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第58話 異世界コンビニ大戦争(前編)

 異世界34日め。おれは王都にある召喚士事務所で事務所共同経営者のヒッシーと事務員のザザにあらためて新入社員となった永瀬一香を紹介していた。


ミキオ「えー、というわけで、うちの事務所に新入社員が来てくれました。じゃ自己紹介して」


永瀬「異世界からやって来ました、イチカ・ナガセと申します。23歳です。よろしくお願いします」

挿絵(By みてみん)

ザザ「まあ、こうなるだろーなとは思ってたけどよ」


ヒッシー「よろしくだニャ」


 どう考えても面倒くさそうな女が入ってきてザザはフテり気味、ヒッシーは困惑気味だ。


ミキオ「昨日、国王から内示があったんだが、どうもおれに追加の封爵があるらしい。なので永瀬には今あるマギ地方の領地を含め領地経営をメインに任せたい。わからないことはそこのギャルエルフに訊くように」


永瀬「はい、頑張ります!」


ザザ「まあ適当によろしくな。あたしの方が歳下だけど気にするな。ヒッシー、鳩来てるぜ」


ヒッシー「オーガ=ナーガ帝国からだニャ。えーにゃににゃに、帝国存亡の危機あり。最上級召喚士殿のお力を借りたし、至急連絡乞う…」


ザザ「また帝国存亡の危機かよ。どーせまたあの皇太女の婚活じゃねーの」


ミキオ「永瀬、オーガ=ナーガ帝国というのはガターニアでこの中央大陸連合王国に次ぐ大国だ。西方大陸にあってその70%を支配している」


永瀬「はい、で、婚活というのは」


ミキオ「それは覚えなくていい。でその帝国の皇太女と皇子から召喚士仕事の依頼が来ているらしい」


ザザ「エリーザとアルフォード、帝国のバカ姉弟だ」


永瀬「バカ姉弟、と…」


 永瀬はきちんとメモを取っている。思えばおれのような天才型とは違い、この女は大学時代から勉強熱心な秀才タイプだった。しかし考えてみればうちの事務所は4人中3人が東大卒なんだよな。贅沢な話だ。


ミキオ「まあ、例によって気乗りはしないが永瀬の研修も兼ねて行って来る。永瀬、こっちへ」


永瀬「はい」


 今日の永瀬はどこで調達してきたのか、きちんとガターニアのOL風の服装だ。こっちの世界はほぼ常夏、高温多湿なのと、あと文化的に肌の露出が多く、永瀬もそれに倣ってレースクイーンのようなホットパンツに肩の出たダークブルーのジャケットという、日本人からしたら肌出し過ぎなんじゃないのと言いたくなるようなファッションでキメている。この順応力はさすが才女ならではだ。


ミキオ「ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム、我ら2人、意の侭にそこに顕現せよ、オーガ=ナーガ帝国帝都トノマのアオーラ宮!」




 西方大陸オーガ=ナーガ帝国の帝都トノマ、その皇宮アオーラ宮殿におれたちは“逆召喚”した。いつもながらエレガントな造りの豪勢な宮城だ。


永瀬「すっご…まるでシンデレラ城みたい…」


 近衛兵ともすっかり顔馴染みになり、おれが行くと敬礼までしてくれる。中に入るとよく見る侍従の爺さんが出迎えてくれた。


侍従「ツジムラ男爵様、お待ちしておりました。どうぞこちらへ」


 侍従の爺さんに導かれおれたちは皇太女の間に通された。



アルフォード「よく来てくれた、ミキオ」


エリーザ「貴様! 会えない日が続くほど想いは募るばかりではないか!」


永瀬「え、なに? J-POPの歌詞? ていうかこの人、辻村クンとどういう距離感?」


エリーザ「貴様! 気やすいぞ! わらわを誰と心得る!」


侍従「オーガ=ナーガ帝国皇帝バームローグ・ド・ ブルボニア1世陛下の御嫡子、エリーザ・ド・ブルボニア皇太女殿下にございます。こちらはその弟君、アルフォード・ド・ブルボニア親王殿下」


永瀬「あ、この2人が例のバ…あ、いえ、すみません」


ミキオ「うちの新人のイチカ・ナガセだ。おれの大学時代の同期でな」


アルフォード「いやおかしいだろ。なぜ貴様の周りにはこう美女ばかり集まる」


ミキオ「知らん。おれに聞くな」


エリーザ「学友か。ならば良いが、この次期帝国皇帝エリーザはその召喚士を異性として意識しているということをゆめ忘れてはならぬぞ」


永瀬「は、はい」


 永瀬もこんなわけのわからん奴によく普通に返事できるな。


ミキオ「本題に入っていいか? 帝国存亡の危機とは何だ」


アルフォード「うむ。帝国が誇る帝都トノマの商店街スズランドー。ここで帝国直営の商店がいくつかあるのだが、これがここ数年軒並み業績不振でな」


エリーザ「理由はわかっておる。開店から40年経っており、明らかに店の魅力不足だ。召喚士よ、いや今は男爵か。貴公の聡明な頭脳でこの商店を魅力ある店に変えてほしいのだ」


 やっと話が見えてきた。なるほど、そういう話ならアレしかない。


ミキオ「おれがニホンにいた頃、ほぼ毎日通っていた店がある。いや特定の店舗ではないのだが、そういう形式の店と言うべきだな」


アルフォード「毎日!」


エリーザ「穏やかではないな、どんな店なのだ」


ミキオ「このガターニアにはまだ存在しない。おれも何度この世界にあれがあったらと夢見たことか。その名もコンビニエンスストア、略してコンビニ」


アルフォード「こんびに?」


エリーザ「そ、その“こんびに”とやら、どういった店なのだ」


ミキオ「早く言えば商店だ。かわら版、菓子、タバコ、歯磨き粉などなんでも売っている。揚げ物まで売っている」


アルフォード「それは…相当な大型店舗なのか?」


ミキオ「いや割とこぢんまりとしている。さらに税金の支払いや荷物配達の扱いまでやっている」


エリーザ「店員のやることが多過ぎて頭がパンクしそうじゃないか…」


ミキオ「店員は直営店の社員以外はだいたいバイトかオーナーの家族だな」


エリーザ「馬鹿な! そんな者たちにその激務が務まる筈がなかろう! よほどの経験を積んだエリートでなければ務まるまい!」


アルフォード「わかった、営業時間が短いのではないか? 1日3時間くらいしか営業してないとか」


ミキオ「コンビニは基本的に24時間営業だ」


エリーザ「な、何だと?!」


アルフォード「ふざけるな、それでは店員さんたちが過労死してしまうだろ!」


ミキオ「お前たちの疑問はもっともだ。良いだろう。じゃ今日はお前たちに異世界ニホンに来てもらいコンビニという文化を見てもらおう」


アルフォード「おお! 憧れの異世界!! 遂に私も連れて行ってくれるのだな?!」


ミキオ「ただし聖剣は置いていけよ。日本でそんなもん持って歩いてたら通報されるからな」

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