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第198話 免許皆伝?ハイエストサモナー新たなる試練(後編)

 連合王国の魔法大臣から違法魔法啓発運動のコラボ企画を持ちかけられたおれは自分自身がまさかの魔法無免許状態だったことに気付く。同じく無免許状態のミキオⅡ、ガーラと共に取り急ぎ魔法教習所に行くことになったのだが、その仮免許取得試験の際に魔力量測定というハードルがあることを知るのだった。




ミキオⅡ「…どうする? このままおれたちも魔力量測定に参加していいのか?」


ミキオ「お前の言いたいことはわかるが、おれたちだけ特別扱いしてくれとも言えないだろう…」


 おれたちが密談をしているなか、測定機の方では「ヤッター! 1800MP出た!」という生徒の声が聞こえてきた。


ミキオⅡ「そうだが、一般人のMPがあんなものだとは知らなかった。はっきり言うが今のおれは48億MPほどだ。桁がまったく違う。ここで素直におれたちが測定したら絶対にバレて騒ぎになるぞ」


 ほう、こいつのMPはもうそんなになるのか。数ヶ月前に生まれたばかりなのに素晴らしい成長スピードだな。おれほどではないが。


ガーラ「おれのMPは∞(無限大)だ。なにしろ体内に永久機関を搭載しているからな」


ミキオ「そうだろうな」


 こいつは古代文明の錬金術師が生み出したスーパーロボットなのでそもそも人間とは基準が違う。今更ながらよくこんなバケモノと戦って勝ったものだ。


教官「6番、6番の人いませんか?!」


 6番はおれだ。話がまとまっていないのにおれの番が来てしまった。おれは人をかきわけて教官のもとに進んだ。


ミキオ「お待たせして申し訳ない。あの、おれは最後にしてもらうわけには…」


教官「何言ってんの。次の人が待ってるんだからワガママ言わない。ハイこの棒持って」


スルテン「ミキタロー、ビビっていてもしょうがねえだろう。召喚魔法てのは馬鹿みたいに魔力量を必要とするんだ、魔力測定ごときにビビってるようじゃどのみち召喚士にはなれねえぜ。ほら諦めて測定しな」


 君に言われなくてもよくわかっているが…内心でそうつぶやきつつおれは測定器の前に立った。ミキオⅡ、ガーラを始め、周りには順番を待つ教習生たちが数人こっちを見ている。知らないぞ…おれは諦めて測定棒を軽く握った。刹那、測定機から圧倒的な光量がほとばしり、教室内に光のハレーションが起きた。


教官「うおおおおっ?!!」


スルテン「なんだ、なんだ?!」


生徒A「眩しくて…目を明けていられないっ…!」


 おれの魔力量を反映して魔力測定機は強烈に発光し教室内を光の奔流で満たした。まるでデーモンコア(※1946年にロスアラモス研究所で誤って臨界状態に達してしまったプルトニウムの球状塊)の爆発のようだ。いや見たことはないが。数秒経ってようやく光が落ち着いた頃、皆が息を吐いて冷静さを取り戻した。測定器はすっかり壊れ、発光していたクリスタルもその魔力量の負荷に耐えきれずぼろぼろに炭化していた。


生徒A「何だったんだ今のは…?」


教官「ひっ、ひええ…高価な魔道具が…」


 測定機は爆発していたが、そのカウンターは999999999MPを示していた。


生徒A「MPカウンターがカンストしてるぞ…」


 まあこの魔道具はそうだろうが、実際おれの視野内におれだけに見えているおれのMPゲージは1兆2000億MPを示しているのだ。転生したばかりの頃は40万程度だったから200日ほどで3000万倍に成長したことになる。こうなるのがわかっていたからやりたくなかったんだ。背後にいる生徒たちから「バケモノ…」「破壊神…」と言った声が聴こえてくるが、しょうがないじゃないか。神の子の肉体に加えて様々な神与特性を持って転生してきたんだから。


スルテン「みんな! そんなことを言うもんじゃないぜ。これはたまたま機械が故障しただけだ。ミキタロー、大丈夫だったか?」


ミキオ「ああ」


 こいつはいま何が起きたか理解してないのか。それともプライドを保つために敢えて測定機の故障ということにして自分を納得させたのか。


スルテン「教官! どのみち測定機がこれじゃあもう魔力量測定はできねえぜ。どうするんだ」


教官「ええとですね…それではこのまま仮免試験に移りまして、その中で技量を見極めて免許種別を決めるということで…」


スルテン「いいじゃねーの。話が早くて助かるぜ、なあミキタロー?」


ミキオ「そうだな」


 おれはスルテンの話をよく聞いていなかったので適当に相槌を打ったが、まあ早く終わるならそれにこしたことはない。


教官「では6番さん…は飛ばして7番さん。召喚士希望ですね。始めてください」


スルテン「おうっ!」


 意気揚々と前に進み出てくる7番のスルテン。悪いやつではないのだろうが妙に鼻息の荒い男だな。


スルテン「えー、エンサルド…」


教官「詠唱の前に左右後方の確認!」


スルテン「はっはい、右良し左良し後方良し、魔法陣安全確認」


教官「いちいち声に出さなくていいから」


スルテン「すいません! えー、エンサルド・キヒ・ダルノ、し、シヴァ・ルゴラ・グリューニヒト。ケブル…じゃなかったケブス・デロス・グネート。い…古の(みづち)よ、ここに再臨せよ!」


 スルテンが地面にペンキで描かれた魔法陣に呪文を詠唱する。これは教科書通りの古典的な召喚呪文らしい。途中何回か噛んだが大丈夫なのか?


教官「呪文は正確に! 前をよく見て!」


スルテン「はい!」


 スルテンが緊張しながら術式を終えると、1分ほど経ってからようやく魔法陣の中央から一筋の白い煙が上がってきた。


生徒A「おーっ」


生徒B「出るぞ…」


教官「いいよ、そのままパワーを維持して!」


スルテン「はい!」


 スルテンが魔力を注入し続けていると魔法陣の中央から人間の腕ほどの太さもある青い蛇が出現した。おそらくこれはビッグバイパーという割とそのまんまの名前の召喚魔獣だ。ポピュラーなモンスターだがそれなりの毒を持っている。


生徒たち「おー」


教官「君たち、離れて! よしいいでしょう、消して!」


スルテン「へへ、やったぜ、これで仮免合格だ…」


 仮免の合格が見えて安堵しきったスルテンは弛緩し、召喚魔法を終了するのを忘れている。これではモンスターが制御できなくなるじゃないか。


教官「ちょっと! 何やってんの! 早くモンスターを戻して!」


スルテン「え? ああはい、えーとえーと召喚終了の手順は…」


生徒A「おい、なんだありゃ!?」


 魔法陣から蛇は消えず、続けてモンスターの尻が現れる。そして次第に3つの首が露わになる。獅子と山羊とドラゴンの首だ。つまりこれはキマイラというAランクのモンスターであり、蛇の部分はこいつの尻尾なのだ。スルテンめ、何を間違えたのか見当違いの大物を召喚してしまったな。


スルテン「うわーっ?!」


 腰を抜かし召喚魔法のプロトコルを中断するスルテン。あいつ仮免落ちたな。いやそんな場合じゃないか。魔法陣から出現せんとするキマイラは見上げるほど巨大で、体だけでもヒグマくらいはありそうだ。


キマイラ「フオーーッ!!!」


 キマイラは地球ではギリシャ神話において巨人テュポーンとエキドナの娘として登場するモンスターだ。嵐の雲の化身とされるが、後年に獅子と山羊とドラゴンと蛇の特徴を併せ持つ外観に変化し、さらに広義には合成生物全般を指す一般名詞となっていった。このガターニアで言うキマイラは自然界に生きる生物ではなく、どこかの魔導師が作り出した合成生物である。魔界という異次元に生息していると聞いたことがあるが、間違ったとはいえこんな大物を召喚したのはスルテンの潜在的力量か、それとも血に飢えたキマイラが自分から転移してきただけなのか。キマイラは既に戦闘モードであり、瞳孔も開き体表の血管も浮き出ている。今にも飛び出して3つの首で人間を食い殺してまわりそうだ。


生徒「きゃーーっっ!!」


ミキオ「ミキオⅡは左に! ガーラは右に回ってくれ。生徒たちは退避!」


ミキオⅡ「ああ」


ガーラ「心得た」


 ミキオⅡは自身の魔法アイテムである“カヴォーヅォの自在剣”を腕輪から剣に変形させ、ガーラは右腕をバズーカのように水平に持つ必殺武器クリスタライザーの構えを取り左右からキマイラを牽制した。なにしろ首が3つあってそれぞれの口から火を吹く生物なので牽制にも3人の人手が必要となる。逃げ惑う生徒たちを確認しつつおれは瞬時に赤のサモンカードを取り出した。


ミキオ「エル・ビドォ・シン・レグレム、我が意に応えここに出でよ、汝、このキマイラの体内のアドレナリンすべて!」


 ぼうううっ! おれのサモンカードに描かれた魔法陣から紫色の炎が噴出し、その中から液体の塊が現れる。ご存知の通りアドレナリンすなわちC₉H₁₃NO₃とは生物の生体内で合成される生理活性物質のことである。動物が敵から身を守る、あるいは獲物を捕食する必要にせまられるなどといった状態に相当するストレス応答を全身の器官に引き起こし、心拍数や血圧を上げ瞳孔を開き血糖値を上げる作用がある。おれの召喚魔法によってキマイラの体内から召喚され空中に浮いていたアドレナリンの塊はすぐにしゃばしゃばと地面に流れ落ちた。


キマイラ「クゥーン…」


 キマイラは一瞬で体内のアドレナリンを失い、血圧も下がって心拍数もオフビートに戻って筋肉も弛緩し、一気に闘争モードから鎮静化した。こうなれば単なる大人しい巨大生物だ。


ミキオ「スルテン、召喚終了のプロトコルを」


スルテン「あ、ああ…古の魔獣よ、汝の世界に戻り給え。ケルゾ・ルクト・ワモース!」


 キマイラはおとなしくしたまま魔法陣の中に沈み、魔界に還っていった。これでいい。いくら召喚魔獣とは言えむやみに殺生するのはよくない。それにこんなところで剣で首を斬ったり召喚魔法で心臓を取り出したりしたら血で校内が汚れて後片付けが大変だ。


生徒たち「おおー!」


生徒A「あいつどうやったんだ? 一瞬でキマイラをおとなしくさせたぜ?!」


生徒B「何かキマイラの体内から変な体液を召喚したみたいだ…」


 近代医学を知らないこの世界の住人にアドレナリンだのノルアドレナリンだのと言ってもわからないだろうな。


生徒C「体液だけを召喚って、そんなことが可能なのか? ものすごい高等魔法なんじゃないのか?」


生徒D「ミキオツーって言ってたけど、もしかしてあの双子、よく芸能かわら版に出てるハイエストサモナーのミキオとその弟なんじゃないの?」


生徒E「なんでそんな大物が教習所に…」


生徒F「免許更新だろ」


 やはり教習生たちにはおれがミキオ・ツジムラことハイエストサモナーであることがバレてしまった。しかしまあ無免からの新規取得でなく更新だと思ってくれたのならそれでいい。だが魔法免許にも更新なんてものがあるのか。更新時期を忘れないようにしないとな。おれがそう思っていると校舎から校長が飛び出してきた。


校長「ツジムラさん、見てましたよ! お見事です、さすがハイエストサモナーですな!」


ミキオ「いやまあ、緊急時だったので」


生徒A「おーっ!」


生徒B「やっぱりハイエストサモナーだったんだ!」


スルテン「えっ? えっえっ?」


 キョロキョロと左右を見回すスルテン。こいつなんにもわかってないな。


校長「やはりツジムラさんに仮免試験など河童に水泳ぎを教えるようなものでしたな。教官、もうこの方々は仮免合格、卒業としましょう。ここまでやって頂いたらその魔力量と魔法技能は疑うべくもない。私たちが教わらなきゃいかんくらいだ」


ミキオ「ありがとうございます。ほら、お前たちも頭下げて」


ミキオⅡ「感謝する」


ガーラ「かたじけない」


 生徒たちにバレてはしまったが、これで3人とも無事仮免許を取得できた。とりあえず良かった。あとは免許センターに行って本試験を突破するのみだ。おれたち3人は仮免許を貰って教習所を卒業し、午後から近くにある魔法免許センターに向かった。





 その翌日、おれとガーラは召喚士事務所に出勤していた。


ザザ「…で、ミキオⅡとガーラは本免試験合格で、お前だけ落ちたのか…」


永瀬「何やってんの? 絶対東大の入試試験より簡単だよね?」


ミキオ「いや、そう言うが『夜間での魔法使用は気をつける』なんてこれ普通は○(マル)しかないだろう! なんで正解が『夜間でも昼間でも気をつけなければならないから✗(バツ)』なんだ! これはもう学習能力を問う問題というより単なる陰険な引っかけ問題だ!」


 本免試験はペーパーテストのみである。90点以上取れば合格、晴れて魔法免許証取得となるのだが、実に意地の悪い問題が多いのだ。


ザザ「みんなそう言うんだよ」


ミキオ「要するに性格の良い心の綺麗な人間は引っかかるんだよな…」


 おれはぶつぶつ言いながら過去問の復習に全精力を傾け、その日の午後に行った魔法免許センターで再試験を受けて見事満点合格した。ともかくこれで安心したが、今回の件で義理を作った魔法大臣には魔法省とのコラボの約束を果たさなければならない。おれのポスターが街中に貼られることになるのか…名誉なことではあるがこれで気軽に街を歩くこともできなくなるな。まったく面倒なことだ。


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