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第200話 怨霊戦記【第二章・魔城からの使者】

 預言者見習いのペギーが寝ながら“自動書記(オートマティックライティング)”した3枚の絵。ゴーストハンターと名乗る少年マグナの説明によればそれは死霊王によって起こる世界滅亡の未来を預言したものだという。そしてその預言を証明するかのように王都上空に突如出現した超巨大な岩塊。その異様さにおれたちは戦慄するのだった。


ハーヴィー「ツジムラ侯爵!」

挿絵(By みてみん)

 声をかけてきたのはこの連合王国の将軍、ハーヴィー・ターンだ。この異様な事態のため軍が出動したのだろう。士官や衛兵たちを何人も引き連れている。


ハーヴィー「いったい何なのだアレは」


ミキオ「わからん。おれも今戻ったばかりで」


ガーラ「よく見るとあれは城塞だな。大きな岩の塊の上に砦や櫓などの建物が築かれている」


 古代文明が生み出した人造魔人のガーラが自身に備わったサーチアイで確認していた。


ハーヴィー「空中に浮かぶ城というわけか」


ガーラ「明らかに侵略者だ。ミキオ、攻撃していいか」


ミキオ「いや待て。まだあっちの意図がわからない」


ハーヴィー「重魔法兵団を出動させろ! 包囲網を築いたのち、その場で待機!」


副官「ハッ!」


 ハーヴィー将軍が部下に命令を下した。重魔法兵団とはこの連合王国で最強の部隊である。魔導砲などの強力な魔法兵器を有し、外敵との戦闘において無敵の戦歴を誇る。王宮前の広場には兵団の陣営が次々と設営されていった。


民衆A「なんだありゃあ…」


民衆B「どういう理屈で浮いてんだ、あれ」


 仕方のないことではあるがあまりの異様さに見物客も多く来ている。


ミキオ「将軍、もしあれが城塞としての機能を発揮し地上へ侵略を開始したら大変なことになるぞ」


ハーヴィー「うむ。今のうちに民衆を退去させておいた方が良いな。王宮も目の前だ。王室の御方々には御移動頂かなくてはなるまい」


 その時、空中に浮遊する魔城から漆黒の砲弾のようなものが弧を描いて放たれ、地上で人間の形となった。


ハーヴィー「ム! なんだアレは」


ミキオ「将軍、警戒しろ。うちの者の預言が当たっているとしたら大変なことになる」


ハーヴィー「預言だと?」


 影はゆっくりとこちらへ近づいてきた。全身から妖気を発する青白い肌の異相の美女である。

挿絵(By みてみん)

メギス「我が名はメギス。この怨霊城の城主たる怨霊王ズ=アイン猊下(げいか)の代理人である。当国の王との接見を望む」


ハーヴィー「怨霊王だと…」


 やはり怨霊王か。これもマグナのチャネリングと一致する。国王が指名され民衆たちはざわついていたが、しばらく経つと群衆の中からまるで一般人のようにふいっと出てくる人物がいた。この国の国王、ミカズ・ウィタリアン8世である。

挿絵(By みてみん)

国王「どれ、わしの出番かの」


民衆A「おい、国王だぜ!」


ハーヴィー「こ、国王陛下?!」


宰相「おやめくだされ、陛下!」


 家臣たちが止めるのも意に介さず、ずんずんと前に進み出ていく国王。この人こんな度胸があったのか。世襲とは言えさすが一国の王だな。


ミキオ「何もあんたが直接出向いて来なくても」


国王「いやなに、神輿というものはこういう時のために存在しておるのでな」


 国王は進み行き王宮前広場の真ん中まで達し、怨霊城に相対した。


国王「余がこの中央大陸連合王国の国王、ミカズ・ウィタリアン8世である。話をうかがおう」


メギス「我らは怨霊戦団。死霊ゆえ肉体を持たず、幾多の星々を渡り征き人間の魂を糧とし喰ろうてきた」


 これもマグナのチャネリング通りだが、なんと無法な連中だ。それでは人間を喰うのと同義ではないか。


国王「魂を、喰らうだと…?」


メギス「怨霊王猊下のお言葉を伝える。今日(こんにち)より我ら怨霊戦団はこの星に君臨し1日に1万の魂を喰らう。王も僧侶も物乞いも、貴賎聖俗の区別なく等しく喰らい尽くす。だが我々はこの星の安寧を乱すことは望まない。あくまで魂の補食が目的ゆえ、人間供出の順番についてはそちらに任せる。そなたらの選考で1日1万の人間を差し出して頂きたい。そなたの一族は最後にして構わない」


 なんという横暴な宣言か。話を聞いていた宰相初め将軍や貴族などの表情が一斉に強張る。中でも国王は聞いていられないという顔で返答を始めた。


国王「…メギスさんと申したか、怨霊王殿にお伝え願いたい。我が国はたとえ1人たりとも国民の魂など渡せぬ。いや余に限らずこの星の王なら誰でも同じことを言うだろう。すまぬが早々にお引き取り願おう」


メギス「…怨霊王猊下の温情を無下にすると?」


国王「まあ、そういうことになるかの」


 国王の返答を受け、メギスは右の人差し指を国王に向けた。


ミキオ「避けろ、国王!!」


国王「うぐっ…!」


 だがおれの声は間に合わず、メギスの指から発せられた赤紫色のビームは一瞬で国王の胸を穿ち、国王は前のめりにばたりと倒れた。


フレンダ「お父様!」


宰相「へ、陛下っ!」


 娘である王女フレンダが駆け寄り、宰相が国王を抱きかかえるが不思議と出血はしていない。しかし胸に大きな穴ができている。穿たれた胸の穴から魂らしきものが抜け出てメギスの元に呼び寄せられ、香水の瓶のようなものに納められた。


メギス「王の魂はわらわが預かる。日没まで喰らわずに置くゆえそれまでに返事を頂こう。と言ってもそなたらが大人しく毎日1万の魂を差し出すか、我らが捕らえて魂を捕食するかの違いでしかない。喰われるのはどのみち同じなのだ。軽挙妄動に走らず、賢明な選択を期待する」


 おれは心底腹が立った。人生の中でこんなにも怒りを感じたことがない。怨霊だか何だか知らないが人間をなんだと思っているのか。なめるな。


ミキオ「来い、BB!!」


 おれがそう叫ぶと事務所の神棚からBBこと万物分断剣が飛来し、おれの手元に収まった。自分で言っていた通り奴は死霊、魂なき者にはおれの召喚魔法は通用しないので剣での勝負に持ち込むことにしたのだ。BBの到来と共におれは間髪を入れず跳躍し、無言で代理人メギスに踊りかかった。が、彼女はニタリとほくそ笑むばかりで避けもしない。それもその筈、袈裟懸けにしたBBは奴の体を透り抜けていったのだ。


ミキオ「くっ?!」


メギス「馬鹿め。我らは死霊ぞ。この世の剣で斬ることなぞできぬわ」


 まあそうかも知れないが、この万物分断剣はその名の通り物体のみならず光や炎、魔力などのエネルギーも断ち切る聖剣なのだ。そうするとこの女はエネルギーですら無いというのか。だが国王の魂の入った小瓶はしっかりと手に持っているではないか。どういう仕組みなのだ。


メギス「いい機会だ、よく覚えておくがいい。我ら怨霊戦団には物理攻撃も魔法攻撃も一切通用せぬということをな」


ミキオ「む…」


マグナ「たあああああっっ!!!」


 おれが次の手を考えていると、ゴーストハンターのマグナが背後から一直線に駆けてきた。


マグナ「金の太陽、銀の太陰! 聖水よ、神威漲らせ彼のもの清浄せよ!」


 ばしゃっ! マグナが代理人メギスに聖水をかける。初めて見たがこれがマグナの悪霊祓い術なのだろう。万物分断剣でも斬れなかったメギスがこの攻撃には怯んだ。


メギス「ひっ?!」


 メギスの右腕に聖水が当たり、焼けただれたような傷となった。なるほど彼はゴーストハンターとは聞いていたが確かにマグナの術は怨霊どもに効果があるようだ。


ミキオ「いいぞマグナ君、続けてくれ!」


マグナ「残念ながら聖水はあれだけで…」


メギス「く、くっ!」


 メギスが焼け焦げた腕を抑え後ずさりすると、曇天の空に王冠を付けた髑髏のヴィジョンが出現した。見るからに暴悪なオーラを放っている。あれこそが怨霊王なのだろう。

挿絵(By みてみん)

マグナ「ペギーさんの預言書②、〈王冠を被った骸骨〉にそっくりだ…」


 マグナ君が誰に言うともなく呟いていたが、確かにその通りだ。ここに来てペギーの預言書の的中率は疑いようがない。群衆たちが恐れおののいていると、天空から低音のしわがれ声が空気を震わし轟いた。


怨霊王「我は怨霊戦団を統べる者、怨霊王…ガターニアの民よ、愚かな選択をするでない…たとえ魂が喰われたとしても我らと一体となり、とこしえに生きることができるのだ…」


 その声が止まると背後の怨霊城から3つの影が放たれ、地上で実体化した。


壱ノ将「壱ノ将!」


弐ノ将「弐ノ将!」


参ノ将「参ノ将! そこまでにせい、これ以上抵抗すると言うなら我ら怨霊戦団三霊将が相手だ!」

挿絵(By みてみん)

 三霊将と名乗った3体の武将が代理人メギスを守り攻撃の手を阻む。彼らはそれぞれガーラのサイズを超える巨漢であり、仮面を付けて大剣や長槍、鎚を持っておりいかにも強そうだ。


ミキオ「むっ…!」


メギス「お、愚か者どもめ! 日没までによく考えておくのだぞ! 我らは魂に飢えている、今から根こそぎこの星の魂を喰ろうても良いのだからな!!」


 明らかに狼狽しつつも代理人メギスと三霊将は霞のように消えていった。


フレンダ「お父様、お父様!! 目をあけて、お父様!」


 魂を抜かれ冷たくなったミカズ王にいつまでも泣きすがる娘フレンダ王女。思えばおれも転生当初からこの国王には世話になった。転生直後でまだ何者でもないおれが事業をやる時に資金や店舗を貸してくれたのもこの人だし、おれに爵位をくれて王国の議会議員に推挙してくれたのもこの人だ。威張ることもなく、おれのタメ口を許し寛大に接してくれた。多大な恩があると言ってもいい。それにちょっと助平ではあるが人格者であり国民に慕われている。それはこの王の死を目の当たりにした群衆たちが嘆き悲しんでいることからもわかる。名君は言い過ぎかも知れないが案外良君だったのだろう。この王をこのまま死なせておくわけにはいかない。おれはフレンダの肩にそっと手を置いて言った。


ミキオ「安心しろフレンダ。おれは必ず怨霊戦団をうち倒し、ミカズ王の魂を取り戻す」


 王の亡骸にすがっていたフレンダが泣き顔をこちらに向け、キッと目を凝らしてとんでもないことを言い放った。


フレンダ「臣ツジムラ侯爵、国王不在の間、貴公を国王代行に任じます」


ミキオ「えっ?」


 突然の国王代行任命におれの瞳孔が開き、冷や汗が流れたところで次回に続く。




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