第54話 熱唱!アマゾネス祭(後編)
おれは知り合いであるアマゾネスの闘士ガギに頼まれ、ガモ国のアマゾネス自治区で行われている大祭に来ていた。この祭でのど自慢大会が行われ、優勝したものは大変な栄誉を得るというのだ。
どどん! どどん! 大太鼓が鳴り、花火が打ち上げられた。一斉に歓声があがる。どうやらこの祭のメインイベント、のど自慢大会開始の合図のようだ。
族長「勇猛なるアマゾネスの闘士たちよ、今宵は拳を喉に置き変えて歌にて祭女を決める。おのおの奮起せよ!」
アマゾネスC「ウオォオーッ!」
アマゾネスD 「ホウッ! ホウッ!」
新しく就任したという族長が宣言すると、集まったアマゾネスたちはめいめい雄叫びをあげた。まるで野犬の群れだ。こんな野蛮な連中にのど自慢などという平和的な闘争を提言したこの族長は相当に開明的な人物なのだろう。舞台上には既に太鼓や笛、チャランゴ(アルマジロの甲羅を使った弦楽器)などを持った楽団が待機している。
族長「では始めよう、1番手、ナナッタ谷のウー・メシッソ!」
ウー「ホオッホー!!」
最初の戦士がひと吠えして舞台上にあがった。女だてらにスキンヘッド、筋骨隆々の若いアマゾネスだ。戦士としての力を誇示したいのだろう、巨大な黒豹に騎乗している。ウーは意外にも1曲目からローテンポのバラードを歌い始めた。
アマゾネスのバラード(アマゾネス伝統歌謡)
作詞:不明(日本語訳ムーブメント・フロム・アキラ)
作曲:不明
うた:ウー・メシッソ
腹が減り 星空を見つめていても
旨い肉は降ってこない
嗚呼、今はもうなんでもいい
口に入ればなんでもいい
青虫 毛虫 カブトムシ 隣のばあさん
いつか食いたい 甘くてやわらかい都のパンケーキ
アマゾネスのバラード
ナナッタ谷のウーとかいう戦士が切々と歌い上げた。ひどい歌詞だが歌はなかなか上手い。審査の鐘がカンコンカンコンと連打され合格となった。黒豹に乗ったまま両手を挙げて歓声に応えるウーの表情は満足げだ。
族長「2番手、ポナイ村のヤミッツ・シオーダラ!」
ヤミッツ「ギャーー!!」
ヤミッツは北斗の拳に出てくるモヒカンの雑魚のように舌を出して吠えた。長い髪を半分剃ったハーフスキンヘッドの若いアマゾネスで、全身に入れ墨をして耳には数十個のピアスがジャラジャラ付いている。棺桶らしきものを引きずって登壇したが、中身はなんだろう、想像もしたくないが。
アマゾネスのレクイエム(アマゾネス民族学校唱歌)
作詞:不明(日本語訳ムーブメント・ フロム・アキラ)
作曲:不明
うた:ヤミッツ・シオーダラ
あの子が見ていた大決闘
鼻血を出した子一等賞
キックだパンチだまた明日 また明日
いいないいなアマゾネスっていいな
気に食わねえ奴ぁぶっ○せるもんな
バッキバキにけたくり回してゴートゥーヘル
これも聞くに耐えない歌詞だがポナイ村のヤミッツも意外にもメロウな美声だ。鐘は連打され合格となった。棺桶をひっくり返して中の飴玉を客席にばら撒くパフォーマンスを行なうヤミッツ。飴で良かった。
ヒッシー「ヤバいねミキティ、みんな普通に上手いニャ」
ミキオ「ああ、所詮蛮族ののど自慢大会だからとナメていたのかもしれんな」
その後、鐘ひとつあるいは二つの出場者が続き、ザザが枝毛取りなどして明らかに飽き出した頃に先程出会ったガギによく似た同年代のイトコが登場した。
族長「9番手、ゲジョー村のワッサー・ ビアージ!」
ワッサー「ウォー!」
ヒッシー「お、さっきのアイツだニャ」
ワッサーもやはり身長2m超えの大女で、見た目だけでもこれまでの出場者に較べいちだんと迫力がある。腰に様々な動物の骨をぶら下げているが、恐ろしいことにどう見ても人骨が混じっている。
ワッサー「聴いてくれ、いま都で大ブームのこの曲、イセカイズム!」
なんとワッサーは我らがイセカイ☆ベリーキュートのファーストシングル『イセカイズム』を歌い出した。
ワッサー「真っ青な空こじあけて やってきた異世界 Can I fly? いつでも飛べるよ〜♪」
どこかで魔法配信でも観たのか、振り付けも完璧。あの巨体でリンコのバック転やフレンダのパラパラも見事に完コピしている。音程も完璧とは言い難いがパワフルに歌いこなした。審査員ウケもバッチリで合格の鐘が連打された。
ミキオ「まさかイセカイズムを歌われるとはな」
ヒッシー「しかもなかなかの完成度だったニャ」
ザザ「アマゾネス、てめーアイツに勝てるのかよ」
ガギ「るせぇ!」
不安の隠せないガギだったが、そのタイミングで族長がガギの名前を挙げた。
族長「最後! ゲジョー村のガギ・ノッターニャ!」
ガギ「うありゃあーー!!」
ウォークライをひと吠えして壇上にあがるガギ。既に表情は落ち着いており肚は決まったようだ。
ガギ「ズバット参上、ズバット解決〜♪」
曲は『地獄のズバット』。作詞:石森章太郎、作曲:京建輔、うた:水木一郎。特撮番組『快傑ズバット』のオープニング曲である。番組自体かなり特殊であるが、この曲も子供番組の主題歌なのに「地獄が見えたあの日から」や「追って追って追いつめて」「赤い火青い火うらみの火」など、およそヒーロー物とは思えないフレーズが連出する。演奏に琵琶が入るのも強烈だ。もちろんガギが水木一郎さんから直接師事を受けただけあり、歌は今日イチの出来栄えだ。
ガギ「おれは快傑ズバットさ〜♪」
ガギが歌い上げると大歓声が起こり、太鼓や角笛などが鳴り響いた。これまでにない反応だ。もちろん鐘は連打され合格となった。
ガギ「うぉおおおーー!!」
ガギは満足げに吠え、族長があらためて立ち上がり前に出た。
族長「皆、よう歌った。今宵の祭に敗者はいない、皆が勝者であり祭女である。さあアマゾネスたちよ盃を乾せ、肉を貪れ!宴を朝まで続けよう!」
ウオオオーッ!!!! アマゾネスたちが熱狂し大歓声を上げる。会場は蜂の巣をつついたような大騒ぎだ。
ガギ「ま、しゃあねーな。ワッサーよ、勝負は来年まで預けておくぜ!」
ワッサー「へっ! 来年はアタイがその先生んとこで歌の稽古つけて貰うからな!」
いとこ同士のアマゾネスふたりが酒を酌み交している間に、おれたちは逆召喚で逃げるように王都フルマティに帰った。残ってたら宴会のつまみにされそうだし。