第77話 神々の宴!笑っていいとも最終回(前編)
異世界60日め。事務所の業務はつつがなく進み、夕刻となり終業時間まであと半刻(1時間)ほどとなった。おれは皆に向かって言った。
ミキオ「みんなちょっと聞いてくれ。すまないがおれは今日はこれで上がらせて貰いたい」
ヒッシー「別にいいけど、珍しいニャ」
永瀬「我々は終業までやりますんで、先に上がってください」
ミキオ「悪いな」
そう言って逆召喚用の青のアンチサモンカードを取り出した時、魔導騎士のガーラに止められた。
ガーラ「待てミキオ。水臭いじゃないか。早上がりはいいが理由を言ってから行け」
ガーラは全身メタリックアーマー、身長2m半ほどもある古代の人造人間だ。縁あってうちに置いて書生という名の雑用係を申し付けている。
ミキオ「なんでお前が偉そうなんだよ。まあ言ってもいいが大した話じゃないぞ」
ザザ「勿体ぶらずさっさと言え」
ミキオ「勘のいい人間ならわかると思うが、今日は日本では3月31日に当たる」
ザザ「???」
ガーラ「いや、わからんが」
ミキオ「まあ、お前たちは異世界の者だからわからないだろうな。ヒッシー、永瀬、わかるか」
ヒッシー「誰かの誕生日?」
永瀬「年度末の決算日とかですか」
ミキオ「ヒントは2014年だ。2014年3月31日」
ヒッシー「…皆目わかんないニャ」
永瀬「何の日? 何かの記念日とか?」
ミキオ「結構忘れてるやつが多いんだよな、この日のことを…教えてやろう、2014年3月31日は『笑っていいとも!』の最終回が放送された日だ」
ヒッシー「あー、もうそんなになるんニャ」
永瀬「??? それがどうかしたの?」
ミキオ「おいおい永瀬、どうかしたのとは、永瀬こそどうかしてないか。『森田一義アワー 笑っていいとも!』と言えば32年間もの間、お昼のお茶の間に笑いと感動を届けた伝説の番組じゃないか」
永瀬「いやそれは知ってるけど」
ヒッシー「笑いはともかく感動届けたっけニャ?」
ザザ「お前ら、何の話してんだ?」
ヒッシー「日本にはかつて笑っていいともというテレビ番組があって…」
ザザ「てれび?」
永瀬「あーそっか、こっち(ガターニア)の人はそこからか…」
ザザ「おい! 異世界マウントやめろ!」
ヒッシー「テレビってのは魔法配信みたいなもんだニャ。タモリさんというサングラスのおじさんが司会者で、平日お昼にやってた長寿番組ニャ」
ザザ「それがどーしてミキオの早退に繋がるんだよ」
ミキオ「いや、だからこの『笑っていいとも!』の最終回は日本のお笑い芸人のトップオブトップが一堂に会した奇跡の回でな、昼の部にはタモリさんに加えてビートたけし、明石家さんまというお笑い界のビッグ3が、夜の部にはとんねるず、ダウンタウン、ウッチャンナンチャン、爆笑問題、ナインティナインら生きるレジェンドたちが同じ舞台の上に立って絡んだのだ」
ヒッシー「そうだったニャ」
ザザ「誰一人わからねー」
ミキオ「集まったのがあまりにも凄い方々だったのでおれは当時録画したブルーレイディスクを永久保存とし、毎年3月31日には必ず夜の部を時間通りに視聴するよう決めているんだ。今は現地時間だと18時半くらいなんで、そろそろ実家に行かないと間に合わない」
永瀬「そ、そうなんだ」
ヒッシー「熱意がエグいニャ」
ミキオ「…もしかして温度差ある感じか?」
ヒッシー「うん」
永瀬「たぶん」
ミキオ「…こいつらあの伝説的番組に大して思い入れがない…だから言いたくなかったんだ…」
ザザ「今日のミキオはキャラ違くないか?」
ヒッシー「この人はたまにこういう“ゾーン”に入る時があるニャ」
ミキオ「まあいい。理由は話した。ではおれは失礼させて貰うぞ」
ザザ「待て、そんなに面白い番組ならあたしも観たい」
ガーラ「うむ、この冷静沈着なミキオがここまで熱意を見せるとはよほどのことだ。おれも観たいぞ」
ミキオ「え、お前たちも?」
永瀬「わたし最終回は観てないんだよね、そこまで言うなら観てみたいかも」
ミキオ「つまり上映会ということになるな…わかった、いいだろう。実家は住宅街にあるからな、騒がないようにしてくれよ」
ヒッシー「おれは奥さんが待ってるからやめとくニャ〜」
ザザ「新婚は帰れ帰れ。うちらはせっかくだから酒とつまみ持ち込んで楽しくやろうぜ!」
ミキオ「まったくギャルはすぐパーティーやろうとするんだから…じゃ準備ができたら行こう」
30分後、おれたちは東京都清瀬市の閑静な住宅街にあるおれの実家の前に“逆召喚”で来ていた。こちらはもう春だが19時頃でありもう真っ暗だ。メンバーはおれ、事務員でギャルエルフのザザ、秘書で東大卒の永瀬一香、書生で人造人間の魔導騎士ガーラ、そしてオーガ=ナーガ帝国皇子アルフォードの5人だ。
ミキオ「…なんでお前がいる」
アルフォード「いや、夕方だから一緒に飯でもと思って事務所を訪ねたのだが何か面白そうだったのでな。これが貴様の実家だって?」
ミキオ「そうだが、静かに頼むぞ。ただでさえ赤髪のエルフとフルメタルアーマーの巨人で目立って仕方ないんだからな」
おれはそう言いながら実家のチャイムを鳴らすと母親が出てきた。
由貴「はーい、どなた…あら三樹夫じゃないの、来るなら連絡しなさいよ」
ミキオ「いや連絡手段が無い。じいちゃんは?」
由貴「今日は近所のスナック行ってるわ。遅くなるんじゃないかしら」
ラッキーだ。祖父は元警官だからこんな珍妙な連中が見つかったらすぐ職質が始まってしまう。実際に聖剣を持ってるアルフォードはこの時点で銃刀法違反だし。
ミキオ「友達を連れてきてるんだが、部屋つかっていい?」
由貴「あらそうなの。どうぞ」
ミキオ「じゃみんな入って」
永瀬「お邪魔します」
ザザ「ちぃーっす」
アルフォード「おお! 御母堂はお若くて美人ですな!」
ガーラ「失礼する」
由貴「ひ、ひいっ!!」
母親が声を出したのも無理はない、ザザはボリュームのある赤髪でヘソの出た短いトップス、アルフォードはでかい剣を腰からぶら下げ、いちばんマトモな格好をしている永瀬でさえこの3月に生脚ホットパンツにヘソ出しノースリーブだ。天井の低い日本家屋なので身長2m半のガーラは角が廊下の天井にめり込んでいる。
由貴「友達って、異世界のかよ…」