第62話 地上最強の魔導師(第二部)
貴公子ナイヴァーと言う男に召喚され、水色のエネルギーの渦に巻かれおれが出現したのはどこかの古城らしい。目の前に魔導師らしき連中が7人座っている。どいつもこいつもクセのありそうな奴らだ。
ミキオ「妖精、ここは」
クロロン「西方大陸の南ウォヌマー王国、ウラッサー城だよ」
なるほど、南ウォヌマー王国と言えば確か魔法立国、ここが魔導十指とやらの根城というわけか。
ナイヴァー「よく来てくれたハイエストサモナー。我が名は“貴公子ナイヴァー”」
ナイヴァーは先ほどの幻影通り、赤と青の瞳のオッドアイ。銀色の髪でその通り名が表す如く気品のある美男子だ。
マイコスノゥ「“絢爛たるマイコスノゥ”」
マイコスノゥは30代なかば〜40歳くらいの気の強そうな美女だ。その名の通り豪華絢爛なドレスを着ている。この南ウォヌマーの女王らしい。
カンダーツ「“怪腕坊”カンダーツ」
カンダーツは非常に大柄で容貌魁偉。肌が赤銅色で、法衣は着ているが戦士のような体型だ。
ナスパ「“月光卿”ナスパ」
ナスパは中性的な人物で、プラチナブロンドの長髪。声からして男性だろうが中性的で妖しげな美貌の持ち主だ。
カグラム「“聖賢”カグラム」
カグラムは小柄で眼光鋭い白髭の老人。たぶんノームだ。椅子ごと宙に浮かんでいる。
アルゲンブリッツ「“鉄壁のアルゲンブリッツ”」
アルゲンブリッツは金属の鎧を着た筋骨隆々の巨漢。魔導師というより重戦士に見える。
二ノッグス「“医療神君”ニノッグス」
ニノッグスは黒衣を着た長髪の男。顔の半分は前髪で覆われている。
ナイヴァー「ここに“嵐のフュードリゴ”、“マスター・エクソシスト”シャルマンの2名を加えたのが“魔導十指”だ」
ミキオ「いや、それでも9人しかいないが」
マイコスノゥ「最後の一人“不死竜”ジョー・コクーは5年前に高齢で引退したわ。以来その席は空座よ」
カンダーツ「左様。ハイエストサモナー、おんしにその座ば継いで欲しかとよ」
ナスパ「君の参加については全員一致で賛成となった。君は文句なくガターニア最強レベルの魔導師だからな」
おれが来る前に勝手におれの参加を審議したらしい。
ミキオ「なるほど。状況はよくわかった」
おれは空いている席にどかりと座った。これでおれも魔導十指に加わったことになるのだろう。全員から拍手で歓迎された。
ミキオ「“ハイエストサモナー”ミキオだ。緊急を要する話とは一体何だ」
ナイヴァー「我らはガターニア最強の魔導師10人。代を重ね永きに渡り光となり影となりこのガターニアを守護してきた」
カグラム「その我らが対立する集団がある。その名も“破滅結社”」
ミキオ「破滅結社?」
ニノッグス「そう。何が面白いのか、人類破滅の妄想に取り憑かれて様々な破壊行為を実行している連中だ」
マイコスノゥ「死ねばいい、死ねばいいと繰り返してる厭世的な奴らよ。勝手に一人で死になさいよと思うけど、なぜか周りを巻き込もうとするのよね」
カンダーツ「おんしが壊滅させた邪神教団も破滅結社の下部組織とよ。何が目的かは知らんばってん、奴らは太古の錬金術師たちの遺産を使ってわしらを壊滅させようとしちょるらしかとよ」
ナスパ「そして昨日、我らが同志シャルマンが何者かに倒されたらしい。破滅結社の手の者との情報もある。現在、同志フュードリゴがその調査に当たっている」
ミキオ「ちょっと待て、そのシャルマンとかいうのも魔導十指なんだろ? 敵はそんなに強いのか」
その時、女王マイコスノゥが立ち上がり、その長い髪を逆立てて言った。
マイコスノゥ「来たわ、フュードリゴのテレパシーよ!」
彼女は精神感応に長けていると聞く。調査に行った魔導十指のテレパシーを受信したらしい。
マイコスノゥ「でも危険な状態だわ! ナイヴァー、フュードリゴを召喚して!」
ナイヴァー「ダメだ、彼がどこにいるのかわからなくては召喚できない。現在地を訊けないのか」
ナイヴァーの召喚魔法は限定的なようだ。おれは席を立ち言った。
ミキオ「僭越ながらおれがやろう。エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、嵐のフュードリゴ!」
赤のサモンカードから紫色の炎が噴き出し、中から“嵐のフュードリゴ”が現れた。長い青髪の男だが、どうしたことか、下半身が水晶のように透明に結晶化している。
ナイヴァー「フュードリゴ!」
カンダーツ「その姿は、どげんした!」
フュードリゴ「…やられた…あれは…魔導騎士ガーラ…」
カグラム「なんと、魔導騎士ガーラ!」
ナイヴァー「知ってるのか、聖賢の」
ナスパ「それが君とシャルマンを倒した者か!」
マイコスノゥ「医療神君! 治癒魔法を!」
フュードリゴ「無駄だ…おれはすぐに全身が水晶化する…魔法術の原則の通り、術者が解除あるいは消滅しなければ元に戻ることはない…」
ナイヴァー「わかった。友よ今は眠れ。君と同志シャルマンの命は必ず我々が取り戻す」
フュードリゴ「頼んだぞ…友よ…我ら影に有りても光とならん」
魔導十指「光とならん!」
おれ以外の十指の連中が右手を左肩に当ててそう言った。たぶんこれが魔導十指の決まり文句なのだろう。フュードリゴはすぐに意識を喪失し全身が水晶化していった。
カグラム「謎は解けた。敵は魔導騎士ガーラ。太古の錬金術師が産み出した恐るべき人造の魔人。南方大陸のいずこかに封印されていたと聞くが、おそらくは破滅結社が発見し復活させたのだろう」
カンダーツ「そしてそやつは人間を水晶に変える能力を持っちょる」
マイコスノゥ「ならば我らのなすべきことは一つ。その魔導騎士を探してシャルマンとフュードリゴの仇を討つだけよ!」
ナイヴァー「女王は司令役としてここにいてくれ。我らはこれよりガターニア全土に散る。誰かが魔導騎士を発見した時に全員にテレパシーで通信して欲しい。皆でそこに集結し、総員で当たるべきだ」
カンダーツ「そいで良かと」
ミキオ「わかった」
おれも“逆召喚”でその魔導騎士のところまで跳びたいところだが、まあそんなに簡単に尻尾を掴ませるような奴ではないだろう。
カグラム「待てぃ、ハイエストサモナー」
ミキオ「なんだ」
カグラム「お主はまず先代の十指、“不死竜”ジョー・コクーに会って来い。それが新たな十指としての礼儀だ」
ナスパ「聖賢の! 今はそんな場合では…」
ミキオ「まあ、聖賢と呼ばれるほどの人物が言うんだから意味があるのだろう。わかった、行ってこよう」
カグラム「彼の居る場所は、この南ウォヌマーの隣…」
ミキオ「大丈夫、おれの“逆召喚”ならアバウト検索できる。ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我、意の侭にそこに顕現せよ、魔導十指“不死竜”ジョー・コクーの居場所!」
おれは青のアンチサモンカードを取り出し、正式な呪文を詠唱し黄色い炎に包まれていった。