色、バッカウケスは濃緑色、ムーンオーカー大公は薄紫色である。染めてるわけでもないのだが、ガターニアの人々はみな色とりどりの髪色をしている。


ミキオ「ハーフだからな」


ルナ「2.5次元の舞台みたい」


永瀬「女性陣の皆さん、自己紹介お願いします」


美咲「加藤美咲、24歳です」


ルナ「佐々木ルナ、22歳です」


彩菜「大川彩菜、24歳です」


渚「内田渚、23歳です」


 女性のルックスのことを言うのは良くないが、皆さん普通にお綺麗だ。うちの永瀬ほどではないが。率直に言って婚活パーティーにもこんなに若くて綺麗な方々が参加されるんだなあという印象だ。アルフォードもバッカウケスもニコニコしておりこの場をエンジョイしているのが伝わってくる。ひとり年齢差のあるおじさんのムーンオーカー大公は所在無さげにし、影騎士は色恋にまったく興味がないのかずっと虚空を見つめている。


渚「えーみんなかっこいいねー」


美咲「スーツとかも高級そう」


ルナ「皆さんお付き合いしてる人とかいないんですか?」


アルフォード「いや、いないよ」


バッカウケス「私も独り身です」


美咲「あり得ないよね」


ルナ「本当。異国の王子様ってカンジ」


 感じというか、実際その通りなのだが。第1女子グループとの会話は意外と盛り上がり、オブザーバーの出る幕はないまま割と早く10分が経過し主催者側係員がやってきた。


係員「あ、じゃあ10分経ちましたので、次のグループと交代ということで…」


バッカウケス「え、もう?」


アルフォード「じゃあ連絡先だけでも…」


彩菜「スイマセン、ここだけの話なんですけど、わたしたちコンパニオン事務所から派遣されたバンケットレディなんです」


永瀬「え!?」


ミキオ「つまりそれは、客寄せとして…」


ルナ「なんかそんな感じです。こういうパーティーってやっぱり女性側の人数が足りないから、わたしたちみたいなのが派遣されたりするんです。大丈夫ですよ、皆さん超かっこいいし、絶対カップリング成立します!」


渚「本当、わたし彼氏がいなかったら普通に付き合いたいくらいです!」


 『彼氏がいなかったら』という言葉に反応してアルフォードとバッカウケスの形相が一瞬だけビシッと凍りついたのをおれは見逃さなかった。


美咲「応援してますね! じゃこれで!」


 そう言いながら立ち去っていく4人のバンケットレディ。


アルフォード「あ、あ…」


永瀬「え、婚活パーティーってそういう仕組みになってるの?! 詐欺じゃない?」


ミキオ「まあまあ、リアルに参加してる女性客もいるみたいだし…あ、次のグループ来たぞ」


由美子「よろしくお願いします」


いずみ「はじめまして~」


 我々のテーブルは男前揃いのためか、まるで回転寿司のようにすぐに次の女性グループが来る。今度の女性グループは明らかに先程のバンケットレディより年齢が上だ。女性のルックスのことを言うのは良くないが、どう見てもアルフォードとバッカウケスのテンションが下がっている。


永瀬「じゃ、女性陣から自己紹介を…」


いずみ「名和田いずみ、三十路です」


和恵「阿部和恵、アラフォーです」


典子「松田典子、うんじゅううん歳です」


由美子「渡辺由美子、トシは秘密です」


 こう言っては何だが、こっちは間違いなく客寄せではなくリアルに参加料を払って参加した女性だろう。というか皆さんうちの母親くらいの年齢じゃないのかな…態度には出さないがアルフォードとバッカウケスの表情がこわばっているのがよくわかる。この年齢の女性相手に何を喋ればいいのか、彼らの苦悩が伝わってくる。ムーンオーカー大公は逆に緊張がほぐれたのか饒舌になっている。影騎士は喜怒哀楽のどれでもない顔のままで精神がもうこっちの世界に無い感じだ。


永瀬「辻村クン、婚活パーティーってこういう…」


ミキオ「しっ。言うな」


 永瀬が言わなくていいことを言いそうになったようなのでおれが制した。どうでもいいがその永瀬もさっきからやたらと参加者の男性に声をかけられている。どう見てもこの会場に永瀬以上の美人がいないからなのだが。

 

係員「では10分経過しましたので、移動してください」


 空転する会話と空疎な時間が終わり安堵するアルフォードとバッカウケスだったが、次に来た女性グループはさらに年齢高めの4人だった。ふたりの表情はより曇り、まるで能面のような顔となった。




 2時間が経過し、歓談タイムは終了。これから配られた紙に気に入った異性の名前を3名書いてスタッフに提出し、両者の名前がマッチしたらカップリング成功だ。ちなみにおれの知り合いのムーブメント・フロム・アキラという男は20代の頃にものは試しにと婚活パーティーに参加してみたところカップリング成功し、喜んでいたら後で相手の女性にあなたは3番指名でしたよと告げられガックリしたことがあるらしい。


ムーンオーカー「いや、興奮しましたな! こういう体験は初めてだ!」


アルフォード「はあ…」


バッカウケス「ですね…」


 ひとり鼻息を荒くし気焔を吐くムーンオーカー大公。アルフォードとバッカウケスは婚活パーティーのカラクリがわかってしまったせいか、競馬で持ち金全部スッてしまった時のような顔になっている。あれから何組か良さげな女性たちも来たが、みなバンケットレディとのことだった。影騎士は最初から最後まで借りてきた猫状態だ。任務と割り切って来ているが、隠密である彼が本来生きる世界は剣と矢が飛び交う血の戦場であり、このような平穏なパーティーは彼の居るべき場所ではないのだ。無理に誘って申し訳無いことをした。


司会「それでは発表します! 今回は荒れに荒れましたが、無事3組のカップリングが成功しました! 本田春美様と上村弘幸様! そして篠山佐紀子様と堂本和明様!」


 カップルとなった2組の名前が告げられる。おそらく参加した女性のほとんどはうちのグループの男前3人の名前を書いただろうにその激戦を勝ち抜いている男性がいるのは凄いことだ。そのアルフォードとバッカウケスの名前が告げられないが、彼らはあきらめきれずにバンケットレディの名前を書いていたらしい。そんな無効投票しても仕方ないのに。影騎士は指名シートを渡してもペンすら持たなかった。


司会「さらに(まき) 佐和子(さわこ)様と月岡オンスン様、どうぞ前へ!」


 えっ、うちのグループからカップリング成功者が出たのか。月岡はムーンオーカー大公が名乗った偽名だ。そう言えばやたら気の合ってそうな40代くらいの女性がいたが、まさかご指名されるとは。拍手に包まれながら3組が壇上にあがる。自分だったらこれだけで相当にイヤだし、逆に壇にあがれなかったらと考えるとそれも心底イヤだ。人生とは常にこういう勝負を強いられるのだなあ。カップルたちは司会者に何やら勝利者インタビューめいたことを聞かれていたが、我々は一切興味がないのでそそくさと会場を後にした。おれたちはまるで荒らしのような立場となったわけだが、これは年齢で参加者をゾーニングしない主催者側が悪い。というかバンケットレディはもうルール違反だ。


ミキオ「で、どうだった、日本の婚活パーティーは」


アルフォード「訊くな」


バッカウケス「いやもう早く帰りたい。あったかい布団にくるまって寝たい」


ミキオ「何もそこまで気落ちしなくても」


永瀬「あ、じゃあせっかくだから日本で何かご飯でも食べていきません? わたし美味しい牛カツ屋さん知ってるんで!」


 永瀬は終始モテモテだったせいか目の輝きが違う。おれと永瀬で落ち込むふたりを元気づけていると今回我々のグループから唯一のカップリング成功者、ムーンオーカー大公が馬面を紅潮させて戻ってきた。


ミキオ「大公、おめでとう」


ムーンオーカー「いや、どうもどうも。相手の女性も凄く良い方でね、すぐにでもシンハッタ城に来てくれると」


永瀬「え? 結婚するんですか?」


ミキオ「大公、あんた日本の婚活パーティーの視察に来ただけなんじゃ」


ムーンオーカー「いや、まあ、当初はそうだったんだが、臨機応変にということで。そんな詰めんでください。あ、サワコさんこっちこっち、私の友人たちです」


 そう言ってムーンオーカー大公が呼び寄せたのは農協の保険窓口にいそうな40代なかばくらいの女性だ。もしかしたら大公より年上かもしれない。


佐和子「先程はどうも…事情はうかがいました。私、異世界の生活に興味があります。農協もやめます。それに」


 本当に農協職員だったらしい。目をきらきらさせてムーンオーカー大公とじっと見つめ合う佐和子さん。


佐和子「ムーンオーカーさんは残りの人生をすべて捧げてもいいと思えるくらい素敵な方です」


 おおお、思わず唸る一同。こんなクセの強い男のどこを気に入ったのか知らないがともかく本当の意味でカップル成立だ。波乱はあったがとりあえずめでたい。佐和子さんを後日召喚することを約束しておれたちは東京を後にし、懐かしき異世界ガターニアに戻った。

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