第46話 異世界アイドルデビュー!(前編)
異世界23日め。おれと事務所の共同経営者ヒッシーがランチから戻ると事務所に客が来ていた。以前“全世代アイドルフェス”で一緒に仕事をしたプロモーター、確かクロッサーとかいう男と若い女の子が4人、成人女性がひとりだ。
クロッサー「おお、先生! 突然お邪魔してすみません」
ミキオ「久しぶりだ。この子たちは?」
訊いたおれにクロッサー氏はニヤニヤ笑っている。
クロッサー「お忘れですか先生、あのフェスの日に約束したことを」
あーそう言えばあのフェスの後、この男は是非このガターニアでもアイドルをデビューさせたいと言ってたんだ。確かにその時はおれも手を貸すと言ったような気がする。
ミキオ「あ、じゃあその子たちが」
クロッサー「その通りです。あの日から2週間あまり、うちの事務所でオーディションを開催してこの5人が選抜されました。ツジムラ先生とヒッシー先生にプロデュースをお願いしたいと思いまして」
なんとフットワークの軽い男だ。もっとも、興行師なんてこれくらい機を見るに敏な人でないとやっていけないのかもしれない。
ヒッシー「うにゃ〜」
ミキオ「まさか異世界に来てアイドルのプロデュースをやることになるとはな…」
クロッサー「キミたち、自己紹介して」
ミキオ「ああ、じゃあせっかくだから舞台上でお客さんにやるように自己紹介してもらおうか」
チズル「チズル・アモンド、18歳です。親が不動産屋です」
チズルは只人で肩までの長さの茶髪。グラマラスで大人っぽい雰囲気だ。
ユキノ「ユキノ・ヤード、16歳。思いやりに欠けるところがあります」
ユキノはエルフ、いやハーフエルフかな。ゆるくカールしたピンクのロングヘアで、正統派の美少女といった感じだ。髪型を変えればかなり化けそうだ。
リンコ「リンコ・パ・リンコ、17歳。前科はありません」
変な名前のリンコは只人。やや長身で青髪のショートカット。気が強そうだ。
コマチ「コマチ・ツブオリー。17歳。いつか毒悪魔が襲来してこの世界は終わりを迎えると思います」
コマチはたぶんハーフリング(小人)だな。ひときわ小柄で小学生に見える。金髪のツインテールだ。
マルコ「マルコ・ダイズセン、24歳! がんばり屋さんです! 大して特技はありませんが、やる気だけはあります!」
マルコはポニーテールの只人で長身というかガッチリした体型だ。不美人というわけではないが、年齢的にもアイドルというよりは舞台女優という感じで、正直言って一人だけ場違いな気がするが…おれはクロッサー氏の袖を引っ張って裏に連れて行った。
ミキオ「あの人は?」
クロッサー「は、大口スポンサーの娘さんなのですが、どうしてもアイドルやりたいと言ってまして」
なるほどコネで入れたのか。これはちょっと波紋を呼びそうだな。
ミキオ「えー、自己紹介ありがとう。まず君、チズルだっけ? 親が不動産屋というのは言わなくていいな。だから何ってなる」
チズル「す、すいません」
ミキオ「あと君、ユキノだっけ。思いやりに欠けるところがあるとかそういうネガティブな情報を自己紹介で言っても仕方ないのではないかな。というかそれはアイドルやる上で治して欲しいな」
ユキノ「…すみません」
ミキオ「ショートの君、リンコだっけ、前科がないことはみんな大前提でやってると思うんでわざわざ言わなくていいかな」
リンコ「はあ」
ミキオ「ツインテの子、コマチだっけ。若いうちからあんまり変な本を読まない方がいいんじゃないか。アイドルはもっと元気に楽しくいかないと」
コマチ「ダメですか」
ミキオ「それとあなた、マルコさん」
マルコ「なんで私だけさん付けなんですか」
ミキオ「いや、まあその、元気があっていい。ヒッシー何かあるか」
ヒッシー「なんでおれに振るニャ」
ミキオ「彼女はともかく、他の4人はちょっとみんな大人しいというか暗い印象だな。アイドルなんだから明るく元気に!が基本で行こう。クロッサー氏、確かこないだこちらから異世界(日本)のアイドルの資料を渡したと思うけど」
クロッサー「はい、ですのでこの5人はピンクサターンをモデルにして売り出していこうと」
ピンクサターンというのは90年代に活躍?していた日本のアイドルだ。Tバック以上に過激なTフロントという衣装を売りにしてデビューしたが失礼ながら鳴かず飛ばず3年後に解散、メンバーは全員綺麗に芸能界を引退した。
ミキオ「いや、あれをモデルにしてどうする! この子たちにあんな衣装着させられないだろ!」
どんな衣装だろうと気になった人はピンクサターンで検索してみて欲しい。
ミキオ「モーニング娘。をモデルにしよう。彼女たちは1期生ということで、軌道に乗ったら2期生も募集しよう。グループ名は考えてあるの?」
クロッサー「は、いくつか候補がありまして。まずは『ピチピチギャルズ』」
ヒッシー「おじさんの感覚だニャ〜」
ミキオ「もうちょっとオシャレなのがいいな」
クロッサー「『もんもんちゅっちゅ小娘』」
ミキオ「品がない。長いし」
ヒッシー「意味わかんないニャ〜」
クロッサー「ではこれは私のイチ推しなんですが『スキャンダル裸舞』」
ミキオ「またエロ路線? 何? 性欲強いの?」
ヒッシー「アイドルなんで、スキャンダルはちょっとにゃあ」
ミキオ「『イセカイ☆ベリーキュート』にしよう」
咄嗟に思い付いた名前だが、異世界(日本)にルーツを持つことと、very cute(とても可愛い)におれの好きなBerryz工房と℃-uteをかけ合わせたネーミングだ。
クロッサー「おお! いいですな! さすがプロデューサー!」
ミキオ「まあスキャンダル裸舞を推してた感性の人に言われてもだが」
ヒッシー「とりあえずそれで行くニャ。君たち、それでいいニャ?」
5人「はい!」
こうしておれたちは右も左もわからぬまま異世界初のアイドルグループを結成しデビューに向けて動き出していった。