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第74話 異世界人、地上の楽園に行ってみた(前編)

 異世界59日め。今日は朝から王女フレンダがシンハッタ大公国の君主ムーンオーカー大公を連れて事務所に来ている。彼は以前おれが日本の漫画喫茶で接待した人物であり、神経質でクセのある独身中年だ。横に座ってるそのムーンオーカー大公を差し置いてフレンダはひとりで憤っていた。


フレンダ「まずはわたくしをイセカイ☆ベリーキュートのセカンドシングルから外した理由について納得いくよう説明してくださいの!」


ミキオ「いや、それについては侍従長さんからもういい加減にしてくれと言われててな。一国の姫君をタレントみたいに扱うな、と」


フレンダ「侍従長なんか関係ないですわ! わたくしの意志でやってることなんだから!」


ガーラ「まあ落ち着け王女。いい女が台無しだぞ」


フレンダ「誰、このでかい騎士!」


ミキオ「ああ、それは最近入れたうちの書生で」


 話に入ってきたのは魔導騎士ガーラ、太古の錬金術師が作り出した人造人間つまりロボットだ。現代に甦り魔導十指を滅ぼして地上最強の魔導師たらんとしたがおれが倒して何故かうちの事務所の書生となった。


フレンダ「書生ごときがいい感じにおさめようとするんじゃありませんの!」


 ガーラは果敢に入ってきたが、こういう時には事務員のザザも秘書の永瀬も決して入って来ず、背を向けて事務仕事をしている。女がキレてる時に女が割って入っても火に油を注ぐだけだと理解しているのだろう。


ミキオ「それにおれも議会で右派議員に何度も注意されてたしな、王室をオモチャにするなって」


フレンダ「納得いきませんの。せっかくメンバー中でトップ人気だったのに」


 イセキューのグッズ売上ランキングではユキノが群を抜いてトップ、フレンダは3位か4位ぐらいだったが、まあそれは言わずにおこう。


ヒッシー「フレンダにゃんは今日はそれを言いに来たニャ?」


フレンダ「あ、いえ、こちらムーンオーカー大公がミキオにお願いしたいことがあると」


ムーンオーカー「やれやれ、やっと喋れる…」


 ムーンオーカー大公は長身で痩身、45歳だそうだが老けて見える。顔が長く、嶋田久作とかベネディクト・カンバーバッチに似ている。フレンダは先日饗応役を努めた関係で知人となった。


ムーンオーカー「実は、先日子爵にご紹介頂いたマンキツというものに非常に感じ入りましてな。うちの領内にも見よう見まねでマンキツをオープンさせたのだが、なにぶんニホンのような充実した漫画文化がないもので、あまり客も入らず…」


 だろうな。日本ほど漫画文化の盛んな国は無いだろう。おれがガターニアで見た漫画はどれも絵本の域を出ないようなものばかりで、大人の鑑賞に耐え得るものは皆無だった。


ムーンオーカー「で私は考えたのだ。我がシンハッタと言えば温泉が名物、ツジムラ子爵に案内頂いたニホンのマンキツと温泉を組み合わせたらそれは素晴らしい施設が出来上がるのではないかと」


ミキオ「漫喫と温泉…」


ムーンオーカー「つまり風呂から上がったら食事もできて、漫画も置いてあり酒も飲めると。これはかなり楽しい夢の施設になるのではないかなと思い、その相談に来たわけです」


ミキオ「大公、このガターニアで大人の鑑賞に耐え得るような漫画が出てくるにはまず手塚治虫、石ノ森章太郎、さいとう・たかをクラスの天才の出現を待たなければならない」


ムーンオーカー「おお、サイトウタカヲ! 私がニホンのマンキツで読みふけった“雲盗り暫平”の作者だ」


ミキオ「あのクラスの天才がいてこそそのインスパイアを受けて永井豪や本宮ひろ志、大友克洋、竹宮惠子ら超一流の漫画家陣が生まれたわけで、残念ながらガターニアにおいては未だその萌芽すら見られないと言わざるを得ない」


ムーンオーカー「そ、そうか…」


ミキオ「それならばいっそ大公の考える夢の施設から漫画を切り離し、温泉と食を中心とした複合レジャー施設を作ってはどうだろう」


ヒッシー「つまり健康ランドだニャ」


ミキオ「そう、日本には既にそういう施設がある」


ムーンオーカー「なるほど、それはそれでいいかも…」


 大公が考えに耽っていると、急に事務所のドアが勢いよく開いて無駄に男前な男が入ってきた。オーガ=ナーガ帝国の皇子アルフォードだ。腰には聖剣エヴリカリバーという大剣を下げており、歩くたびにガチャガチャとやかましい。


アルフォード「ミキオ! 久しいな! 邪魔するぞ!」


ミキオ「急になんだお前、いま客が来ているんだ」


アルフォード「なんだ貴様、相変わらず仕事の虫だな! 私はちょっと外遊でこのフルマティに来たんで寄ってみたんだ。飯にでも行かないか!」


ミキオ「いや、お前、話聞かないな…」


 急に誘われて答えに窮していると、訝しがったムーンオーカー大公が尋ねてきた。


ムーンオーカー「子爵、こちらの御仁は」


アルフォード「これは失礼、オーガ=ナーガ帝国皇子、皇位継承順位第三位アルフォード・ド・ブルボニアです」


ムーンオーカー「おお、それはそれは。私はシンハッタ大公国君主ムーンオーカー・オンスンです」


フレンダ「アルフォード! いま大事なお話の最中ですわ!」


アルフォード「あ、君もいたのか」


 なんか急に事務所が王侯貴族だらけで迎賓館みたいになった。


ミキオ「まあちょうどいい。アルフォード、これから仕事で日本の温泉に行こうと思うんだが、お前もどうだ」


アルフォード「ニホンの! 温泉!! ワクワクさせてくれるじゃないか、是非連れて行ってくれ! こう見えても私はヒマでな!」


ミキオ「じゃ行きたい人」


 大公とフレンダとザザとヒッシーと永瀬とアルフォードとガーラが挙手した。これじゃフルメンバーじゃないか。


ミキオ「いやガーラはダメ。お前その鎧脱げないだろ。留守番しててくれ」


ザザ「いやーニホンの温泉か、楽しみだな!」


ヒッシー「ちょっとした慰安旅行だニャ〜」


ミキオ「言っとくけど、参考のために行くだけだからな。帰ったらまた仕事だぞ。ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我ら7人、意の侭にそこに顕現せよ、千葉県木更津市、竜宮城スパホテル三日月!」



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