第53話 熱唱!アマゾネス祭(中編)
朝から珍客・アマゾネスのガギを迎え困惑するおれたち。彼女の依頼はアマゾネス村で行われるのど自慢大会で優勝するよう稽古をつけてくれとのことだった。
ザザ「まあ話はわかった。ここは召喚士事務所なんだ、客ならアマゾネスだろうがゴブリンだろうが文句はないね」
ガギ「ふん」
まだガギは不満げだが、とりあえず治まって良かった。ザザとガギがモメてる間にイセキューの青担当リンコはタイムアップとなり帰っていった。
ザザ「こいつならいっそ男性ボーカル曲の方がいいんじゃねーの?」
ミキオ「かもしれないな。でも教官呼ぶにしても男性歌手の知り合いなんていたっけ」
ヒッシー「トッツィー・オブラーゲがいるニャ。一応この世界のスターだよ」
ミキオ「あのおっさんか…あいつの歌なんて聴きたくない。地球から召喚しよう」
おれは再び赤のサモンカードを置いた。
ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、ここに出でよ、汝、水木一郎!」
カードの魔法陣から勢いよく紫色の炎が上がり、中には2022年12月に逝去された水木一郎さんが立っている。水木さんがアニメや特撮に遺した功績はあまりにも多く、アニソン界の帝王とも兄貴とも呼ばれる。今回召喚したのは40代頃のバラエティ番組にちょこちょこ出始めた頃の赤い革ジャンの水木さんだ。
水木一郎「ゼ〜〜ット!」
ミキオ「おお〜!」
ヒッシー「伝統芸だニャ〜」
おれとヒッシーは久しぶりに見る水木アニキの名フレーズに思わず拍手した。
ミキオ「お疲れ様です。今日はちょっとこの人に歌を教えて欲しいんですが」
水木一郎「でかいねぇ! マジンガーZみたいだね」
水木さんはのちに水木一郎ヴォーカルスクールを主宰されたほど後進の育成には熱心で、教え子のプロシンガーも数多い。教官にはピッタリだろう。
水木一郎「じゃとりあえず俺がワンコーラス歌うから、続けてみて。曲は何がいい?」
ミキオ「『キャプテン・ハーロック』でお願いします」
水木一郎「OK。じゃあ行こう」
召喚して早々ノリノリの水木さんからOKが出たのでおれはさっそく電モクでリクエストした。あまり知られていないが水木さんは元々学生落語経験者であり、五代目柳家小さんに弟子入りを志願したほど。後にドリフターズの付き人を経験したこともあり、お笑い志向の強い人なのだ。ノリの良さはそういうところから来ているのかも知れない。
水木一郎「宇宙の海は〜 俺の海〜♪」
相変わらずシャープで奥行きもある素晴らしい歌声だ。水木さんの持ち歌は1000曲を超えるが、その中でもおれの一番好きな曲をリクエストさせて頂いた。ワンコーラスでは勿体無い、宇宙海賊の悲壮な決意を謳った壮大な曲である。作詞:保富康午、作曲:平尾昌晃。当時のアニソンとしては非常に珍しいフルオーケストラ編成の豪華な楽曲だ。
ミキオ「素晴らしい。言葉が出ない」
ザザ「いい歌だなぁ…このハーロックって人は異世界の偉人か何かか」
ミキオ「まあそんなところだ」
水木一郎「じゃマジンガーサイズの彼女、歌ってみて」
水木さんに促され、ガギも丁重にマイクを取った。
ガギ「宇宙の海は〜俺の海〜」
水木一郎「違う違う、全然腹から声出てないよ。体が大きいんだから、全身を楽器にする感覚でゥアアア〰️♪って震わせるんだよ。もう1回最初から行こう」
ガギ「お願いします、兄貴!」
ザザ「こんなんで本当に明日の祭に間に合うのかい…」
翌日、おれたちはなぜか中央大陸ガモ国の大渓谷にあるアマゾネス集落にいた。ガギが馬じゃ祭に間に合わないからということでおれに逆召喚で故郷まで送らせたのだが、どうせなら歌のサポート役として祭に参加してくれと言うのだ。アマゾネスの村に男一人で出向くなんて考えただけでも恐ろしいのでおれは無理矢理ヒッシーとザザにもついて来て貰った形だ。
この一帯はガモ国の領域ではあるが政府の支配が及んでおらず、事実上アマゾネスの自治区となっている。このアマゾネス集落は5つの村が存在するのだが住民の100%がアマゾネスつまり女性である。それでこの集落の人口10000人をどうやって維持しているのかまったく不思議だ。だいたい想像はつくが恐ろしくて考えたくもない。集落は既に祭一色となっており、あちこちに屋台が出店していた。
ガギ「おお、賑わってるじゃねーか」
アマゾネスA「おっガギ、今日は肉持参か」
ガギ「いや食わねーよ。都で知り合った仲間だ!」
ヒッシー「ミキティ、おれたち『肉』って呼ばれてるニャ…」
ミキオ「油断するな。食われるぞ」
ザザ「もー帰ろうぜ。蛮族だろコイツら」
ガギ「エルフの森猿どもに蛮族なんて言われたくねーんだよ」
ザザ「んあ? やるかてめぇ。エルフなめんなよ」
どうもザザとガギは相性が悪い。既に一触即発の状態だ。
ヒッシー「みんな、お腹すいてニャい? なんか食べるニャ!」
ヒッシーが空気を変えようとして屋台に入ると、中にはアマゾネスのおばちゃんが人間の子供…に見える猿を串刺しにして黒焼きにしたものを売っていた。
ヒッシー「ひっ、ひええっ!?」
アマゾネスB「なんだい、あんたお客かい? それとも食材かい?」
アマゾネスのおばちゃんが言った地獄のような台詞でもうヒッシーは顔面蒼白になっている。
ガギ「なんだおめーら、猿食いてえのか? おばちゃん、よく焼きのマル(1頭分)のを1つくれ!」
ミキオ「いや、いい! せっかくだが猿はちょっと!」
ザザ「寄り道してねーでさっさとのど自慢大会の会場行こうぜ!」
ザザがウザったそうに言うと、背後からガギに似た大柄なアマゾネスが声をかけてきた。
ワッサー「よ、楽しそうだなガギ、今日は弁当持参か?」
ガギ「バカ! 弁当じゃねーよ! 都で知り合った仲間だ!」
ワッサー「けっ、誇り高きアマゾネスが細っこい仲間連れてやがるぜ。のど自慢大会にはお前も出場すんだろ? どっちが勝つか楽しみだな」
ガギ「おめーも出るのか! クソ!」
ミキオ「今のは…」
ガギ「アタイのイトコ、ワッサー・ビアージだ。歌の上手さは知らねーがやたら声がでかくて通るヤツだ。あの調子じゃヤツも祭女を狙ってやがるな…」
どんどん、どどん。会場全体に大太鼓の音が響き渡る。どうやら本祭のメインイベントであるのど自慢大会が始まるようだ。羽飾りや槍などで着飾った屈強のアマゾネスたちが次々に集まってきていた。