第61話 地上最強の魔導師(第一部)
異世界ガターニアの南方大陸最南端にあるイトイガ国。宝石を産出する豊かな中規模国である。そのイトイガの農業都市ヒューチの中空に突如現れたエネルギーの波動、その波間を割って銀色の鎧を全身に纏ったフルメタルの騎士が出現した。騎士の名はガーラ。右手に巨大な槍を持ちずんずんと歩いていく先にはヒューチ神殿があった。その威容にいち早く気付いたのは神殿の若い神官たちだ。
神官「大神官、何者かが近付いてきます」
シャルマン「ムウ、目にも見えんがほどに強力なオーラ! いずれ只者ではあるまい、お前たちは下がっておれ」
神官たちにそう言った大神官はシャルマン・ヒューチ、通り名を“マスター・エクソシスト”シャルマンという。このガターニアにおいて十指に数えられる最高位の魔導師“魔導十指”のひとりであり最高峰の悪霊祓い師だ。肩までの長髪、ヴァイオレットの法衣を着た壮年男性のエルフである。
近付いてきたフルメタルの騎士、ガーラは声を発した。地の底から響くような低音だ。
ガーラ「“マスター・エクソシスト”シャルマンか」
シャルマン「そうだが」
ガーラ「魔導十指のひとりと聞く。率直に言う。君の命を頂きたい」
シャルマン「馬鹿も休み休み言え。くれと言われてやる命などない、帰るがいい」
ガーラ「ならば無理にでも頂こう」
シャルマン「ふざけたことを!」
シャルマンは空中に跳び、拳を握った両腕を横に拡げた。彼の必殺技であるホーリークロス・バプティズマのストロークモーションだ。
シャルマン「エコーライリン、コーホーショウリン…はあっ!!」
かっ! シャルマンが全身を光源とし十字型にまばゆい光を放つが、ガーラはその直撃を受けて微動だにしない。
ガーラ「無駄だ、俺に悪霊祓いなど通用せん」
シャルマン「馬鹿な、私の攻撃は命ある者ならば皆立ち上がれなくなる筈…もしや貴様、オートマタ(自動人形)…?!」
ガーラ「ふんっ!!」
バシッ! ガーラが右腕を振るうことによって起きた強烈な破裂音と閃光ののち、シャルマンは雷撃に撃たれたかのように硬直し、地上に堕ちた。
神官「だ、大神官!!」
弟子たちが駆け寄ると、そこには師のかたちをした巨大な水晶の塊があった。
異世界35日め。いつものようにおれは事務所で日本から持ってきたネスカフェブレンディのスティックコーヒーを飲んでいた。おれはそこまでコーヒー通ではないのでスティックで充分美味しいと思っている。
ザザ「でな、あたしはお世辞抜きでミキオが最強の魔法使いだと思ってるんだけどよ」
暇なのか、事務員のギャルエルフが突然そんなことを言い出した。
ミキオ「急にどうした」
ザザ「だってお前これまで負け知らずだろ。反則みたいな技もいっぱい持ってるじゃんか。お前が勝てなそうな奴っているのか?」
ミキオ「なるほどな。いやおれも暇な時によく脳内でシミュレーションしたりするんだが」
永瀬「やるんだね、辻村クンもそんなこと」
最近秘書として雇った大学時代の同期・永瀬一香も話に入ってきた。
ミキオ「正直言って戦士や武闘家タイプは楽勝だな。召喚魔法使わなくても神与特性の身体強化だけで勝てると思う」
永瀬「身体強化!? そんなのもあるの!?」
ザザ「キタネーな、ホントに神の子だな」
ミキオ「ドラゴンや巨人が相手でも心臓を召喚すれば一発で勝てる。遠くからそいつの名前告げて召喚すればいいだけだから戦わずとも楽勝だな」
ヒッシー「仮にだけど、ウルトラマンや仮面ライダーにも勝てる?」
友人で事務所共同経営者のヒッシーも話題に入ってきた。
永瀬「菱川クン、子供みたい」
ミキオ「勝負のルールにもよるが、まあ勝てるんじゃないか? 彼らが変身する前にササッと心臓とか電子頭脳とかを召喚してやればいいだけだ。まあ平成や令和のライダーは時間操作とか未来予測とかを平気でやるから難しいかもしれないが」
ヒッシー「ミキティ、ライダー詳しいニャ」
ザザ「さっきから誰だよそいつら」
異世界生まれのザザが知るわけもない。
ミキオ「おれたちの故郷日本の英雄だ」
ザザ「マジかよニホン。時間操作とか半端ねーな」
ミキオ「あ、仮面ライダーウィザードというのがいたな。こいつは厄介だ」
ヒッシー「ウィザードには勝てないニャ?」
ミキオ「おれはたぶんほとんどの奴に勝てるが、魔法使いだけは別だ。特に上級の奴らは魔法障壁というものを使うから召喚魔法が通じない。こういう連中には物理攻撃で戦うしかないが、そういう奴らは防御魔法も使うからまた面倒くさい」
ザザ「なるほどな…」
ミキオ「アベンジャーズも同じ。アイアンマンやハルクには負ける気しないがドクターストレンジには勝てるかどうか。とは言えそこまでのクラスの魔術師なんてそうそういない。このガターニアに10人もいないと思う」
永瀬「そのクラスの有名な魔術師っているんですか?」
ザザ「そりゃおめえ、なんつっても西方大陸の貴公子ナイヴァーよ。超絶イケメンで、なんでも幻影を操るって話だ」
永瀬「プリンスナイヴァー、超絶イケメン…と」
永瀬はしっかりメモを取っている。
ザザ「次に“絢爛たるマイコスノゥ”。魔法立国である南ウォヌマー国の女王だ。精神感応系の魔術師らしいぜ」
ヒッシー「ザザにゃん詳しいニャ〜」
ザザ「まあこの辺りは魔法配信とかでよく出てくるからな。あとは“怪腕坊”とか“月光卿”とか、強そうなのが何人かいた筈だぜ」
永瀬「じゃあ辻村クンも完全に無敵ってわけでもないけど、この世界でトップクラスなのは間違いないってことね」
ミキオ「まあそうだろうな」
おれはブレンディのスティックコーヒーを飲み干した。
ナイヴァー「その10人が危険なのだ、ハイエストサモナー」
そう言って急に事務所の中に安いCGのような幻影が出現した。銀髪に赤と青の瞳のオッドアイ、何者かは知らんがなかなかのイケメンだ。
ヒッシー「ニャ! ニャ! ニャ!」
ミキオ「なんだあんたは」
ザザ「いや、そいつ、今言ってた貴公子ナイヴァーだ」
永瀬「え!」
ナイヴァー「我が名はナイヴァー。魔導十指の1人。ハイエストサモナー・ミキオ、突然の無礼を容赦願いたい」
永瀬「魔導十指?」
ナイヴァー「ガターニア最高位の魔導師10人による最高会議だ。緊急を要する事態となった。ハイエストサモナー、是非君にもこの会議に参加して欲しい」
ミキオ「何だかわからんが…ザザ、この男、信用できそうか」
ザザ「まあ、本物ならな。貴公子ナイヴァーって確かどっかの王族で、義に厚い高潔な人物と聞くぜ」
ミキオ「わかった。信用することにする。どこに行けばいい」
ナイヴァー「では魔法障壁を解いてくれ。私も召喚士だ」
永瀬「じゃ、じゃあ、秘書としてわたしも同行します!」
ミキオ「永瀬はここにいろ。何があるかわからない」
ザザ「ちょ、ちょ、ミキオ! プリンス・ナイヴァーのサイン貰ってきてくれ! 高く転売できるぞ!」
ミキオ「恥ずかしいからやめなさい!」
ナイヴァー「ジェビル・ゼル・グナーヴァ、召喚の礼に応じ来たれ、その名、ミキオ・ツジムラ!」
おれは貴公子ナイヴァーという男の魔法によってどこかに召喚されていった。