第91話 華麗なるクインシー!女王陛下は15歳(第三部)
南方大陸ジオエーツ連邦で新女王が即位し、戴冠式前の友好使節としてなぜかおれとバッカウケス侯爵が指名された。ジオエーツの宮殿に来てみるとアルフォードまで居て、新女王は15歳の美少女。事情もわからぬまま話は勝手に進んでいったが、何と我々は女王の花婿候補としてオーディションされていたのだった。
アルフォード「な、何と…」
バッカウケス「婿選びだと?!」
ミキオ「説明しろ、なぜ我々3人だ」
クインシー「怖い顔しないで、お兄様…クインシーはこの国の君主となるにあたって考えたの。先王は世襲の暗君で国民は苦労した、わたしは必ず優れた血統を残そうと。それで御伽衆の魔導師に相談し、世界中を探させたのです。このガターニアでもっとも知勇に優れ、精力に満ち、見目麗しく、高い身分にあり、なおかつ独身の男3人を」
バッカウケス「それが我ら3人か」
アルフォード「悪い気はしないな、うん」
こいつらこの期に及んでまだニヤけている。どういう神経してるんだ。
クインシー「そしてその3人を競わせ、最良の1人を選ぶことでわたしは完全無欠の世継ぎを得ることになる。最初は3人とも採用して男性版の後宮を作ろうかとも思ったんだけど、生物学的にそれは不可能だと気付きまして…ですので友好使節としてお呼びして、勝手にオーディションさせて頂きました。お兄様たち、許して♡ そして3人でこのクインシーを奪い合って!」
ミキオ「大した肚だな、さすがはジオエーツの女龍」
クインシー「その二つ名、好きじゃないです」
ミキオ「だが話がわかった以上こんな茶番には付き合っていられない。アルフォード、バッカウケス、帰ろう」
おれはここを去るための青のアンチサモンカードを取り出した。
アルフォード「まあ待てミキオ。考えてみれば大したものじゃないか。彼女の行動はすべて国を憂えてのものだ」
バッカウケス「その通り。しかも我らはみな独り身。であれば婚約はともかく、お友達から始めるくらいのことは構わないのではないか?」
ダメだこいつら。言ってることは理屈が通ってなくもないがすっかり目が♡マークになっていやがる。
ミキオ「勝手にしろ、おれは帰るぞ」
レルフィ「おや? 子爵殿は先程『使節としての役目を果たす』と仰ったのでは?」
ミキオ「…わかった。使節としては働こう。この恋愛リアリティショーもどきに加わる気はさらさら無いがな」
クインシー「聡明なお兄様、だーい好き♡ ではセカンドステージ! ミキオお兄様、カスガーマ城の武闘場に転送して♡」
やらないと話が進まないのでおれは嫌々ながら青のアンチサモンカードを置き、呪文を詠唱した。
ミキオ「…ベーア、ゼア、ガレマ、ザルド…レウ、ベアタム。我ら5人、意の侭にそこに顕現せよ。カスガーマ城の武闘場」
おれがかったるく詠唱すると黄色の炎が吹き上がり、おれたちとクインシー、お目付け役の婆さんは城に戻った。
クインシー「セカンドステージは相撲♡ 剣や魔法に頼らない裸一貫の男の強さを証明するために相撲を取っていただきます♡」
ミキオ「す、相撲?」
おれの神与特性の自動翻訳能力が間違いなく『相撲』と言っている。このガターニアにも日本やモンゴルの相撲によく似た競技があるようだ。武闘場の一角には既に土が盛られた土俵がある。こっちの相撲は四角いエリアの中でやるらしい。
アルフォード「クインシーの言うことももっともだ。男たるもの武器や魔法に頼らず体ひとつで戦わねばならない時が必ずある筈だ」
バッカウケス「おやおや皇子、早くもクインシーなどと呼び捨てですか? ちょっと気が早いのでは?」
アルフォード「はっはっは、バッカウケス君、覚悟したまえよ。私は少々肉体に自信があってね」
バッカウケス「ほうそれは奇遇、私も普段から鍛えているのですよ」
クインシー「お兄様たち、仲良くしてね♡」
ああ嫌だ、バカ二人はすっかり洗脳されてるし、おれも何故かこのノリに付き合わされてるし。さっさとこんな茶番劇から抜け出したい。
レルフィ「では隣室でこれに着替えて下され」
そう言ってお目付け役の婆さんが寄越したのは長い布切れ1枚だ。
ミキオ「…もしかしてこれはフンドシ」
レルフィ「相撲と言ったらこれに決まっておりましょう」
おれがげんなりしている間にアルフォードとバッカウケスはさっさとフンドシを取って隣室に入っていった。なんであんな気合い入ってるんだか…ここでおれはハッと気付いた。こいつらは確かに鍛えているだろうが所詮は人間の膂力、神の子たるおれは神与特性で肉体ごと強化されているのだ。転生してから相撲など取ったことはないが、これは下手したら殺してしまうのではないか。
レルフィ「では最初の一番、アルフォード皇子対バッカウケス侯爵!」
バッカウケス「行きますぞ!」
アルフォード「怪我するなよ、侯爵!」
クインシー「きゃーお兄様たち、腹筋割れてる♡♡」
アルフォードの身長はおそらく185cmほど、長身だが腕も太く、均整の取れたギリシャ彫刻のような肉体だ。バッカウケスはたぶんおれと同じ177cmほど、体脂肪率低そうな鋼のようなボディだ。両者とも見ごたえのある美しい肉体で、フンドシを締めているのにちっとも滑稽味を感じない。その美しいふたつの肉体が真正面からぶつかり、せめぎ合いののちバッカウケスが投げ飛ばされた。相撲の決まり手で言う腰投げだ。パワーの差がそのまま出たのだろう。
バッカウケス「く、くそっ!」
土俵に座り込み土を叩くバッカウケス。いかにも悔しそうだ。
アルフォード「はっはっは、クインシー! 見ていたか?」
クインシー「素敵よ、アルフォードお兄様♡」
レルフィ「次の勝負、アルフォード皇子対ミキオ子爵!」
呼び出されたので仕方なくおれは土俵に上がった。おれは身長177cm体重67kgでやや筋肉質ではあるがいたって普通の体だ。見た目としては正直アルフォードやバッカウケスに較べると見劣りするだろうが、そんなことよりもこの文字通り神から与えられた身体強化能力はどれほどのものか。思いっきり手加減しておかないと怖い。
アルフォード「行くぞミキオ、真剣勝負だ! クインシーが見てるからな!」
この男、もう夢中だな。怪我をさせてはいかんので相手が子猫だと思って戦うことにしよう。子猫、子猫、子猫…
アルフォード「うおおおーっ!!!」
咆哮しながら向かい来るアルフォードを子猫をいなすようにそっと払った…つもりだったが彼の体は宙に舞い、壁を破壊し激突した。いかんやってしまった。おれの身体強化がこれほどのものとは。
アルフォード「う、うう…」
ミキオ「すまん、大丈夫か?! 勝つ気はなかったんだが!」
アルフォードはボロボロだったのでおれができる簡単な治癒魔法でアルフォードの打撲と傷を癒してやった。まわしも少し取れかかっている。
バッカウケス「な、なんというパワー、これが神の子か…!」
レルフィ「本日〆の一番、バッカウケス侯爵対ミキオ子爵!」
破れた道場の壁を見つつバッカウケスは震えながら土俵に上がった。
ミキオ「いやホントに大丈夫、今度は思いっきり手加減するから安心してくれ」
バッカウケス「手加減無用! 全力で参られよ! この勝負、クインシー陛下に捧げる!!」
子猫レベルじゃダメだ、相手を豆腐だと思うことにしよう。そっと扱わないと壊れる、丁寧に、丁寧に…。
バッカウケス「いやあっ!」
バッカウケスは真正面からぶつかってくる。こいつの性格と同じで工夫のない相撲だ。おれは瞬速で避けて彼の背中を人差し指でちょんとついた。相撲の決まり手で言う『はたき込み』に近い。バッカウケスは土俵に勢い良く倒れた。
ミキオ「大丈夫か?」
バッカウケス「う、ううっ…」
見るとバッカウケスに怪我はないようだが悔し涙を流している。なんだこいつは。おれは神の子なんだから仕方ないじゃないか。ズルしてるようなもんなんだから。
クインシー「すご〜い、ミキオお兄様かっこいい♡ 素敵よ、こっち向いて♡」
レルフィ「圧勝でござりまするぞェ」
ヤバいじゃないか、おれの肉体はどうやら手の抜きようのないほど強化されているようだ。このまま勝ち進んでいったらまさかおれがこの女と婚約…?




