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第98話 大波乱!異世界メンズ婚活パーティー(前編)

 異世界77日め。もう馴染みになってしまったが、今日は馬面でおなじみシンハッタ大公国君主ムーンオーカー大公が事務所に来ている。この人は45歳とのことだが未婚で、人嫌いでクセのある人物ではあるが日本の漫画と温泉をこよなく愛し、自国内で温泉施設をいくつも作り漫画家を育成している日本文化大好き男である。


ムーンオーカー「ああ、お茶は結構。持参しておりますので」


 秘書の永瀬一香が出した王都の茶色茶を断り自前の水筒の蓋をコップにして何やら薬草茶っぽいものを注ぐムーンオーカー。国王なのに未だ独身なのはこういう性格だからではないか。永瀬はやや眉間に皺を作りながら茶を下げた。


ミキオ「今日はようこそ」


ヒッシー「久しぶりだニャ~」


ムーンオーカー「まあ、わざわざ事前に鳩でアポを取ってシンハッタくんだりから王都までやってきたのだから私も茶飲み話をしにきたのでは無いわけでね」


 ああ面倒くさい。本当にこの男は面倒くさい性格だ。このガターニアの王侯貴族はクセのある人物が多くて閉口する。


ミキオ「はぁ、で」


ムーンオーカー「子爵らもおわかりとは思うが私、独身でしてな。親兄弟や臣下の者から王統を絶やすつもりかと常日頃から口やかましく言われておるわけですよ」


ミキオ「でしょうな」


ムーンオーカー「さらに言えば私のみならず、私の家臣たちも妙に高齢の独身者が多い。このままでは革命もなしに我がオンスン大公家が滅んでしまう。子爵、異世界ニホンには何か無いのかね、こう、独身者たちに出逢いの場を与えるような方法が」


ミキオ「うーん…」


永瀬「まぁ、定番なのは婚活パーティーじゃないですか?」


 横から秘書の永瀬が言ってきた。


ムーンオーカー「なんですなそのコンカツというのは」


ミキオ「結婚活動、略して婚活。まあ要するにお見合いパーティーだな。おれもそっちの方面にはまったく明るくないが、日本でも高齢独身者の増加が問題になっていて、各地で出逢いのための様々な婚活パーティーが開かれている、らしい」


ムーンオーカー「おお、ニホンでも!」


ミキオ「とは言えおれも、日本から来たうちのスタッフもそんな年齢でもないので経験がなくて実態はよくわからない」


ムーンオーカー「そ、そうか…」


ザザ「んじゃあよ、このオッチャンとお前らでニホンに行ってそのコンカツパーティーってやつに参加してくりゃいいじゃねえか」


 話を聞きながら事務仕事をしていたうちの事務員、ギャルエルフのザザが口を挟んできた。


ムーンオーカー「お、オッチャン…」


永瀬「日本でお嫁さん探ししてどうすんのよ。こっちに連れてくる気?」


ミキオ「いや、婚活パーティーのノウハウさえわかればあとは後日こっちで別個にやればいいだろう」


ザザ「そ。あくまで視察ってことだ」


ムーンオーカー「いや…しかし…ただでさえ私は人見知りするのに異世界ニホンでお見合いパーティーだなんて緊張して何も喋れませんぞ。子爵らもついてきて下さるんでしょうな?」


ヒッシー「おれは奥さんに頃されるから遠慮しとくニャ~」


ミキオ「おれもそういう席は一番苦手なんで、すまないが」


ムーンオーカー「そ、そんな!」


ミキオ「ご心配なく。独身でこういうことにノリノリで、しかもイケメンの知り合いが3人いる」


 おれは召喚魔法用の“神々の装具(アーティファクト)”赤のサモンカードを取り出した。





アルフォード「で、私たちが召喚されたと言うわけか…」


バッカウケス「子爵! 私は公務中だぞ! 召喚するなら事前に相談してくれ!」


影騎士「左様、だいたいおぬしは簡単に召喚し過ぎる! 拙者は姫様の守役があるのだぞ!」


 おれが召喚したのはオーガ=ナーガ帝国の皇子アルフォードと連合王国ナガーダ地方領主バッカウケス侯爵、それに王女フレンダの身辺警護役でお庭番の“影騎士”の3人だ。アルフォードとバッカウケスはおれと同年代で文句のつけようのない美男子だ。


ムーンオーカー「まあ皇子と侯爵は社交界の顔見知りだが、そこの仮面の騎士は誰だね。その仮面を取りたまえ。失礼だろう」


影騎士「いや、その…拙者、影に生まれ影に死す宿命ゆえ名前も顔も親も捨てた身にて」


ミキオ「まあ、王族の前だしな。仕方ない、いったん仮面を取ってやれ」


 おどおどしながらしぶしぶ仮面を外す影騎士。取ると長くて艷やかな黒髪がふわさっとながれ、絶世の美男子が出現する。ミントグリーンの澄んだ瞳とつるつるの美肌で女と見紛うばかりの端正な顔だ。


ムーンオーカー「お、おお」


永瀬「え、フレンダ王女の後ろにいつもいるこの人ってこんな超絶イケメンだったの??」


ザザ「隠すの勿体ねえよな」


ムーンオーカー「余計イヤだなぁ! 私、こんな若いイケメンたちと一緒にお見合いパーティーに出るの? 完全に引き立て役じゃないか!」


バッカウケス「お見合いパーティー?! 我々、そんなものに出るのか?!」


ミキオ「そう、しかも異世界ニホンのだ。事はシンハッタ大公家の存続にかかってくる。是非協力してくれ」


アルフォード「ニホンの、お見合いパーティーか…まあ楽しそうと言えば楽しそうかな」


ミキオ「そうだ。お前たちは楽しく飲んで会話してくれればそれでいい。結婚相手なんか探さなくていい。どういうものかという空気感さえ掴めればそれでいい」


影騎士「今すぐの話ではないのだな?」


ミキオ「これから永瀬といったん日本にいって調べて予約してくる。最短で明日だな。また連絡する」


バッカウケス「ま、そういうことなら…」


アルフォード「はっは、大公! どうせならニホンの嫁を娶りなされ! こちらの秘書さんを見ればわかる通り、ニホンの女性は美人揃いですぞ!」


 言われ慣れているのか、永瀬は謙遜も照れもしない。そりゃそうよねみたいな顔をしている。


ムーンオーカー「う、うむ。私の目的はあくまで視察だが、それくらいの心意気で、ということですな」


影騎士「人助けなら仕方がない。日程が決まったら連絡をくれ。姫様にいとまを頂く」


 影騎士が再び仮面を装着したタイミングで召喚魔法のタイムアップとなり、彼らは元の場所に還って行った。




 翌日、東京の某プランニング企業が主催する婚活パーティーの参加資格を得たおれたちは“逆召喚”によりパーティー開始の1時間前に東京に転移していた。メンバーはおれ、秘書の永瀬、ムーンオーカー大公、アルフォード皇子、バッカウケス侯爵、影騎士の6人。やってきたのは六本木ヒルズの目の前だ。


アルフォード「うおおお…!」


バッカウケス「こ、こ、これは…!」


ムーンオーカー「やはりニホンの建築技術はとんでもない…!」


影騎士「これは天空の塔か! 以前来たイオンも凄かったが、これは天に向かって雲を突き抜かんばかりに屹立しているではないか!」


ミキオ「しっ。恥ずかしいから大声を出すな。ここは六本木ヒルズと言って、中はハイブランドのアパレルショップがいっぱい入ってる。お前たち、その格好じゃ何だからパーティーに参加する前にここで服を買っていこう。永瀬、見繕ってあげて」


永瀬「はい」


 1時間後、GUCCIやアルマーニなどのハイブランドのスーツで身を固めたイケメン+1たちが再び集結した。さすがに皆スタイルも良く、どこかの映画スターかと思うようなゴージャスイケメンに変貌している。3人揃って歩いているだけで勝手に写真を撮られるほどだ。唯一馬面で美形ではないムーンオーカー大公にしても長身であり王族としての気品があるためまあまあイケオジに見えないこともない。やはりネクタイにスーツというのは男をもっとも格好良く見せる服装なのだなあと実感した。ちなみにおれは今回オブザーバーとしての参加であり、簡単に白いシャツに黒いジャケット姿だ。永瀬も前職で着ていた丸の内OL風のパンツスーツだ。


ミキオ「いいじゃないか。皆ばっちり似合ってる。これはめちゃくちゃモテそうだ」


永瀬「ほんと。わたしがお相手に申し込みたいくらい」


アルフォード「えっ、そうなのか?」


バッカウケス「別に私は貴方で結構ですが」


永瀬「え、なにそれ、ヤだもう♡ 本気で言ってます?」


ムーンオーカー「いや、その感じは後にして頂いて。我々は異世界の婚活パーティーというものを学ぶためにこのニホンに来てるわけですから」


バッカウケス「そ、そうでした」


永瀬「すみません」


ミキオ「じゃそろそろ時間だから行こう」


 出過ぎた秘書をムーンオーカー大公がピシッと締めてくれたところで、おれは逆召喚用の青のアンチサモンカードを取り出した。いよいよ次回、我々は未知なる婚活パーティーに参加することになる。



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