第221話 野望!陰謀!ときめいて!異世界アイドル総選挙(第六部)
業界の大物ドッペリー・ザッカーの手によってこのガターニア全土のアイドルたちの総選挙イベントが行なわれることが告げられた。そして10日後、遂に全アイドル総選挙イベントが開催された。順位に泣く子あり、笑う子あり。悲喜こもごものなか選挙結果は14位まで発表された。果たして第1位の栄冠は誰に輝くのか!
カチュアリー「どうもありがとうございました! 今までの人生で一番自分を褒めてあげたいです!」
第13位は“キラメキララ”のカチュアリー・ノタネイという子だった。4人組であるキラメキララはエースのこの子以外全員20位以下であり、エースだけが奮戦した形だ。解説者席でおれの隣にいるザッカー会長はここまで自社タレントがちっともランクインしてこない現状にイライラを隠せない様子だった。
ザッカー「全然うちのタレントが出てこないじゃないか。どうなってるんだ。うちのプロダクションの制作なんだぞ?」
フロアディレクター「まだ13位ですので…」
言われたフロアディレクターも困っていたが、ザッカープロ所属のアイドルである“純情女子塾”はまだ誰もベスト20にランクインしていないのだ。
コンペート「生放送でお届けしておりますガターニア全アイドル総選挙特番、既に第13位まで発表されています。いかがですかザッカー会長、ここまでご覧になって」
お、このタイミングでザッカー会長に振ってきたか。こっちの様子も見えているだろうに、なかなか勇気あるなコンペート。
ザッカー「ん、いやなんというかね。当選された皆さん非常に初々しくて私も若いエキスを吸収させてもらってます。いや本当に若さというものは素晴らしい。願わくばもうちょっとウチのタレントにも活躍して欲しいがね(笑)」
おっさん目線の気持ち悪いコメントだな。カリカリし過ぎてコメント力が低下しているのか。思えばあの純情女子塾とかいうグループ、中間発表の時は結構何人かランクインしてたと思ったが本選になると全然弱いな。あのバッカウケスの妹はもう確実に出てこれないだろうし。
コンペート「それでは続いて参りましょう。第12位…動画配信者、プラリナ・ネンキッツ! 20,555票!」
プラリナ「ヤバ! エモ!」
12位はギャルのカリスマ、プラリナだ。前評判では上位陣に食い込むのではないかと言われていたが本選では12位か。
ヒッシー「んー結構伸び悩んだニャ」
ミキオ「当然だろう。彼女のファン層がブロマイド大量買いなんかする筈がない。こういうのは知名度とは比例しないからな」
モモロー「おめでとうございます! スピーチを!」
プラリナ「ありえない!ウチまじで語彙力無くすくらいコーフンしてっから! ウケる! ギャル最強! よろぴ!」
ビジネスでやってるギャルキャラなのだろうか、時々思い出したかのようにギャル語を無理矢理ねじ込んでくるところが面白い。
コンペート「続きまして…第11位、イセカイ☆ベリーキュート、チズル・アモンド! 22,042票!」
チズル「はいっ!」
ミキオ「お!」
ヒッシー「やったニャ!」
11位はようやく来た、我らがイセキューのリーダーでセクシー担当のチズルである。まさか全員100位以下ということはないだろうが、まだ20位のジャコと17位のノリしか出ていないので少し心配していたのだ。
コンペート「リーダーおめでとうございます!」
チズル「ありがとうございます! イセキューの赤い衝撃、リーダー兼セクシー担当チズルです。まだまだ夢の途中ですが、今回わたしがこんな素敵な順位を頂けたのはわたしを支えてくれたファンの皆様とスタッフの皆様、そしてなんだかんだで頼もしいメンバーたちのお陰です。みんなに素敵な未来が訪れますように。ありがとうございました!」
深々と頭を下げるチズルリーダー。この子は真面目でしっかりした性格で、おれたちやマネージャーとメンバーの子たちとの間で中間管理職としてよくやってくれているのだ。
コンペート「ありがとうございました。さあいよいよここからはベストテンになります。発表いたします。ガターニア全アイドル総選挙、第10位…イセカイ☆ベリーキュート、リンコ・パ・リンコ! 22,851票!」
リンコ「わー! キター!!」
10位もイセキューのメンバーだ。リンコは加入当初は尖ってたが今やすっかり元気娘キャラが定着し、うちのグループでもっともオンオフの切り替えの無い子になった。
リンコ「えーと、みんな応援してくれてありがとう! 元気印のマリンブルー、リンコです! 今日のあたしの心は真夏の青空の雲のように晴れ渡ってます! 一句詠ませてください! そうせんきょ カッコウ鳴いてる ほーほけきょ。すごい! やったー! ありがとうございました!」
コンペート「ありがとうございます。ホーホケキョはウグイスの鳴き声だと思うんですけどね。いかがですかツジムラ侯」
ミキオ「リンコは黙っていれば美少女だからな。この順位も納得がいく。おめでとう。あと晴れ渡る青空に雲は無いぞ」
コンペート「ありがとうございました。続いて参りましょう。第9位…まつぼっくり、ナッチュ・ファナビパイ! 24.128票」
ナッチュ「ええーっ!?!」
コンペート「あなたですよ。壇に上がってください」
上がる前からべそをかきそうなこの女の子は中学生くらい、メイクもろくにしておらず本当におぼこい田舎娘といった感じの子だ。“まつぼっくり”はトッツィーのおっさんがプロデュースするアイドルグループだが、ここでやっとひとりランクインか。
モモロー「おめでとうございます! しゃべれますか?」
モモローさんがマイク(音量増幅魔法の込められた魔法杖)を差し出すとこの子は泣き出し、嗚咽しながらスピーチを行なった。
ナッチュ「ま、まつぼっくりのナッチュです…わ、わだすがこっただ晴れやかな場所に立でるなんて、ほんどに光栄で…なに喋ったらええがわっがんねえけんども…ファンの皆様に支えられでこの素敵な光景が見れましだ。夢さ見でるみたいです。ありがとうございます」
ううむ、いいな。こういうのをお茶の間の爺さん婆さんが喜ぶんだよ。今この瞬間の視聴率はぐっと上がってそうだ。
コンペート「ありがとうございます。まつぼっくりプロデューサーのトッツィーさん、いかがでしょう?」
トッツィー「いやこの子は田舎から出てきて頑張ってる親想いのとてもいい子でね。ご両親も今ごろ喜んで観ていると思うよ。あらためてナッチュ、おめでとう! おめでトルネード投法!」
モモロー「ありがとうございました」
コンペート「いやぁ、こっちまでもらい泣きしそうでしたが…続きまして第8位の発表です。第8位、イセカイ☆ベリーキュート」
おお、連続だな。会場のイセキューメンバーたちの唾を飲む音が聞こえてきそうだ。次はコマチか、モッチーか。
コンペート「モッチー・オカーキ。30,072票」
モッチー「ありがとうございますぅ」
おお、モッチーか。彼女はイセキュー2期生であり加入当初は“地味子”とあだ名が付くくらいに地味で、人気もそれほどだったが最近は垢抜けて綺麗になったと評判で、得票数にもそれが反映されているのだろう。遂にリーダーやリンコを抜いてしまった。彼女は立ち上がりゆっくりと歩いて登壇した。
モッチー「癒やしのダブルピース、天然成分配合ナチュラルグリーン、モッチーですぅ。ここまで決して楽な道ではありませんでしたが、ファンの皆様と最高の仲間たちに助けられてこのステージに上がることができましたぁ。自分を信じて良かった。16年間生きてきて今がいちばん幸せですぅ」
しっかりしたことを言うなぁ…あの地味子も成長したものだ。おれが16歳の時にこんな立派なことが言えただろうか。
モモロー「ありがとうございました。プロデューサーのヒッシーさん、いかがですか?」
ヒッシー「この子は最近特に人気急上昇してて、ファンにもガチ恋勢が多いニャ。ちょっと遅刻癖があるけどいるだけで癒やされるメンバーですニャ。モッチー、これからも頑張って!」
モッチー「ありがとうございますぅ」
コンペート「心が洗われるようなさわやかなスピーチが続いております。続きまして第7位、堕天使チルド連、仮面アイドルあらためワカナ・ノテッパン。34,858票」
会場一同「おおー!!」
ワカナ、ここで名前を呼ばれたか。中間発表では5位だったから伸び悩んだというべきか、いやむしろ堪えたというべきか。あのライブ会場の熱気からして、仮面を捨てて素顔に戻ったことでオタクたちの支持も大いに上がるかと思ったが、そうでもなかったな。ワカナは仮面のまま登壇し、壇上で仮面を外すというパフォーマンスを行なったあとマイクを握った。
ワカナ「…わたしが今このステージにいることに違和感を持っている方もいらっしゃると思います。わたしは先日のギグでこの仮面を外し、素顔のワカナ・ノテッパンとしてファンの皆さんに受け入れて頂きいまこの舞台に立っています。アイドルを続けてきて良かった、わたしは本当に幸せです。遠く離れた故郷で、ひとりで苦労してわたしを育ててくれた母にこの喜びを伝えさせてください。ありがとう、おかあさーん!」
震える声でそう叫び泣き顔になるワカナ。泣き顔なのに涙が出ていない。つまり演技だ。やっぱりこの女は大したタマだな。確かに番組としては盛り上がるだろうからいいけどあまりに見え見えなのはちょっとな。フロアディレクターも苦笑している。
コンペート「ありがとうございました。CMの後はいよいよ6位の発表です! チャンネルはそのまま!」
総選挙イベントは順調に進み、あと6人を残すのみとなった。イセカイ☆ベリーキュートのメンバーはあと3人、果たして無事にランクインできるのか。そして1位の栄冠は誰にもたらされるのか? 次回、異世界アイドル総選挙編、最終章!