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第60話 異世界コンビニ大戦争(後編)

ミキオ「ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我ら4人、意の侭にそこに顕現せよ、日本の大阪府豊中市、ローソン桜塚店!」


 アンチサモンカードの黄色い炎がおれたちを包み、おれたちは豊中市にあるローソン桜塚店に出現した。


ミキオ「ここが現在も営業している日本のローソン1号店、ローソン桜塚店だ」


アルフォード「さっきからやたら1号店に行くが、何か理由があるのか?」


ミキオ「どうせ行くなら原点を知っておきたいからな。ローソンもルーツはアメリカ。1939年にオハイオ州のJ.J.ローソンさんが始めた牛乳店だ」


永瀬「だから看板がミルク缶のマークなのね」


ミキオ「ローソンは2000年代には日本で業界第2位となったが、アメリカでは衰退し現在は完全に消滅している。健康志向のナチュラルローソンや生鮮食品を置いたローソンプラス、百均のローソン100など多角的な店舗展開も特徴だ。おれのローソンオリジナル商品のオススメは何と言ってもこれだな、『ミミガー』と『豚バラ軟骨薄切り』。ミミガーは豚の耳だ」


エリーザ「ぶ、豚の耳だと!? いい度胸だな召喚士、皇族にこんなものを勧めるとは!」


ミキオ「まあ食えばわかる」


 おれは精算を済まし、店外に出た。最初にミミガーに箸をつけたのはアルフォードだ。


アルフォード「いや普通に美味いぞ姉上。コリコリしたハムだな。味が濃くてむっちりしていて箸が進む。こっちの豚バラも食べやすくて面白い食感だ」


エリーザ「耳だの軟骨だのと、そんなにニホン人は食べ物に不足しているのか…? むう、美味しいではないか」


永瀬「まあ美味しいけど、ちょっとおじさんぽいね。ローソンと言えば『からあげくん』じゃない?」


 永瀬が3種類の『からあげくん』を買って持ってきた。これは箸ではなく楊枝で食べる。


アルフォード「親しみやすいネーミングだ」


エリーザ「またチキンか」


ミキオ「ローソン名物からあげくん。名前は植田まさし先生の代表作である漫画『かりあげクン』から取ったらしい。…この漫画もまた最高に素晴らしいのだが、紹介はまたの機会にしよう。国産若鶏の胸肉100%の商品であり、ヘルシーだ」


アルフォード「おう、軽い。スナック菓子のようだ」


エリーザ「先程のファミチキと全然違うな」


ミキオ「あまりの軽さのため大豆から作った人造肉だという噂すらあったほどだ。さて次だが、そこに行く前に俺が一番好きだったコンビニを挙げておきたい」


アルフォード「今まで出てきたコンビニは一番ではないのか?」


ミキオ「おれが一番好きだったのは『セーブオン』だ」


永瀬「懐かしい〜。群馬のおじいちゃんち行った時よく寄ったよ」


ミキオ「セーブオンはかつて北関東を中心に最大約600店舗を誇ったコンビニエンスストアだが、閉店したりローソンに変わったりして2018年に全て消滅した」


エリーザ「栄枯盛衰だな」


ミキオ「1キロカレーや豚タン串など、面白い商品もあったのだがな…」


永瀬「1キロカレー?」


ミキオ「文字通り、1kgの重さのカレーライスだ」


永瀬「えー!?」


ミキオ「しかも具はほとんど入ってない、ご飯とルーだけのカレーだ。持つとずしりと重い。電子レンジで温めてもらってもまだ中心が冷たかったな」


アルフォード「よくわからんが、それを食べれば確実に体重1キロ増えるわけだな」


ミキオ「しかもそれがワンコインで買えたからな。他にも賞味期限近い弁当などが半額になったりして楽しいコンビニだったな」


エリーザ「なるほど、しかしなぜ今は亡きコンビニの話を?」


ミキオ「セーブオン社は現在、ローソンのフランチャイズ事業を行っている。北関東や東北、新潟などの338店のローソンが実はセーブオンだ」


アルフォード「どういうことだ?」


ミキオ「あえて言うならローソンの皮を被ったセーブオンということだな。滅んだと思ったセーブオンがローソンのフリをして生きていた、このことに気付いた時おれは感動したよ。よく見るとセーブオン系ローソンは半額値引きをしていたりして、確かに普通のローソンとは違う(あくまで個人的見解です)」


永瀬「そうだったんだ…!」


エリーザ「召喚士、余談が過ぎるぞ。そろそろ次のコンビニを」


ミキオ「ああ。ま、ベスト3としては以上なのだが、最後に面白い店に行こう。ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我ら4人、意の侭にそこに顕現せよ、日本の新潟県新潟市、デイリーヤマザキ新潟大島(おおじま)店!」




 我々が“逆召喚”で来たのは新潟市中央区大島にあるデイリーヤマザキ新潟大島店。店のキャンバス地の看板に“大島あんぱん”、“ごまだんご”と大書してあり、一瞬何の店なのかと戸惑うが間違いなくデイリーヤマザキだ。


永瀬「なに、この店!?」


エリーザ「建物は相当年季が入っているな…」


アルフォード「何か怪しげな妖気を放っているぞ」


ミキオ「デイリーヤマザキはミニストップに続く業界第5位のコンビニだ。母体はもちろん山崎製パン。直営店とフランチャイズ店があるが、フランチャイズ店は他社に較べ格段に本部からの縛りが緩く、各店舗オーナーの裁量に任せて自由度の高い経営が行われている。ここはその最たる例だろう。さ、中に入ろう」


エリーザ「うおぅ…先程までのコンビニの雰囲気とまったく違う…」


永瀬「昭和の時代にタイムスリップしたみたい…」


アルフォード「店の中にまた商店街があるような…このポップは全部手書きだな。泣かせる」


永瀬「昔のアイドルの写真とか、ゴジラの人形とか、どうなってるの? ここだけ80年代から時間が止まってるの?」


ミキオ「他の大手コンビニだったらすぐエリアマネージャーが飛んできてこれ全部どかしなさいと言うだろうな」


永瀬「瓶のファンタなんて初めて見たよ」


アルフォード「こっちにはイートインスペースがあるぞ。いやもうイートインというより定食屋だな。メニューもそこそこある」


ミキオ「昼時になるとサラリーマンや運送業の人たちで満席になるぞ」


エリーザ「いやよく見ると品物も充実しているぞ。他では見なかった商品も多い。このパン類の充実ぶりは何事だ!」


ミキオ「もともとデイリーヤマザキの中でも『デイリーホット店』は店内にベーカリーがあるんだが、この大島店オリジナルの『大島あんぱん』はパンの宝石と自称するほどの自信作だ。買ってみよう」


永瀬「焼きたてのパンがコンビニで食べられるの? すごいね!」


アルフォード「ミキオ! この団子のようなものは何だ!」


ミキオ「たこ焼き串だな。たこ焼きを串に刺すという斬新な発想だ。これも買おう。なんでも好きな物を買っていいぞ」


アルフォード「話せるな、貴様! では私は唐揚げ串も貰おう」


永瀬「ポップコーン取り放題0円て書いてある…何が何だか…」


 レジ前のホットスナック類を山ほど買っておれたちは店外に出た。駐車場は狭くはないが満車に近い状態で、この店の人気の高さが窺い知れる。


エリーザ「なんだ、この大島あんぱんとやらは! 持った瞬間に指がパンの中に沈んでいく、こんなふわふわのパンは見たことがない!! こんなもの美味いに決まってるだろ!」


アルフォード「中は小豆あんとクリームがぎっしり詰まってる! この小豆あんとクリームの相性の良さよ! パンの宝石と呼ばれるのも頷ける美味さだ! ミキオ、ここの支店を我が宮殿内にオープンさせて欲しいぞ!」


ミキオ「はっはっは。いやお前たち、大島あんぱんだけじゃなく他のものも食べてくれよ」


 楽しいコンビニの旅も終わり、おれたちは懐かしき異世界に戻った。




 1週間後、帝国から鳩を貰ったおれはオーガ=ナーガ帝国の帝都トノマにあるスズランドー商店街に“逆召喚”で飛んだ。かつて古びた帝国直営商店があったそこにはガターニア言語で“エリアル”と書かれたまごうことなきコンビニがあった。


ミキオ「こ、これは…」


エリーザ「見よ、召喚士! これぞガターニア初のコンビニエンスストア、エリーザ&アルフォード略してエリアル1号店だ」


 産業革命以前レベルの文明のこのガターニアで本当にコンビニを開店させるとは。見れば日本のコンビニには明白に劣るものの、この世界としてはなかなかの陣容だ。オーガ=ナーガ帝国の底力を感じる。


ミキオ「ずいぶん早足で開店させたな…」


エリーザ「ホットスナック類はすべて奥の厨房で作っている。文字通り作りたてだ。急な開店でバイトが足りず、今は私とアルフの二人もシフトに入って店を回している」


ミキオ「そこまでするか…」


 お前ら皇太女と皇子だぞ、忘れてないか。おれが呆れているとバックヤードから目が血走ったアルフォードが飛び出してきた。


アルフォード「姉上! 油を売ってる場合ではないぞ! お客さんがお待ちだからレジに入ってくれ! …おおミキオ、助かった! ドリンク類のフェイス出し(商品のラベルのある面を前面に向けること)手伝ってくれ! からあげちゃん揚げたて入りましたー! いかがでしょうかー!」


エリーザ「う、うむ! いらっしゃいませ! 2番目の方こちらへどうぞ!」


 エリーザが走って2番レジに入った。明らかにスタッフが足りてない。バイトが集まるまではしばらくこの体制なのだろう。おれは皇族ふたりの勤労ぶりに感動し、ドリンク類のフェイス出しを数本分やってさっさと逃げた。



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