第38話 異世界♡愛の手作りお弁当選手権(前編)
異世界15日め。うちの事務所にオーガ=ナーガ帝国の皇太女エリーザと文官らしき小柄な眼鏡女が来ていた。話があるからと伝書鳩が来たのでおれが西方大陸から召喚した形である。
エリーザ「茶がぬるいな。本来、私のような高位の者がこんな小狭い事務所に訪れることなぞ有り得んのだぞ。もっと厚遇せよ」
ザザ「へーへーそりゃどーも」
エリーザ「なんだ、あの態度! 貴様の事務所はあんな女を雇ってるのか!」
ザザ「あんな女たぁどーゆー意味だよ」
エリーザ「下郎、気やすいぞ! 私を誰だと思っている!」
ミキオ「お前が余計なこと言うから悪い」
エリーザ「貴様、言っておくが、私をお前などと呼ばせているのは貴様だけなんだからな!」
昼間からキツいなーこいつのツンデレは。こいつのツンデレはツンからデレの間が早いんだよな。
ミキオ「それで、本題に入れ」
エリーザ「文官の方から説明がある」
キッコリー「オーガ=ナーガ帝国政府広報担当、キッコリー・キリカムと申します。ほほほ本日は貴重なお時間を割いて頂きましてありがだぶござりまふ」
噛んだ噛んだ。なに? 今日は面白キャラクター大会か?
エリーザ「キッコリー、落ち着け」
キッコリー「じじじじ実は、帝国の公式魔法配信チャンネルの企画で、皇太女殿下が料理にチャレンジする案がありまして…」
ミキオ「魔法配信?」
ザザ「知らないのかよ。ある程度の魔法使いは大水晶球を使って各個の小水晶球に動画を配信できるんだよ。まあ受信する方も魔法が使えないと観れないから言うほど普及してないけどね」
ミキオ「ほお…」
凄いな、ほぼYouTubeじゃないか。魔法なんでもアリだな。
キッコリー「そそそれで殿下と他の出場者で料理の出来を競って頂く形式にしまして、最上級召喚士様に他の出場者の召喚をお伺いしたいと」
ミキオ「料理ね、なるほど」
キッコリー「で、かかか可能であれば最上級召喚士様に審査員をして頂くという…」
ミキオ「審査員? おれが? なんで?」
エリーザ「言わせるな。女というものは想い人のために料理を作りたいものだろう(ドヤ)」
ミキオ「いや…その…」
変な間が空いたのを事務所の共同経営者で異世界転移者のヒッシーこと菱川悠平が言葉で繋いでくれた。
ヒッシー「うちらの故郷では学生時代に男子が一度は夢に描く憧れベスト3というものがあったニャ〜」
エリーザ「ほう」
ヒッシー「一つめ、女子からのバレンタインチョコ。二つめ、お祭りでの浴衣デート。そして三つめ、女子からの手作りお弁当。どれも漫画ではよく見るけど現実ではスクールカースト上位の陽キャじゃなきゃ叶わない話だニャ〜」
エリーザ「ヨウキャとは何だ」
ミキオ「陽キャと陰キャがある。青春を楽しめた者と楽しめざる者とに分ける悲しい言葉だな」
エリーザ「な、なるほど」
ミキオ「おれは高校時代は男子校、大学は女子の少ない東大理工学部でなまじ頭が良かったせいで勉強ばかりしてろくに青春を謳歌できなかった。女子の手作りお弁当というやつ、一度は食べてみたいものだ」
つー。おれの頬を一筋の涙が流れた。
ヒッシー「ミキティ、泣いてるニャ」
エリーザ「最上級召喚士を泣かせるとは、たかが弁当にそこまで感動させる力があるのか。よくわかった。帝国の公式魔法配信チャンネルで女子数人集めて手作り弁当選手権をやろう。そうと決まれば明日収録でいいな。召喚士! 出場者の選定を手伝ってくれ!」
翌日、おれたちは帝国の皇宮であるアオーラ宮内に設けられた収録会場にいた。魔道士らしき者がでかい水晶球で撮影している。MCはこないだ合コンで一緒になったオグニー辺境伯家嫡男コンペート・チャーザーだ。あいつこういう仕事もしてるんだな。
エリーザ「エリーザチャンネル、今週も始めよう。まだの方はチャンネル登録よろしく。今回の企画は」
コンペート「今日はなんと、殿下にお弁当を作って頂くということで」
エリーザ「弁当ねー、まあ正直料理は得意ではないが、頑張るぞ!」
コンペート「ということで、本日は4名の女性ゲストにお弁当持参で来て頂いて皇太女殿下にチャレンジしてもらいます。まずは審査員の皆様をご紹介いたしましょう、オーガ=ナーガ帝国建国の父、皇帝バームローグ・ ド・ブルボニア1世陛下!」
皇帝「たとえ愛娘の料理であれ朕は辛口批評でいくゆえ、心得ておれよ〜(笑)」
スタッフ「ハハハハハ(笑)」
なぜか皇帝がノリノリだが、魔法配信だと毎回このノリなのだろうか。
コンペート「いじられ系愛されイケメン、帝国第三皇子アルフォード・ド・ブルボニア殿下!」
アルフォード「なぜ私が姉上の弁当を食わなければならないのかわからんが、今日はよろしく」
皇帝と皇太女と皇子で何やってんだこの国は。
コンペート「オーガ=ナーガが産んだ地元の大スター、トッツィー・オブラーゲ!」
トッツィー「トッツィー・オブラーゲでございます! 夢酔い酒場、絶賛発売中ということでひとつよろしくお願いします!」
どこでも出てくるなこの男は。この世界にはこいつしかスターはおらんのか。
コンペート「噂の最上級召喚士、み〜んなのハートを召喚しちゃうゾ! ミキオ・ツジムラ男爵!」
ミキオ「よろしく」
いや誰だ勝手にこんなキャッチフレーズつけたのは。
コンペート「錚々たる顔ぶれですね〜。では早速参りましょう、まずお一人目、連合王国コストー地方出身、巫女のサラ・ダホップさん17歳です、どうぞ!」
サラ「よろしゅう頼みます〜」
サラは“5人のドラゴンスレイヤー”でおれとパーティーを組んだ子で、その時のツテを頼って今回参加して貰った。ぽわんとして掴みどころのない女の子だ。
コンペート「地方の女子高生って感じですね。意気込みはいかがですか?」
サラ「ようわからへんけど、お弁当作れ言われたんで早起きして作りました〜」
コンペート「そのお弁当がこちら! テイスティングタイム!」
サラの弁当はサンドイッチだ。パンでハムとフルーツを挟んで籠に詰めている。彩りを考えてパセリを添えてあるのが芸が細かい。
トッツィー「サンドイッチだね、これは感度良いっち!」
コンペート「トッツィーさんのダジャレが出たら絶好調です!しかもやや下ネタで聞くに耐えない!」
アルフォード「おしゃれで可愛らしい。食べやすくて気が利いてる。味はまあ」
ミキオ「フルーツとハムをパンに挟む発想が女子高生らしい。嫌いじゃない。めちゃくちゃ美味いかと言われたらそうでもないが」
皇帝「美味いまずいはともかく、こんなおぼこい娘が作ったもんに文句言ったらバチが当たるわい」
コンペート「ちょくちょく本音挟むのやめてくださいね! それでは皆さん得点をどうぞ! …9点、7点、8点、7点! 合計31点です! この得点が基準になります!」
サラ「おおきに〜」
コンペート「巫女のサラ・ダホップさんでした。どうもありがとうございました!」
エリーザ「フッフッフ…」
エリーザの眼の輝きに不穏な空気を感じつつ、番組は後半に続く。




