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第82話 灼熱のレース!南方大陸横断ラリー(第三部)

 灼熱の大地、南方大陸で行なわれる魔馬を使った過酷なホースレーシング大会、その名も南方大陸横断ラリー。破滅結社が潜入しているとの情報が入ったためおれとガーラはレーサーとして参加し、内部から調査することとなった。


 スタートから6刻間(12時間)が経過し、おれと愛馬ガーラはアップダウンの激しい山岳地帯の第3エリア・ヤティホを越え、南方大陸最大の都市である第4エリアのナオエーツに入った。つまりレース全コース中間あたりにようやく到達した形である。平坦で単調なコースが何時間も続きはっきり言って飽きた。というか眠い。長時間のドライブを経験した者にはわかると思うが、人間の集中力なんて2時間ももたないし、仮に肉体的な疲労がなくても精神的に飽きてくるものなのだ。そもそもわざわざレーサーに扮して潜入捜査しなくてももっと効率のいい方法があったのではないか。今は周りには誰もいない。真夜中で実況のワイバーン乗りの目も届かないだろうし、ちょっと逆召喚で次のエリアまで転移して休もうかな…そう考えていた時、おれは信じられない光景を目にした。


ミキオ「おい! 何をしている!」


 目の前に倒れているのはチャンピオンのジンモティだ。脇腹から血を流している。


ジャクソヴァ「チッ!」


 傍らにいた“狂犬”ジャクソヴァが手に持っていたナイフを捨て、自分の水棲馬(ケルピー)に乗って逃げていった。休憩中のジンモティを闇にまぎれて襲ったのだろう。ジャクソヴァの身体はガリガリに痩せて闇夜の中でも両眼がギラギラと光っている。


ジンモティ「う、うう…」


 ジャクソヴァをほっておくわけにもいかないが、優先順位が違うな。出血の量が尋常じゃない。看護師を呼ばなければ。おれはサモンカードを取り出した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、ナイチンゲール!」


 カードの魔法陣の中から出現したのは19世紀のフィレンツェに生まれ医療分野に於いて数多くの業績を残したクリミアの天使ことフローレンス・ナイチンゲールである。クリミア戦争従事時、37歳頃の時代から来て頂いた。政府や軍にも直言を辞さなかったというタフさは鋭い眼光ときびきびした動作に表れている。


ナイチンゲール「なんだい、ここは! あたしは忙しいんだよ!」


ミキオ「すまない、怪我人がいるんだ」


ナイチンゲール「それを先に言いな! 刺されてるね。まずは止血だ」


 失礼ながらナイチンゲールは“おっかないおばさん”という印象だ。おれは事前に用意していた応急治療セットをマジックボックスから取り出してナイチンゲールに渡し、ジンモティを止血してもらった。今まで乗っていたガーラにはジャクソヴァを追うよう指示した。


ミキオ「ガーラ、追え! ノーマルモードだ」


ガーラ「心得た」


 ガーラはすぐさま変形(トランスフォーム)し、足の裏からジェットを噴射して飛んでいった。


カネッグ「お、おい! 何やってんだ?!」


 後からやってきたのはカネッグだ。いいタイミングだ。


ミキオ「お前の父親はジャクソヴァに襲われた」


カネッグ「なんだって?!」


ナイチンゲール「出血量が多い。輸血が必要だよ。このままじゃ失血死してしまう」


カネッグ「そ、そんな」


ミキオ「妖精! チャンピオンの血液型がわかるか」


 おれにしか見えない妖精はすぐに地面に流れたジンモティの血に触れ、分析を開始した。


クロロン「O型だね」


 おれはAB型だ。合わないな。そもそも地球人の血液型とガターニア人の血液型が適合するのかどうかもわからないが。


ミキオ「カネッグ、手のひらを見せろ」


カネッグ「いったい何を…」


 案の定、ずっと手綱を握っていたカネッグの手は革の手袋をしていてもなお血が滲んでいる。すぐに妖精がカネッグの血液型を分析した。


クロロン「こっちもO型だよ」


ミキオ「よし! カネッグ、すまないがお前の血を少し貰うぞ」


カネッグ「あ、ああ。なんでもやってくれ」


 おれは赤のサモンカードを取り出し呪文詠唱を開始した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ。汝、カネッグ・ナオウェイの血液500ml」


 詠唱が終わるとサモンカードに描かれた魔法陣から紫色の炎が噴き上がり中からカネッグの真っ赤な鮮血が球体となって出現した。


カネッグ「え? え? え?」


ミキオ「これは患者の息子の血だ、返還先を患者の全身の血管内に指定しておいた」


ナイチンゲール「あんた魔法使いかい? 便利な力持ってるじゃないか」


ミキオ「どうも。しかし返還まであと5分かかる。それまでおれはここにいて血液を空中で固定しておかなければならない。カネッグ、お前はレースに戻れ」


カネッグ「で、でも、父さんが」


ジンモティ「何を…してる…早く行けカネッグ…お前はレーサーだろう…」


カネッグ「と、父さん!」


ジンモティ「カネッグ、お前、まだ俺にわだかまりを持ってるんだろ…」


カネッグ「べ、別にオレはそんなこと…」


ジンモティ「言っとくけどな、俺は母さんにフラレたんだぞ…あの頃の俺は稼げない三流レーサーだったからな…」


カネッグ「え、そ、そうなのか」


ジンモティ「当たり前だ…あんないい女、俺から捨てるわけがない…」


ミキオ「安心しろ、あんたの息子はもう一人前だ。あんたは輸血が終わったらおれが医療チームのところに転送してやる」


ナイチンゲール「このナイチンゲールが診たんだ、治らない筈はないよ。後でナイチンゲールに診てもらったって皆に自慢しな」


 おれとナイチンゲールがチャンピオンにそう言うと、ノーマルモードに変形したガーラがジャクソヴァを捕獲して戻ってきた。


ジャクソヴァ「まさか見られていたとはら、しくじったれ…」


ミキオ「お前、なんでこんな真似を」


ジャクソヴァ「へへ、大した理由はねえ、ジンモティさえくたばっちまえば俺が優勝れきると思ったからら…」


 呂律が回っていない。明らかに薬物中毒だ。衝動的な犯行のようだし、この動機では破滅結社の工作員ではなさそうだな。


ミキオ「ガーラ、そいつを抑えとけ。輸血が終わったら運営に引き渡す」


ガーラ「心得た」


カネッグ「待ってくれ、ちょっとそいつに用事がある」


 カネッグがつかつかとジャクソヴァの元に歩いていった。


カネッグ「喰らいやがれ、このイカレ野郎!!」


ジャクソヴァ「ぶげっ?!」


 ジャクソヴァの頬にカネッグの全体重を乗せたパンチが当たった。


カネッグ「へ、これで気が済んだってわけじゃねえが、続きは今度にしてやるぜ。チャンピオン、養生してくれ。今年はオレがチャンピオンだ!」


ジンモティ「ふ…」


 カネッグは青毛の一角獣(ユニコーン)に飛び乗ってコースに向かって駆けていった。



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