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第66話 異世界♡ハッピー♡ウエディング(前編)

 異世界36日め。太古の錬金術師が作った人造魔導騎士であるガーラを書生という名の雑用係として雇った初日であるが、こいつは結構こまごまと働いてくれるので意外と重宝している。綺麗好きのザザなどは掃除ばかり頼んでおりまるでルンバ扱いだ。午前中の仕事が一段落し、いつものように日本から持ってきたカフェラトリーのスティックコーヒーを飲んでると大学時代の学友であり秘書の永瀬が切り出してきた。


永瀬「ツジムラ男爵、ご報告が」


ミキオ「そんなかしこまった言い方しなくていいよ。なに」


永瀬「今朝方、王宮から鳩がありまして、男爵領の加増が決まったそうです。コストー地方ヤシュロダ村」


ミキオ「あそこか、行ったことあるな。巫女のサラが住んでるでかい神殿のある村だ」


永瀬「旧領主のポタポターキ子爵が廃位、領地取り上げになったのでそこをツジムラ男爵に任せたいとのこと。これに伴ってツジムラ男爵は子爵となります。近日叙爵式があるので必ず出席するようにとの王命が」


 子爵か、まあ出世するわけだからいいけど語感で言ったら子爵より男爵の方が絶対カッコいいんだがな。そんなことを考えていると横にいる召喚士事務所の共同経営者であり大学時代の友人菱川悠平ことヒッシーが妙にもじもじしていた。


ヒッシー「今日はおれからも報告があるニャ」

挿絵(By みてみん)

 今更だが、本当に猫のような男だ。おれと同い年の23歳だが154cmとなかなかの小柄で童顔、ややぽっちゃり。毛量多めの天パでくるっくるの髪。言われなければ東大卒には見えない。おれが“全世代アイドルフェス”をやるためにこのガターニアに連れてきたのだが水が合ったらしくそれからこの世界に居着いている。小柄で童顔なためこのガターニアではドワーフやハーフリングと間違えられることがしょっちゅうだ。


ミキオ「どうぞ」


ヒッシー「えー、このたびわたくし菱川悠平、結婚することになりましたニャ」


一同「ええっ!?!」


永瀬「本当に!?」


ヒッシー「いやこんなあらたまってウソは言わないニャ」


ザザ「相手は? ネコか?」


ヒッシー「人間の女性だニャ」


ミキオ「国際ロマンス詐欺みたいなのに騙されてるんじゃないだろうな」


ヒッシー「普通に結婚するよりそういうのと知り合う方が難しいニャ」


ガーラ「みんな! 結婚の報告ならそんなことよりまず最初にこの男に言うべき言葉があるんじゃないのか!」


ミキオ「そ、そうだな。おめでとう」


ザザ「良かったじゃねーか、ヒッシー。あたしも嬉しいぜ」


永瀬「おめでとう、菱川クン」


ヒッシー「どーもどーもだニャ」


 人造魔導騎士のガーラが良識のあるところを見せた。コイツ今日事務所に入ったばかりなのに妙に馴染んでんな。


ミキオ「で、真面目な話、お相手はどういう人なんだ」


ヒッシー「それが…貴族の娘なんだニャ」


ザザ「お貴族様だァ〜?」


ミキオ「逆玉じゃないか。よくそんなのと知り合ったな」


ヒッシー「マッチング魔法ってやつで、試しにやってみたらなんかうまくいって会うことになって、実際会ってみたらビックリしたニャ」


 いや、そもそもマッチング魔法ってのも初めて聞いたが。だいたいどんな物かは想像つくけど。


永瀬「なんて人」


ヒッシー「オーガッタ地方北方の領主、ナンバンビー伯爵の娘アマンビーさんだニャ。たぶんミキティは伯爵には王国議会で会ってる筈だニャ」


ミキオ「うーん、王国議会議員は158人もいるからなあ」


ヒッシー「今度連れてきて紹介するニャ」


ミキオ「なら今ここに召喚しようか?」


ガーラ「ミキオ! それはさすがに失礼だろう、レディーをいきなり呼びつけるなんて!」


 まあ、そうかもしれんがこいつ太古の人造魔導騎士のくせに妙に良識派だな。変なのを書生にしちまったな。


ヒッシー「ああ、でも今日召喚するかもしれないとは言ってあるし、彼女別に仕事もしてないからいいんじゃニャい?」


 『別に仕事もしてないから』のくだりでザザと永瀬がケッという表情をしていたのをおれは見逃さなかった。二人とも裕福な家庭の出ではないので働かなくても食っていける貴族に対しては思うところがあるようだ。


ミキオ「じゃ呼んでいいんだな? エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、アマンビー・ナンバンビー!」


 赤のサモンカードから紫色の炎が噴き上がり、中から小柄で、貴族の公女にしては素朴なお嬢さんが出現した。小柄と言ってもヒッシーよりはやや背が高い。

挿絵(By みてみん)

アマンビー「こ、ここは…」


ヒッシー「アマンビー、突然ゴメンだニャ」


アマンビー「あ、じゃあここがヒッシーさんの事務所…」


ガーラ「ようこそ最上級召喚士事務所へ。書生の魔導騎士ガーラだ」


ミキオ「いやお前が真っ先に挨拶するな。はじめまして。召喚士でヒシカワ君の友人、ミキオです」


アマンビー「あ、はじめまして…」


ザザ「可愛らしい子じゃんか」


永瀬「そうね」


 女子ふたりが何か含みありげな表情でアマンビー嬢を見ている。女子が他人のルックスを評する時の「可愛い」と「可愛らしい」では天地の開きがあることをおれは知っているのだ。


ミキオ「アマンビーさん、ご兄弟は?」


アマンビー「はあ、うちはひとりっ子で」


ガーラ「と、いうことはヒッシー、君が婿に行く形になるな。伯爵の跡継ぎか、ミキオより爵位が上になるな」


ミキオ「うるさいぞ」


アマンビー「いえ、父はこの結婚には反対しておりますので、わたしが家を出る形になります」


一同「ええっ」


ザザ「道ならぬ恋ってやつか?」


永瀬「詳しく聞かせてください」


 女子ふたりが異様に食いついてる。さっきまでの態度とえらく違うじゃないか。本当にこいつらは他人の面倒事が好きだな。


アマンビー「まあ、父はやはり世襲貴族ですので結婚については相手の家柄がどうのこうのと言わなくていいことを言いましたので、頭にきてわたしが家を飛び出た形です」


ザザ「へえ! お貴族様の娘にしちゃあ骨があるな、あんた」


永瀬「ま、こちらでお菓子でも。お茶淹れるんで」


 永瀬がアマンビー嬢をソファーの方に促した。話が長くなりそうだな…。


ミキオ「まあ、ふたりとも大人なんだから自分たちのことは自分たちで決めるしかないだろう。親は時間をかけて説得したらいいんじゃないか」


ガーラ「そうだ。孫の顔でも見せてやれば大概の親はわだかまりなど消えるものだ」


 気の利いたこと言いやがって。なんだこのロボットは。


永瀬「ね、仲間うちで結婚式挙げない?」


ミキオ「お、いいな」


ヒッシー「そう言ってくれると思って実はもう今週末の光曜日に“寿司つじむら”を貸し切りで予約してあるニャ」


 寿司つじむらは縁あっておれがこの王都に開いた寿司屋だ。


ザザ「今週末!? 3日後じゃねーか、早えな!」


ミキオ「ま、あの店なら小ぢんまりして、仲間うちでやるぶんにはちょうどいいんじゃないか」


永瀬「じゃ早く出席者に連絡しないとだわ、菱川クン、呼ぶ人をリストアップしましょ」


ヒッシー「ええ、まず媒酌人は国王さん夫婦に頼もうと思ってるニャ」


ザザ「いきなり国王かよ」


ヒッシー「ここの建物も借りてるし、何かと世話になってるニャ。それとこの事務所の人たち、フレンダ王女、オーガ=ナーガ帝国皇子のアルフォードくん、お姉さんのエリーザ皇太女、イセカイ☆ベリーキュートのみんな、スターのトッツィー・オブラーゲさん…」


アマンビー「わたくしの友人も呼びたいです。タイナー王国王女、セーロ藩王国王女、トヨーラ大公公女、それに…」


ミキオ「待て待て待て! あの店にそのメンバーじゃ格式的に無理がある! 王侯貴族ばかりじゃないか!」


ガーラ「実際に友人なんだから格式にばかり拘っても仕方ない。ミキオの店なんだから自由も利くだろう」


ミキオ「書生のくせに偉そうに…じゃ警備の人頼まなきゃいかんな…」


ガーラ「警備など頼む必要はない。ここに地上最強の魔導師がいるだろう。式の間ずっと寿司屋全体に強力な魔法障壁を張っておく」


 何かむかつくがまあその通りか。


永瀬「あと、いちばん大事なのが菱川クンのご両親」


ヒッシー「そうなんだニャ〜…」


永瀬「菱川クン、全然里帰りしてないんでしょ、式にお呼びしてちゃんと報告しなきゃダメよ」


 ヒッシーの父親は所沢市内の総合病院の院長先生だ。病院は長男が継ぐので問題ないが、せっかく東大に入ったのに医学部じゃなく理工学部に入って院生となったヒッシーとは多少の確執があると聞く。


ヒッシー「親父にはこのガターニアで暮らしてること言ってないニャ、東大の大学院辞めて異世界で暮らしてるなんて言ったら怒られそうだニャ〜」


 その場合、この世界にヒッシーを召喚したのはおれだから、おれも恨み言を言われそうだな…。


ミキオ「ま、問題は山積してるがとりあえず招待状を書こう。ガーラ、配達用の鳩をかき集めてきてくれ」

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