表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
88/223

第88話 圧巻!巨大湖の水ぜんぶ抜く(後編)

 連合王国の国王から大陸最大の巨大湖であるトアノガト湖に出没するウミサソリの駆除を依頼されたおれは湖水をいったん全部抜くことを提案した。面倒くさい性格の熱血貴族バッカウケス侯爵なども加わるが作業自体はつつがなく進行するのだった。


ミキオ「ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我、意の侭にそこに顕現せよ、ウォヌマー王国オクタダム湖畔!」


 青のアンチサモンカードは“逆召喚”つまり転移を行うカードだ。裏面には複雑な魔法陣が描かれておりこれを利用することで召喚魔法をスムーズに使用できる。これによっておれは西方大陸ウォヌマー王国のオクタダム湖畔に一瞬で転移した。元のトアノガト湖ではおれが急に消えたように見えている筈だ。続いておれは赤のサモンカードを取り出し、召喚魔法のための呪文詠唱を行なった。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、トアノガト湖に棲む魚類すべてとその周囲の湖水半径5m!」


 どどどどどーーーっ!!! 呪文詠唱の後、赤のサモンカードから紫色の炎が噴出し空中に膨大な大きさの水が出現、一瞬の間のあと大瀑布の如くオクタダム湖に降り注ぎ収まっていった。あまりの水しぶきの量に水蒸気で雲が発生しているほどだ。おれの魔力量のキャパシティもレベルアップと共に相当増えたのだが、今回のMP消費は×魚類何十万尾分で、おれのMPはもうゼロに近い状態になってしまっている。MP、HPは疲労と同じで適切な栄養を摂取ししっかり睡眠を取って体を休ませないと回復しないのだが、今回はあらかじめ魔導十指のひとり医療神君ニノッグスから体力一発回復のハイパーポーションを貰ってある。おれはマジックボックスからハイパーポーションを取り出してぐびりと飲み干した。うーん、酸味のきついアクエリアスみたいな味だが、MPは見事に回復した。


 おれが“逆召喚”で単身トアノガト湖に戻ると湖水と魚類はすっかり消え、底が見えるまでになっていた。ヘドロまじりの湖底でエビが飛び跳ねており、遠方にウミサソリもぽつぽつと見える。役人や騎士たちは皆一様に驚き、賞賛の声があがっていた。彼らからしたら一瞬でトアノガト湖の水が消えたように見えたことだろう。


役人A「さすがは最上級召喚士(ハイエストサモナー)…」


役人B「この巨大湖の水が一瞬でかき消えたぞ」


ミキオ「騎士団諸君、お願いする」


将軍「あ、ハイ! 皆の者、かかるぞ!」


騎士たち「うおー!!!!!!」


 知己のハーヴィー・ターン将軍率いる騎士団が一斉に湖底に飛び込んで行き、ウミサソリの駆除に向かった。ウミサソリは鋏を持っているがサソリと違い尻尾に毒針はなく、甲冑を纏った騎士ならばそんなに苦戦する相手ではない。


将軍「ツジムラ子爵、狩ったウミサソリの死骸はどうなさる?」


ミキオ「回収して燃やそう。食っても旨くないらしいからな」


 水の抜けた湖底にはエビやカニの他、淡水性のアンモナイト、三葉虫やアノマロカリスなどもいる。異世界生活2ヶ月になるおれには居酒屋のメニューでよく見る食材に過ぎないが、地球の古生物者が見たら狂喜乱舞しそうな光景だ。


騎士C「将軍! こちらのウミサソリはだいたい駆除しました、我々はもう少し奥に行きます」


将軍「気をつけろよ! 子爵、思ったよりも順調ですな。ウミサソリも大したことは無さそうだ」


ミキオ「だといいのだが…む」


将軍「お前たち、どうした!?」


 騎士たちが踵を返しこちらに歩いてくる。だがその目はよどんで昏く、足元はおぼつかず、まるで夢遊病患者のようだ。その奥にはよく見ると小山のように大きな黒い物体がある。あの形状はもしかして二枚貝か?


将軍「こ、これは…!」


ミキオ「妖精、検索」


クロロン「これは(シン)というモンスターだね。司馬遷『史記』天官書に記述がある。蜃とは大ハマグリのことで、漢字に辰の字が入ってることからもわかるようにこう見えて龍の一種らしいね。蜃の吐き出す気によって楼閣が形づくられるとあり、これが蜃気楼の語源になっているよ」


 聞いたことがある。つまりあれは蜃気楼を作り出す怪物ということか。こいつが幻覚でウミサソリを操り、動けない自分に変わり兵隊として餌を運ばせていたのだろう。今もウミサソリの代わりに騎士たちを幻覚で操っているに違いない。距離が縮まると騎士たちはうつろな目のまま剣を構えた。


将軍「子爵、いったいこれは…」


ミキオ「あのハマグリの化け物は(シン)というモンスターだ。騎士諸君は奴によって操られているようだ」


将軍「厄介な…!」


バッカウケス「助太刀致す」


 バッカウケス侯爵が長槍を構えて入ってきた。


ミキオ「侯爵、危険だ、湖畔に戻っていてくれ」


バッカウケス「案ずるな、これでも槍をとっては中央大陸随一と言われた腕前だ」


ミキオ「ほう」


将軍「来ますぞ!」


ミキオ「将軍、侯爵、あのハマグリを直接見るな。蜃気楼で操られるぞ」


 やおら騎士たちが剣を抜き、我々三人に踊りかかってきた。バッカウケス侯爵は槍を振るい将軍と共に騎士たちを食い止めてくれる。なるほどバッカウケスは確かに一見しただけで見事な技量とわかる。


ミキオ「なかなかやるな、侯爵」


バッカウケス「子爵! はっきり言わせて頂く、私はこの国の宰相を目指す!」


ミキオ「ほう」


 野心家だとは思っていたが、宰相とはまた。まあこの男の血統と能力ならばあながち不可能でもないかもしれない。


バッカウケス「君はいずれ国王となるのだろう! だが私は王と言えど怖じずに口を出す宰相となるつもりだ! なめて貰っては困るぞ!」


 国王だと? 唐突に何を言い出すのだこの男は。


ミキオ「待て待て、何の話だ? おれは王になどなる予定もつもりも無いぞ」


バッカウケス「何を白々しい! 君とフレンダの仲は誰でも知ってるぞ、ミカズ国王陛下も君のことは婿に迎えたいと思っているのは明らかだ、そうなれば君は次期国王、子供でもわかる話だ!」


 なるほど、だからこの男はやたらおれに突っかかってきてたのか。まあ真っ直ぐな男なのだろう。わかりやすくて嫌いではない。


ミキオ「誤解があるな。フレンダとは単なる友人だし、おれは国王なんて面倒な地位は真っぴらだ。考えたこともない」


バッカウケス「言っていろ! 今のうちはな!」


 バッカウケスの槍の腕は確かで、もしかしたら将軍より強いかもしれない。(シン)に操られた騎士たちを傷つけぬように器用に捌き、ねじ伏せている。


将軍「お二人とも、なかなかの青春模様ではあるが、いい加減にしなされ! そろそろ腕が疲れてきましたぞ!」


 青春云々はともかく、将軍の言うことももっともだ。バッカウケスと将軍、彼らの働きで騎士たちは除かれ、(シン)への道は拓けた。今がチャンスだ。


ミキオ「ハマグリの化け物よ、お前には特に恨みもないが、迷惑なので倒させて貰うぞ。ぶった斬れ、万物分断剣!!」


 おれは万物分断剣を振るい、ぶ厚い貝殻、放つ妖気ごと(シン)を両断にした。湖底に満ちていた妖気は瞬時にして晴れ、操られていた騎士たちも脱力しその場に膝から落ちた。




ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、オクタダム湖に棲む魚類80%とその周囲5mの湖水!」


 ざばあああーっ!!!! 呪文詠唱が終わると空中に水のかたまりが現れ、轟音とともに再び大瀑布の如く流れ落ちトアノガト湖を元通りに満たした。水はしばらく波打っていたがすぐに安定した。こうして見ると水は青く澄み、湖畔の緑も豊かでなかなかに美しい湖だ。湖畔では先程の巨大ハマグリ「(シン)」が引き揚げられ、魔法使いの火炎魔法によってグリルされていた。貝類を焼くと蠱惑的な香りが発生する。おれは焼きハマグリが大好きなのだ。


騎士A「どんどん焼けますんで、皆さん食べてください!」


 騎士団の皆さんが曲刀で焼き(シン)を切り分けてくれている。下の貝殻には身から出た汁が溜まっている。あれが美味いのだがな。


フレンダ「はふはふ、美味しいですの」


将軍「これはたまらんな」


ミキオ「竜の一種と聞いたが、ちっとも竜らしくないな。普通にハマグリだ。醤油が欲しくなるな」


バッカウケス「子爵! 今日は悔しいほどに万事うまく行ったな。ウミサソリも(シン)も駆除され湖も元通り、我がクリアンベイカー領にも平和が戻った、まったく恐るべき男だ!」


ミキオ「どうも」


バッカウケス「これだけの大仕事を成しておきながら涼しい顔で泰然自若としている。まったくもってこ憎らしい男だ! だが私を甘く見るなよ、今後も君のことはライバルと思って遠慮なく行くからな!」


 最後まで面倒くさい男だ。この日はこうしておれたちは別れたが、この時のおれたちはまさか翌日あんな面倒事に巻き込まれることになるとは夢にも思わなかったのだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ