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第22話 名曲「浅草キッド」が異世界に響き渡る

 異世界転生7日め、おれは王都フルマティのはずれ、王領内の瀟洒な建物の中にシンノス・コシヒッカらといた。使っていない建物があったため王からそこを借り、業者に頼んで内装を綺麗にしてもらって寿司屋を開くことになったのだ。


ミキオ「なかなか豪華に仕上がったな」


 こじんまりながらも純和風、生け簀も置いたりして、日本にあっても遜色ない立派な寿司屋である。店員は板長のシンノスと補佐の若い衆が一人、ホールの女の子が一人だ。看板には日本語で「寿司 つじむら」と書いたがどうせ誰も読めないだろう。


シンノス「感無量だね、召喚士の旦那!」


ミキオ「いい店になった。与兵衛さんの意見を聞いて正解だったな。夕方からオープンだけど大丈夫なのか」


シンノス「任せてくんな! オイラ与兵衛師匠の特訓が終わった後も一人で稽古してたんだ」


 さっそく試しに握ってもらう。うん、なかなか美味い。赤身の寿司はこっちのソードフィッシュとかいう奴か。旬のアジみたいな鮮烈さだ。こっちの虹色がかった半透明のクラゲみたいなのはフライングフィッシュだな。紋甲イカみたいでねっとりして美味い。どちらもちゃんと寿司になってる。シャリが心配だったがなかなかどうして。麦の変種らしいがどこでこんなのを見つけてきたんだろう。


ミキオ「いいと思う。華屋与兵衛さんのとは比べられんが少なくともおれに不満はない」


シンノス「良かった、旦那のお墨付きがもらえりゃバッチリだ、今日はたらふく食べてってくんな!」


ザザ「ちぃーっす」


 扉をあけて褐色ギャルエルフのザザが店に入ってきた。


シンノス「お、姐さん! 開店は第6刻からッスけど良かったら姐さんも食べてってよ」


ザザ「て言うかさ、今日こんなチラシが配られてたんだけど」


ミキオ「…割烹チェーン“海王亭”…?」


シンノス「本日オープン? うちの目と鼻の先じゃねえっスか!」


ミキオ「明らかにうちにぶつけに来てるな」


ザザ「海王亭ってのは最近勢力を拡げてきたチェーン店だ。メイケンとアカミティ、ティラオに店舗がある。どこも地元の海鮮居酒屋の目の前に店を出して顧客を奪っていく戦法らしい」


シンノス「やり方が汚え!」


ミキオ「まあこういうのは商売の常套だからな。ちょうどいい、向こうはもうオープンしてるからさっそく敵情視察に行ってみよう」




 おれたちは角を曲がってすぐの割烹チェーン“海王亭”に移動した。


シンノス「結構客が入ってやすね、旦那」


ミキオ「メニューを見てみろ。うちよりも安い。これで味が良ければ客は全部持っていかれるな」


シンノス「そ、そんな!」


ザザ「まあとにかく何か頼んでみようよ」


シンノス「そうスね…すいやせん、刺身盛りと鬼面ガニの煮付け、それにアンモナイトのつぼ焼きを1人前ずつ」


店員「かしこまりました、ご注文繰り返させて頂きます。刺し身盛り合わせと…」


ミキオ「それにしても今日オープンとは。近場なのにまったく気づかなかったな」


ザザ「以前ここは小料理屋だったんだ。ちょっと前に閉めたんだけど、そこを居抜きで借りて開店したんだろうね」


 などと言っていると注文した料理が来た。刺し身盛りは様々な魚や貝がサイコロ状に切って並べてある。日本のものに似ているが小さい器に熱々のつけ汁が添えてあり、これにひたして食べるという趣向らしい。


シンノス「ふむ…」


ミキオ「不味いな。新鮮な刺し身を熱々の汁につける意味がわからない。ぬるくなって気持ち悪い」


ザザ「そうかい? こんなもんじゃないの?」


 こいつはバカ舌だからアテにならないのだ。連れてくるんじゃなかった。


ミキオ「次、鬼面ガニの煮付け。これもダメ。カニを煮付けても水っぽくて食えやしない。次はアンモナイトのつぼ焼き。これも今ひとつだな。焼き過ぎて身が固くなってる」


ザザ「そうかい? どれもまあまあだぞ」 


ザザはパクパクと箸を勧めている。こいつ腹減ってるだけじゃないのか。


シンノス「旦那、これ黙っててもウチが勝つんじゃないの」


 よくお前が言えたな。お前の実家のコシヒッカ亭に最初に行った時はびっくりしたぞ。そう言いかけた時、うしろから声をかけてくる者がいた。貴人の服装だが非常に太っている。


ニーツ公「失礼、もしや最上級召喚士殿では?」


ミキオ「まあそう呼ぶ者もいる。あんたは?」

挿絵(By みてみん)

ニーツ公「先日、王女殿下の舞踏会でお顔を拝見させて頂きました、ニーツ公爵のセッキーユ・アーキハークでございます」


 ニーツは中央大陸連合王国内にある公爵領である。かつては独立国だったが連合王国の傘下となり公爵領に降格となった。


ニーツ公「本日は当店にお越し下さりありがとうございます」


ミキオ「というと、ここはあんたの」


ニーツ公「ええ。私が経営している店です。そう言えば召喚士殿も本日海鮮のお店をオープンなさるとか」


ミキオ「まあな」


ニーツ公「これは奇遇だ、では勝負ですな。私もいずれそちらのお店に伺うとしましょう。異世界からいらしたというあなたがこの王都でどこまで健闘されるか、楽しみです。ホッホッホッ…」


ザザ「定番の展開になってきたね」


 いやそれは美味しんぼやミスター味っ子などのグルメ漫画の定番だろう。なんで異世界人のお前が知ってるんだ。


ミキオ「店に戻ろう。敵があんな奴なら容赦はしない」




シンノス「本日の目玉はこれっス。今朝あがったダンクルオステウス」


 “寿司つじむら”に戻ったおれの目の前のカウンターには前世では図鑑でしか見たことのない巨魚が置かれていた。古生代に棲んでいた板皮類と呼ばれる恐魚の一種である。小型種のようだがそれでも2m50cmはある。シンノスが切り分けようとしたのでおれは制した。


ミキオ「待て、どうせなら客の前で捌こう。剣で派手に捌いてやればいい、解体ショーだ」


シンノス「おお、なんか楽しげな響き!」


ミキオ「もうすぐ開店か、いけるとは思うが、もう一つくらい何か仕掛けが欲しいな」


ザザ「ミキオ、いつの間にか行列ができてるぜ」


 見ると“寿司つじむら”の前には8人既に並んでいる。先日のコシヒッカ亭での騒動を聞きつけたグルメマニアたちだろう。ちょっとおれは安堵した。




 開店となり、客席は八割方埋まった。シンノスの昔かじった剣舞を取り入れたダンクルオステウスの解体ショーも好評でお客も満足げである。


ニーツ公「ほう、なかなか派手な催しをやってらっしゃるようですな」


 でぶのニーツ公が店にやってきた。


ニーツ公「店員さん、私に泡酒と、何かおすすめの料理を」


ミキオ「敵情視察、ご苦労さん」


ニーツ公「いやはや、ちょっと客入りが寂しいんじゃないですか? “海王亭”は盛況で未だに行列が絶えない状態ですぞ」


 ニーツ公が煽ってきてる間に料理が届いた。寿司盛り一人前である。ダンクルオステウスの大トロと赤身の握りが多めに入っており、彩りも非常に豊かである。


ニーツ公「ほほう、なかなか小綺麗に盛り付けなさる。だが味の方は…あ、味はまあ、なかなか…こ、これは…」


ミキオ「不味かったら素直に言ってくれて構わないぞ」


ニーツ公「失礼、急用を思い出しました」


 小走りに店を出ていくニーツ公。あまりの美味さに二の句が告げなかったのだろう。しかしこの客入りはどうしたものか。味には自信があるのだがやはり値段の面で負けているのか。寿司という当地に馴染みのない料理だから敷居が高いのか。どうにかしたいが、初日から安易な値引きセールはしたくない。


ミキオ「仕方ない、やはり召喚魔法の手を借りるか」


クロロン「おっ、やる?」


 空中の妖精が囃してきたが無視しておれは赤のサモンカードを起き、呪文を詠唱した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、ビートたけし!」


 あまりに意外な人選に驚いたのか空中の妖精も目をぱちくりしている。紫色の炎の中から1作目のアウトレイジの頃、63歳くらいのビートたけし氏が出現した。


ビートたけし「…あれ、おいら酔っ払っちまったかな。新宿で飲んでたんだけどな…大将、ビールもういっぱい。あとなんかつまみ無いの」


ミキオ「シンノス、たけしさんにシーラカンスの煮込み出して」


シンノス「へいっ、お待ち!」


ビートたけし「シーラカンスって、はは、面白ぇな、あんちゃん…おっ美味い。オイラ煮込みが好きでさ」


 もちろん知っている。知っているからこそ出した。かの名曲“浅草キッド”には浅草の捕鯨船という鯨料理屋の煮込みが登場するのだ。今回はこの世界の鯨を用意してなかったのでリアルシーラカンスの煮込みを出した。こちらではシーラカンスは鯖くらいポピュラーな魚である。


ビートたけし「煮込み食ったら歌いたくなっちまったな。お前と会った仲見世の 煮込みしかない鯨屋で〜♪」


 たけしさんがその名曲“浅草キッド”を歌いだした。横でこっそり呼んでいたグレート義太夫氏がギターで演奏してくれている。独特のハスキーヴォイス、大人の男の魅力に店の客はみな釘付けになっている。しかしこのシチュエーションでご本人が歌うかね? とも思ったが過去に召喚されてきた偉人たちが妙にサービス精神旺盛だったのも事実だ。


客A「いい曲だな…」


客B「おじさん、それなんて曲なの」


ビートたけし「しょうがねえな、紅白で歌ったんだぞこの曲…大将、おあいそ。今日のここの客のぶんオイラが全部出すからよ」


客A「えっ!」


客B「いいんすか?」


ビートたけし「いいよ。あんちゃんたちが売れたらオイラのこと使ってくれよな」


 そう言ってたけしさんは万札を30枚くらい置き、タイムアップとなり消えていった。今からおねえちゃんのところに行くのかな。


シンノス「ええ、今のお客さんが今日のお代を全部出してくれましたんで皆さん今日はお代結構です!」


 うおおお!! 歓声があがる。やがて客が客を呼び寄せたらしく、あっという間に店は満席となった。さっそく“浅草キッド”を合唱してる客もいる。オープン日はたけしさんのおかげで大盛況となった。

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