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第70話 肉フェス!天国と地獄(後編)

 遠き北方ミカラム国の大臣から依頼されてグルメイベントを仕切ることになったおれは参考にすべく日本の肉フェスに行ってみたが、それはあまりにもアレなイベントだった。おれたちは事務所に戻り気持ちを切り替え、自分たちの肉フェスを提言するのだった。


ミキオ「『肉フェス』という響きはいい。肉をたらふく食えるイベントというコンセプトも人間の食欲の根源に問いかけるパワーがある。肉フェスの問題は、その熱量にまるで答えられていなかったということだ」


永瀬「まあ、全部の肉フェスがああとは言えないけどね」


ヒッシー「あれじゃ満腹になるまで食べてビールも飲んだらひとり3万円くらいかかるニャ」


ミキオ「もう、切り替えていこう。おれたちがやるのは肉フェスではなく“肉カーニバル”とする。carnivalは原義だと謝肉祭だからちょうどいい。比較的安価で、現金商売で、美味い肉料理をたっぷり食えるイベントにする。市長、地元の肉料理屋さんを何軒かピックアップして出店を打診してみて欲しい」


市長「は」


ミキオ「無論、メインの店数軒はおれたちが直接手掛ける。ザザ、この世界の食肉は何があるんだ?」


ザザ「まあ普通に牛、豚、鶏、羊ってとこだけど、ドワーフやバーバリアンの連中はモンスターも結構食ってるぜ。ジャイアントボアとかバジリスク、ビッグバイパーとかだな」


ミキオ「ジビエか、いいな、それで行こう。モンスタージビエ、うん、実に魅かれる」


ヒッシー「そんな肉、流通してるのニャ?」


ミキオ「野生のを捕まえてくればいい。おれは転生初期にはモンスターハンティングで生計を立てていたことがあるんだ。市長、ミカラム国でモンスターが出没する地域は?」


市長「と、なればやはりアサフィー村ですか。アサフィー岳という霊峰があり、その麓一帯はモンスターや野生動物の宝庫です」


ミキオ「わかった。じゃ市長さんはシェナミー市に戻って待っていてくれ。明日、モンスターをお届けする」


市長「え、明日ですか? よろしいので?」


ミキオ「はばかりながらこれでも最上級召喚士(ハイエストサモナー)だからな。どこか広い場所、体育館みたいなところを確保して肉屋さんを数人集めておいて欲しい。うちの事務所のはスタッフも全員明日そちらに伺うんで、その時に細かい内容を詰めよう。料理法もその時に」


市長「素晴らしい。このスピード感、さすがですな。やはり子爵に頼んで良かった」


ミキオ「まあ日本の肉フェスの雪辱戦というところだ。では明日」


 おれは青のアンチサモンカードを取り出した。


ミキオ「ガーラ、お前も来い。力仕事を任せたい」


ガーラ「心得た」


ミキオ「ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我ら、意の侭にそこに顕現せよ、ミカラム国アサフィー村!」




 おれと魔導騎士ガーラは黄色い炎に包まれ、人里離れた山林の村に出現した。


ガーラ「ほう、ここがそのモンスターの宝庫か」


ミキオ「何か情報がほしいところだが…お、あそこの爺さんに訊いてみよう。ちょっとすまない、話を訊きたいんだが」


 いいタイミングで村の爺さんが歩いていた。マタギなのか獣の毛皮を着ている。昔のドラマによく出ていた及川ヒロオみたいな容貌だが、片目は眼帯をしている。


爺さん「おめえら、よそもんだな。何じゃい」


ミキオ「おれたちはモンスターを探していてな」


爺さん「馬鹿っか、おめえ! 危ねえからとっととけえれ! ここはマンモスベアーが出るんだど」


ミキオ「マンモスベアー?」


爺さん「熊のモンスターでな、うちの村の家畜が何百匹もそやつの犠牲になっとる。体長が13ナーゲ(=6〜7m)ほどもあって、するどい牙と角が生えていて…」


ミキオ「待て待て、肉食の捕食獣に角は生えない。生物学的におかしい」


爺さん「ともかくそういう化け物なんじゃい。ワシの右目もそいつにやられた」


ミキオ「なるほどな。で、そいつは美味いのか?」


爺さん「いや、あいつに喰われる奴はいても喰おうとする奴はいねえで! まあ熊肉てのは血抜きをしっかりやればあれほど美味えもんは無えけんどな」


ガーラ「ミキオ、それだけ巨大なら数百人分は賄えそうだぞ」


ミキオ「だな。爺さん、そのマンモスベアーだが、おれたちで捕まえてしまって構わないか?」


爺さん「は! おめえみてえな生っ白い若造に捕まるものかよ! ワシが20年かけても傷ひとつ負わせられんのだど」


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、ここに出でよ、この山に棲むマンモスベアー1頭、心臓と血液以外」


 おれが呪文詠唱すると、サモンカードの魔法陣からまさしく象ほどの大きさのマンモスベアーがぐったりとなって出現した。見た目は巨大熊だが確かに眼窩の上に3対の角が生えている。


爺さん「ひ、ひいいっ!」


ミキオ「大丈夫だ、心臓と血はその場に置いてきたからすっかり血抜きはできている。ガーラ、マジックボックスに入れてくれ」


ガーラ「心得た」


爺さん「お、お、お…」


 爺さんは唖然とし、残り少なくなった歯を見せてあんぐりと口を開けた。


ミキオ「これでこの村のモンスター被害も減るだろう。邪魔したな」




 こんな調子でおれたちはアサフィー村のモンスターを数十匹マジックボックスに収めて事務所に戻り、あらためて翌日事務所スタッフ全員でミカラム国シェナミー市に移動した。ここで市役所のイベント担当者と名刺交換など行い、屋台ブースの設営などを煮詰めていった。イベンター会社は夜逃げしたが役所の担当者はまあまあ有能であり、今日一日でかなり細部までまとめられたと思う。モンスターについてはマジックボックスから取り出した時にその量の多さに市長以下みな驚いていたが、呼んでいた肉屋さんたちに解体してもらいすべて再びおれのマジックボックスに収めた。解体作業だけで日が暮れた。




 5日後の氷曜日、日本で言えば土曜だが今日から3日間、ここミカラム国の観光都市シェナミーのササガナガル公園にて肉料理をテーマとしたイベント、シェナミー市主催の肉カーニバルが開催される。ササガナガル公園は海に近く、吹いてくる風も潮の香り混じりだ。入り口のアーチには大きく“モンスタージビエを食い尽くせ! 肉カーニバルinシェナミー”と書いてあり気合満点だ。


モモロー「スタジオのみなさーん、見てますかー!? レポーターのモモロー・アイスです!」


トッツィー「どーもどーも、獰猛な犬! 大スターのトッツィー・オブラーゲです」


モモロー「今日はここミカラム国シェナミー市ササガナガル公園で開催されている市主催の肉カーニバル会場に来ております!」


トッツィー「いや〜視聴者の皆さんにこの焼ける肉と脂の匂いをお届けしたい。もう食べる前から美味しい、そんな匂いが充満しておりますぞ!」


 魔法配信の水晶玉の前に立ってレポートしているのはモモロー・アイスというそんなに若くないミニスカートの女性と、毎度おなじみこの世界の大スター、トッツィー・オブラーゲのおっさんだ。あいつ大スターと言ってる割にはこんな食レポみたいな仕事もしてるんだな。


トッツィー「では今回のイベントプロデューサーであり私の友人、ミキオ・ツジムラ子爵よりお話を伺いましょう。子爵よろしくお願いします」


ミキオ「いつ友人になったのかわからないが、よろしく」


モモロー「さっそくですが子爵、今回のイベントのテーマは?」


ミキオ「今回は『元気に満腹、食べて幸福』がテーマだ。とにかくシンプルに美味い肉をたらふく食べて元気になって帰っていって欲しい。珍しいモンスター料理も用意してある」


トッツィー「モンスター料理! 嬉しいやら恐ろしいやら。、腹が鳴りますな!」


モモロー「さっそくですがツジムラ子爵、わたしたちお腹ペコペコで…」


ミキオ「これは気が利かなくて申し訳ない、まずはこちらのお店をご案内しよう」


 そう言っておれは手近な屋台を案内した。まあ手近なと言っても事前にリハーサルをしているのだが。


ザザ「らっしゃ〜い!」


 この屋台はザザに任せてある。彼女は口は悪いが人あしらいが上手いので接客業向きだ。


ミキオ「この店はバジリスクのケバブだ。照り焼きという異世界(=日本)のソースを使っている」


 バジリスクは猛毒を持つ雄鶏と蛇の混じったようなモンスターで、大きさは七面鳥ほどもある。


モモロー「バジリスクって、毒の息だけで草を枯らし石を砕くという…」


ミキオ「だがその味は絶品だ。なかなか食べる機会は少ないと思うが今日はたっぷり用意した。店員さん、ケバブふたつ」


ザザ「あいよ〜」


 ザザが狭い店内で巨大な串に巻いたバジリスク肉を外側から焼き、焼けたところから削ぎ落として薄焼きのパンに挟んで出してくれた。これは当地にはない地球のケバブスタイルで、見た目のインパクトがあってフェス向きなので今回採用した。出されたのはこぼれるほどの大量のバジリスク肉を挟んだケバブだ。


モモロー「おいふぃ〜! お肉に張りがあって味が濃い! またこの甘じょっぱいソースと合います!」


トッツィー「これは文字通りフェスの大トリを任せられる存在だねぇ!」


 相変わらずノリノリのダジャレだが、これはこのおっさんがこういうキャラで売ってるから仕方ない。おれもいちいち突っ込まない。


ミキオ「お次はここだ。ゴーゴンの肉寿司」


シンノス「へいらっしぇい!」


 この店は“寿司つじむら”の板長シンノスにわざわざミカラムまで来てもらって任せてある。


モモロー「かっこいい! 板さん男前ですね! ゴーゴンというのは確か牛のモンスター」


ミキオ「そう、全身が鉄の装甲に覆われた牛の怪物だ。外皮の硬い生き物は概して肉が美味いのだ。亀しかり、アルマジロしかり」


トッツィー「しかし魚介類ならわかるが肉の寿司とは、ニクいねえ」


ミキオ「まあ無視するが、今回はゴーゴンの肩ロースとモモ肉でローストゴーゴンを作り、それを寿司に握って貰った。ワサビの代わりにホースラディッシュで食べてもらいたい」


モモロー「むぉいふぃー! ほぼレアでジューシーなローストゴーゴンもホースラディッシュでさっぱり食べられます!」


トッツィー「これもう早く会場に来ないと売り切れちゃうね。時すでにお寿司(遅し)!とならないようにね」


ミキオ「そして今回の目玉、マンモスベアーのバーベキューだ」


モモロー「マンモスベアー! 危険度ドラゴンクラスのモンスターと聞きます、それにここの屋台の店員さんは先日大暴れした古代文明の魔導騎士にちょっと似てますが」


ガーラ「気のせいだ。ほれ、焼き上がったぞ」


 この店はうちの事務所の書生で魔導騎士のガーラに任せてある。ガーラがでかい体を動かしてレポーターふたりに肉串を配った。


モモロー「んむおっふぉー! あえての塩とガーリックだけの味付けがまさにワイルドジビエ! 奥の方に甘さを感じる赤身肉です!」


 このレポーター、おいしいの言い方に妙にバリエーションをつけてくるな。


トッツィー「熊肉がこんなに美味しいなんてねえ! クマったクマった!」


 熊で思いつくダジャレの教科書があったら1ページ目に載ってそうなダジャレが出た。まあおっさんもノリノリなのだろう。思わず出たおれの苦笑いの表情が魔法配信でお茶の間に届いたかもしれない。


モモロー「というわけで、大盛況のシェナミー市ササガナガル公園の肉カーニバル会場からは以上です! スタジオにお返しします!」


 本当に今回は大盛況となった。真っ当な値段で真っ当な量の肉料理を振る舞えばこんなにも素晴らしいイベントになるんだなぁということが確認できて良かった。異世界の肉料理最高。今日はおれもひたすら食べ尽くそう。

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