第33話 5人のドラゴンスレイヤー(中編)
異世界ガターニア中央大陸の聖峰ジャビコ山に数千年棲むというエンシェントドラゴン(古龍)が突如として錯乱し村をひとつ焼いたという情報を得た国王は、将軍ハーヴィー、アマゾネスのガギ、巫女サラ、白魔導士シリー、そしておれ召還士ミキオの5人を招集、ドラゴン討伐隊を結成しジャビコ山に向かわせた。
ミキオ「ここが…ジャビコ山…」
大きくて広い山だが、あちこちが焼け焦げて山肌が露出している。なるほどこれはエンシェントドラゴンが暴れ回った形跡か。
サラ「でも、なんで1回ひとりで来てからウチらを召喚しはったんですか。逆召喚ゆうのんで行けるんなら最初から5人全員で逆召喚した方が早いん違います?」
京都弁だからはんなりした感じなのかと思ったら意外とグイグイ来るな、この子。
ミキオ「逆召喚は通常召喚の10倍MPを消費する。5人なら×5だ。これからどんな戦いになるかわからない、MPは極力温存しておきたい」
サラ「はー、なるほど」
将軍「気をつけろよ、既にここはドラゴンの領域だ。あちらにはとっくに気付かれていると思え」
ガギ「へっ、腕が鳴るぜ」
シリー「皆さん、上!」
山頂からワイバーン(飛龍)が飛来してくる。7〜8匹はいるようだ。
将軍「エンシェントドラゴンの眷属だな。シリー! 火炎弾構え!」
サラ「召還士さん、早よあのワイバーンの心臓だけ召喚したって下さい」
ミキオ「いやダメだ。魔物とは言え生物だろう、やたらに命を奪うのはどうかと思う」
サラ「ほなどうしますの」
ミキオ「任せておけ、おれの故郷の世界にはかつて似たような生き物がいた」
おれはそう言いながら赤のサモンカードを取り出した。
ミキオ「エル・ビドォ・ シン・レグレム、ここに出でよ、汝、プテラノドン×8!」
魔法陣から紫色の炎と共に勢いよく飛び出してきたのは古代の恐竜、プテラノドンすなわち翼竜である。ちょうど似たような生態、似たような大きさの飛龍と翼竜はギャアギャア鳴きながら空中で牽制し合っている。
ミキオ「今のうちにさっさと行こう。あのワイバーンが飛んできた辺りがエンシェントドラゴンの棲家だ」
行軍を進めるうち、洞穴らしきものが見えてきた。まさしくドラゴンクラスの巨大生物でも出入りできそうな大洞穴である。
将軍「見ろ、諸君。あの奥がおそらくドラゴンの棲家だ」
ガギ「アースドラゴン(地龍)が入り口を守ってる、間違いないね」
アースドラゴンは翼を持たないドラゴンの一種で、鋭い牙と爪、太い尾を持つ。
将軍「あれを引き離さないことにはどうにもならんな」
ミキオ「これもちょうどいいのがいる。エル・ビドォ・ シン・レグレム、ここに出でよ、汝、ティラノサウルス!」
ギャオオオオッ! おれのカードから咆哮と共に古代の肉食恐竜、暴君竜と呼ばれたティラノサウルスが出現する。地球史上最強との噂も高い生物である。ドラゴンvsティラノサウルス、なかなか見れない対決だが見入っている暇はない。両者は体格も俊敏性もまったく互角のようだ。
将軍「凄いな、召還士…」
サラ「あんなんもうほぼドラゴンやん」
ミキオ「さ、今のうちに行こう。ティラノがこの世界にいるのは5分間だけだからな」
我々は洞穴の中へ進む。温泉が湧き出ているのか、洞穴の中は硫黄の匂いで満ちている。
将軍「いたぞ、見ろ!あれがこの地のエンシェントドラゴンだ!」
洞穴の奥に鎮座する古龍。ビルのように巨大で物凄い威圧感だ。だが何か瞳の輝きが無いような気もする。
古龍「うぬめらか…我が眠りをさまたげる者は…」
将軍「古き龍よ、我々は貴方と話をつけたい。数千年間も我々は貴方とうまくやってきた筈だ。何が不満で人里に現れ暴れたのだ」
古龍「うぬらと話すことなどない!!」
エンシェントドラゴンは立ち上がりおれたちに向けて炎の息吹を発した。おかしい、あまりに聞く耳持たないし、だいいちよく見ると体のあちこちが腐敗している。硫黄の匂いでわからなかったが、腐敗臭もしているようだ。
ガギ「何かの病気でおかしくなったんじゃねーか?」
ミキオ「いや、これはもしや…エル・ビドォ・ シン・レグレム、ここに出でよ、汝、エンシェントドラゴンの心臓!」
サモンカードの魔法陣は何の反応もない。
ミキオ「やはりな。やつは既に死んでいる。魂のないものを召喚することはできない」
サラ「えーっ!」
将軍「何だと!?」
ガギ「つまり、ドラゴンリッチ…!」
サラ「ドラゴンのリッチ(死霊)なんて聞いたことないで」
将軍「召喚魔法が効かないとは、戦術を根本的に見直す必要があるな」
シリー「私の光属性の魔法攻撃でヤツのHPを削っていくしかありません。召還士、君はここまでだ。下がっていなさい」
ミキオ「待て」
シリー「何ですか、君の能力はヤツには通用しない、もうわかったでしょう」
ミキオ「魔法が効かないなら物理攻撃をやるまでだ。エル・ビドォ・ シン・レグレム、ここに出でよ、汝、ドレッドノータス!」
赤のサモンカードから紫色の炎を噴き上げ、全長26mの超大型恐竜が出現した。竜脚類ティタノサウルス類に属する草食恐竜ドレッドノータスである。首が恐ろしく太くそして長い。全長はマメンチサウルスよりやや短いが重量において史上最大級の恐竜と言われる。
シリー「な、な、な…」
サラ「これもほんま普通にドラゴンやな」
ふもおおお! ドレッドノータスはひと吠えしてエンシェントドラゴン改めドラゴンリッチに全体重をかけてぶつかっていった。ドラゴンとドレッドノータスはほぼ同じ体格だ。既に全身に腐敗が回っているドラゴンリッチは脚の踏ん張りが効かず、よろめいた。
シリー「くっ!」
ミキオ「どうした白魔導士、何か焦ってるのか」
シリー「い、いや」
ドレッドノータスの総重量は30t前後だ。腐りかけのドラゴンがこの全体重で突撃されては炎の息吹どころではない。エンシェントドラゴンはドレッドノータスのタックルによって両脚が折れ、骨が露出した。
シリー「…ふん、ここまでか…!」
白魔導士のシリーが右手を横に振るとエンシェントドラゴンの体は芯が抜けたようにがくりと崩れ落ちた。
将軍「な、何だこれは」
ガギ「もしかしてシリー、お前が?」
シリーは魔法杖を振るい、巫女のサラの背中に向けてエネルギー弾を発射した。
サラ「きゃあああっ!?」
将軍「シリー、何をしている!?」
シリー「うるさいな、本物のシリーは今頃湖の底でお魚の餌になってるよ。召還士、こっちを見ろ。この顔に見覚えがあるだろう」
白魔導士に化けていた男はフードをはずし仮面を取った。
ミキオ「…あるな、確かおれが凍結させたザドの邪神教団の教祖だ。転移魔法を使うやつ」
シリー「ふん、覚えてたね。僕は邪神教団3代目教祖ノッペン・ジルズの弟で教団の4代目教祖、イゴネル・ジルズだよ」
あいつそんな名前だったのか。
将軍「つまり貴様は白魔導士どころか邪神教団の死霊呪術師で、このドラゴンも死霊ではなくお前が死体を操っていただけというわけか」
イゴネル「正解。さすが将軍、理解が早いね。こっちの信徒から連絡があってね。洞穴の奥で地元のエンシェントドラゴンが寿命か何かで死んでるのを見つけたって。それでこの計画を思いついたってワケさ」
ガギ「てめえっ…!」
ミキオ「何がしたい、兄貴の仇討ちか」
おれは背中から撃たれ流血した巫女のサラをマジックボックスに入れ、凍結させることで失血を防いだ。かつてこの男の兄もマジックボックスに放り込んだことがあるのだ。
イゴネル「正直、仇は別にどうでもいいんだけど、君に兄と教団本部をやられてから教団はもう壊滅状態でさ、せめてリベンジを果たしたって実績がないと離れた信徒たちも戻ってくれそうにないんだよね。だから悪いけど君は僕にブッ壊されて欲しい」
ミキオ「女を背中から撃つようなやつは許しておけない。お前も永遠に兄貴と同じ無明空間に入って貰う」