第39話 異世界♡愛の手作りお弁当選手権(後編)
オーガ=ナーガ帝国の皇太女エリーザによって帝国公式魔法配信番組“エリーザチャンネル”の収録に呼ばれたおれはなぜか手作りお弁当選手権の審査員席に座らせられていた。最初の挑戦者である巫女のサラが出してきたサンドイッチ弁当は31点、高評価だったがなぜか皇太女エリーザは不敵に笑うのだった。
コンペート「巫女のサラ・ダホップさんでした。それでは次の方、なんと中央大陸連合王国の国王息女、フレンダ・ウィタリアン王女、19歳!」
フレンダ「ですのですの〜」
コンペート「よくお越しいただきました、意気込みは」
フレンダ「ちょっとわたくし、エリーザ殿下には思うところがありまして」
コンペート「穏やかじゃないなぁ」
フレンダ「なので殿下だけには最低限勝ちたいと思います!」
コンペート「リアクションはしない方向で行きたいと思います。それではテイスティングタイム!」
高価そうな重箱を開けると、中にはドーナツとチュロスとマドレーヌとクッキーが綺麗に並べられていた。
ミキオ「…テーマはわかってるんだよな?」
フレンダ「わたくしが好きなものを好きなだけ詰め込んだ夢いっぱいのお弁当ですの☆」
アルフォード「炭水化物ばっかりだ…」
ミキオ「これは小麦粉をいろいろ形を変えて食ってるだけだな」
皇帝「いやこれ料理しとるか? 買ってきた菓子をお重に詰め込んだだけでは?」
トッツィー「甘いスイーツばっかりで、くるすぃーツ!!」
コンペート「厳しい意見も出てますが…お姫様は普段から料理はされるんですか?」
フレンダ「…料理?」
コンペート「あっ、ありがとうございます! それでは得点…2点、7点、1点、2点! 合計12点です!」
フレンダ「ええー」
皇帝「弁当の体を成してない。手作りでもなし」
トッツィー「いい感じに血糖値上って眠くなりました」
ミキオ「アルフォード、7点はやりすぎだろ」
アルフォード「いや! 普段まったく料理しない彼女がここまでやったんだからその努力は考慮しないと!」
コンペート「お次参りましょう。連合王国シローネ地方出身、事務職の褐色ギャルエルフ、ザザ・ダーゴンさん21歳!」
ザザ「ちぃーっす」
コンペート「21歳なんですね、エルフは長寿のイメージがありますが」
ザザ「いいんだよエルフの年齢イジリは。長命種だからって全員高齢なわけねえだろ」
コンペート「異世界コンテンツに強烈なアンチテーゼを頂きました! 今回のお弁当ですが、何か意気込みはありますか?」
ザザ「あの女に負けたくねーのはフレンダ王女だけじゃねーんだよ」
コンペート「うちの皇太女、なんか色んなところで恨み買ってますね! さっそく行ってみましょう、テイスティングタイム!」
ザザの弁当はおにぎりだ。白麦飯を笹の葉でくるんだものが1人につき3個出された。
ミキオ「おにぎりか、こっちの世界にもあるんだな」
アルフォード「握り飯にミントの葉がたっぷり混ざってる」
皇帝「凄い香りじゃ、これはなかなか手が伸びぬな…」
トッツィー「あんまり食欲をそそりませんな! そそり座の女!」
コンペート「トッツィーさん、いいのが出ない時は無理に言わなくてもいいですから」
ザザ「森のエルフの伝統料理、ハーブ飯だよ。右からミント、バジル、ラベンダーだ。うだうだ言ってないで早く食え」
ミキオ「いや、ミントと白飯は合わないだろう。歯磨きしながら飯食ってる気分だ」
アルフォード「バジルも全然合わんぞ。ハーブと白飯っていちばん合わない組み合わせじゃないのか?」
トッツィー「ラベンダーに至ってはもうトイレでご飯食ってる気分です…」
皇帝「しみじみマズイのう。葉っぱを具にして飯を食うのはビジュアル的にもツラいものがある」
トッツィー「もっと構想を練って欲しかった。香草だけに」
ザザ「お前ら、全エルフに謝れ!」
コンペート「一応皇帝陛下もいらっしゃるので『お前ら』はちょっと…さて得点は、2点、2点、3点、2点! 合計9点!」
ザザ「ち…ま、あの女に勝てりゃそれでいいんだけどな」
コンペート「ありがとうございました。次の方参りましょう、ガモ国出身、傭兵アマゾネスのガギ・ノッターニャさん28歳!」
こいつもさっきのサラと同様、“5人のドラゴンスレイヤー”の時にパーティーを組んだ女だ。2mを超える巨漢でファンタジー物でおなじみのビキニアーマーを着ている。
ガギ「長ぇ! いつまで待たせんだゴルァ!」
コンペート「おっと! テイスティングタイムの前に私が喰われてしまいそうですが、ガギさん今回の意気込みは」
ガギ「そりゃおめー、アマゾネスの弁当つったらこれよ」
コンペート「なるほど、女性だけの部族のお弁当とはどんなものなんでしょうか、それではテイスティングタイム!」
ガギの出してきた弁当?はなんと、動物の頭部らしき物だが腐敗して強烈な刺激臭が漂っている。
アルフォード「く、臭っ!」
トッツィー「ちょっと! 何ですか、この臭い!!」
ミキオ「何だこの悪夢みたいなのは」
ガギ「皮をはいだ黒山羊の頭に肉とか野草とか虫とかを混ぜこねたもんを詰め込んで土に埋めて発酵させたアマゾネスの野戦弁当だ。いっぺん食ったら病みつきになるぞ!」
トッツィー「うわ…」
皇帝「貴様、わしにこれを食わせようというのか…」
皇帝は脇差の柄に手をかけ、立ち上がろうとしている。
アルフォード「父上、まあ落ち着いて」
ガギ「目玉んところにウジがわいてんだろ? そこをウジごと喰うとトロッとしてうめーんだ! うまくハエを避けながら喰うのが難しいがな!」
トッツィー「ひっ! ミミズが這ってる!」
ガギ「お、当たりだな! ラッキーだなお前。さ、遠慮しないでズルッといけ!」
アルフォード「ちょっと吐いてくる」
ミキオ「すまんアマゾネス、呼んどいて申し訳ないがさすがに無理」
皇帝「早よう下げい」
トッツィー「頭部はとうぶん食べたくない!」
ガギ「何だぁ!? テメーら、アマゾネスに喧嘩売ってんのか!!」
コンペート「得点行きますか? ☠点! ☠点! ☠点! ☠点! ということでガギさんは退場となります! 残念!」
ガギ「おい! ちょっと待て! ざけんな!」
ガギは皇宮騎士団に連れられ退場となった。
コンペート「お待たせ致しました、最後に皇太女エリーザ殿下にご登場頂きたいと思います! いかがですか殿下、これまでの流れは」
エリーザ「皆の衆、私の露払いよう頑張った。あとは私に任せておけ」
コンペート「なるほど、さすがのメンタリティです。ではお待ちかね、テイスティングタイム!」
エリーザの出してきた弁当はとにかく赤い。赤飯にパプリカ、ビーツ、それに肉の炒め物に真っ赤なペースト状のソースがかけられている。
皇帝「こ、これは…」
アルフォード「強烈なビジュアルだな。ある種美しいとも言える。さすが姉上」
トッツィー「赤過ぎて目を閉じても網膜に焼き付きそうです」
ミキオ「これ、食えるんだろうな?」
エリーザ「おい! 失礼だぞ、召還士!」
ミキオ「アルフォード、毒見してくれ」
アルフォード「いや私は皇子だぞ! 毒見してもらう方!」
トッツィー「とりあえず頂きましょう…ひゃー! これは激辛弁当だ! 赤飯じゃない、ラー油と唐辛子粉で作ったチャーハンです!」
ミキオ「辛っ! この炒め物も恐ろしく辛い! 辛いというより舌が痛い。ハバネロのペーストだなこれは」
アルフォード「いや辛いぞ姉上! 今はどうにか食えても明日トイレにこもりきりになるパターンだ」
皇帝「エリーザ! 貴様乱心したか! わしの年齢でそんなもん食ったら尻がぶっ壊れるわ!」
エリーザ「フッフッフ、安心されよ陛下。エリーザの弁当には二の膳がある」
アルフォード「本当だ、弁当箱に二段目が」
エリーザの弁当箱を持ち上げると、下には二段目があった。
ミキオ「こっちはこっちで真っ茶色だな、極端な」
二の膳には棒状の揚げパンのようなものが敷き詰められていた。
アルフォード「甘い! 脳天にガツンとくる甘さだ。何をしたらこんなに甘くなるんだ」
エリーザ「揚げたパンを砂糖と蜂蜜のシロップでことこと煮詰めたのだ」
つまりインドのグラブジャムンと同じ作り方か。世界一甘いと言われる食べ物だ。
ミキオ「甘過ぎて全身に震えが来るぞ…」
皇帝「ぬお、これは一発で糖尿病になりそうじゃの」
エリーザ「で、ありましょう。そこで一の膳と二の膳を交互に食べて頂きたい。舌が中和されて至上の美味になるという寸法だ」
コンペート「おお! いやなんという深謀遠慮! 策士ですね殿下!」
エリーザ「フッフッフ」
アルフォード「姉上らしい極端な発想だ…」
皇帝「至上の美味のう…」
ミキオ「舌がバグって何も感じない、元に戻るのかこれ」
トッツィー「ふた口めからは砂を噛んでるようです」
アルフォード「もう何の味もしない…ただただ苦痛だ…」
エリーザ「そ、そんなバカな!」
皇帝「エリーザ、もう食わんでいいか? わしこんなんで体調崩しとうないぞ」
コンペート「おっとこれは評価が決まったか? それでは得点行ってみましょう。エリーザ殿下の手作りお弁当、得点は…0点! 0点! 0点! 0点! 合計0点ということで、殿下も残念ながら退場となります!」
エリーザ「ちょ、ちょっと待て! 私の番組だぞ! おい!」
皇帝「ああ胸ヤケがする、何か口直ししたいわい」
ミキオ「一応、比較用にと日本から買ってきておいた弁当が人数分あるが」
皇帝「それを早く言わぬか」
アルフォード「ちんまりした弁当だな」
ミキオ「ほっかほっか亭の誇る看板商品のり弁当略して“のり弁”だ。具は白身魚のフライ、ちく天、きんぴら等だな。この内容で200ジェン(400円)ほどだ」
アルフォード「白身魚とは?」
ミキオ「知らん。日によって変わるらしい」
アルフォード「まあ安いからな、味もそれなり…でもないな、美味い! これで200ジェン!?」
トッツィー「申し分ありませんな。この謎の茶色い紙も美味い」
ミキオ「おかか、な。白身魚はソースとタルタルソースが選べるぞ」
皇帝「わしはこういうのでいいのよ。こういうのがいいのよ! ノリベンいいじゃない、ノリベン最高!!」
コンペート「ということで、今回の優勝はノリベンということになりました! また次回お会いしましょう! チャンネル登録よろしくね〜」