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第44話 異世界・餃子の旅(餃子の王将編)

 異世界22日め。おれは男爵として連合王国の西部マギ地方ウルッシャマー地域の領主を任されているのだが、任命されてから放ったらかしだったのでこのままではいけないと思い、召喚士事務所の共同経営者で地球での友人ヒッシー、事務所の事務職エルフのザザと3人でウルッシャマー地域に向かった。ウルッシャマーは人口8000人ほどの村である。もちろん“逆召喚”を使えば移動は一瞬だ。


ザザ「ふーん、いいところじゃないか」


ヒッシー「まあまあ田舎だにゃ」


村長「領主さん、ようこそお越し頂きました、この村の村長ジョン・ノビーです」


 ノビー村長は50代、役人あがりとのこと。長身でふてぶてしい感じでちょっと昔の岸部一徳に似ている。


ミキオ「おれも任命されたばかりで何も知らないし、最初から偉そうなことを言う気はない。いろいろ教えて頂きたい」


村長「謙虚な領主さんですな。ではこの村をご案内致します」


ミキオ「この村の特産は」


村長「養豚、白菜、ニラそれに小麦ですな」


おれの神与特性の自動翻訳知覚がそのまま直訳しているので白菜もニラも地球とよく似たものがあるのだろう。


ザザ「豊かな村じゃねーか。いいとこ貰ったなお前」


ミキオ「そうだな」


村長「まあ、どこにでもあるような平凡な村です。何かこの村ならではのものがあると良いんですが」


ミキオ「名物料理は何があるのかな」


村長「ああ、そろそろお昼ですな。では近くの食堂に参りましょう」


 おれたちは村役場近くの古びた食堂に移った。座るなり村長はさっといくつか注文し、ほどなくして注文した物が出てきた。


ミキオ「これは…」


村長「ウルッシャマーの名物料理、“豚のしばり揚げ”と言いまして、豚バラ肉をニラでぐるぐるに巻いて揚げたものです。白菜にくるんで食べてください。パンと交互に食べるとよろしい」


 村長は妙に自慢げだ。おれたちは試しに食べてみたが正直ちっとも美味くない。逆ならわかるが、豚肉にニラを巻いてどうするんだ? それを白菜にくるめと言われても、レタスじゃないんだから葉がぶ厚くて噛みきれない。脂身のついた豚肉をさらに揚げるのもいただけない。堅めのパンとも合っていない。あとネーミングも食欲をそそらない。


ザザ「うん、うめえうめえ」


ザザが美味そうに食べているが、こいつは舌バカだからなんでも美味しく食えるのだ。


ミキオ「なるほど、こういう料理か。ちょっと慣れない者にはキツイかもしれないな」


村長「私は好きなんですがね」


 ちょっとムッとした感じで村長は言った。プライドの高い男のようだ。


ヒッシー「ミキティ、これ餃子が作れるね」


なるほど、豚肉にニラに白菜なら確かに餃子の材料だ。


ミキオ「村長、餃子はこの村に無いのか」


村長「ギョウザですか? それは一体どういうもので?」


ミキオ「ダンプリング、パオズ、春巻、小籠包、シュウマイ、その類だ。小麦粉を練って延ばしたものに肉野菜をくるんで焼く」


 おれの自動翻訳知覚では地球の固有料理名が翻訳できないらしく、村長はずっと首をひねっている。えっ、この世界では小麦があるのに餃子の発想に至らなかったのか。なんと勿体ない話だ。おれは餃子が大好きなのだ。それも本場中国の水餃子や蒸し餃子でなく、日本風の片側だけカリッと焼いた羽根付きの焼き餃子が。


ミキオ「食材はそれぞれ素晴らしいんだから、これで餃子を作ったら美味いだろうな」


ヒッシー「餃子食べたいニャ〜! 村の名物になるかもだニャ」


村長「さっきから何の話をしてらっしゃるので?」


ミキオ「まあ実際に食べて貰わないと話にならんだろうな。村長、ちょっと異世界に行きましょう。そこで食べて欲しいものがある」


村長「い、異世界?!」


 おれは青のアンチサモンカードを取り出し、呪文詠唱を始めた。


ミキオ「ベーア・ゼア・ガレマ・ザルド・レウ・ベアタム!我ら4人、意の侭にそこに顕現せよ、餃子の王将四条大宮店!!」


 黄色い炎がおさまるとおれたちは京都にある餃子の王将四条大宮店前にいた。国内外に730店以上の支店・ フランチャイズ店を持つ、言わずと知れた国内最大の餃子チェーン店「餃子の王将」の1号店である。自社ビルの1〜3階が店舗の大型店だ。看板には「1号店」と誇らしげに書いてある。


村長「い、いきなり異世界に連れてこないでください!」


ミキオ「申し訳ない。是非村長にここの餃子を食べて欲しくてな。ここは“餃子の王将”という」


村長「王にして将、なんと尊大な名前だ」


ヒッシー「おれも1号店は初めてだニャ〜」


ミキオ「ファンにとっては“聖地巡礼”だな。さ、中へ入れ」


店員A「いらっしゃい!」


 おれたちは奥のテーブル席に通された。


ミキオ「前にもこんな話をしたと思うが、実はこの店にはいくつかの魔法が存在する」


村長「なんと!」


ザザ「魔法料理ってわけか」


ミキオ「そう。店員の呪文で料理が発注される。すいません、焼き餃子4人前に唐揚げ2人前」


店員A「エー焼き4にトリカラ2ね。スーガーコーテル、リャンガーエンザーキー!」


村長「おおお、まさしく呪文だ」


ミキオ「ここの餃子は普通焼きの他に両面焼き、よく焼き、うす焼きとカスタムチューンできるんだ。まあそこまでやる奴もなかなかいないがな」


村長「なんと、オーダーメイドか」


ザザ「異世界の食い物にはいつも驚かされるぜ」


 そんなことを言っていると店員さんが餃子4人前を持ってきた。1人前は6個なので24個が大皿に載せられてきており、王将の餃子は大ぶりなのでなかなか壮観である。


村長「これは…なんと香ばしい香り…」


ザザ「何だこりゃあ? ミニバナナか何か入ってるのか?」


ミキオ「丸い皮をつつんで焼くとこういう形になるんだ。食べてみろ。最初は卓上の醤油と酢とラー油を合わせて食べるといい。比率は5対4対1だ」


村長「ふむ、こんなものかな…む、強烈な味だ! これはニンニクか?!」


ザザ「うめえ! 皮のもっちりしたところとカリッと焼けたところのバランスがたまんねえ!」


 まあ舌バカのこいつに褒められても、って感じはあるが。


村長「中身が熱い! でも美味い! なんて美味いんだ! 肉と野菜を炭水化物で包んであり、栄養価としても完璧だ!」


ザザ「いやーこれはアレだな、泡酒に合うヤツだな!」


ミキオ「1号店だからここを“聖地”と呼び、味も全店でもっとも美味いという人もいる。まあその辺りの判断は各自でして頂きたいがな。昨今は“酢コショウ”で食べるのが流行ってるみたいだが、やっぱりおれは醤油と酢とラー油で食べるのが一番美味いと思う」


ザザ「え、その酢コショウてのもやってみてえ!」


ミキオ「店舗によっては味噌ダレを注文できるところもあるぞ。あと鶏の唐揚げだが、この“マジックパウダー”を使うといい」


 おれは卓上の有名な小瓶を差し出した。


村長「また魔法だ!」


ザザ「なるほど、ヤベえ魔法だな! しょっぱさと旨味が増したぞ!」


ヒッシー「やっぱり餃子はガターニアの人にもウケるよニャ〜」


ミキオ「まあ、餃子を嫌いな人なんて見たことないからな。満足してくれたようで何よりだが、実はこの国にはもう1つの“王将”がある」


村長「なんと!」


ザザ「どういうことなんだ、本家争いみたいなもんか」


ミキオ「まあかつては色々あったようだな」


ザザ「おいミキオ! オウショウがもう1つあるんならそっちも行ってみてーぞ!」


ヒッシー「禁断の王将食べ比べだニャ〜」


ミキオ「いいだろう、君たちにはこれから“もう1つの王将”に行き、両店を食べ比べして頂こう。店員さん、お会計」


村長「えらいことになってきたな…」

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