第86話 つかめ!異世界漫才大賞(後編)
“寿司つじむら”にて行われた弊社の忘年会で、余興として漫才大会が開催された。1番手のザザと永瀬による“ザザイチ”はスベリ倒したが、2番手のヒッシー夫妻による“メオト・インティライミ”、そして3番手のサラ&ガギによる“野蛮清楚”は素人とは思えないほどの完成度であり、おれは再び驚愕するのだった。
モモロー「野蛮清楚のお二人でした〜! えっ、凄い凄い! こちらもめちゃくちゃ面白いじゃないですか! どうですか審査員の先生がた!」
ミキオ「面白い。というか二人とも才能ある。おれが日本に連れてっていろんなお笑い賞レースに出させたいくらいだ。とりあえずおれは銀ぶちメガネじゃなくて良かったよ(笑)」
フレンダ「サラちゃんの淡々としたボケ、ガギさんの通る声でのシャープなツッコミ。どちらも素晴らしいですわ。息があってたけどふたりはもともと友達だったですの?」
サラ「はあ、別に友達ではないんですけど〜」
ガギ「はっきり言うな!」
サラ「賞金がまあまあ良かったんで誘ってみました〜」
ガギ「まあまあとか言うな!」
ガーラ「凄い、平場のしゃべりもいける! 最高だ! 100点だ!」
モモロー「ガーラさん! 採点結果は後でお願いします! ということで野蛮清楚のお二人でした〜!」
舞台をはけて客席に戻る二人。淡々としたボケとスピーディーなツッコミは初期のダウンタウンを思い出す。この才能、眠らせておくには惜しいな。素朴な少女と筋肉大女で見た目も面白いし、これマジで日本に連れてったら売れるんじゃないか。
モモロー「さ、いよいよラストのコンビです。なんとオーガ=ナーガ帝国の皇太女と皇子、実の姉弟コンビ! エリーザ・ド・ブルボニア殿下とアルフォード・ド・ブルボニア殿下で、コミカルエンパイア! どうぞっ!」
観客「(拍手)」
エリーザ「コミカルエンパイアだ」
アルフォード「どうぞよろしく」
エリーザ「さて、オーガ=ナーガ帝国の威信にかけて、適齢期の私と繁殖期の弟でこれから漫才を始めるわけだが」
アルフォード「姉上、姉上! 人間に繁殖期は無い!」
エリーザ「私は適齢期ゆえ結婚を前提とした彼氏を募集している。我こそはと思う者は宮廷まで」
アルフォード「次期皇帝の配偶者をそんな簡単に募集するな!」
エリーザ「ところでアルフ、異世界ニホンには特撮ヒーロー番組というものがあるらしいな」
アルフォード「唐突だな」
エリーザ「私は以前から考えていた。我が帝国でもその特撮ヒーロー番組を作って下々(しもじも)の皆に見せてあげたいのだ」
アルフォード「今の時代、あんまり『下々』とかは言わない方がいいと思うが、特撮ヒーロー番組とは具体的にどんな物を指すのだ」
エリーザ「まずはウルトラマンだ」
アルフォード「知っているぞ。銀色の体に光る目、手から光線を出し怪獣と戦う巨大ヒーローだ」
エリーザ「その通りだ、是非やってみよう」
アルフォード「ぎゃおお〜ん」
エリーザ「うわっ! 怪獣だ! 助けて〜! お母さ〜ん! おじいちゃ〜ん! お得意さ〜ん!」
アルフォード「ヒーローの方をやってくれ! 逃げまどう群衆の役はしなくていい! 何だお得意さんて」
エリーザ「おのれ怪獣!」
エリーザ、腕のあたりをガチャガチャいじくる真似をする。
アルフォード「何をしている」
エリーザ「ウルトラマンは何かこうおもちゃ的なアイテムをいじくって変身するのだ」
アルフォード「はっきりおもちゃと言うな!」
エリーザ「でやっ!」
アルフォード「おお、変身したな。ぎゃおお〜!」
エリーザ「だっ!」
エリーザ、アルフォードにぶつかる。
アルフォード「え、いま何をしたのだ?」
エリーザ「いや刺したから、ナイフで」
アルフォード「痛いいたい! あほか! なんか言ってから刺してくれ、何の前ぶれもなく刺すな!」
エリーザ「世界の平和がかかってるんだからそこはガチでやるべきではないのか」
アルフォード「怪獣を急に無言で刺したら番組的に盛り上がらないだろう! やり直しだ! ぎゃおおお~ん」
エリーザ「でやっ! だっ! へいやっ!」
エリーザ、アルフォードの後ろに回って腕をおろし、その腕をアルフォードに当てるアクション。
アルフォード「え、いま何をしたのだ」
エリーザ「いやチャックをおろして中の人間にスタンガンを当ててやったのだが」
アルフォード「のわっ! 痛い痛い! 姉上っ! チャックはもう絶対ダメ! 聖域だから! チャックをおろした瞬間に番組として成立しなくなるから! スタンガンなんてもっての他だ、姉上は現実とフィクションの区別もつかないのか!!」
エリーザ「ウルトラマンの話、もういいか?」
アルフォード「姉上が言い出したんだろう! 飽きるな!」
エリーザ「こんな巨大ヒーローを描くには制作費が大変だ。セットも組まなきゃならない。我が帝国の手に余る」
アルフォード「やる前からわかりそうなもんだがな」
エリーザ「日本の特撮ヒーロー番組と言えばもうひとつある。仮面ライダーだ。改造された悲しみを仮面で隠し、たった一人で悪の組織と戦う孤独なヒーロー」
アルフォード「近年はちょっと違うみたいだがな」
エリーザ「変身っ!」
アルフォード「おっ」
エリーザ、股間のあたりをガチャガチャといじる。
エリーザ「マスターキー、チャージアップ、オーケー。チェンジ、コンプリート! ユア、カメンライダー。イッツァ、エントリーモード! ゴートゥービクトリー! パーパッパパー♪」
アルフォード「長いな! その作業やってる間にどんどん怪人が暴れて被害者が増えるぞ」
エリーザ「最近の仮面ライダーはこうやっておもちゃ的な腰道具に小瓶を入れたり手帳を入れたりすると腰道具が喋ったり歌ったりして変身するのだ」
アルフォード「真面目に戦え! 腰道具に歌わせておくな! あとおもちゃというキーワードはいったんNGで!」
エリーザ「行くぞ怪人、必殺技をくらえ!」
アルフォード「おおっ」
エリーザ、再び股間をガチャガチャといじる。
エリーザ「マスターキー、オーソライズ! ユーザーフレンドリー! ファイナルウエポン、スタンバイオーケー! ゲットレディ、エンドレスブリザード! ゴートゥービクトリー! パーパッパパー♪」
アルフォード「だから長い! やってる間に怪人がピストルで脳天撃ち抜くぞ! そしてなぜ毎回『ねるねるねるね』のテーマが鳴る!」
エリーザ「まだ仮面ライダーの話続けるのか?」
アルフォード「姉上が言い出したんだろう!!!」
エリーザ「ウルトラマン、仮面ライダーもいいが実は日本の特撮ヒーロー番組には長い歴史を持つもうひとつのシリーズがあるのだ」
アルフォード「聞いたことがある、スーパー戦隊だ」
エリーザ「そう、サウナやジャグジーなどの設備も充実し、家族で楽しめる巨大な温浴施設」
アルフォード「それはスーパー銭湯だ! 私が言ってるのはスーパー戦隊」
エリーザ「そう、デコルテや脇から胸を支えてバストが垂れないように形を保ち吊り上げる役割をする靭帯」
アルフォード「それはクーパー靭帯だ! 女性にとってはそれも頼もしいヒーローだが!」
エリーザ「冗談だ。スーパー戦隊とは不思議な力で変身し悪の組織と戦うカラフルな5人組のチームだ」
アルフォード「よく知っているではないか! そう、だいたい赤がリーダーで他に色とりどりのメンバーがいる」
エリーザ「我々の作る番組では同じことをしても芸がないからな。総勢20人の戦隊で行こう」
アルフォード「多過ぎる! 絶対に持て余す! だいたい色がそんなに無いだろう」
エリーザ「レッド、ブルー、イエロー、ピンク、グリーン、ブラック、ホワイト、ゴールド、シルバー、パープル、オレンジ、グレー、スカイブルー、ブラウン、ビリジアン、デニム、チェック、ボーダー、ペイズリー、シースルー」
アルフォード「ほらそんなことになる! デニムはもう素材だろう! 後半柄ものが増えてくるし、シースルーに至ってはもはや全裸に等しい!」
エリーザ「怪人だ! 怪人が現れたぞ!」
アルフォード「来たな、スーパー戦隊!」
エリーザ「イエロー、ブルーその他は俺と来い! チェックとボーダーとペイズリーは待機、シースルーはなるべくカメラに映らないようにハケとけ!」
アルフォード「だから言ったろう! 人数多過ぎて柄もの組は待機に回されてるじゃないか、明らかにシフトがおかしい! シースルーやっぱり映せないし!」
エリーザ「行くぞ、必殺…」
アルフォード「おおっ?」
エリーザ「集団暴行だ!」
アルフォード「いや卑怯! 人数の多さを武器にするな! もう戦闘員より数が多いじゃないか!」
エリーザ「ピンクとブラックは背後から撃て! スカーレットとバーミリオンとカーマインは逃げた戦闘員を追え! ボルドーは地元の警察に連絡して地域住民に避難勧告を出してもらえ!」
アルフォード「絶対勝てない! ケアも万全だし! というか後半の色さっきいなかったぞ! 赤系ばっかり!」
エリーザ「我らスーパー戦隊は勝利のためならどんなことでもやるのだ!」
アルフォード「いい加減にしろ」
エリーザ&アルフォード「どうもありがとうございました」
モモロー「コミカルエンパイアのお二人でした〜! すご~い! こちらもなかなかのクオリティ! どうですか審査員の先生がた!」
ミキオ「まあ元々キャラ立ちしてる二人なんで面白くて当然と言えば当然だが、さすがとしか言い様がない。よく日本の特撮ヒーロー番組を勉強したな。『ねるねるねるね』まで」
エリーザ「帝国の威信がかかっているからな」
フレンダ「特撮ヒーローというのがよくわかりませんが、面白かったのは間違いないですの」
ガーラ「最高だ! 間違いない! これも100点だ!」
モモロー「それでは審査結果を発表して頂きましょう! 出場者の皆さんはこちらにお集まりください!」
ぞろぞろと舞台に集まってくる出場者たち。ザザやガギなどは出番が終わったあとは飲みまくっており、既に出来上がっている。
モモロー「結果発表! ミキオ先生、野蛮清楚! フレンダ殿下、メオト・インティライミ! ガーラさん、野蛮清楚! 優勝は野蛮清楚のおふたりです!!」
ミキオ「おめでとう」
おれが賞金を持ってサラに渡すと、観客と他の参加者たちから盛大な拍手が起こった。
サラ「おおきに~」
ミキオ「今大会、非常にレベルが高かった。正直採点も迷ったがやはり間の良さ、演技の精度、ネタの良さなどで僅差で野蛮清楚という感じかな」
フレンダ「ヒッシーさん御夫婦は奥様の女を捨てた演技が素晴らしかったですの。帝国のお二人は息が合ってて玄人はだしの実力を感じましたの。ザザイチのお二人は来年に期待ですの」
ガーラ「どれも最高だ! 全員100点だ!」
ガギ「ううっ、あ"り"がと"う"~」
ガギが泣いている。こいつ泣き上戸か。こんな勇猛なアマゾネスも泣くんだな。鳴り止まぬ拍手のなか大女の慟哭は続き、忘年会の盛り上がりは最高潮を迎えた。