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第83話 灼熱のレース!南方大陸横断ラリー(第四部・完結編)

 灼熱の大地、南方大陸で行なわれる魔馬を使った過酷なホースレーシング大会、その名も南方大陸横断ラリー。破滅結社が潜入しているとの情報が入ったためおれとガーラはレーサーとして参加し、内部から調査することとなった。


実況「さあスタートより11刻間半(23時間)、先頭集団は最終エリア、イトイガの断崖絶壁の道を走るオアシラス・クリフラインに到達! 偉大なるチャンピオン、ジンモティと優勝候補ジャクソヴァの脱落という大ハプニングを経て現在のトップは前々年度優勝の猛将ユヒムロ! 続くはケイゾック、ピッツナス! そして一躍先頭集団に躍り出たジュニアレースV2のゴールデンルーキー、カネッグ!! さらに後方より追い上げる謎多き新人レーサー、ラムジッツ! これはわからなくなってきました!」


 オアシラスという断崖絶壁に無理矢理付けられたような狭い道を走る5頭の魔馬。足を踏み外せば一瞬で海に真っ逆さま。最終コースに相応しい難関だ。おれとガーラは先頭集団の最後尾についていた。


ガーラ「ミキオ、まだ続けるのか? 我々の目的は果たしたのではないか」


ミキオ「いやジャクソヴァが破滅結社の工作員とは思えない。他のレーサーはみな脱落したから情報が確かなら真の工作員はこの中にいる筈だ。ゴールまで気を抜けないぞ」


 狭い道なので追い抜くことも難しい。おれは勝つことが目的ではないのでこの位置でいいが、他の連中はこの道を抜けるまで我慢だな…と思っていたら2位のケイゾックが仕掛けてきた。


実況「あーっとケイゾック、馬トラブルか!? 急停止してしまった、しかしこれでは後続馬が止まれません、危険、非常に危険!! 後続のピッツナスとカネッグが落下し…」


カネッグ「うわっ!?」


ピッツナス「やべぇっ!!」


 狭い断崖絶壁の道、それでなくとも巨大な魔馬が走るには1頭がギリギリの道幅、そこを急停止したのだからたまらない。全速力で追走していた後続のピッツナスとカネッグが急いで手綱を引いたがバランスを崩し馬もろとも崖から落下していった。おれはすぐさまカードを取り出し呪文を詠唱した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、ここに出でよ、汝、カネッグ、ピッツナスとその馬!」


 ぶおうっ! サモンカードから紫色の炎を上げて崖道から落下したふたりが馬とともに出現し、コースに降り立った。


実況「…ていない?! 確かに落ちたように見えたのですが、コース内に落馬しただけです! 危なかった!」


ピッツナス「い、一体どうなって…」


カネッグ「やべえ、幻覚見ちまった。立ち上がれマダラオー!」


 カネッグもピッツナスも馬を立たせてレースが続く。1位のユヒムロと2位のケイゾックははるか先だ。


ガーラ「危ないところだったな」


ミキオ「ケイゾック、恐ろしい真似をする。おれがいなかったら二人とも死んでたぞ」


ガーラ「とすると破滅結社の工作員はヤツか」


ミキオ「まだわからん、性格が悪いだけかもしれない」


実況「さあ悪夢のクリフラインを抜け、コースは広い公道に! ゴールのフェイスイ峡公園まであとわずか10トーク(=5km)! トップを走るは猛将ユヒムロ! 続く若き俊英ケイゾック! 巨匠(マエストロ)ピッツナス! 奇跡のゴールデンルーキー・カネッグ! 謎多き新人ラムジッツ! 勝利の女神は誰に微笑むのか?!」


 ダダダダダッ!! ならされた広い道を土煙をあげ地鳴りをたてて怒濤の如く駆けていく5頭の魔馬。おれは意識して最後尾をキープしていたがカネッグは一角獣(ユニコーン)と一体となり猛然とコースを走破していく。


カネッグ「もっとだ! もっと早くだ! マダラオー!!」


実況「カネッグ、ぐんぐん追い上げている! 信じられないスピードだ、ピッツナス、ケイゾックを追い越しいまトップに並んだ!!! ユヒムロか、カネッグか! ゴールまであと4トーク、迫熱のデッドヒート!!」


 いよいよゴールであるフェイスイ峡公園が見えてきた。コース沿道はもう観客でいっぱいだ。早く工作員を見つけないと…なんだ? ユヒムロとその鋼鉄馬が心なしか赤く光って熱を放っているような…。


マイコスノゥ「ミキオ、聞こえてる? マイコスノゥよ」


 おれの脳に魔導十指のひとり“絢爛たるマイコスノゥ”がテレパシーを送ってきた。忘れていたが今回の南方大陸横断ラリーは魔導十指が人知れず警護しているのだ。


マイコスノゥ「遅くなってすまないわね。単刀直入に言うわ。工作員はユヒムロよ。最近になって破滅結社と接触があったことがわかったわ」


ミキオ「ヤツの狙いは何だ」


マイコスノゥ「待って、いまカグラムに代わるわ」


カグラム「ヤツの切り札は悪魔の装具(アーティファクト)大崩玉(エクスプロージョン・ジェム)。魔界で産まれたと言われる人造の魔法石じゃが、一定の呪文を詠唱することにより起爆し、一国を焦土に変えるほどの大爆発を生じさせるという。あの鋼鉄馬はそれを飲み込んでいると思われる」


 何ということを。そんなことをすればこの公園どころではない、人間や動物など何億もの命が失われ、ジオエーツ連邦そのものに計り知れない被害を与えることになるだろう。


ミキオ「止める方法は」


カグラム「呪文詠唱を遮るか、大崩玉(エクスプロージョン・ジェム)を物理的に破壊するしかない。おそらくユヒムロは客席に突っ込んで自身もろとも爆破するつもりじゃろう」


 つまりユヒムロか彼の鋼鉄馬を殺れということか。多くの命を救うためとは言えあまり人殺しなどしたくはないが、まあやるしかないか。


マイコスノゥ「こうなってはレースどころじゃないわ。我ら魔導十指もすぐに行く。それまで頼むわよ、ミキオ」


ミキオ「わかった」


 5組の騎馬はゴールのあるフェイスイ峡公園に入り、我々は大歓声で迎えられた。公園内は出店などもあり大盛況だ。これは確かに2万人はいるな。


ユヒムロ「破滅到来、破滅渇望、破滅清浄…」


カネッグ「うおおおーっ!!!」


実況「デッドヒートはゴール直前まで続く! 恐るべき執念、ユヒムロはその愛馬を紅潮させてラストスパートに臨む! 鋼鉄馬、真っ赤だ! 真っ赤に輝いている!! しかしカネッグも負けてはいない、美しき青毛の一角獣(ユニコーン)がさながら一迅の風の如くゴールまで突っ走る!! カネッグか、ユヒムロか! ユヒムロか、カネッグか! ゴール!! ゴール!!! 角の差で一角獣(ユニコーン)が早かった! カネッグ! カネッグだ! 第32回南方大陸横断ラリーを制したのはなんと本大会初参加、奇跡のゴールデンルーキー、カネッグ・ナオウェイ!!!!!」


カネッグ「やった! やったぞ! うおおーっ!!!」


 レースはカネッグの優勝となったが、ユヒムロの鋼鉄馬は停止もせずその勢いのまま観客席に突っ込んで行く。おれはマジックボックスを開くと、事務所の神棚にあげてあった万物分断剣オール・シングス・ディバイダーを中から取り出した。


ミキオ「行くぞ、BB!!」


万物分断剣「応!」


 おれは馬モードのガーラからBBこと万物分断剣に飛び乗り、サーフボードのように滑空してユヒムロの鋼鉄馬の前に飛んで行った。


ユヒムロ「この腐れ世に永遠の破滅を…!」


 達観の表情のユヒムロ。長い呪文詠唱が終わったのだろう、鋼鉄馬の体内の大崩玉(エクスプロージョン・ジェム)が張り裂け大爆発が起きた。刹那、おれは大上段から万物分断剣を振り下ろしその膨大な爆破エネルギーを真っ二つに切り裂いた。万物分断剣はその名の通りひとたび振るわば物質のみならず光、磁力、重力に魔力、エネルギーまでも断ち斬る神剣である。大爆発の0.001秒後に切り裂かれた爆破エネルギーは雲散霧消していった。観客への被害はゼロだ。


観客A「な、なんだ?」


観客B「ユヒムロの乗ってた馬が爆発したぞ…」


観客C「あそこに立ってるのはラムジッツだろ、なんで剣を持ってるんだ」


 ユヒムロの鋼鉄馬は爆発によって粉々となりあちこちに破片と金属の部品が爆散していた。これでは鋼鉄馬というより機械馬だ。おそらくこれもガーラ同様、古代文明の錬金術師によって生み出されたロボットなのだろう。騎乗していたユヒムロは生きてるのか死んでるのかそこら辺に転がってるが、まあ自業自得だ。おれがBBをはらい安堵していると、絶妙なタイミングで魔導十指のメンバーたちが各自思い思いのポーズで空中から降りてきた。マイコスノゥから手信号で来い来いと指示されたのでおれもBBに乗ってそこに加わった。


観客D「あれは…魔導十指?」


観客E「ガターニア最高位の魔導師10人だ」


観客F「ラムジッツもその一人なのか」


観客G「すげえ、全員揃ってるの初めて見たぞ」


マイコスノゥ「静粛に! 静粛に! 我らは魔導十指である! この大会にテロリストが潜入していたという情報が入ったので我ら十指がその犯行を未然に防いだ、それだけだ!」


 魔導十指の仕切り役、女王マイコスノゥがそう宣言した。よく言うわ、お前らほとんど何もしてないじゃないか。


マイコスノゥ「犯人のユヒムロにはこれから事情を訊くことになるだろう。だがそれによって新たなるチャンピオンの勝利がいささかも曇ることはない!」


ナイヴァー「祝福しよう、チャンピオン」


カネッグ「あ、ど、ども」


 魔導十指の貴公子(プリンス)ナイヴァーがカネッグと肘を突き合わせる挨拶をしたあと、おれたち十指は空中に浮上し消えた。実際には頃合いを見て目立たないように地上に降りて解散したのだが。その間もフェイスイ峡公園は新チャンピオンのカネッグを称える歓声がとどろき、シャンパンシャワーが飛び交っていた。

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