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第205話 花嫁は美少年?!怒りのヴァージンロード(中編)

 工業国アガノシア王国ヤスッダ領の領主サントピアス伯爵がうちの事務所を訪ねてきた。伯爵領ではいま花嫁狩りが横行しているというのだ。おれたちは犯人をおさえるため架空の結婚式を挙げることにしたが、花嫁役のマグナのあまりの美しさに花婿役カクベーは気絶してしまうのだった。


ザザ「おい! オッサン! 起きろって!」


 ぺしぺしとカクベーの頬を叩くザザ。だがカクベーはまったく目覚めない。


ミキオ「ダメだなこれは。どのみち控室でこんなに緊張してるようでは式典中にまた気絶するぞ」


ヒッシー「でも幸せそうな顔してるニャ。たぶんマグナ君に強引にされたのが気持ち良かったんだニャ」


永瀬「本当にダメですね、この人」


 秘書・永瀬が心から軽蔑するような顔でカクベーを見下げていた。


ミキオ「とりあえずガーラ、カクベー氏を医務室に運んでくれ」


ガーラ「心得た」


 おれは書生の魔人ガーラにカクベーの重い体を預けた。重いのはいいが汗で若干湿ってる。こいつ常時汗かいてるな。


永瀬「で、どうします? 花婿役の代打を探さないと」


ヒッシー「おれはダメだニャ! お芝居でもこんな綺麗な人と結婚式挙げてたことがバレたら奥さんに殺されてしまうニャ!」


ミキオ「仕方ない、おれがやるしかないか…」


ザザ「お前は顔が売れてっからバレるんじゃねーのか?」


ミキオ「変装する。まあマグナ君がこれだけ美しければおれの方なんか誰も見てないだろう」




 半刻(1時間)後、いよいよ式が始まった。来賓はうちの事務所のメンバーと、領主であるサントピアス伯爵の家族と使用人たち、それに暇そうにしていた村の年寄りたちだ。媒酌人はサントピアス伯爵とその夫人である。この辺りの結婚式の風習としてまず新郎が入場して挨拶することになっているらしい。おれが付け髭と丸眼鏡で変装して入場すると来賓たちに拍手で迎えられた。司会を務める式場職員のおじさんが席へ促してくれたのでその席へ歩いて行く。


ミキオ「どうも。よろしくお願いします」


 こんな軽い挨拶で合ってるのかどうかわからないが、おれは来賓席に向けとりあえずそう言った。


司会「本日は新郎新婦のためにお集まり頂き、誠にありがとうございます。まずはご挨拶に変えまして新郎に1曲歌って頂きたいと思います。どうぞ」


ミキオ「えっ?! 歌?!」


 こんな大勢の前で急にそんなことを言われ、おれは狼狽した。


司会「そうですね、ここヤスッダ地方では駆けつけ1曲と申しまして、いきなり歌を振ってノープランのまま歌ってもらうことがお客様に対する最高のおもてなしということになっています。もちろん新郎もご存知とは思いますが」


 知らなかった。そんな風習があるのか…変な風習!


ミキオ「あ、あー、あれね。もちろん知ってます。知ってますとも。えーと、じゃあ歌わせて頂きます。『君の青春は輝いているか』」


 『君の青春は輝いているか』は特撮ヒーロー番組『超人機メタルダー』の主題歌。作詞は大河ドラマ『独眼竜政宗』などの脚本で有名なジェームス三木、作曲は『津軽海峡冬景色』から『アンパンマンマーチ』まで幅広く作曲した三木たかしである。歌唱はアニソン界の帝王、ささきいさお。子供番組の主題歌とは思えないような重厚なメロディと説教臭い歌詞で一部では有名な曲だ。おれはこの番組を子供の頃にBSの再放送で見てたので歌っただけなのだが、歌詞の内容が場にそぐわなかったのか歌唱力の問題なのか来賓がしらけていたので1コーラスでやめておいた。


司会「はい、ありがとうございました。なんというか、なかなかね、心に迫るものがあるというか。素晴らしいお歌でございました…さて気持ちを切り替えて、それでは皆様お待たせいたしました、いよいよ新婦の入場となります」


 なんで切り替えるんだ。そんなにダメか、おれの歌は…すっかりおれの歌が前座扱いにされてしまったが、楽団の奏でる入場テーマとともに純白のウエディングドレスを着たマグナ君が入場してくると、来賓席から驚嘆の声が上がった。

挿絵(By みてみん)

来賓A「おお〜!!!」


来賓B「なんちゅう綺麗な花嫁だべ…!」


来賓C「新郎の方はおかしな歌を唄って素っ頓狂な男だなと思ったけんども、新婦はとんでもねえ別嬪さんだなや」


 案の定、来賓の視線はウエディングドレス姿のマグナ君に集中し、おれの方など誰も見ていない。別にいいのだが。


司会「いや本当にお美しい。私も長年この式場で司会をしていますが、こんなにも見目麗しい花嫁は初めてです。さてそれでは新郎新婦に御着席頂いたところで媒酌人様の御祝辞を賜りたいと思います。サントピアス伯爵様、どうぞ」


サントピアス伯爵「ただいま御紹介に預かりますた伯爵のサントピアスでございます。いやまったくもって本日の花嫁は目の保養でございますて、新郎殿が羨ますい限りですが…まずはわだくすから新郎新婦に贈りたい言葉があります。わだくす事でありますが、自分(ずぶん)は一度結婚に失敗すてますて…」


 だいたいこういう祝辞というものは空気を読まずに長くなるものだが、この爺さんも同じだな。長くて内容のない誰も得しないスピーチだ。来賓たちは誰も聞いておらず、おのおので談笑している。どうせお芝居なんだからスピーチなんて短くしときゃ良いのにな…おれもマグナ君も飽き飽きしていると、式場のドアが突然開き、中から血相を変えた4人の女子が出てきた。


フレンダ「この結婚式、ちょっと待ったぁああぁ!!!」

挿絵(By みてみん)

 ザワつく来賓たち。


来賓A「なんだなんだ」


来賓B「どういう状況だべ?」


エリーザ「我々の知らぬところで召喚士が結婚式を挙げているという情報が入った。あらためさせて頂きたいっ!」

挿絵(By みてみん)

クインシー「お兄様…どうして一言言ってくれないの?」

挿絵(By みてみん)

ブリス「冗談じゃないわよ、こんな田舎で隠れてコソコソと式なんか挙げて! 納得いくまで説明して貰うわよ!」

挿絵(By みてみん)

 入ってきたのは中央大陸連合王国王女のフレンダとオーガ=ナーガ帝国皇太女エリーザ、それにジオエーツ連邦の女王クインシーとカッドン財団息女ブリスの4人。全員おれの知り合いでこのガターニアの名だたるセレブリティだ。


ミキオ「お前ら…」


永瀬「あのですね皆さん、これにはわけがありまして」


 秘書の永瀬がやや呆れ気味に説明し始める。呆れるのも無理もない、女王だの皇太女だのという立場の人間が不確かな情報を元にこうして軽々しく他国まで押しかけてくるのだから。


フレンダ「言い訳なんて聞きたくありませんの! 誰、そのいい感じの女!」


マグナ「いや、僕はですね…」


ブリス「ま、“ボクっ娘”だわ!」


エリーザ「私の知らぬ間にこんな若い女と付き合っていたとは、いい度胸だな、召喚士!」


クインシー「ミキオお兄様…こんな胸の小さい子が好きだったの?」


ブリス「誰なのよ、この貧乳女は! ミキオ社長、ちゃんと説明しなさいよ!」


 突如始まった修羅場にサントピアス伯爵は唖然とし、来賓たちはワクワクしながら見ていた。結婚式での修羅場なんて退屈な田舎に住んでる人たちからしたらこれ以上の見世物はないだろう。短慮ですぐカッとなる3人はまだしも深謀遠慮で知られるクインシーまで抗議に加わっているのはどういうことなんだ。


ミキオ「頼むからとりあえず話を聞いてくれ…」


 はーっ。おれは手で顔を覆い深くため息をついて俯いた。プリンセスふたりと女王、それに財閥令嬢の有名セレブ。なんという豪華な修羅場だ。もしここにパパラッチがいたら明日はかわら版の号外が配られるだろう。まあそんなことを言ってる場合じゃないか。


永瀬「あの、実はですね、こちらの花嫁はマグナ・フォッサー君という男の子でして」


フレンダ・エリーザ・ブリス「え?!?」


ブリス「こ、こんな男がいるわけないでしょ!」


フレンダ「あ、いえ、確かによく見ればこの間の怨霊王戦で活躍したマグナさん…」


エリーザ「ええい、わけがわからぬ! いっそ私を殺せ!」


ブリス「で、でも今は多様性の時代よ! 相手が男の()だからってミキオ社長の疑いが晴れたわけじゃ…」


クインシー「…ミキオお兄様、これもしかして何かの計略だったの?」


ミキオ「そう。せめてクインシーはもっと早く気づいて欲しかったがな。これは正体不明の花嫁狩りを誘い出す罠なのだ」


フレンダ・エリーザ・ブリス「はあ?」


マグナ「ふーっ、これじゃもうこのお芝居は続ける意味ないですね。僕、ちょっと外の空気吸ってきます」


マグナ君もため息をつき、美しい鳶色の瞳を曇らせながら退室した。確かにこうなってしまっては作戦も何もない。おれは付け髭を取って眼鏡を付け替え、指をぱちんと鳴らして“更衣(ドレスチェンジ)”の簡易魔法を使って礼服から普段の召喚士コートに着替えた。


フレンダ「…本当ですの?」


サントピアス伯爵「あ、あの、わだくすこのヤスッダ地方の領主でございます。今回はこの地方に横行すている花嫁狩りの犯人をおびき出すためにツジムラ先生たつにひと芝居打ってもらった次第ですて…」


ミキオ「お前らにぶち壊されたがな」


フレンダ「…」


 自らの非に気付き、もじもじし始める4人の女子。


ミキオ「せっかくの作戦が台無しだ。おおかた隠密の影騎士あたりから情報を得たのだろうが、それならそれでもっと裏を取って確認してから行動すべきだろう。まったくお前たちは王族やセレブだというのに粗忽で短慮で騒々しくて…」


 入念に準備した作戦を潰された怒りも込めておれはここぞとばかりに説教してやった。こいつらの地位からして我儘放題に暮らしているだろうから説教なんか相当久しぶりだろう。


エリーザ「ええい、ややこしい真似をしおって…要らぬ恥をかいたわ!」


ブリス「確認だけど、ミキオ社長は本当にあの男の娘に気があるわけじゃないのね?」


ミキオ「ない。別に同性愛そのものを否定するわけじゃないがおれにその気はない」


フレンダ「ふん。そのわりにはマグナさんに女装させて楽しそうでしたの」


ミキオ「お前ら全然反省してないな。言っとくがこの作戦には消えた18人の花嫁たちの命がかかってたんだぞ」


エリーザ「それは…まあ…」


フレンダ「軽率でしたの…」


クインシー「ミキオお兄様、花嫁狩りについて聞かせて。一体誰がどういう手口で花嫁をさらったの?」


ミキオ「だからそれを解明するための作戦で…」


 はっ。ここでおれは気付いた。おかしいな、あれから10分ほど経ったと思うがマグナ君がまだ帰ってこない。もしかしたら例の花嫁狩りに遭ったのではあるまいか。やばい。迂闊だった、これはおとり捜査なのだから花嫁役のマグナ君から目を離すべきではなかったのだ。


ミキオ「みんな、マグナ君を探してくれ! 例の花嫁狩りにあった可能性がある!」


ザザ「え?!」


永瀬「そ、そんな!」


ミキオ「マグナ君、どこだ!?」


 おれは廊下に出て彼の名前を呼んだが何の反応もない。つたう冷や汗。やってしまった。おそらくマグナ君は花嫁狩りに攫われている。しかもその手口すら掴めていない。最悪の事態だ。果たしておれたちは花嫁狩りの犯人を突き止めマグナ君を奪還できるのか。次回、怒りのヴァージンロード編最終章!


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