第35話 異世界ワースト映画祭
異世界14日め。おれとヒッシーは自宅であるフルマティ3番町の召還士事務所の2階それぞれの部屋から下に降りると既にエルフのザザが出勤していた。エルフと言っても芸人の方ではない。こいつは見た目は褐色ギャルだが意外と真面目できっちりと事務仕事をしてくれている。
ザザ「チィーッス。鳩来てるよ」
鳩来てるよって何のことだと一瞬思ったが、この世界には電話もメールも無いので通信手段は伝書鳩のみなのだった。ただしこちらの伝書鳩は魔法鳩が使われており、国内なら数十分、大陸間でも1日あれば移動できる。しかも帰巣本能を利用した地球の伝書鳩と違い、こちらの鳩は魔法入力により行き先を指定できるのだ。俺はパンと果物と青茶の朝食を摂りながら鳩の脚に付いていた手紙をチェックした。
ミキオ「召還の依頼もあるが、ダイレクトメールみたいなのも多いな…『当選おめでとうございます! 今日の第10刻までにこのアドレスに鳩を送って頂くと…』って、鳩でもこんなことやってるのか」
ザザ「そういうのはもう捨てちゃって」
ミキオ「あ、オーガ=ナーガ帝国から鳩来てる。皇太女つまりエリーザからか」
ヒッシー「そりゃそうだニャ、あの人は摂政なんだから」
ミキオ「あの女にはちょっと苦手意識あるな…えーなになに、我が帝国に存亡の危機あり、すぐに来られたし…だって」
ヒッシー「何かの冗談じゃニャいの?」
ザザ「ていうかお前に会いたいだけのあの女の婚活だろ」
ミキオ「婚活ってお前…いや摂政の立場でそんな冗談や嘘は言えないだろ。一応行ってみる。何かあったら鳩してくれ」
ヒッシー「ミキティ、もう伝書鳩システムに馴染んでるニャ〜」
オーガ=ナーガ帝国の帝都トノマにある巨大な白亜の宮殿、アオーラ宮。その正門前におれは“逆召喚”した。おれの顔は宮殿内に知れ渡っているらしく、近衛兵も顔パスで全部通してくれた。前回この皇宮に“連行”された時とはえらい違いだ。
アルフォード「おおミキオ。また貴様に頼ることになってしまって申し訳無い」
帝国の第3位皇位継承者にしておれの友人・アルフォードが出迎えてくれた。
ミキオ「やはり何かあったのか、ザザなどはどうせエリーザの婚活だなどと言っていたが」
アルフォード「いやまあ半分は婚活なのだが」
ミキオ「半分そうなのかよ…」
アルフォード「隣国カッシャーザ国王タイチャー8世が昨日からこのアオーラ宮に来ている。私の母親の兄に当たる人なのだが」
ミキオ「それがどうした」
アルフォード「これが長っ尻でなかなか帰らん。追い出すわけにもいかんし、皇帝も姉上もいい加減面倒くさくなっている。下手したら1週間でも泊まっていく人でな」
ミキオ「なんだそれは…それが帝国の危機なのか」
アルフォード「危機だろう! 皇帝も姉上も政務に差し障りが出ている。しかも粗末に扱うわけには行かない客だ。貴様の知恵を貸して欲しい。タイチャー陛下に丁重にお帰り頂く方法を考えてくれ」
ミキオ「…まあわかった。とりあえず逆召喚で日本行ってくる。5分間待て」
アルフォード「頼んだぞ!」
アルフォード「叔父上、御免」
タイチャー「おおアルフか。いまエリーザと将棋をしておったところぢゃ。この宮殿は居心地がよいな、長逗留させて貰うぞ」
アルフォード「…はあ」
タイチャー8世は皇帝よりやや若いくらいの年齢だ。70歳前後くらいか。丸坊主の白髪で口髭を生やしている。日本で言うと竹中直人みたいな感じのクセのありそうな爺さんだ。
エリーザ「召喚士! 待ちかねたぞ! 待ちかね過ぎだ! も、もう私のそばから離れるなよ!」
これは触るとおれが大火傷を負いそうなのでスルーしよう。
タイチャー「何ぢゃこの半ズボン眼鏡男は」
アルフォード「は、私の友人で」
ミキオ「召還士のツジムラ男爵だ。今日はあんたに見せたいものがあって来た」
タイチャー「無礼な男ぢゃのう。アルフの友人でなかったら打ち首にしとるところぢゃぞ。して何ぢゃそれは」
ミキオ「ホームプロジェクターとブルーレイプレイヤー、この白壁に映像を映す道具だ。そしてバッテリー、どれもおれの故郷の裕福な友人から借りてきた。タイチャー陛下にはこれから“映画”というものを見て頂きたい」
タイチャー「ほほう、映画とな」
ミキオ「つまり動く紙芝居のようなものだな」
アルフォード「ミキオ、ちょっと…」
アルフォードに袖を引っ張られておれは奥に引っ込んだ。
アルフォード「貴様、帰ってほしい客にえらい大サービスするじゃないか」
ミキオ「まあ見てろ、これはおれの秘蔵のダメ映画コレクションの一部だ。あのオヤジにはこのつまらない映画を観てイヤな気分になってとっとと帰って頂くという筋書きだ」
アルフォード「ふむ、だがそう上手く行くか?」
タイチャー「男爵、映画とやらはまだか?」
ミキオ「いやお待たせした。ではこれより上映としよう。最初の映画はその筋では有名な“デビルマン”だ。原作:永井豪。監督:那須博之。2004年公開。悪魔と合体した人間がその力を利用して悪魔軍団と戦う」
タイチャー「普通に面白そうぢゃ」
ミキオ「感想は後ほど伺いたい」
エリーザはいつの間にかいなくなっている。おれにこのジジイを押し付けて自分は政務に戻ったのだろう。おれはDVDの再生ボタンを押した。
ミキオ「いかがだったろう、この映画」
タイチャー「いや…わし映画そのものが初めてぢゃからまあそういう意味では新鮮な感動はあったけど、これはその…面白いか? 主人公不動明と飛鳥涼を双子が演じるのが意味わからん、何かの伏線なのかと思ったら全くそんなことないし。相当わけわからんぞ、主人公ふたりが理由なく同じ顔って」
いちいちごもっとも。あれは当時の伊﨑兄弟を売り込むためのゴリ押しでしかない。
タイチャー「というより何より主人公二人の演技がヘタクソ過ぎる。使命と友情に揺れ動く悪魔と堕天使の苦悩を演じなきゃならない大役なのになんであんな大根を起用した!」
ミキオ「実はこれは漫画を原作にしている。この漫画なのだが」
タイチャー「…超絶面白いじゃないの! なんでこれをこのまま映画にせんのぢゃ! この原作だと悪魔シレーヌはグラマラスで迫力あるキャラなのになんで映画だとあんなほっそりボディの善人そうなあっさり顔になっとるの?」
いやおれに言われても。まあ冨永愛氏には当時断って欲しかったが。
タイチャー「後半の黙示録戦争のくだりもダラダラして全然盛り上がらん。正直、この壮大な物語を脚本が処理しきれてないと思うのよ。脚本家は有名な人なのか」
ミキオ「監督の奥さんだな」
タイチャー「身内にコネで脚本書かせるような作品ぢゃないのよ、デビルマンは!」
タイチャー国王がいい感じにおかんむりになっている。いいぞ、こっちの狙い通りだ。
ミキオ「タイチャー陛下にはこの映画はお気に召さなかったようで残念だ。では次の映画を観て頂こう」
タイチャー「今度のは面白いんぢゃろうな?」
ミキオ「2009年公開、ノウイング。主演:ニコラス・ケイジ。宇宙物理学者の主人公が50年前の紙片に様々な大惨事が予言されていることに気づき、やがて巨大な災厄に巻き込まれていく」
タイチャー「めちゃくちゃ面白そうぢゃないの。今度は期待できそうぢゃな」
おれはDVDの再生ボタンを押した。
ミキオ「いかがだったろう、今度のは」
タイチャー「中盤まですごい良かったんぢゃがなー、前半しっかりした作風なのに途中から宇宙人出てくるあたりでリアリティラインがバグって後は何かどうでもよくなるな。ていうかラスト何あれ? 何か宗教的なあれ? あれじゃ人類もほぼ滅亡だろうし救いがなくてめちゃくちゃ後味悪いな。時間損した感が凄い」
一緒に観ていたアルフォードがぐったりしている。おれが最初にこの映画を観た時と同じだ。この映画は徒労感が半端ない。
タイチャー「まあわしはよくわからんが、この主演のニコラス・ケイジとかいう男の映画は当たり外れが大きいような気がする」
その通りです。
タイチャー「映画ってこんなもんなんかの、なんかもうわし帰りたくなってきたな…」
アルフォード「おお、いい感じだ!」
タイチャー「何ぢゃ!? 何か言ったか?」
アルフォード「い、いえ、何も」
まあ何にせよこのオヤジも疲れてきたようだ。これはお帰りも近いな。
ミキオ「次の映画に行こう。今度はアニメだ」
タイチャー「あにめ?」
ミキオ「まあ動く絵だな。おれが生まれた日本という国はこのアニメというジャンルが非常に盛んで、優れた作品も多く存在する」
タイチャー「ふむ、今度こそ期待できそうぢゃな」
ミキオ「2021年公開、100日間生きたワニ。主演声優は神木隆之介。きくちゆうきの4コマ漫画「100日後に死ぬワニ」を上田慎一郎と、ふくだみゆき夫妻の監督・脚本でアニメ映画化したものだ」
タイチャー「なんかいま原作タイトルで激烈にネタバレされたような気がするが…しかしまた夫婦で監督脚本か、イヤな予感しかしないな」
ミキオ「ともあれ観て頂こう。この映画は63分間と短くて比較的観やすいと思う」
おれはDVDの再生ボタンを押した。
ミキオ「国王、あんた途中で寝ていたな」
タイチャー「いやあれは寝るぢゃろ! 延々と動きのない紙芝居みたいなアニメで淡々とした日常を描かれて、死ぬかと思ったわ! 面白くも何ともない! 後半はタイトルから予想できる展開があるが、前半のかったるさを打ち消すほどの動きなんぞありゃせんわ。こんなにも63分間を長く感じたのは初めてぢゃ!」
おれが最初に観た時とほぼ同じ感想だ。というか後半はがっつり寝てたんで何も覚えていない。ひたすら退屈で眠くなる映画だった。
タイチャー「なんぢゃの〜、もうこれは素材が悪いとしか言いようがないな。わざわざ映画にするような題材ぢゃないのよ。さっきのデビルマンとは真逆、凡作になるべくしてなった作品というか」
ミキオ「うーむ。これもお気に召さないか。仕方ない、今度はとっておきのを出そう」
タイチャー「まだあるのか!」
ミキオ「今度のは高名な映画評論家が自ら撮った映画でな、上映前にご本人に登場してもらって解説してもらうとしよう…エル・ビドォ・ シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、水野晴郎!」
おれが赤のサモンカードを配置しそう唱えると、中から晩年の水野晴郎先生が出現した。もちろん先生の大好きなアメリカンポリスのコスプレで、手には「シベリア超特急」のDVD-BOXを持っている。映画4作に加え舞台版2作+αを収録したコンプリートBOXだ。
水野晴郎「いやぁ、映画って本当にいいもんですね~。こんにちは、水野晴郎です。この映画では主演の他に監督・原作・脚本・製作・主題歌の作詞をこなしてまして…」
タイチャー「男爵! わし急用思い出したんで国に帰るわ、馬車回して!」
水野先生のただ者ならぬオーラとDVD7枚という長さに気圧されたのだろう、タイチャー国王はそそくさと帰っていった。




