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第24話 激突!召喚士vs召喚士(後編)

 中国で白スーツのスキンヘッドサングラス男と渡り合ってきたおれは逆召喚で東京都清瀬市の生家に戻ってきた。車があるので既に母親は帰ってきてるらしい。じいちゃんがいると面倒くさいからいないといいんだが。おれは鍵を取り出しドアを開けた。


ミキオ「…えーと、ただいま」


 大きくも小さくもない声でそう言うと母親が目を丸くして出てきた。


由貴「三樹夫!」


ミキオ「あ、えーと、久しぶり」


由貴「事情はあの人から聞いてるわ。入って」


ミキオ「…あの人?」


 意外にも母親は大して驚いていない。おれは自分の家の居間に通された。




 母親はおれに麦茶を出しながら言ってきた。


由貴「お爺は碁会所行ってるみたいだから、帰ってくる前に大事な話しときましょ」


ミキオ「“あの人”ってのは誰」


由貴「あんたのお父さんよ」


 サラっと言いやがった。いやおれの父親ってゼウスだろ。


ミキオ「神託があったってことか?」


由貴「あんたが蒸発した次の日、急に雷が落ちてきてあの人が出てきてね」


 おれの母親は若い頃に大恋愛をしておれを産んだのだが、その相手が神であるゼウスなのだ。おれも8日前に知ったばかりだが。


由貴「ある国があんたの研究を狙ってあんたに殺し屋を差し向けたから、その救済措置として肉体ごと天に召した、悪く思わないでくれって」


 なるほど、ゼウスは我が子であるおれを救うために天界に上げ、その後あのスキンヘッド野郎の能力の及ばない異世界ガターニアに転移させたってことか。辻褄が合う。


ミキオ「母さんはそれで納得したのか」


由貴「まあ、あの人も死んではいないって言ってたし、異世界で元気でやってるならいいわ。時々顔見せに来なさいよ。お爺には他県に就職したとでも言っとくから」


ミキオ「わかった、ありがとう。今度あっちに遊びに来てくれ。おれ向こうで寿司屋を開いたんだ」


由貴「え、寿司屋???…寿司屋?」




 おれは家を出て本郷のキャンパスに向かった。MPを10倍消費する逆召喚はなるべく使いたくないので電車移動だ。実家の方はこれで片がついた。後は大学院だ。研究はもう道筋がついているからおれがいなくても大丈夫だと思うが、今度は別な者がアイツらに狙われることになるだろう。元を絶たねばどうにもならない…雑踏の中を歩きながらそう考えていたが、ちょっと眠くなってあくびが出た。完全に油断していた。おれはあくびによって生じた隙を突かれ、群衆の中に潜伏していた中国の工作員に猛毒の神経剤VXを塗られた。




 気がつくとおれはどこかの空き家に寝転っていた。もとレストランか何かだったらしく、皿や食器があちこちに転がっている。くそ、おれとしたことが。どうやらおれは都内で白昼堂々と神経剤テロを実行され、神与特性の身体強化によって死を免れたものの、昏倒した瞬間にまたあのスキンヘッド野郎に召喚されてしまったらしい。


林鵬「いいザマだな、辻村君。日本はスパイ活動がしやすくて有り難いよ」


ミキオ「…おれをすぐに殺せなくて残念だったな」


林鵬「まさかVXでも死なないとは、君の身体、非常に興味深い。生体解剖して調べることにしよう」


ミキオ「殺しちゃっていいのか? お前の契約者の李梟雄副主席に怒られるぞ」


林鵬「彼はそんなに物分りの悪い男ではないよ。君の研究は後任に受け継がれているようだしな」


ミキオ「ふぅん、やっぱり李梟雄副主席が黒幕か。諜報機関出身だからそうじゃないかとカマをかけただけなんだが」


林鵬「…貴様…! まあいい、これを見てもまだそんな軽口がほざけるかな?」


スキンヘッド野郎は赤と青のサモンカードをおれに見せた。昏倒した一瞬に奪ったのか。


ミキオ「…!」


林鵬「これが君の召喚アイテムなんだろう? 召喚術無しで私とどう戦う? 身体はやたら丈夫なようだが、妖怪や鬼神とやり合える程でもあるまい?」


ミキオ「…」


林鵬「 哈哈哈哈哈(ハハハハハ)、勝ったな! 地水火風空陰陽転々、饕餮(とうてつ)、来来!」


 スキンヘッド野郎の札から象よりも大きい巨獣が出現した。饕餮は古代中国において“四凶”のひとつとされる凶暴な妖怪である。人に似た顔に曲がった角、四足獣の身体に青銅の皮膚を持つ。


林鵬「なんでも喰ってしまう貪欲の化身だ、その小僧の内臓血一滴まで残らず喰らい尽くせ!!」


 ちもおおおお! 饕餮はヨダレを垂らしながらおれに向かってきた。


ミキオ「マジックボックス…」


 おれが空中に円を描くとその内部は漆黒に変化し、饕餮を一瞬にして呑み込んだ。


林鵬「な、何だと!?!?」


ミキオ「おれのマジックボックスの内部は“無明空間”と言う特殊な異次元になっていてな。時間が存在しないためあらゆる生物の細胞活動が停止し、凍結状態になる。おれが取り出さない限りあの妖怪は死んだも同然だ」


林鵬「…君がこれほどの化け物とはな…ギリギリで気付いて良かったよ」


ミキオ「なに?」


林鵬「君は知っていたんじゃないのか? 召喚の時に現れるコマンド画面、返還先のところは自由に設定することができるんだよ。私はさっき気付いたんだがな」


ミキオ「…!」


 しまった、そこに気付かれたか!


林鵬「私がさっき東京から君を召喚した際に返還先をマリアナ海溝の最深部に設定しておいた。君はまもなくタイムアップとなり水面下1万メートルの海底に返還される。君がいくら丈夫な身体でもどうやって生還する? もちろん君の召喚アイテムはここにあるため“逆召喚”も使えない。やはり私の勝ちだな、辻村君!」


 おれの体がみるみる消えていく。おれは瞬時に判断し、手近にあった丸い皿を手に取った。


林鵬「さらばだ、辻村三樹夫! マリアナ海溝の水圧で圧死するがいい!!」


ミキオ「略!我、意の侭にそこに顕現せよ、この場所!」


 おれは消えゆく体で呪文を唱え、黄色い炎を伴って同じこの場所に“逆召喚”した。


林鵬「き、貴様、いったい何をした!?」


ミキオ「実は呪文は省略できる。単に礼儀の問題だ…と妖精が言っていた。となれば魔法陣も、と思ったんだが、やはり緊急時には丸い物で代用できるようだな」


 おれは白い丸皿を掲げてそう言った。


林鵬「く、糞!」


 スキンヘッド野郎はおれのサモンカードを床に叩きつけた。


ミキオ「ところでおれもさっき気付いたことがある。召喚の際のコマンド画面、召喚相手を“全体”と“一部分”に選択して指定できるんだ。気付いていたか?」


林鵬「何…だと?」


ミキオ「“一部分”のところはある程度自由に入力できるようだが、さて…略!我が意に応えここに出でよ、汝、林鵬の召喚能力!!」


 おれがそう唱えると魔法陣に代用した白い丸皿から紫色の炎があがり、スキンヘッド野郎の(ふだ)と紫色に明滅する光球が出現した。


ミキオ「やっぱりな。林鵬、お前の召喚アイテムと先祖代々の召喚能力、おれが分別して召喚させてもらった」


林鵬「あ!あ!あ!」


ミキオ「これは永遠に封印させてもらう。マジックボックス!」


 空中に円を描いた中が漆黒に変化し、おれは召喚したアイテムと光球をその中に投げ捨てた。


ミキオ「後で李梟雄副主席の全記憶も“部分召喚”させてもらおう。じゃあな、このあとお前がどう生きていくかには興味がないが、もしおれの家族や仲間たちに手を出したら今度こそ魔法召喚とマジックボックスの無敵コンボに嵌めるぞ」


 おれは呆然とするスキンヘッド野郎を尻目に、やつが床に叩きつけた赤と青のカードを拾い、懐かしき異世界ガターニアに帰っていった。

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