第72話 対バン!異世界アイドル頂上決戦(中編)
おれたちがプロデュースしているアイドルグループ“イセカイ☆ベリーキュート”のセカンドシングルの打ち合わせ最中にやってきたのは元イセキューメンバーがリーダーを務めるアイドルグループ“黄金令嬢”の4人とそのマネージャーだった。黄金令嬢から対バンライブを持ちかけられたイセキュー、果たして勝敗の行方は?
おれとヒッシー、マネージャーのクロッサー氏は王都内に借りているイセキューのレッスンスタジオにメンバーを招集し、状況を説明していた。
リンコ「えーっ! あのマルコが!?」
コマチ「てことはその黄金令嬢のセンターはマルコってことでしゅか?」
ミキオ「まあ4人グループだからセンターにはならないと思うが、フロントにはいるだろうな」
ユキノ「他のメンバーはどんな感じなんですか?」
ミキオ「キャラ強めだ。病み系に天然ちゃんに元ヤン」
ヒッシー「ビジュアルが弱い時はキャラの作り込みで印象付ける、地下アイドルのやり口だニャ」
チズル「大丈夫、フロントメンがマルコで他はあの子たちなら全然うちらが勝ってる。とりあえずユキノレベルの顔面偏差値の子はいない! だいたい自分から天然て言ってる人には本物の天然はいないよ」
リンコ「よっしゃみんな、絶対勝とうぜ!」
チズル・ユキノ・コマチ「おー!」
ミキオ「まあ、無理して勝たなくてもいい。負けたら負けたで薬草ジュース飲むだけだしな。で、新曲だが今回は2曲同時リリースで行こうと思う。“Starry Story”と“そんなこっちゃDon't you know!”」
ヒッシー「2個目のやつ、ハロプロっぽいニャあ〜」
ミキオ「作詞をいつもの知り合いに打診したら既に用意していたそうで、時間もないしこれを採用とする。いい方を対バンライブで使おう」
バサバサバサ! レッスンスタジオに伝書鳩が舞い降りてきた。マネージャー氏はすぐに鳩の脚についた手紙をチェックする。
クロッサー「プロデューサー、作曲家のジューゼン・ナッス先生から鳩です! 新曲2曲の作曲依頼、あっさりOK出ました!」
ヒッシー「そこはOKなんだニャ。業界の仁義もへったくれもないニャ」
ミキオ「まあナッス先生にはいろいろ言いたいことはあるが、とりあえず時間がないからお願いしよう。詞を鳩で送っといてくれ」
週末の光曜日、イセカイ☆ベリーキュートVS黄金令嬢の対バンライブ当日、王都フルマティのハクサーン公園ライブ会場は観客でごった返していた。服装などを見る限りはイセキューガチ勢が半分、ライト層が4割、黄金令嬢ヲタが1割という感じだ。黄金令嬢は先行魔法配信などですでにファンが付いているのだろうが、ここからひっくり返される可能性も充分あるので注意が必要だ。
モモロー「こんにちはー! 凄い、誰もわたしのこと見てない(笑)。今日MCを努めさせて頂きます、モモロー・アイスです!」
MCは肉カーニバルの時にレポーターをやっていたご当地タレントのモモロー・アイスさんだ。女性の年齢のことを言って申し訳ないが、若作りながら34歳とかそんな年齢らしい。頑張ってミニスカートを履いているがおれは中元のハムを思い出す。
モモロー「今日は皆さんおなじみイセカイ☆ベリーキュートと、本日デビューの新グループ“黄金令嬢”の対バンライブということで、みんな盛り上がってるかなー?」
客席「うおー!!!!」
客席は赤青黄ピンクのグッズを付けてるのがイセキュー推し、金色のグッズを付けてるのが黄金令嬢推しと非常にわかりやすい。圧倒的にイセキュー推しが多いが、中でもピンクのグッズ持ちすなわちユキノ推しが多数を占めている。
モモロー「それでは登場して頂きましょう、皆さんおなじみ、ガターニアの世界的アイドル、イセカイ☆ベリーキュートの皆さんです!!」
客席「わー!!!」
チズル「はい、みんなの視線をく〜ぎ〜づ〜け! イセキューのリーダー、セクシー担当チズルです! 今日はよろしくお願いします!」
観客A「チズルー!!」
チズルのファンは青年男子が多いようだ。妙に色気のある子なので健康的な若い男子が食いついているのだろう。
ユキノ「はい私と一緒に言ってください。ウィーラブユキノ、アイラブユー! ピンクのエース、恋の魔法使いユキノです♡」
客席「超絶可愛いピンクのエース、俺らはみんなユキノ推し〰!!!!」
ユキノはとにかく人気があり、最前列を占めるユキノ推しが一斉にコールを始めた。凄いな、もうこんな日本みたいなアイヲタ文化が根付いてるのか。ヲタ芸まがいのことをやってる奴もいる。文化というものは似たように進化していくものなのだなぁ。
リンコ「はーい、目指せイセキューのクールビューティ! 元気印のマリンブルー、リンコです。負っけないぞぉ!」
観客「きゃー! リンコー!!」
ショートカットでボーイッシュなリンコの声援は女性の声が多い。メンバーによって声援がまるで違う。
コマチ「わたしがコールしたらコマチー!と言ってください。キミの心のセンターは〜?」
観客「コマチ〜!!」
コマチ「ありがとうございましゅ。神様がくれたキャットボイス、バナナの妖精コマチでしゅ。よろしくお願いしましゅ」
観客「うお〜!!」
コマチへの声援はみな野太く、顔もオッサンばかりだ。やっぱりこういうロリ系キャラは中年以上にウケるのか。“バナナの妖精”というキャッチフレーズはヒッシーが考えたもので、当初コマチは非常に嫌がっていたのだが今になってみると彼女のキャラにピッタリだ。
モモロー「続きまして本日デビュー! 謎に包まれた神秘のアイドル、黄金令嬢!!」
観客「わー!!!」
観客「ブー!!!」
本日デビューの黄金令嬢のファンはやはり少なく、イセキューファンからのブーイングも目立つ。
ジャコ「病み系令嬢、ジャコ・ギブン!」
ジャコは前髪パッツンの黒髪で強烈な三白眼、眼の下のアイラインが濃い。いやアイドルはもっと健康的で溌剌としてる方がいいだろ…。
モッチー「ゆるふわ天然令嬢、モッチー・オカーキ!」
モッチーはまあゆるふわと言えばそうだが印象の弱い地味な子だ。マルコと共にフロントにいる。
ノリ「元ヤン令嬢、ノリ・マキミクス!」
ノリは長身で長髪、ハキハキしているのはいいが一度も笑顔を見せないのは如何なものか。アイドルというものについて根本的に理解が足りない気がする。
マルコ「そしてリーダー、セレブ令嬢マルコ・ダイズセン!」
マルコはうちにいた時よりも全体的にボリュームアップしており、いかに多様性の時代とは言えますます一般的なアイドルとはかけ離れた容姿になっている。エースをねらえのお蝶夫人のような縦ロール金髪にしているが正直似合っていない。そして案の定フロントに立っている。
4人「わたしたち、黄金令嬢! 華麗にごきげんよう!」
観客「わー!」
こうしてあらためて黄金令嬢のメンバーを見ると、やっぱりちょっと無いな。言っちゃ何だが華がない。これで我らがイセキューが負けるわけがない。
モモロー「今日は対バンということで、両グループの歌を審査員の先生方に採点して頂きたいと思います! 負けた方には罰ゲーム、にがぁ〜い薬草ジュースを飲んで頂きますよぉ!」
観客「うぉーーー!!!」
うん、やっぱり罰ゲームぐらいにしておいて良かった。この雰囲気で解散デスマッチなんかやってしまったらうちが負けることはないにせよ後味の悪い結果になりそうだ。