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第73話 対バン!異世界アイドル頂上決戦(後編)

 おれたちがプロデュースしているアイドルグループ“イセカイ☆ベリーキュート”のセカンドシングルの打ち合わせ最中にやってきたのは元イセキューメンバーがリーダーを務めるアイドルグループ“黄金令嬢”の4人とそのマネージャーだった。黄金令嬢から対バンライブを持ちかけられたイセキュー、果たして勝敗の行方は?


モモロー「それでは審査員の先生方をご紹介します! 両グループに楽曲を提供した作曲家のジューゼン・ナッス先生!」


 ジューゼン・ナッス先生はさっき初めてお会いしたが、長髪で痩せていてダークスーツを着こなしている。いかにもアーティストという感じだ。


モモロー「そしてフルマティ商工会議所会長、フルマティ青年部会部長のお二人です!」


 まとめて紹介されたモブ顔の二人だが、何故か二人とももじもじしている。おしっこでも我慢してるのか?


ミキオ「しかしあのふたり、あの役職でアイドルのことなんかわかるのか」


ヒッシー「是非やらせて欲しいと申し出があったニャ」


 それにしてもこういう時こそ本業歌手のトッツィー・オブラーゲのおっさんが出てきそうなもんだが、肝心な時には出てこないんだな。


モモロー「ということで、準備が整ったようです! それでは歌って頂きましょう。本日初お目見え、イセカイ☆ベリーキュート、“Starry Story”」



Starry Story

作詞:ムーブメント・フロム・アキラ

作曲:ジューゼン・ナッス

歌:イセカイ☆ベリーキュート


幾千の時が過ぎて 幾万の星が流れ

キミの元へ早く Starry Story


きっと決まってた 紀元前からのDestiny

グレートウォール飛び越えて 

ほんの一瞬のMoment

感じて 信じて 何も言わないで

触れてみたNewest Thing


もいちどBig Bang

神様のCapricious

前世で言えなかったI love you

今なら絶対言えるから…!


幾千の時が過ぎて 幾万の星が流れ

キミの元へ早く Starry Story

Starry Story


ちょっと迷ってた 異次元からのSympathy

マルチバース駆け抜けて 

もっと永遠のMovement

目覚めて ふるえて 

揺れていたAngelic Heart


お願い Reincarnation

遥かなるPureness

奇跡で生まれ変わったMy Planet

キミとは絶対逢えるから…!


幾千の時が過ぎて 幾万の星が流れ

キミの元へ早く Starry Story

Starry Story


幾億の時を超えて 幾兆の星が生まれ

キミとまた出逢う Starry Story

Starry Story



 曲が終わったあと、一瞬シーンと静まり返りすぐに万雷の拍手が巻き起こった。おれはレッスン場とリハーサルで何度か聴いているが、それでも涙が滲む。なんというスケールの大きな美しい曲だ。客席も感動のあまり泣いている者もいる。よく見ると黄金令嬢推しすらも感動している。ちょっとこれはセカンドシングルにしてとんでもない名曲を作ってしまったのではないか。


モモロー「ありがとうございました、イセカイ☆ベリーキュートで“Starry Story”でした! いい曲ですねー! イセキューの皆さん、お疲れ様です。さぁそれではこちらもスタンバイOKとのことで続いていきましょう。本日デビュー、黄金令嬢で、“ノッてけ!ゴールデンパーティー”」



ノッてけ!ゴールデンパーティー

作詞:マルコ・ダイズセン(日本語訳ムーブメント・フロム・アキラ)

作曲:ジューゼン・ナッス

歌:黄金令嬢


ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!

ジャコ モッチー ノリ マルコ

ウィーアー黄金令嬢 アイドルNo.1

キラキラの愛を届けるわ そうね

どっかのニセモノなんて目じゃないぜ ラララ


ジャコ 病んでる でもボーカル最高

モッチー 天然 でも笑顔が素敵

ノリ 元ヤン でも素顔は優しい

マルコ セレブ とにかく最高


ゴールデンシャイニング ウー

アイドルの王道を征く

Wow Wow 黄金令嬢 ゴールデンパーティー


ハイ!ハイ!ハイ!ハイ!2番!

ジャコ モッチー ノリ マルコ

ウィーアー黄金令嬢 アイドルベストワン

ピカピカの夢を見せちゃうわ そうよ

ヤツらはエセかい Very Bad ルルル


ジャコ 陰キャ でも私服はゴス

モッチー 遅刻魔 でもコスメ詳しい

ノリ 補導歴 でも意外とグラマー

マルコ リーダー とにかく最高


ゴールデンビクトリー ウー 

アイドルの花道を征く

Wow Wow 黄金令嬢 ゴールデンパーティー


ユニバース! Yeah! Yeah!

黄金令嬢マジカルガール

逆にヤツらはマジ無理がある


ゴールデンシャイニング ウー 

アイドルの王道を征く

Wow Wow 黄金令嬢 ゴールデンパーティー



 曲が終わり、客席の黄金令嬢推しからおざなりの拍手がぱらぱらと飛ぶ。曲を初めて聴いて見切ったのか、その場で金色のグッズを捨ててる者もいる。おれは舞台袖でヒッシーに話しかけた。


ミキオ「いや酷い、さすがに酷い」


ヒッシー「詞はマルコが書いたらしいニャ。私怨丸出しで聞くに耐えないニャ」


ミキオ「ダンスもバチボコにダサいな。北朝鮮の律動体操かと思ったぞ」


ヒッシー「作曲もハッキリ言ってジューゼン・ナッス先生のやっつけ仕事だニャ」


ミキオ「これは普通に勝負あったんじゃないか?」


ヒッシー「だニャ」


モモロー「えー…黄金令嬢で“ノッてけ!ゴールデンパーティー”でした。それでは審査員の先生方の意見を伺ってみましょう。ナッス先生?」


ナッス「えー、イセカイ☆ベリーキュートね、美しいボーカル、程よいダンス、キラキラ感。僕の書いた曲の世界観を最大限に再現してくれました。僕のこれまでの作曲家人生のベストワークになったと思います。ありがとう」


 サラッとものすごい賛辞が出た。これはもう勝ち確定だろう。


ナッス「で、えーと黄金令嬢ね。この曲はコップ酒片手に10分くらいで作ったからあんまり覚えてないんだけど…前髪パッツンの女の子ね、よく声出てたね、ウン。そんくらいかな」


ネーギン「く、くうっ…!」


 向こうの舞台袖で黄金令嬢のマネージャーが悔しがっている。


モモロー「ありがとうございます。それではフルマティ商工会長、いかがでしょう」


商工会長「私はその、なんだ、逮捕状…じゃなくてその、令嬢さんが良かったかなと思いますね。まあその、衣装も金ピカで綺麗だし」


 なんだこのオヤジ。妙に目が泳いでるな。褒める割には名前うろ覚えだし、褒めるポイントもわけわかんないし。


モモロー「なるほど、では青年部長」


青年部長「僕もそうですね。金…あのー、なんだ、金色の方が良かったかな」


 こいつはもう名前覚える気すら無いじゃないか。ほんとに聴いてたのか?


モモロー「どういうところが良かったのでしょう?」


青年部長「まあ…なんかです。なんか良かったような気がします」


 どうも釈然としない。おれは再び舞台袖で横にいるヒッシーに話しかけた。


ミキオ「いやにザックリしてないか。て言うかアレがいいと本当に思ってるのかあいつら」


ヒッシー「うーん、もしかして彼ら 買 収 されてニャいよね?」


 ヒッシーの「買収」というキーワードが審査員席に聞こえてしまったのか、商工会長と青年部長がビクッとなり明後日の方向を向いてしまった。青年部長などは口笛を吹いて知らんぷりを決め込んでる。何このリアクション。これもう確定じゃないのか。


モモロー「では! いよいよ審査員の先生方の審査結果を見てみましょう! お手元の札をお挙げください! ナッス先生、イセキュー! 商工会長、黄金令嬢! 青年部長、黄金令嬢! 黄金令嬢の勝利です!!」


観客「ブーーー!!!!」


 客席からものすごいブーイングが出た。タオルや缶バッジなどの黄金令嬢側の物販グッズが舞台に投げ込まれている。


モモロー「落ち着いてください、皆さん落ち着いて…審査員のジューゼン・ナッス先生、総評をお願いします」


ナッス「いやぁ、わからないものだね。僕はもうイセキューが圧倒的だったと思うけどね」


モモロー「なるほど、では商工会長のバイシューダーさんは」


ミキオ「なんだ、あの名前! 買収丸出しじゃないか!」


ヒッシー「落ち着くニャ、偶然だニャ」


商工会長「まあ…そのね。なんだ、皆さん元気に頑張ったということで。ちょっと私、急用思い出したんで帰らして貰いますわ」


 そう言いながらモブ顔のおっさんは罵声を浴びつつそそくさと帰っていった。


モモロー「え、いや、あの…それでは青年部長のカネモロータさんは」


ミキオ「こっちも名前で自白してるだろ!」


ヒッシー「偶然そう聞こえるだけニャ」


青年部長「あっあっ、お腹痛い。ちょっと僕もう具合悪いんで帰ります」


 モブ顔の兄ちゃんも腹が痛い小芝居をしながら帰って行く。観客からはものすごいブーイングと罵倒が飛び交っている。


観客「ブーーー!!!」


観客A「八百長ー!」


モモロー「皆さん落ち着いて、落ち着いてください。それでは今回負けとなりましたイセカイ☆ベリーキュートの皆さんには罰ゲームとしてこの苦ぁ〜い薬草ジュースを飲んで頂きます。体にはいいですよ!」


 疑惑を残したままイセキュー4人の前にジュースを載せたワゴンが運ばれてきた。客席は大騒ぎだが日本のアイドル番組を見慣れてきたおれたちにはなんの違和感もないお馴染みのシーンだ。AKB48や乃木坂の子たちなんてヤモリや虫を食わされることもしょっちゅうだ。


リンコ「しゃーない、切込隊長のあたしから行きますか」


 目の前に運ばれた4杯の薬草ジュース入りジョッキ、そのひとつを持ったリンコがジュースを飲もうとしたその時、横から黄金令嬢の元ヤンキャラ、ノリがそのジョッキを奪って飲み干した。


ノリ「うっ! にっがぁ〜! まっずぅ〜!!」


リンコ「な、何…?」


 唖然とするイセキューを横目に黄金令嬢のジャコ(病み系)とモッチー(天然)も続いてワゴンの上のジョッキを飲み干していった。


チズル「え? え?」


ネーギン「な、何やってんの、アンタたち!」


ノリ「ぷはーっ! ケジメだぜ、イセキューさん! 勝負は完全にアタイらの負けだ!」


ジャコ「どう見ても裏で変なお金が動いてる、だってパフォーマンスは明らかにわたしたち負けてましたもの!」


 突然の出来事に客席もイセキューメンバー4人も唖然とする中、マルコだけは顔を真っ赤にして激怒していた。


マルコ「お前ら全員クビだ!」


モッチー「クビで結構! イセキューのプロデューサーさん、わたしたちをイセキューの2期生オーディションに参加させて下さい!」


ノリ「そうだ、マルコさんにはついて行けねえ! アイドル修行をイセキューさんでやり直してえ!」


ジャコ「プロデューサーさん、お願いします!」


 呼ばれたのでおれとヒッシーが前に出ていった。


ミキオ「いや、うーん、じゃそちらの事務所サイドと話し合いが済んだら2期生オーディションの書類審査から受けて下さい」


ヒッシー「特別扱いはしないニャ」


ジャコ・モッチー・ノリ「ありがとうございます!」


ネーギン「く、く、この…!」


マルコ「お前ら全員バカだ! バーカバーカ!!」


 とても成人してる女性とは思えない酷い捨て台詞を吐きながら去っていくマルコと黄金令嬢のマネージャー。勝負は意外な結末となったが、イセキューメンバーは残された黄金令嬢メンバーと握手を交わしていた。美しい光景だ。この世界のアイドル史の1ページめには今回の事件が記されることになるのだろう。そう言えば今回は1回も召喚魔法使ってないなぁ…。

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