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第76話 異世界人、地上の楽園に行ってみた(後編)

 シンハッタ大公国君主ムーンオーカー大公から温泉を中心とした複合レジャー施設の企画を頼まれたおれは参考のためにと日本の竜宮城スパホテル三日月へ案内した。事務所メンバーに加えバカ皇子のアルフォードまで乱入し期せずして慰安旅行のようになってしまうのだった。


アルフォード「これ以上に豪華な風呂だと? この上まだ何かあるのか?!」


ムーンオーカー「子爵、あまり話を盛り過ぎない方がいい。これ以上に豪勢な温泉がこの世のどこにあるというのだ」


ミキオ「まあまあ…見てくれ、これが竜宮城ホテル三日月の代名詞とも言える黄金の風呂だ」


 おれが差す指の先には大きなガラスの箱に包まれた黄金のバスタブがあった。一人しか入れないサイズだが、妖しく黄金色にぎらめき爛々と輝いている。まるで魔王の宝箱だ。


アルフォード「な、な、な、何と!!」


ムーンオーカー「これは…逆にひくレベルだな…」


ミキオ「黄金風呂は2億9千万円、ガターニアのレートで5億8千万ジェンの巨費を投じて作られたK18のバスタブだ」


ヒッシー「子供の頃、CMでよく見たニャ〜」


アルフォード「いやまあ、我々こう見えても王族だから金銭的にはそんなにアレだけど…」


ムーンオーカー「左様左様。いくら王族でもこんなもの作ったら国民に怒られる。そういう意味でもドン引きですな」


ミキオ「二人ともそう言いながら結構入ってみたいんじゃないのか?」


アルフォード「う、うむ」


ムーンオーカー「黄金の持つ魔性ですなこれは。本能的に引き寄せられてしまう…」


ミキオ「遠慮せずどうぞ。休日とかだと黄金風呂待ちの大行列ができるぞ」


ムーンオーカー「で、では失礼して…むおう、本当に黄金だ…」


ミキオ「大公、湯加減はいかがか」


ムーンオーカー「い、いや、湯は適温だが、豪勢過ぎてもうそれどころではないというか…なんとも落ち着きませんな」


 本物の王侯貴族にここまで言わせるとは。竜宮城ホテル三日月恐るべし。


アルフォード「こんなもの置いておいてよく盗まれないな…」


ミキオ「いや、過去に盗まれてるらしい。それも2回。全然返ってこないらしい」


ムーンオーカー「でしょうなぁ」


ミキオ「2009ワールドベースボールクラシックの日本チーム監督・原辰徳さんは縁起かつぎのためにこの黄金風呂に入浴し、実際にその大会を制し日本に金メダルをもたらしたという」


ムーンオーカー「なんと! 霊験まであるのか。ありがたいことだ」


アルフォード「大公殿、そろそろ交代を」


ムーンオーカー「あ、いや! もう少しお待ちを!」


ミキオ「それならあっちに“純銀風呂”もあるぞ」


アルフォード・ムーンオーカー「いや、銀は別に…」


ヒッシー「純銀風呂かわいそうだニャ」


ミキオ「2016年に完成した“富士見亭”には純プラチナ風呂もあるらしい。こちらは制作費時価7億6千万ジェン(3億8千万円)だそうな」


ムーンオーカー「うおおおあ…」


アルフォード「是非! そっちも入ってみたい!」


 アルフォードは手近なドア目がけて一目散に駆け出した。


ミキオ「馬鹿! そっちはプールだぞ! 行くなら水着を着ていけ!」


実際、プールへのドアは浴室内にあるため全裸でプールへのドアを開けてしまう事故が続出しているのだ。




 1時間後、竜宮城ホテル三日月の大浴場をたっぷりと堪能したおれたちはスパ棟3階のリラックスホール“オアシス”で映像と音楽を楽しみながら火照った体を冷ましていたが、あまり時間も経たずにザザ、フレンダ、永瀬の女子チームがやって来た。女性のルックスのことをどうこう言うのは良くないが永瀬などはすっかりメイクも落とし高校生みたいな童顔になっている。


フレンダ「いい湯でしたの〜」


ミキオ「どうだった、女風呂の方は」


ザザ「あたしほどじゃねーが、王女は意外と出るとこ出てたぜ。それに較べてイチカはもうひとつってとこだ」


永瀬「ちょっと! 何言ってんの!」


ミキオ「そんな情報は後でアルフォードにでも教えてやりなさい。それよりも風呂の報告だ」


永瀬「こちらは3階なので内風呂もオーシャンビュー、しかも神殿風石造りのゴージャスな内装です。金や銀の湯に加えてハーブ湯、ローヤルゼリー湯、楊貴妃の真珠風呂、漢方薬油など入りきれないほどの多様なお風呂がありました」


ムーンオーカー「え!? それはもしかして女湯の方が豪華なのでは…」


ミキオ「残念ながらその通り。だいたい日本の温泉ホテルは女湯の方に力を入れて造る傾向にあるのだ」


アルフォード「無念だ! 私も女湯に行きたい!!」


 アルフォードがそう叫ぶとリラックスホールにいる他の客がみな一斉にこっちを振り向いた。


永瀬「あ、いや、何でもありませんので」


ミキオ「誤解を招くからそんなことを大声で叫ぶのはやめろ」


ムーンオーカー「いや私は充分以上に堪能しましたぞ。霊験あらたかな黄金風呂、流れる“竜宮の湯”、可愛らしい“たぬきの湯”、そしてこの映像と音楽を楽しめるリラックスホール、エステに垢すりにマッサージ、漫画1000冊読み放題の漫画コーナー。これはもう地上の楽園でしょう!」


ミキオ「今回は時間の都合で紹介しなかったがここは食事も素晴らしい。レストラン“若汐亭”は和洋中何でも揃ってる。それに別棟の“お祭りランド”では祭りを常時やっている」


アルフォード「祭りを! 常時!」


ミキオ「そう、常設の祭りだ。子供だけじゃなく大人でも胸踊るぞ」


ムーンオーカー「子爵、私はもはやここに住みたい! 我がシンハッタ宮殿よりここの方がよほど豪華だ!」


ミキオ「何が恐ろしいって、我々はまだ“富士見亭”の方には行っていないという事実がある。富士見亭の露天風呂は最上階にあり“天の川”“天空の湯”ともに新しくて素晴らしい展望ということだ。アイスキャンディーも無料だ」


アルフォード「信じられん…」


ムーンオーカー「お、恐ろしい…この上まだ豪華な風呂があるというのか…」


ミキオ「後ほど仔細なデータを鳩で送ります。大公が作られる温泉レジャー施設の参考になればいいが」


ムーンオーカー「いや、これは果てしない道のりですな! しかし夢が拡がります。さっそく国に帰って業者と協議します!」


 きらきらさせた瞳でそう言ったムーンオーカー大公の顔を見ながらおれは、この男絶対また失敗しておれに泣きついてくるなと思わずにはいられなかった。



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