第80話 灼熱のレース!南方大陸横断ラリー(第一部)
異世界61日め。おれは西方大陸の南ウォヌマー王国ウラッサー城で行なわれる魔導十指の月例会に来ていた。魔導十指とはこのガターニアで最高位の魔導師10人に与えられた称号であり、その10人による最高会議のことだ。おれは魔導騎士ガーラとの戦いの際に“不死竜”ジョー・コクーからその座を譲られ魔導十指のメンバーとなっており、月例会には今回初参加だ。
貴公子ナイヴァー
絢爛たるマイコスノゥ
“怪腕坊”カンダーツ
“月光卿”ナスパ
“聖賢”カグラム
鉄壁のアルゲンブリッツ
“医療神君”ニノッグス
嵐のフュードリゴ
“マスター・エクソシスト”シャルマン
“ハイエストサモナー”ミキオ
以上が魔導十指のメンバーである。今日は欠席者なく全員出席していつもの円卓に座している。
マイコスノゥ「…会計報告は以上です。鉄壁のアルゲンブリッツ君は早めに会費を納めるように。続いての議題だけど、明後日から行なわれる南方大陸横断ラリーに破滅結社のメンバーが参加者として潜入しているとの情報が入っているわ」
フュードリゴ「なんと!」
カンダーツ「あの大会、ゴールはイトイガ国のフェイスイ峡公園たい。確か毎年観客が2万人とか押し寄せちょる」
ナイヴァー「何か事があれば大パニックになるな、必ず阻止せねば」
ミキオ「いや、その大会だが、うちの事務所に警護の依頼が来ている」
南方大陸横断ラリーとは、この異世界ガターニアではおれたちの住む連合王国からもっとも遠い南方大陸で行なわれる魔馬を使ったホースレース大会のことだ。北端のカキーザ藩王国から南端イトイガ国まで文字通り大陸を走り抜くわけだが、峠道や砂浜など難所が多く、完走率が10%を切る過酷なレースだ。前年度優勝者のタイムは完走まで地球時間で24時間あまりだった。
ナスパ「ちょうどいいじゃないか。じゃあミキオが変装してレースに参加し、内部から探ったらいい」
シャルマン「左様左様。外部からは我々が警護する」
ミキオ「いや、レースに参加と簡単に言うがおれは乗馬経験がないし馬も持っていない」
カグラム「お主のところに預けてある魔導騎士のガーラがおるじゃろ。伝え聞くところによるとあやつは変形機構を持っておるらしい。馬にも変形できると思う」
ミキオ「それ、確定情報なのか? もうひと月近くウチにいるがそんな話聞いたことないぞ」
フュードリゴ「と言うことで、決まりだな」
ニノッグス「いやぁ優秀な新人が入ってくれて良かった」
マイコスノゥ「では月例会は終了ということで、懇親会に移らせて頂きましょう。今月はミキオの歓迎会でもあるので良いお酒を用意したわよ!」
ジジイども、あっさりとおれに面倒事を押し付けやがった。まったくいつの世も新人は辛い…。
懇親会という名の飲み会を早めに切り上げたおれは翌日事務所に出勤して事の顛末を報告し、ガーラに訊いてみた。
ガーラ「馬に変形? できるぞ」
ミキオ「できるのか!」
ガーラ「おれは太古の錬金術師が産んだシックスチェンジャーと呼ばれる6段階変形機能を持った人造人間だからな。馬や鳥、魚竜などに変形できる」
そう言いながらガーラはギガゴゴゴと音をたてつつボディーのパーツを細々と移動させて別形態に組み換えた。なるほど確かにこれは紛れもなく馬に見える。ただし全身装甲のロボット馬だが。
ミキオ「おお…」
ザザ「太古の錬金術師の工夫が凄ぇ!」
ヒッシー「こんな身近にトランスフォーマーがいたとはニャ〜」
秘書の永瀬が黒板に地図を貼った。
永瀬「事前に調べましたが、この南方大陸横断ラリーはガターニア最大規模のホースレーシング大会です。スタートは大陸東端ヨーネ山麓、そこからカキーザ、オーガティア、ヤティホ、ナオエーツ、タンニマ=クァドリー、ナダチム、イトイガと合計7つのエリアを通過してゴールである大陸西端フェイスイ峡公園まで南方大陸を駆け抜けます。今年の参加者数は過去最高とのこと。24時間ほども駆け続けるため並の馬では耐えられず、みなモンスターホースに騎乗しています」
ザザ「こっちの中央大陸でも魔法配信で中継されるぜ。子供から大人まで大人気だ。毎年9割くらい脱落者が出るんだよな」
永瀬「今年の優勝候補ですがまずは“騎上の聖者”と言われるシュッツ・ジンモティ。彼は去年のチャンピオンであり、過去に何度も優勝しているジオエーツ連邦の国民的英雄です。愛馬は八脚の神馬スレイプニルとのこと」
スレイプニルは北欧神話に登場する主神オーディンの乗る神馬だ。まさかオリジナルの筈はないので人工的に生み出されたモンスターなのだろうが、骨格がどうなっているのか非常に気になる。
永瀬「そして前々年度チャンピオン、猛将ユヒムロ・サキカッス。今年は巨大な鋼鉄馬で参戦とのこと。あとは双角獣で参戦の巨匠マルーエン・ピッツナス、水棲馬にて参戦するイトイガの狂犬ブラーク・ジャクソヴァ、それに暗黒馬を駆る若き俊英ケイゾック・ダング。この辺りが優勝候補です」
凄いな、まるで馬の幻獣の品評会だ。あとペガサスでもいれば完璧だろうが、まあさすがに羽根のついた馬は反則か。
ザザ「24時間も馬に乗ってる過酷なレースだぜ、無理すんなよ」
ミキオ「破滅結社絡みの案件だからな、被害が出たら大変なことになる、断るという選択肢はない。まあおれの場合は優勝が目的じゃないから疲れたら休めばいいだけだ」
ヒッシー「事務所総出でバックアップするニャ」
ミキオ「頼んだぞ」
翌日、おれとガーラは南方大陸の北端カキーザ藩王国ヨーネ山麓のレーススタート地点にいた。おれの名前も南方大陸にまで轟くほど有名になり本名ではいろいろと警戒されそうなのでラムジッツ・オーキミーという偽名で登録しておいた。観客も大勢で物凄い熱気だ。レース参加者は122名、立ち並ぶのはみな異様な魔馬ばかりだ。我々の真上には飼い慣らされた5頭のワイバーンが空中で待機している。これから我々を魔法配信する実況担当のアナウンサーが乗っているのだ。
実況「第32回南方大陸横断ラリー、いよいよ開幕〜!! ここ第1エリア、カキーザ藩王国ヨーネ山麓のスタートゲートに嘶きをあげ居並ぶのは威風堂々たる魔馬ばかり! 勝利の栄冠を手にするのは誰か、いよいよカウントダウンが始まります! 3,2,1…いま一斉にスタートです!!!」