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第43話 新コンビ!召喚士&JK巫女(後編)

 知人である巫女サラからヘルハウンド退治の依頼を受け、彼女の住むコストー地方ヤシュロダ村に向かったおれは、背後に怪しげな貴族が跳梁している事実を知り村内の牧場での野宿を決行、村民の一人が所有する中規模の牧場の奥でおれと巫女サラは寝ずの見張りをするのだった。


ミキオ「気をつけろ、ヘルハウンドだ。8頭はいるな。あと2〜3分で来るぞ」


サラ「えっえっ、どないしよ。ミキオさん、ヘルハウンドの心臓召喚したってください」


ミキオ「ダメだな、奴ら魔法障壁を張っている。いよいよ野生の魔物じゃないな」


サラ「え〜ほなどうするんですか、ヤバいやないですか〜」


ミキオ「大丈夫。手はいくらでもある。それより君の出番だ。防御魔法を頼む」


サラ「あ、はい。煌めく星の神々よ、我らに鉄壁の加護あれ! 可憐幻影結界(キューティーミラージュサークル)!!」


サラが詠唱するとオーロラのような光の帯がおれたちを包み込んだ。


サラ「き、来ました〜!!」


 がるるる…8頭ものヘルハウンドがおれたちの目前に出現した。毛は漆黒で渦のように波打ち、眼は赤く光っている。そして体はアムール虎くらいに大きい。飢えている感じも無さそうで、おれたちを餌というより殺傷対象として見ているようだ。


ミキオ「おれに任せておけ、今から最適の人物を召喚する…エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、畑正憲!!」


 地面に置いた赤のサモンカードが紫色の炎をあげて壮年の男性を召喚した。畑正憲、通称ムツゴロウ。小説家で科学者で動物研究家で画家でプロ雀士。あまりにも多才な規格外の人物。一般にはムツゴロウ動物王国の王として有名である。ちなみに東大大学院卒だからおれの先輩だ。


畑「おお! 立派な犬ですねえ」


ミキオ「サラ、結界を解いてくれ」


サラ「えー、死にますよ?」


ミキオ「いいんだ。大丈夫だ」


畑「おお、ヨシヨシ! いい子だ!」


 ムツゴロウさんは自分から先頭のヘルハウンドの口の中に腕を差し入れた。おれたちは息を呑んだが、ムツさんは平気な顔でヘルハウンドの頭をゴシゴシと撫でている。


畑「私がライオンに首を噛まれた時は30分くらい気絶しましたからねぇ! それに較べたら可愛いもんですよ!」


 えらいものでムツゴロウさんの動物愛に感じ入ったのだろう、ヘルハウンドたちは全頭かしづいて敵意の無いことを示した。


畑「可愛いワンちゃんですねぇ〜! ボクの動物王国に連れて帰りたいくらいですよ」


サラ「このおじいちゃん、ナニモンなん…」


オーヴァ「そ、そんなアホな!?」


 陰から覗いていたコストー地方領主オーヴァ子爵が驚いて顔を出した。


ミキオ「ふん、やはりな。あんたの職業は霊能力者じゃなくて調教師(テイマー)なんだろ」


オーヴァ「…ま、バレますわな。そう、しかも使役した魔物に魔法を転送できる魔法調教師(マジカルテイマー)ですわ」


ミキオ「ヘルハウンドを使役して村人を森から遠ざけたい理由があるんだろ、さしづめ金鉱脈か、それともミスリルかなんかの鉱脈を発見したか」


 ミスリルは魔法を伝導する金属で、ファンタジー物では最高位の金属とされている。


オーヴァ「まあ、そこら辺は君らの知らんでええこっちゃ。とりあえずこいつの餌になりなはれ。アブル・バリト・ウル・セグナス、開け、不可視檻(インビジブルケージ)!!」


 こいつの特殊能力なのだろう、何もない空間がギイッと開いて中から三頭一身の魔獣ケルベロスが出現した。ヘルハウンド1体ずつの魔法障壁付与といい、こいつは意外にも結構高レベルの魔法を使うようだ。


ケルベロス「ぐるるるる…」


 オリジナルのケルベロスは地獄の番犬だからこんなところに居る筈がないが、それでもヘルハウンドよりも一回り大きくてまるで犀か河馬くらいの巨体、しかも頭が3つありケルベロスと呼ぶに相応しい威容だ。


オーヴァ「どや、召喚士クン。君の召喚術でこのケルベロスと対等の召喚獣が呼べるか? 言うとくけどこいつにも魔法障壁が転送してあるからお得意の部分召喚とかは効かへんで」


ミキオ「最上級召喚士をなめないで頂きたい。エル・ビドォ・シン・レグレム、ここに出でよ、汝、アンドリューサルクス!」


 サモンカードの魔法陣から出現したのはアンドリューサルクス、新生代古第三紀始新世のユーラシア大陸東部地域に生息していた原始的な大型肉食哺乳類だ。体長4m弱で体の4分の1にも及ぶ巨大な顎が特徴で、史上最大の陸上肉食哺乳類とされる。イボイノシシとハイエナを混ぜたような外観で、体格はケルベロスとほぼ同等だ。


アンドリューサルクス「グオオーッ!」


ミキオ「実のところアンドリューサルクスは頭骨しか見つかってないから生態がまだよくわかってないんだが、実物を見ると恐るべき猛獣で間違いないようだな」


オーヴァ「ふん…やれ!ケルベロス!」


ケルベロス「フオーッ!」


 激突するケルベロスとアンドリューサルクス。魔物と絶滅生物ではあるが結構互角に戦っている。ケルベロスの3つの頭が次々にアンドリューサルクスの首に噛み付いていくがその首は胴体と同じくらいに太く、致命傷にならない。しかもケルベロスの3つの頭は位置的に同時に噛み付くことができない。これでは頭1つしかないのと同じだ。


ミキオ「おれは昔から疑問だったんだ、ケルベロスって果たして強いのか? とな。頭が3つあるからって体が1つしかないなら機動性は1匹と同じ、いや頭の重さが3倍だからより劣ることになる。それなら頭1つの獣3匹の方がよほど強い。だいいち脳が3つもあったら体の方が混乱する」


オーヴァ「う…くう…」


畑「こら! やめなさい、お前たち!」


ミキオ「あ、いや、畑先輩、もういいんです」


畑「いい加減にしないか! こら! 怒るよ!」


 ムツゴロウさんはケルベロスの脚を蹴り、アンドリューサルクスの顎を拳でなぐった。なんという胆力だ。この人の動物に対する愛情は並ではない。彼は片方の人差し指がないが、これはライオンに喰われたものだ。象に踏まれたこともある。それでもムツさんの動物に対する愛情は生涯損なわれることがなかった。


ケルベロス「くぅーん…」


アンドリューサルクス「ハッハッ」


畑「おおよしよし、ごめんな、いい子だ!」


 なんとケルベロスもアンドリューサルクスも尻尾を巻きムツさんにひざまづいて服従の意を見せた。これぞ畑正憲の真骨頂。テイマー以上の調教力だ。


オーヴァ「そ、そんな…」


ミキオ「あんたを王都に連行し王国議会に報告する。爵位と領地は剥奪になるかもな」


オーヴァ「くそっ!」


 走って逃げようとするオーヴァ子爵。なんと見苦しいことか。


サラ「可憐曙光捕縛(キューティーオーロラバインド)!」


 サラの放った光のリボンがオーヴァ子爵を捕らえた。口にも猿ぐつわ状に縛られており、これで呪文詠唱はできない。


オーヴァ「む、む、んが!」


ミキオ「マジックボックス、オープン!」


 おれが空中に描いた円の内側が漆黒の空間となり、そのままオーヴァ子爵を飲み込んでいった。


ミキオ「この内部はあらゆる生命が活動を停止する“無明空間”だ。しばらく入ってろ」


畑「この子らもその中に入れといた方が幸せですかねぇ」


 ムツゴロウさんがそう言ってきた。その通り、ヘルハウンドもケルベロスも飼育下の魔物で、自然界で生きていくのは難しい。自然に順応できないと人里に被害が出るし、またこのオーヴァ子爵のように魔物と契約してテイムしようとする悪い輩が出てくるかもしれない。


ミキオ「わかりました。いずれ彼らの安住の地を見つけたら開放します」


畑「頼みましたよ。一緒に生きた長い時間、共有したもの。それが心の遺伝子になってるんです。あらゆる命は繋がって続いていくものです」


そう言い残してムツゴロウさんとアンドリューサルクスはタイムアップとなり消えていった。


サラ「でも、明日のお祭の闘鶏はどないしよ〜」


ミキオ「任せておけ。それも考えてある」



 翌日、ヤシュロダ村の祭は盛り上がっていた。おれが闘鶏の代わりに日本からベイブレードXを持ってきたのだ。ベイブレードXは爆転シュート、メタルファイト、バーストに続くベイブレード第4世代のシリーズ。ベイブレードのビット(軸)とスタジアムに付いたエクストリームラインが噛み合うことにより超加速となり、金属の塊が目にも止まらないスピードでぶつかり合う大迫力のスポーツホビーだ。


村民A「くそ、やっぱりドランソードの機動力半端ねえ!」


村民B「ワインダーよりストリングランチャーの方が取り回しがいいな」


村民C「ビットはN(ニードル)よりT(テーパー)の方が持久力が増すぞ」


 村民たちはなんかもうおれより詳しくなっている感じだ。


神官「おお!召喚士のセンセ! このべいぶれえどっちゅうもんはえらいもんやねえ。闘鶏より盛り上がってるわ」


ミキオ「それは良かった。あと神官さん、森の奥にたぶんミスリルかなんかの鉱脈があるから新しい領主に見つからないうちに確保しといた方がいい」


神官「ひえっ、そりゃほんまか!? あの森はうちとこの土地なんや」


サラ「ミキオさん、ホンマにありがとうございました〜」


ミキオ「またいつでも呼んでくれ」


村民D「召喚士のセンセ! 大変や、センセのことがかわら版に!」


ミキオ「何、またか? えーと、王女との熱愛報道で話題の召喚士ミキオ・ツジムラ氏(23)、今度はコストー領にて巫女のS嬢(17)と牧場で一夜を過ごす…な何だこれは!?」


神官「ちょっと、センセ! これうちの孫娘のことやないんか?」


ミキオ「ご、誤解だ! 誤解!」

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