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第68話 異世界♡ハッピー♡ウエディング(後編)

 おれの東大時代からの友人でありこの異世界ガターニアで召喚士事務所を共同経営しているヒッシーこと菱川悠平が縁あって当地の伯爵令嬢と結婚することになった。新婦の父親であるナンバンビー伯爵は結婚に反対しているため、友人らだけでささやかに式を挙げるつもりだったが国王が媒酌人に決まり、式はどんどん派手になっていくのだった。


 結婚式は結びとなり、そのまま披露宴に移る。普通は教会から披露宴会場に移ってやるのだが、今回はシームレスに同じ会場で行うことになっている。


コンペート「それでは御両家の披露宴を行うにあたり、媒酌人様から開宴の辞を頂きたいと思います。媒酌人様は中央大陸連合王国君主、ミカズ・ウィタリアン17世陛下御夫妻でございます。よろしくお願いします」


 拍手のなか、国王と王妃が立席する。仲間うちだけのカジュアルな式にしようと言ってたのになんでこんなガチガチにやってるんだ。だから王侯貴族なんか呼ぶと面倒くさくなるから嫌だと言ったんだ…などと言ってるおれ自身が今は貴族なわけだが。


国王「ただいま御紹介に預かりましたミカズ・ウィタリアンでございます。本日は皆さま御多忙中にもかかわらず、このようにご列席たまわり、誠にありがとうございます。新郎のユーヘイ君はニホンの最高学府を優秀な成績で卒業され、友人の招きにより来訪したここガターニアを運命の地と定め移住され、事業を起こし御成功されました。新婦のアマンビーさんはオーガッタ地方北方の領主ナンバンビー伯爵の御令嬢として生まれ、地元の高校を卒業して家事手伝いに尽力されてきました。そんなお二人が現代的な方法で出逢われ、ここに結婚の運びとなりました。御列席の皆様方にも若いお二人によろしくご指導たまわりますようお願い申し上げ、開宴の御挨拶と変えさせて頂きます」


 再び拍手が起こる。さすが国王、カドの立たない見事なスピーチだ。


コンペート「さて、これよりは乾杯へと進めてまいりたいと思います。グラスは行き渡っておりますでしょうか? 今回乾杯の御発声を頂きますのは皆様御存知、お茶の間の大スター、トッツィー・オブラーゲ様でございます。トッツィー様どうぞよろしくお願い致します」


トッツィー「大スターのトッツィー・オブラーゲでございます」


参列者「(笑)」


 お、ウケた。珍しいなこのおっさんがウケるのは。


トッツィー「はなはだ僭越ではございますが、御指名を頂戴しましたので乾杯の音頭を取らせて頂きます。若い二人の前途をお祈りしまして、参拝!」


 そう言ってトッツィー・オブラーゲのおっさんは神社を参拝するかのように二拍一礼した。


トッツィー「なんちゃって、乾杯!」


 トッツィーのおっさんはあらためて杯を掲げ飲み干した。場内はめちゃくちゃしらけたので乾杯のタイミングがわからなくなったが、どうにかみな乾杯した。だからこんなおっさんに乾杯の音頭なんか取らせるなと言ったんだ。というかなんでこんなのがスターなんだ。


コンペート「トッツィー様ありがとうございました。会場が一気に温まりました、さすがです。それではこれよりお酒とお食事のご用意を進めさせて頂きます。本日のメインディッシュはこちら“寿司つじむら”の花板、シンノス・コシヒッカ様によるクラーケンのお造りでございます」


 これはおれが食べたかったやつだ。クラーケンは異世界固有の頭足類のモンスターで、足が20本もあり巨大なものは船よりも大きい。小型種はきわめて美味だがなかなか市場に出回らないので探していたのだ。今回良いタイミングで仕入れできたのでメインディッシュとした。おれはイカもタコも大好きなのだ。


ミキオ「うむ、最高に美味い。ヤリイカのようにむっちりしてて茹でタコのように味が濃い。花びら状に配置した盛り付けもいい」


ガギ「なんだこりゃ、味がしねぇな! 板さん、アタイが持ってきた猿を握ってくんな!」


 アマゾネスのガギがそう言って人間の子供の焼死体にしか見えない猿の干物をテーブルに置き、貴族の女性らの悲鳴がとんだ。誰だ蛮族なんかに招待状送ったのは…。


コンペート「ええ、それではここでゲストに歌って頂きたいと思います。ニホンの超大物シンガー、堀江美都子さんでございます、どうか皆様、盛大な拍手でお迎えください! 曲は『キャンディキャンディ』」


 このゲストについてはアイドル好きのヒッシーに、披露宴の祝いに誰でもいいからアイドルをひとりだけゲストで召喚してやると言ったのだが、出してきた名前が意外にも堀江美都子さんだったのだ。確かにミッチさんはその長いキャリアの中でアイドル歌手的な活動をしていたこともあるのだが、言うまでもなく本業は『アニソンの女王』と呼ばれるほどの超大物アニソンシンガーだ。なお当初ヒッシーはハロプロオールスターズを呼んで欲しいと言ってきたのだが、この寿司屋にあの人数が入るわけがないので却下した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、堀江美都子」


 赤のサモンカードより出現したのは若い頃の堀江美都子さん、おそらく十代後半の頃の溌剌としたミッチだ。確かに丸っこくてキュートでアイドル歌手としてまったく遜色のないルックスである。疑う人は是非1976年の『宇宙鉄人キョーダイン』に白川エツ子隊員として出演しているので是非一度観てみて欲しい。


堀江美都子「そばかすなんて気にしないわ〜♪」


 鈴を鳴らすような透明感のある可憐な美声、思わず聴き惚れる。おれは常々この頃のミッチが人類史上いちばん美声なのではないかと思ってる。なにしろ歌手なのに声優としてオファーが来るほどだ。この曲はアニメ『キャンディキャンディ』のオープニングで、明るくポップなイントロから中盤激しく転調しサビで一気に悲愴なメロディに変化、そしてまた明るいメジャーコードに変化し終わるという目まぐるしくもドラマティックな曲だ。ミッチの代表曲でありアニメ自体も不朽の名作なのだが権利的な問題がいろいろとアレで再放送もリメイクもなかなかできないような状況なので近年聴く機会は減っている。


コンペート「ありがとうございました。なんですか、ニホンにはこんなにも美しい歌声を持つ歌手がいらっしゃるんですね。続きまして皆様お待ちかねと思います、新郎がプロデューサーを務めるイセカイ☆ベリーキュート様より1曲歌って頂こうと思います。曲は御存知“イセカイズム”」


 発表から8日経ったこの曲だが、連合王国のみならず中央大陸全土、西方大陸でも爆発的に売れて社会現象のようになっている。現に今もサビの『全然転生前世で天啓〜』のところは巫女のサラや新婦側友人の王族令嬢まで一緒に歌っているほどだ。


コンペート「宴もたけなわとなってまいりましたが、ここで新婦様から御両親へのお手紙を御紹介させて頂きたいと思います。新婦様、どうぞ」


アマンビー「本日はわたしたちの結婚式へ御列席頂きましてありがとうございます。この場をお借りして、わたしを育ててくれた両親への感謝の手紙を読ませてください。お父様、お母様。20年間育ててくれてありがとうございました。お父様はわたしたちの結婚に反対のようで、残念ながら今日は来て頂けませんでした。本当に意地っ張りで頑固な父です」


 アマンビーさんは小柄だがよく通る声だ。フレンダの横にいる影騎士がなぜか所在無さげにしている。


アマンビー「わたしも父譲りの意地っ張りで、とうとうお父様抜きで式を挙げることになってしまいました。我ながら親の言うことをよく聞く娘だったと思いますが、今日だけワガママを言わせてください。お父様、わたしユーヘイさんと一緒になります。きっとわたしを世界一大事にしてくれる人です。だってユーヘイさん、優しくて物知りで意地っ張りで、お父様そっくりなんだもん」


 花嫁の手紙が佳境に入ると、さっきからグスグス言っていた影騎士が堪らず外に駆け出して行った。


アルフォード「なんだあいつ」


フレンダ「ほっときましょ。今日の彼は涙もろいみたいですわ」




 店の裏で男泣きする影騎士。そこに現れたのはヒッシー父の菱川平蔵氏だ。


ヒッシー父「つらいものですな、花嫁の父というのは」


 ヒッシー父にそう声を掛けられ、マスクを外す影騎士…ではなく、その正体はアマンビー父のナンバンビー伯爵だった。結婚に反対し式には出ないと頑なになっていたが、媒酌人である国王に諌められ、フレンダのはからいで影騎士の装束を着て密かに式に参加していたのだ。


ナンバンビー伯爵「これはどうも…無様なところを見られましたな」


ヒッシー父「素晴らしいお嬢さんですな。うちの悠平には勿体無い」


ナンバンビー伯爵「いやはや…娘なんて勝手に成長してしまうもんですなぁ」


ヒッシー「さ、席に戻りましょう。もうそのマスクは置いて行けばよろしい」


 ナイスミドルふたりの渋いやり取りが終わり、ナンバンビー伯爵は温かい拍手で迎えられ式典もお開きとなった。二次会は近くの居酒屋で行われたが、よくもまあこれだけ酒癖の悪い連中ばかり集まったものだとだけ言っておこう。

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